夢を叶える「父のステージ、娘のステージ」

YasuDishesを叶えた友人がいる。彼は外資系企業に勤め、海外出張など忙しい仕事を続けながら、チェロの演奏活動を行っていた。アマチュア演奏家として楽団に所属し、演奏会を開いたりしていた。スカッシュ仲間である奥さまに誘われ、お気楽夫婦は度々演奏会に出かけた。東京芸術劇場、三鷹市芸術文化センターなど、本格的な会場で行われた演奏会は、素人の耳には高い水準に思えるものだった。そんな彼が自分のホールを手に入れた。彼らの住む世田谷の閑静な住宅地の自宅の中庭に、演奏だけではなく、映像作品の発表、絵画の展示など、多目的に利用できるフリースペースを造ったのだ。

Stage3Stageる冬の夜、お披露目パーティが開催された。何人かのスカッシュ仲間と共に招かれたお気楽夫婦。お祝いの品を携え、彼らのご自宅に向かった。フラワーアレンジメントを教えている奥さまの教室だったスペースと、元は中庭だった場所がひとつの大きな空間に変わっていた。照明を配した階段で区切られ、時に階段上のスペースがステージになり、階下のスペースでライブを行ったりすることができる。そのいずれの時にも、幅が広く緩やかな段差の階段は、スッと座れる客席にもなる。音楽ホールに関わった実績がある建築士の設計とのことで、照明や音響にも配慮されたスペースになっていた。

Stage2Stage4らには一人娘がいる。幼い頃からヴァイオリンを始め、音楽大学に進学し、卒業後も演奏活動を続けている。けれど音楽だけで生活はできない。父親という強力なスポンサーが存在することで継続できる音楽。このスペースは彼女のステージでもあった。お披露目パーティでは、彼女のヴァイオリンはもちろん、友人のサックス、ハープ、父親のチェロ、スカッシュ仲間のギターなどの演奏が披露された。父娘共演によるヴァイオリンとチェロは、彼の夢のひとつが叶ったんだろうなとしみじみするものだった。演奏活動とハードな仕事を続けて来たことで、得られたひとつの到達点。

Stage5Stage6然、そこにゲストが登場した。娘の友人で、今はA香など、アーティストのコンサートツアーに同行するプロのチェリスト。お嬢さんとの競演後、彼のソロ演奏が始ると、全てのゲストが聴き入った。明らかに音が違う。彼の周囲にプロフェッショナルのオーラが漂う。彼の演奏も何度か聴いたけれど、ますます巧くなっており、魅力あるものになっていた。演奏が終わり、小さな会場が拍手で包まれる。すると、ひとり娘の眼が挑戦的に輝いた。そして、即興演奏が始った。エネルギッシュで魅力的な演奏。挑むような音と眼光。彼らを知る友人たちは、その姿に笑顔と拍手を贈る。

い演奏だったね。その日のステージの主役2人に、それぞれ声を掛ける。「ありがとうございます」返って来たことばは同じだったけれど、思いは違うものだったはず。音楽を続けて欲しいという父のもうひとつの夢を叶えるために、娘は次のステップを上る必要がある。会社を退職し、独立。投資コンサルタントを新たな生業としながら、この夢のスペースを地域に開放し、利用してもらうことを宣言した父。彼の夢は叶っただけではなく、次のステージに向けて始ってもいる。「続けられるって、素晴らしいことだよね」会社に活気が戻り、しばらくは仕事を続けたいという妻。それぞれの明日は、今日からずっと続いている。

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