雪の降るまちを「北の国へ ‘13 帰郷」

FlightAirportが入院した。数年前に胃癌を発症し全摘。その後リンパ腫で入院。そしてこの冬、腎機能不全で3度目の入院となった。昨春、サクラの頃に80歳を迎え傘寿を祝ったばかり。大病を患ったとは言え、まだまだ元気な親父だった。けれど今回は弱気になっているらしい。同居する弟からそんな連絡をもらい、週末に北の街に向った。折しも強烈な寒波襲来。故郷の街に向う飛行機は「雪のため引き返す場合あり」という条件で出発。その不吉な予言通りに除雪作業待ちで着陸できず。燃料は大丈夫なのかと心配になるほどひたすら旋回。ようやく着陸し、迎えに来てくれた弟の車で雪の降るまちを目指す。

SnowViewEri形県鶴岡市。藤沢周平、丸谷才一、佐藤賢一らの作家を生んだ北の街。その街の雪の降る風景から生まれた歌がある。『小さい秋みつけた』などで知られる中田善直作曲『雪の降るまちを』という楽曲。淋しげながら力強いメロディ、しんしんと降り積もる雪の情景が浮かぶ曲。雪の降るまちで父親が入院しているのは最新の医療設備を持つ総合病院。病室のベッドにはすっかり病人然とした父親が横になっていた。今までの大病では病人なんかじゃないという気概があったのに、今は病気に押され気味。踏ん張れ。親父!まだやりたいことが残っているはずだ。おふくろの7回忌の企画もしなくちゃ。

GazaEbiGassanWineっかり弱気でね」あれこれと世話を焼いてくれている弟が零す。うぅむ。昭和一桁生まれの父。経済的には苦労したことも多かったけれど、ずっと矜持を持って生きてきた。「それを持てなくなったらオヤヂじゃないよな」弟が続ける。ん。店に出る前に一緒にちょっと飲もうか。数年前に公務員を辞め、バーの経営を始めた弟。彼の店は、いい音で好きな音楽を聴きながら美味しい酒が飲める、実に良い店になった。地元でしか味わえないガザ海老や寒鱈汁を味わいながら杯を交わす。父の話でしんみりした頃、常連客からの予約が入り、弟が店に向う。後で店に寄るよと背中に声を掛ける。

MatsubaKaniEri&Crab日は飲んでたねぇ。その分ジムで走るよ!」午前中にお見舞いに病院に、そしてランチの後に宿泊先のホテル提携のスポーツジムへ。どんな時でもライフスタイルを変えない妻。ある意味立派。「だって今夜もたっぷり飲むんでしょ。美味しく飲んで食べないとね」そんなポジティブな妻のことばに救われることも多い。汗を流し、もう一度病院を訪ね、夕食に出かける。美味しいズワイガニを食べたいという妻のリクエストで予約した「紅屋」で冬の味覚を堪能。満足の夕餉。そして連夜の深酒。妻の予言通り。

JifubukiSnowMan路。早朝に起き、スカッシュのレッスンに間に合うように飛行機に乗る…はずが欠航。慌てて特急列車を予約し、新潟経由で帰る計画に変更。駅に向うと特急の前を走る電車が雪だまりに突っ込み除雪中とのアナウンス。そして見事に運休が決定。そこからの対応が早かった。代行運転の大型バスが駅前にスタンバイ。新潟駅に向うという。2台のバスが数メートル先も見えなくなくなる地吹雪の中、新潟へ向う。そして3時間かけて新潟駅に到着。ふぅ。駅弁を買込み新幹線に乗る。ホームで待ってすっかり冷えた身体。なのに寒さに凍えながら缶ビールをぐびり。雪だるま弁当の顔も困惑気味。

疲れ様でした、だね」それはそのまま妻に返すべきことば。ありがとう。スキー場に来たみたいだとはしゃぎ、北国の冬の味覚を楽しみ、いつもの週末のようにジムで汗を流した妻。当然のように妻に同行してもらった帰郷は、とても心強く温かい旅だった。そして『雪の降るまちを』は、こんな歌詞で終わる。

い国からおちてくる この想い出をこの想い出を いつの日か包まん あたたかき幸せのほほえみ」

■食いしん坊夫婦の御用達 「紅屋」*お店の情報、過去の訪問記など

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