鮎尽くし2016「用賀 本城」

Ayu1Ayu2城です。IGAさん、今よろしいですか」その日の朝、思いがけない人からの電話。何事だ。「今日の鮎なんですけど…」と、言い淀む本城さんの暗い声。その日は恒例の「本城 鮎尽くし」の日。まさか鮎が届かなかったか。最悪の状況を想像し身構える。「鮎がちょっと弱ってましてね、お刺身ではお出しできそうもないんですよ」と、最愛の飼犬の命が尽きそうなのだとでも言うように、本城さんが悲しそうに続けた。なぁんだ。良かった。そう言えば、昨年の鮎尽くしの会では、大きなボウルの中で跳ねる鮎を、テーブル席の我々にわざわざ見せに来てくれたんだった。「では、絞めてしまいます。代わりの料理考えますわぁ」残念そうに、そしてちょっとホッとした様子で電話を切る本城さん。そうか。もしかしたら彼が一番楽しみにしていたのかもしれない。

Ayu3Ayu4尽くしの料理を「用賀 本城」でいただき始めたのは3年前。鮎好きのお気楽夫婦。いつか新橋の「鮎正」で鮎尽くし料理を食べてみたいのだと話題にしたところ、「ウチでやりましょか」と神の啓示のような本城さんのひと言がきっかけ。2回目からは友人たちをお誘いし、数えて今年で4回目の開催。京都(たん熊北店)を出てからは鮎尽くし料理はやっていなかったという本城さん、どうやら我々の予約を毎年心待ちにしていただいている気配。京都の料理人の血が騒ぐらしい。晩夏の頃、一般河川では鮎の産卵の季節、落鮎の頃。そして、成魚でも小ぶりの琵琶湖の「小鮎」。それらを料理によって使い分ける。鮎尽くしの前に、イチヂク、生麩などの彩り鮮やかな京料理の小鉢がいくつか供され、鮎のカルパッチョ(!?)から鮎尽くしがスタートした。

Ayu5Ayu6の肝を石で焼く本城さん。香ばしい匂いがカウンタ席に漂う。香りだけで日本酒をぐびりと飲めそうだ。ところで、カウンタ席に友人たちと5人は不自然かとも思うが、厨房での本城さんの所作を眺め、会話を楽しみながら、出来上がっていく料理を楽しむにはベストの席。お茶目な本城さんがポーズさえ取ってくれる。そして、潤香(うるか)と干し鮎の炙りに焼いた肝添えという、日本酒がススんでしまう最強の肴でぐびり。続いてメインの塩焼き。かりかりジューシーで淡白な身と、ほんのり苦味を楽しむ腹を一緒にかぶり付く。頭から食べられるこの大きさが鮎の塩焼きにはぴったり。日本人として生まれ、この味を美味しいと思えるオトナになったことを幸福に思うひと時。日本っていいなぁと、『和風総本家』のフネさんのナレーションが聞こえてきそうな味。

Ayu7Ayu8鮎の梅煮も鮎料理の王道。もっちりと膨らんだお腹の卵、ほろほろと柔らかい鮎の身を一緒に味わう。梅の身の酸味が程良く効いた上品な甘さ。肝の苦味とはまた違った鮎の旨味や舌触りを楽しむ。「次はお食事で、鮎ご飯です。デザートはどうされますか」すでに満腹中枢からSOS信号が発せられている私を除いて、全員がいただきます!との返事。元々酒を飲まないお気楽妻と、ご飯も甘いものも大好きな役員秘書は言うまでもなく、アスリート女子は風邪をひいていたり、翌日に大事なプレゼンがあるとの若手(でもなくなってきた)建築家は酒を控えめということもあり元気に食べ続ける。特に役員秘書は「ん〜、私もお腹いっぱいだけど、お代わりください!」と鮎ご飯を平らげる。気持ちの良いコメ食いっぷり。メンバー全員での撮影もお茶碗を抱えて(笑)。

日も美味しかったです。ご馳走様でした!」メンバーが声を揃える。その日も本城さんや女将さんと話しながら、いつの間にか最後の客となり、お2人に見送られて店を出る。こうして鮎の季節が終わり、すなわち夏が終わってしまった。すっかり恒例となった鮎尽くしは、夏の終わりと秋の到来を実感するイベントになった。また来秋、こうやって友人たちと一緒に訪れ、行く夏を惜しみ、季節の移ろいを味わいたいものだ。「またすぐに秋を味わいに来るよ!」お気楽妻は夏を惜しむ余韻よりも、目の前にある秋の味が優先だ。

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