音楽劇三昧、そして身体の性、心の性「ベターハーフ」他

SEX1リストパーネスは、プラトンの『饗宴』の中でこう語る。かつて人間は2人(男女・男男・女女)の身体が付いた1対の身体だった。ところが知恵を付け過ぎ、神の怒りに触れた人間は、身体を2つに裂かれてしまう。そして人間はその離れた片割れを求めるようになったのだと。2015年初演、2017年に再演された舞台『ベターハーフ』は、そんな相手を求める、若い男女、中年の男、トランスジェンダーの4人の物語。初演に続いてトランスジェンダーの“役”を演じるのは、中村中(なかむらあたる)。紅白歌合戦で初めて、戸籍上は男性として“紅組”で出場したシンガーだ。鴻上尚史の脚本は、彼女を中心に4人がぶつかり、愛し合い、別れ、泣き、笑う。彼女にアテ書きをしたのではと思ってしまう物語。舞台上で歌う(ピアノ弾きの役)彼女の歌は魅力的で、最初の曲『たとえぼくが死んだら』(森田童子)で、くらっと来てしまった。

SEX2都夜曲』は、マキノノゾミ作、河原雅彦演出の音楽劇。1930年代、魔都と呼ばれた上海のジャズクラブが舞台。セリフを音楽に乗せるミュージカルではなく、あくまでも音楽劇。ジャズクラブで歌われるナンバーや、登場人物たちが歌う唱歌が、自然に物語や当時の時代背景に溶け込み、重要な役割を果たす。主演の藤木直人が意外と(失礼!)良い。いや、かなり良い。公家の出の首相、近衛文麿の息子をモデルにした主人公。人を疑うことを知らないお坊ちゃん、という一面だけではなく、自分がなすべき役割を自覚し、目覚めていこうとする過程が好ましい。TV番組『おしゃれイズム』の前に出ないパーソナリティとしての印象しかなかったから、好感度急上昇。そして何よりお気楽夫婦のご贔屓役者コング桑田や、クラブの歌姫役の秋夢乃の歌が素晴らしく心地よい。開演前のバンドの演奏、幕間の遊びまで、オトナの舞台。

SEX3FILL-IN』は、久々の大王こと後藤ひろひとの作・演出作品。そして中村中が舞台中で演奏するバンドの楽曲を提供していた。自動車事故で急死した娘の代わりに、彼女がメジャーデビューしようとしていたバンドで、素人だった“父親”がドラムスを叩いて…というストーリー。主演の内場勝則(吉本新喜劇の座長)が素晴らしい。役の上だけではなく、稽古前は全くドラムスに触ったこともない、リアルな素人だった彼が、最後にはトリハダものの演奏を披露する。プロとはこういうものだと感激した観劇だった。そして、お気楽夫婦が観に行った日は、中村中がゲストとして、主人公のバンドの前にスタジオを借りていたミュージシャン役で舞台に登場。『ベターハーフ』とは違い、いい意味で肩の力が抜けた出演。いい“女”っぷりオーラを舞台上で発していた。彼女が戸籍上の男性だと知らずに観ていた人もいたに違いない。

SEX4間は男性、女性の2極では決してない。身体的に男女の性別はあるけれど、心の性と一致するとは限らない。ましてや求めるパートナーは、男性の身体と心で男性を求めたり、男性の身体で女性の心を持ち、女性として男性を求めたり、その組み合わせは多様。ニューハーフとか、オネエとか、マスコミに登場するタレントたちによって社会的な理解が深まってきたとは言え、まだまだ誤解が多く、性的マイノリティに対する風当たりは強い。そこを軽やかに超えた場所に、中村中は存在する…ように見えた。中村中が舞台で演じ、自らも公言するトランスジェンダー(transgender)は、文字通り“性を乗り越える”ことであり、必ずしも性同一性障害(身体の性と心の性の不一致に対し適合を願う医学的な疾患名)とは言えない。数年前、初めて中村中の存在を知り、歌声と容貌と社会的な性別のギャップに驚いた。彼は堂々たる女性なのだ。

い芝居だったね」とお気楽妻が満足の笑み。思いがけず、スカッシュ仲間が間違って2公演分予約してしまったチケットを譲り受け、観に行った『ベターハーフ』を皮切りに、1週間余りの間に3公演連続して出かけた音楽劇。それぞれにやられた!という感じ。鴻上尚史、マキノノゾミ、後藤ひろひと、3作品それぞれの作家・演出家の仕掛けが、芝居好きの2人のハートに刺さった。そして、何よりも中村中の存在が。「うん、彼女かなりいいね」と妻。だから芝居は止められない。

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