おいしい故郷「地産地消のレストラン」
2016年 4 月29日(金)
「うさぎ おいし かのやま♬」という、唱歌『故郷』の冒頭のフレーズを「ウサギ美味しいかの山」だと思って幼少時代を過ごした人も多いと思う。何を隠そう私もその一人だ。もちろん正しくは「うさぎ追いしかの山」だけれど、私が子供の頃すでにウサギを追うような子供たちはおらず、この歌詞はピンと来なかったのだろう。ある週末、故郷の空港に降り立ったところ、名称が「おいしい庄内空港」に変わっていた。2年前に愛称が付けられていて、今回初めて気が付いた、ということなのだけれど。どうやらわが故郷は、フツーに食べていた地元の食材が実は美味しい、ということを自覚したらしく、盛んに内外に発信している。そんな理由で空港の愛称が決まったようだ。
美味しい故郷を自覚させた立役者のひとりは、2000年に地産地消レストラン「アル・ケッチァーノ」を開業したオーナーシェフ奥田政行さんだ。彼は地元庄内特産の食材の素晴らしさを再発見し、地元独自の在来野菜や海産物を活かし、生産者との連携を行って来た。そして2006年にイタリアスローフード協会から世界の料理人1000人の1人に選ばれ、TV番組などでも紹介されて脚光を浴び、「アル・ケッチァーノ」は予約の取れないレストランとなった。ちなみに、店名はイタリア語ではなく、「(あそこに美味しいものが)あったよねぇ」という意味の庄内弁。滞在初日、奥田シェフがアドバイザーとなって改装したという「庄内藩しるけっちぁーの」という店を訪れた。
店は致道博物館という庄内藩(庄内出身の藤沢周平の時代小説の舞台である海坂藩のモデルとなった)所縁の博物館の敷地内にある。汁モノ中心のメニュー、地元の食材を知る、というコンセプト。妻が選んだメニューは春の味、孟宗竹の筍がたっぷり入った「孟宗汁セット」。私は開店1周年メニュー、庄内豚の出汁茶漬けセット。庄内産の豚と新玉ねぎを甘辛く煮て、ご飯の上に乗せ、熱々のかつお出汁をたっぷり掛けたゼータク茶漬け。お椀に添えられた菜の花、小鉢の行者ニンニクが春を感じさせる。器を交換して味見をし合う。どちらもしみじみ旨い。その後に訪れたクラゲの展示で有名になった「加茂水族館」では、展示された近海の魚たちに「美味しそう!」とは妻の感想。
夜は独立前の奥田シェフも料理長を務めた「穂波街道 緑のイスキア」というピッツァの美味しい店へ。この店はナポリ湾に浮かぶイスキア島で修行してきたシェフが腕を振るう、世界で296番目、日本で26番目の「真のナポリピッツァ協会」認定の店だという。季節ごとに地元の食材を使った前菜を日替わりで出しているとのことで、その日のオススメは日本海で獲れた新鮮なホウボウのアクアパッツァ。これが実に旨い。ナポリから輸入しているというモッツアレラチーズのサラダが旨い。そして何より定番中の定番、看板のピッツアであるマルゲリータが絶品。さすが真のナポリピッツァ。ナポリには行ったことがないけど。こんな店がわが故郷にもできるようになったのかと感嘆。
「志を果たして いつの日にか 帰らん 山は青き故郷 水は清き故郷♬」唱歌『故郷』は、そんなフレーズで終わる。自分の夢は叶ったのか、かつてどんな志があったのか、そもそも志を持っていたのか。ただお気楽に日々を過ごしてはいないか。それでもお気楽に過ごせているということは幸福と言えるのではないか。あれこれと自問する。う〜む、微妙。それでも、志の有無や、夢が叶ったかどうかは別として、確かに故郷の春の景色は青々とした山々に囲まれ、水は清く、食べ物は旨い。おいしい庄内、おいしい故郷。