酒瓶を抱えて「抱瓶」高円寺
2012年 7 月21日(土)
人には相性というものがある。相性が良い相手とは、お互いに余計な気を遣わずに一緒に酒が飲める。話題を取り立てて探さなくとも会話が弾む。たまたま会話が途切れても気にならない。すぐにどちらからか軽口が飛び出す。お互いに相手に酒を勧めるでもなく、ましてや酒を差しつ差されつなどせず、自分のペースで淡々と酒を飲む。酒の肴についても主張し合わない。自分の好きなものを食べ、選んだものがたまたま好きなもの一緒だったらそれも良し。好みを押し付けず、相手の好みを気にせず、尊重する。だからこそリラックスして、美味しく食べ、楽しく飲むことができる。そんな相手がいる。
彼女からは隊長と呼ばれる。前職で同じ部門に配属された同期の中途入社。安かろうまずかろうの社員食堂に飽き足らず、美味しいランチを求めて結成した「ランチ隊」の隊長と隊員という関係。ランチ隊と言っても少数精鋭。彼女と2人だけのランチも多かった。そして、ランチで下見した店に飲みに出かけることも多く、彼女は「飲んべ隊員」と自称もしていた。妻を交えて食事に行く機会も多く、お気楽夫婦の自宅にも遊びに来たことも数度。遠慮なく軽口を言い合う妹のような、おせっかいを焼かれてしまう娘のような、扶養の責任のない姪っ子のような飲み仲間。
その日は沖縄料理を食べたいという隊員のリクエストで高円寺に向かう。老舗沖縄居酒屋の「抱瓶」。店に入ると「8時からライブがあるんですが、1階の席で良いですか」とスタッフ。島唄?「ウチナーロックなんですよ」へぇ。それもまた良し。了解。まずはオリオンビールの生で乾杯。海ぶどう、島らっきょうは彼女の、ミミガー、ゴーヤチャンプルは私のオーダー。それぞれきちんと旨い。飲んべ隊員と会うのは数ヶ月ぶり。数ヶ月ぶりの積る話があるような、ないような。とは言え、いつものように時間を忘れ、飲み、軽口を叩き合っていると、あっという間にライブの時間。ウチナーロックの大音響。
「写真撮ってきて良いですか」会話が全く不能な店内。まだスマホを持っていない隊員は、私のiPhoneを手に撮影に向かう。一人残された私はボトルでオーダーした泡盛をぐびり。ライブはさらに盛り上がる。エイサー衣装を着た店のスタッフが踊りだす。客も一緒に立ち上がり手拍子を始める。これは参加せねば。踊り、手拍子、汗をかき、泡盛をぐびり。良いライブだ。良い酒だ。楽しい夜だ。泡盛をさらにぐびり。
「隊長ぉ〜!帰りますよ」ん?気のせいかちょっとだけタイムスリップしたような感覚。「店に置いて帰っちゃおうかと思いましたよ」と隊員。やはりウトウトしていたらしい。慌てて店を出て、自転車で帰る隊員を見送ってタクシーに乗り込む。妻に電話をしようとバッグの中を探ると飲み残した泡盛のボトル。ん、我ながら偉い。思わずほくそ笑む。そしてiPhoneを手に取ると、バッテリー残量0。ま、まずい。数秒前の笑みが凍り付く。酒瓶を抱えた脇の下に嫌な汗がたらり。
そして、我が家で私を待っていたのは・・・。