台風襲来の夜に「コーナーズグリル 千歳烏山店」

Ishigaki風が首都圏襲来の予報。きっとジムもガラガラに空いてるだろうし、がっつり走って、軽く食べようか。そんなことを企んだお気楽夫婦。交通機関の乱れを避け、早めに帰宅。…だいたいこの時点で2人は間違っている。交通機関が乱れるのを避け、仕事を早めに終えたのに、なぜわざわざ電車やバスに乗り、ジムに向かおうとするのか。社会人としていかがなものか。と、そんな2人が自宅を出ようとする頃、行く手を阻むような突風、大粒の雨。傘も使えそうもない。「やっぱり無理かなぁ」不謹慎で不穏当な社会人は諦めが早い。「じゃあ、何か美味しいモノでも食べに行こうか!」お気楽な2人は気持の切替も早い。幸い2人の住まいの近くには飲食店がたっぷり。

BigSalade垣牛はどう?」妻が前から気になっていたというご近所の店「コーナーズグリル」に向かう。この台風もはるばる八重山の海を経て、東京までやって来た風雨。そんな夜に八重山の牛を食するのも一興。店の前に着くと、入口のドアを半開きにして、心配そうに外を眺める店主と目が合い、軽く会釈して店に入る。「こんな嵐の日にありがとうございます」と店を挙げてのご挨拶。見渡すと、なるほど。さすがに客は誰もいない。スッキリとしたインテリア。嵐の日には羨ましくなるような、石垣島の青い空と海の写真が何点か飾られている。メニューには石垣牛のステーキ、ハンバーグの他、ゴーヤのサラダ!さらに、飲物メニューの中には泡盛まで。ウチナー色満載。

Shrimp垣牛A4ヒレステーキ100gをオーダーしようとすると、「申し訳ないです。台風で石垣牛が入って来てませんで、在庫がないんですよ。こちらのA5石垣牛200gのサーロインも最後の1枚なんです」ふぅむ、台風の影響をもろに感じる夜。気のせいか風雨も強まってきた。では、それをください。メインの前にゴーヤやラタトゥイユが入ったサラダ、シュリンプとアボカド。どちらもボリューム感たっぷり。「うん、美味しいし、なかなか良い感じだよ」妻も生野菜をたっぷり摂れて満足そう。大振りのシュリンプとアボカドソースの組合せも気に入った模様。店に流れるBGMは、蛇味線(たぶん。三味線かもしれないけど)演奏のジブリ映画サントラ。不思議に店に似合う。

Steak待たせしました」メインの石垣牛A5ランクのサーロインが鉄板に乗って堂々の登場。さっそくレモンを絞り、島マース(塩)でさっぱりいただいてみる。「美味しいぃ〜っ。肉の脂が優しい」脂が苦手な妻も絶賛。確かにただ柔らかいだけでなく、しっかり旨味や主張のある肉。もともと石垣牛は神戸や松阪に子牛として売られていた黒毛和牛。いわば高級和牛のルーツ。2000年沖縄サミットで各国の首脳に夕食会で提供され、一躍スポットを浴びた。この店も本店は石垣島にある有名店、その唯一の支店がなぜかこの場所にある。お気楽夫婦宅から、わずか徒歩1分で味わえる八重山の美味。思わず嬉しくなり、石垣の泡盛をロックでオーダー。なかなかの相性。旨し。

れはハンバーグステーキも食べに来なくちゃね」すっかり妻はお気に入り。そして見回せば、いつの間にか店には何組かの客が、ハンバーグを美味しそうに食べている。毎回ステーキを食べるとなると、お腹にも財布にも厳しいけれど、ハンバーグならバリエーションも多く、お手頃価格。挽肉が苦手な妻でさえ、積極的に食べたくなる石垣牛。次はぜひハンバーグをいただきに伺おう!

家族の約束、あるいは秘密。『抱擁、あるいはライスには塩を』江國香織『坂本ミキ、14歳。』黒野伸一

houyoる家族には当然のことでも、他の家族からすると、それは不思議なことであったり、異常なことであったりする。例えば、家族の間でしか分らない約束事であったり、符丁であったり、常識であったり。江國香織『抱擁、あるいはライスには塩を』に登場する柳島家の場合、子供たちは学校に通わず、家庭で教育されている。そして、ある日突然小学校に通うことになり、次女の睦子は柳島家と世間との違いを知る。彼女の姉は父親が違い、弟は母親が違う。そして、姉の父とも、弟の母とも交流があり、3世代の住む洋館に集うことがある。読者からしてみたら、突っ込みどころが満載の設定。なのに、柳島家は実に自然なのだ。確固とした存在感があるのだ。一族の日常がどんなに常識外であっても、余りにもノーブルであったとしても。

ekuni國香織が紡ぐ物語は、読者が住む現実世界と薄いヴェールで仕切られていながら、確実にすぐ隣に存在する世界で展開される気配があった。柳島家の3世代、100年に渡る物語は、その異世界ぶりが一段と濃厚だけれど、現実的な存在感もまた強い。家族間に通底する倫理観など、ほとんどの他の家族には通用しないはず。けれど、彼らの関係は実に心地良いのだ。ラディカルな恋愛感や家族同士の距離感が好ましいのだ。魅力的なのだ。そんな柳島家で交わされる合い言葉、「かわいそうなアレクセイエフ」や「ライスには塩を」が、どんな場面で使われるか、未読の方はぜひ楽しみにして読んで欲しい。そして、エンディングに用意された、驚きの展開。章ごとに主人公(語り)と時代を変えて語られる大河小説の趣き。すぐにでも再読したい1篇だ。

sakamoto14歳の主人公、坂本ミキの家族の場合、父親はある日突然会社を辞めてしまったニート状態だし、母親は子供たちの中でひとり成績優秀な息子を溺愛しているし、次女の不思議系の美少女は精神を病んでしまう。それでも家族という単位の中では、奇妙なバランスで保たれてきたのに、ある日崩壊してしまう。そんな坂本家にとって、主人公の三女ミキの逞しく健気な存在が頼り。けれども彼女もクラスの中では浮いた存在で、ある種のイジメを受けている。そんな設定なのに、例えば重松清の描く学校物語のような重苦しさがない。ミキの客観的な視点だったり、彼女の不思議な明るさや、おばあちゃんのキャラクターが物語全体を暗部に沈み込ませない。救いやユーモアが溢れている。そして何よりも美少女、マミちゃんのスタンスが良い。

ンディングを迎えて、まだまだ続きを読みたくなる物語があるけれど、この作品がまさしくそんな1冊。ミキとマミの姉妹が、それまでの物語の暗部を全て吹き飛ばしてしまうような爽やかなラスト。思わず納得するオチもしっかり付いている。語りを次女のマミちゃんに変えて、新たなストーリーを展開して欲しい。「ん?マミだけ、ちゃん付き?どんだけ可愛い子好きなの?」と鋭い妻の指摘に腋汗がたらり。感情移入して読んでいたのは、マミちゃんの視点だったことに気付く。我が妻ながら、さすがである。

幸福で、口福な関係♬「ビストロ トロワキャール」

BeerSte.Lucieちゃんとこ行かなきゃね。しばらく行ってないし」ある日、珍しいことに、お気楽妻が積極的に自分の意志を主張した。彼女の場合、…したいという意思表示は、「…する?」という疑問形になる。そして、さらに強い意思表示は、「…だよね?」という付加疑問文になる。ということは、「聡ちゃんとこ行かなきゃね」という発言は、「ビストロトロワキャールのシェフの聡ちゃんの美味しい料理がどうしても食べたい!しばらくあの料理を食べてないなんて、とってもいかんことだよ!すぐにでも行かなきゃ!」という意味になる。そこで慌てていつものカウンタ席を予約する。

VegiMina初はビールですか?」早めに着いたカウンタ席。マダムのまゆみちゃんが念のために聞いてくれる。もちろん!妻を待つ間に、ヒューガルデンをぐびり。ふぅ〜っ。柔らかな泡が、実にんまい。妻が現れた頃には、まゆみちゃんおススメの1杯目のワイン、Made in Provenceがグラスに注がれている。「フランスワインで英語の名前なんて珍しいですよね」ラベルもモダンでポップ。ん、んまい。アミューズのオリーブをかじりながら乾杯。続いての一皿は夏の野菜。トマトが甘い。キューリが瑞々しい。2杯目のワインには妻の名前と飲み仲間の酒豪女子の名前。偶然ながら、不思議、嬉しい。旨い♬

BeautifulGood!待たせしました」聡ちゃんが満面の笑みと共に出してくれたのは、いつも通りの、そしていつもとはいつも違う、オードブル全部盛り。お馴染み絶品キャロットラペ、うまうまポークリエットなどが並ぶ。そして、その日のセロリのピクルスのように、何か違った一品も。「やっぱり美味しいねぇ♡」妻が焼きたてパンを頬張りながら、珠玉のオードブルを味わっている。うん、旨い。3杯目のワインは、もはやまゆみちゃんの説明すら聞いていない。安心してお任せして、間違いなく旨い。聡ちゃんが供してくれる料理も同様。大まかに何が食べたいかを告げ、後はシェフとマダムに身を委ねる。

MainSouchan?それなぁに?」カウンタの向こうで、聡ちゃんが肉をいじり始める。何やらTVの映像で視たことがある器具。ソーセージフィーラーという新しいおもちゃらしい。そんなアピールされたら食べねばでしょ。まして、妻が大好きなソーセージ、食べない訳にはいかない。嬉々として色々な種類のソーセージを作る聡ちゃんにオーダー。すると、何種かのソーセージと、ザワークラウトが登場。今まで食べたことがない程ニクニクしたソーセージたち。香しくジューシーで、噛み応えがあり、これまた実に旨い。「あ、これは美味しいわぁ♡」ソーセージ好きの妻の笑みが零れる。

Redwineめ押しでいただいた赤は、ショレイ・レ・ボーヌ。やっぱり旨い。この店で、お気楽夫婦はメニューを見ない。シェフの聡ちゃんと、マダムのまゆみちゃんと、世間話をしながら、何が入荷しているか、この季節は何が美味しいのか、何がおススメか、会話の中からオーダーが決まる。お気楽夫婦にではなく、彼らの中で。そして、2人のチョイスに安心して身を任せ、2人がレコメンドする皿とグラスを堪能する。「今日も幸せな味だったね」妻が満足そうに微笑む。これはきっと幸福で、口福な関係だ。「う〜ん、また行きたくなるね」うん、また近いうちに♬

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SINCE 1.May 2005