デビューはOVER40から「割烹 弁いち」

ZensaiJuyondaiの故郷浜松に、彼女の従弟がひとりだけ住んでいる。お酒を飲まない妻の母方の家系。地元で歯科医を開業していた祖父の跡を継いだ3代目。ある週末、会うのは6年ぶりとなる彼を誘って「割烹 弁いち」に出掛けた。妻の帰省の際に一緒に立ち寄るこの名店は、彼らの祖父も通っていたらしい。酒を嗜まない初代は、会合や接待に利用していたという。そんな店。お気楽夫婦がお気に入りの、いつものカウンタ席の個室で、やや緊張気味に店のご主人に挨拶する従弟くん。やはり余り酒は飲まず、この店も初めてとのこと。

UrukaDenshuも、多少は飲めるんだよね」そう尋ねる妻は、子供の頃に一緒に遊んだにせよ、オトナになって会うことも少なくなった従弟との距離を微妙に計っている様子。「まぁ飲みますけど、何ヶ月かぶりのお酒です」敬語を使ってしまう従弟くん。従兄弟たちの中で最年長の妻の位置は、年齢の離れたお姉さん。そんな空気を解すのは私の役回り。ご主人を巻き込んでの酒談義。絶品の前菜たちを肴に「十四代純米吟醸」からスタート。小鉢のひとつひとつが食べ終えるのが惜しく、次にどれを食べようかと悩ましいほど美味しく、キレのある落着いた香りの酒と相性抜群。

Sashimi600Kいて、鮎の真子と白子のうるか。ん〜っ、んまいっ!前菜とこの一皿だけで1升は飲める美味。合わせるのは田酒純米大吟醸斗瓶取。これまた昇天してしまいそうな組合せ。「美味しいですね。学生時代は仙台だったので、田酒は飲んでました」「それはきちんとした店に行かれてましたね」解れてきた従弟くん、ご主人とも会話を交わす。今回の企画は、酒を飲めない義父母と妻との会食だけではちょっと淋しく思っていた私のアイディア。なかなか会うきっかけがない妻と従弟を繋ぐ意味もあり、一緒に酒を飲む相手が欲しかったこともあり、そして何より地元の彼にこの店を紹介したかった。

KinokojiruGynの味は文化。名店は街の財産。その財産を守れるのは、街のダンナ衆だけ。6年前に彼に会ったのは、地元の祭りで初子の凧を揚げた春の頃。日中には彼の法被姿を、そして夜には彼の自宅の前で初子を祝う町内の法被衆の激練りを見せてもらった。長男を抱きかかえる家族の前で挨拶をし、暗い夜道を去って行くラッパの音と提灯の列を今でも思いだす。地元に根を張る者にしか味わえない、温かい光景だった。「ところで、いくつになったんだっけ」妻の問いに「40歳になったんですよ」と従弟くん。ふぅん、どうやら良いタイミングだったたらしい。この店を訪れるのに良い年齢だ。

AyunoHimonoNakasaburouしてお安い店ではない。飲み過ぎて帰りの勘定を気にするようではもちろん楽しめない。けれど、経済的な面だけではなく、この店を本当に楽しむには年齢を重ねる必要がある。敷居が高いと言っているのではなく、この店の味と酒を楽しむには場数が必要だ。それも、場数を重ねた末の生半可な知識をご主人や連れに披露するのではなく、ご主人に全て委ね楽しむことが肝要。何度か店に伺い、自分の好みが分かっていただけたら後はお任せ。今度は何を薦めていただけるのか。毎回解説いただく、その酒が持つ物語と共に楽しみに待つだけ。

然の茸と赤ムツのツミレ鍋」天然茸の香りと歯応え、ノドクロの出汁にくらくら。「焼く前にうるかを塗って焼いた落ち鮎の一夜干し」過ぎ行く秋がふぅわりと香る。そんな一皿毎に合わせる酒を選んでもらえる幸福。それをワカモノが味わってはいけない。デビューは40歳を超えてから。割烹 弁いちは、R40指定。

かに場数は踏んできたね」妻が呟く。酒を飲まない妻も同じだけの場数は経験している。「それにしても、今回は飲んだねぇ」明細書には7種の酒。また良い経験を重ねたということで。

■食いしん坊夫婦の御用達 「割烹 弁いち(これまでの記事紹介)

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