建もの探訪『篤史 My Love』
2011年 1 月15日(土)
最近気に入っているCMがある。広告主は東京ガス。キャッチは、渡辺篤史が帰らない…。“ある”番組の収録で訪れたお宅から渡辺篤史が帰らない、その理由は…というもの。ところで、東京ガスのCMは昔から私のお気に入り。人気のTV番組『食彩の王国』で流れていた“炎”シリーズ(勝手にそう呼んでいた)…炎の中を食材が踊り、鍋肌を滑り、熱湯に飛び込む。ローアングルからの映像が実に美味しそうで、CMを視ながらぐっと来てしまい(朝食を食べ終えたばかりなのに)その日の夕食を何にしようかなどと妻と毎回話していた。それ以外も、家族の絆シリーズ(これは東京ガスが正式にそう呼んでいる)も良い。きたろう演じる「お父さんのチャーハン」編などは、毎回視る度にうるっとしていた。そして、今は水島かおり出演「お弁当メール」編。これもじんわり。さらには、織田信長と妻夫木くんの絡みも、小西真奈美とのラブストーリーも、東幹久の登場も…。
ところで、本題は渡辺篤史である。あのCMは放送開始から20年を超える長寿番組『渡辺篤史の建もの探訪』を前提にしていることは言うまでもない。が、現在あの番組がまだ続いていることをご存知だろうか。以前は長く土曜の朝、その後は日曜の早朝に放送していたのに、何度も放映時間帯を変え、現在はなんと毎週金曜日の朝、4時30分!この番組が大好きで、ずっと視続けていた私としては淋しい限り。この時間帯では番組を視ることはほぼ叶わない。深酒の翌朝早く目覚め、何気なくTVの電源を入れた時に渡辺篤史が現れると小躍りしてしまう。彼の建物に対する愛情が表れる、あの独特の言い回しが耳に飛び込んでくると、なんだか得した気持になる。なにしろ『渡辺篤史のこんな家を建てたい』などという番組初期(放送8年目)の頃の本まで買ってしまっているのだ。だから、東横線のTQナビに流れる東京ガスのCM「渡辺篤史が帰らない」を眺めながら、幸せな気持で通勤している日々なのだ。
それ程、渡辺篤史(正確には『建もの探訪』の渡辺篤史) Love♡な私だけれど、上には上がいた。『鴨川ホルモー』でデビューし、『鹿男あをによし』が直木賞候補となり、作品がドラマ化された万城目学である。かれのエッセイ集『ザ・万歩計』を読んで、私のLoveの敗北を知った。そのエッセイ集にある『篤史 My Love』の一文を紹介しよう。 …私がこよなく愛する、日本を代表する長寿番組である。その内容はいたってシンプルだ。(中略)最後はリビングで「いかがでしたか?○○さんのお宅」と総括。上品な音楽、ナイスなアングル、テンポよいカット割りがうれしい、まさに盤石の構成の三十分である。 …番組を丁寧に視ている作者の姿勢が良く顕れ、好感が持てる。が、この辺りはまだまだフツー。けれど作者は、高級感溢れるファニチャーショップに行ったら、渡辺篤史ごっこをしてみて欲しいと書き、実際に自分も試したと続ける。そして、渡辺篤史の発した「おおぉ、フェルメールの明かりが」という高度で分かり難いコメントを例にあげる。
そして、万城目学のエッセイはこのように終わる。 …文豪中島敦の代表作に『名人伝』という作品がある。弓の名手が、弓を極めようとするうち、最後には弓の存在すらも忘れてしまう、という話だ。キーワードは「あらゆることの境界がなくなる」という熟練の境地である。その一端を、私は篤史に感じずにはいられない。おそるべし、名人渡辺篤史。ひょっとして私、褒めすぎか。 …何という観察力と分析力、文章の起承転結はもちろん、引用の巧みさ、そして何よりもその文章の引きの強さは素直に敗北を認めざるを得ない。おそるべし、名人万城目学。ひょっとして私、褒めすぎか。
などと、人の書いた文章で遊ぶほど、嬉しかった。同じ思いを持つ他人がいることが、それも好きな作家であることが。『篤史 My Love』の学 My Love!と叫びたい。「んん〜、今日の記事は『ザ・万歩計』を読んでない人には分かり難いかなぁ」と妻。そこは限られた文字数で素人が書く文章、どうかお許しを。良かったら『ザ・万歩計』を読んでお確かめください。
FA Y本
分かる!
私もお父さんのチャーハンのCM見るたびにウルルッとなっちゃいます。
しかし、渡辺篤史が帰らないバージョンは見た事ないですねぇ。。。
『食彩の王国』しっかりチェックしまーす(*^^)v
IGA
Y本さん、良かったですよね。きたろう父さんのチャーハン。
こう書くと目玉オヤジのようだけど。
でも、残念ながらあのヴァージョンは終了、今はお弁当編。
ちなみに、渡辺篤史が帰らないCMは、たぶん『食彩の王国』ではやってません。
気長にTVを視るか、東急の電車に乗って視てください。