Archive for 11 月 11th, 2012

シリーズ完結?『池袋ウエストゲートパーク』

IWGP1る人気シリーズが終わった。石田衣良のデビュー作『池袋ウエストゲートパーク』から始まり、『PRIDE 池袋ウエストゲートパークX』までの全10冊、40編の物語。1998年から(文庫では2001年〜2012年)12年に渡り「オール讀物」に長期連載、文藝春秋社により刊行された。その登場は鮮烈だった。主人公マコトの語るモノローグ、それもワカモノのことばで物語が始まり、現在進行形の東京、それも池袋を中心とした街の事件が疾走感溢れる文章で綴られる。読んでいて心地良いエッジの利いた文章。今の街を、風俗を、固有名詞をそのまま使って描いているのに、古びない。10年ぶりに第1作を読み直して、それを実感した。

IWGP10品の魅力は何よりも登場人物たちの造型にある。主人公のマコト(真島誠)、マコトの高校時代からの友人で池袋のストリートギャング団のトップのタカシ(安藤崇)、中学時代の同級生でヤクザ界に就職したサル(斉藤富士男)、女手ひとつでマコトを育てた池袋西口のちっちゃな青果店を経営するマコトの母、その他レギュラー陣からエピソード毎に登場する人物たちまでの、誰もがくっきりとキャラが立ち、実に魅力的なのだ。そして各エピソードは、その時代の刺激的なトピックス。チーマー、不法滞在のイラン人、性同一性障害、育児放棄、ネットを媒介とした集団自殺、盗撮、振り込め詐欺、スマートフォンの普及、そして最後は若者ホームレスの支援組織。幅広く、街に、ストリートに視点が向けられる。

れど、それらのエピソードに対するスタンスや解決策は、法治国家としてはリーガルなものだけではない。池袋の街のトラブルシューターとして活躍するマコトにとっての正義が芯となっている。これがまた爽快。カッコ良いだけのヒーローではなく、人間臭く、青く、トラブルを持ち込むヤツらと一緒に悩み、立ち向かう。自分の限界は知っているけれど、諦めない。ストリートギャングやヤクザ、警察にもネットワークがあるけれど、どこにも属さない。それでいて周囲を巻き込み、それぞれのトップから一目置かれる存在。でも職業は果物屋の店番。リアルな世界とありそうなフィクションが巧く構成される。

そんな魅力的な物語が、シリーズ10作目で、いったんお休み。最初の1冊の最後のエピソードで、主人公のマコトが語る。

…ストリートはすごくおもしろい舞台で厳しい学校だ。…街の物語には終わりがない。…いつかどこかでまた会おう。それまでにおもしろいネタをたくさん仕込んでおくよ。見つからなかったら、でっちあげればいい。おれの嘘がうまいのは、ここまで読んだあんたならよくわかってるだろ?

主人公の口から虚実のバランスを見事に語らせ、池袋という絶妙な位置の中途半端な街を、魅力的な舞台に仕立てて読者の前に出現させる。

そして、最後の1冊の最後のエピソードでマコトが語る。

…街の物語には終わりがない。…つぎに会うときには、また愉快でスリリングな嘘をたくさん用意しておくよ。…負けるな、明日は必ずやってくる。次のステージで、また会おう。

IWGP-C.GUIDEリーズの一旦の完結で、『IWGPコンプリートガイド』という企画本が出版された。これがまたファンに取っては楽しい1冊。石田衣良のファンだと言う作家の辻村深月との対談、IWGPの舞台となった池袋の詳細マップ、全作品のエピソード解説、登場人物紹介、作中に流れる音楽(第1作目でマコトはクラシック音楽に目覚めた)の解説、堤幸彦が撮ったTVドラマ撮影のエピソード紹介などが掲載。ガイドを読みながら、第1作から全作読み返したくなる。実際、私は読み返しそうになり、1作目だけで我慢した。楽しみはもう少し、次のシリーズが始まるまでの期間用に取っておきたい。オトナになったマコトたちの再登場が今から楽しみだ。

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