芝居の後は『おのれナポレオン』『ブライダル』

Napoléon谷幸喜の作・演出、野田秀樹が役者として出演(戯曲家でも演出家でもない“役者だけ”としての出演は極めて稀)。東京芸術劇場で上演されていた『おのれナポレオン』。現在の日本演劇界の大きな2つの才能が出会い、ぶつかり合った時、どんな化学反応を起こすのか。これは観なければの舞台。他の出演者も天海祐希、山本耕史、内野聖陽と楽しみな顔ぶれ。ある週末の午後、会場の東京芸術劇場に向った。4ヶ月間の改修工事を経て2012年9月新装なった東京芸術劇場。今回の舞台は中ホールから名称が変わったプレイハウス。ステージが客席中央に向って半島型に大きく突き出す配置。ロビーのモニターにざわつく会場の様子が映っている。開演前のワクワク感がいや増す。

Stage人公は野田秀樹が扮するナポレオン。三谷の芝居なのに、野田が舞台に登場した瞬間に、野田が(演劇)世界の中心になる。野田の芝居になる。役者としての野田秀樹の圧倒的な存在感。歴史ミステリーではあるものの、ナポレオンという歴史上の人物を野田秀樹その人に置き換えた三谷の芝居のようでもある。複数の時間軸と舞台転換、シンプルであることで抽象的で象徴的な舞台美術、野田のことば遊び的セリフさえないものの、三谷幸喜の芝居がぐぐっと野田秀樹に近寄った気配さえする。これが化学反応。「おのれナポレオン(L’honneur de Napoléon)」というタイトルの意味は「ナポレオンの名誉」。そこに、野田の、三谷の名誉(L’honneur)が溶け込んでいた。

Bridal週末、2人は再び池袋にいた。目的はまた芝居。会場は東京芸術劇場「小ホール1」から名称が変わった「シアターイースト」。3軒茶屋婦人会の第5回公演『ブライダル』。元花組芝居の篠井英介、深沢敦、元東京壱組の大谷亮介の3人芝居。毎回3人が女性に扮し、どこかに存在するような、絶対にこの世にはいないような女性たちの物語を演じる。篠井英介は花組の役どころを残すような、現代の女形の風情。大谷は女性役は無理があんでしょ!と思わせながら最後は毎回不本意ながら納得。そして、深沢敦はリアルな女性よりも女性らしく、舞台に現れる。ある種のコメディで、スリラー(笑)。お気楽夫婦は(怖いもの観たさか)毎回この舞台を楽しみにしている。

Women袋は芝居でも観に来なかったら、きっと全く来る機会のない街だなぁ」と妻。会場の前にある石田衣良の小説の舞台「ウェストゲートパーク(池袋西口公園)」を横切りながら、毎回零すことばは一緒。2009年に野田秀樹が東京芸術劇場の芸術監督になったこともあり、池袋に芝居を観に来る機会は増えた。けれど、結局その日も芝居の後に向ったのは別の街。馴染みの店がないこともある。芝居の余韻を味わうには、新宿3丁目近辺やシモキタのような、馴染みの街の空気が欲しいということでもある。その日の芝居も楽しめた。3人の女に笑い、にやつき、しみじみとした。だからこそ。芝居と、芝居の後に味わう酒(結局、酒かいっ!)は同じくらい大切なのだ。

る日、NODA MAPからメールが届いた。「3ステージ中止となった為に、ご観劇予定であったお客様には、心よりお詫び申し上げます。天海祐希さんには、まだまだこれから長い役者人生がありますので、何卒みなさまご理解下さいませ。そして、宮沢りえさんの、わずか二日間での稽古で舞台に立つことを英断してくれた男らしさに感謝します。宮沢さんのおかげで上演できることになった残り4ステージに魂を込めて演じさせていただきます」という野田秀樹のメッセージ。

が辞書に不可能の文字はない」と有名なナポレオンのことばは、元は「Impossible, n’est pas français.」というフランス語だったらしい。直訳すれば「不可能ということばはフランス(人)らしくない」。それをそのままJaponaise(日本人女性)に置き換えたいような顛末だった。

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