桜の頃に「父の誕生日」

2012Sakura2012Spring昨年の春、父の傘寿のお祝いに傘を贈った。「これは勿体なくて使えないから飾っておくか」と冗談を言いながら、普段は感情を強く表すことのない父が、思いがけず大喜びしてくれた。大学に入学したばかりの甥も誘い、温泉宿でのんびりとお祝いの食事をした。これまた思いがけず、母と出会った頃の話を嬉しそうに語ってくれた。ちょうど父が甥ぐらいの年齢だった頃の、母との恋バナ。少しだったら飲んでも良いんだと、嬉しそうに、実に美味しそうに酒を飲んだ。癌で胃を全摘出をしてから2年が経っていた。翌朝、湯船に浸かりながら満開の桜を眺めた。

その年の夏、2度目の入院。リンパ腫だった。

2013Sakura2013Spring年の冬、3度目の入院が長引いた。腎不全と肺炎を併発した。すっかり痩せてしまった父だったが、暖かくなったら一時帰宅をして、美味しい魚を食べるんだと楽しみにしていた。そして人工透析を始め、なんとか快復の兆しを見せた春の頃に、1日だけ自宅に戻ることができた。父の幼なじみたちが訪ねて来てくれた。車窓から母の墓をお参りした。妹たちからカニを、数ヶ月前に知り合った若いガールフレンドから山菜を食べさせてもらった父は、穏やかな笑みを浮かべた。「俺は幸せだなぁ」としみじみと呟いた。病床にあり、酸素吸入をしながらも、実に幸福そうだった。

外は満開の桜の頃だった。

Housyoがすっかり散ってしまってから1ヶ月余り。父は母のもとに旅立った。仲の良い夫婦だったから、迷わずすぐに出会ったに違いない。母が倒れた後10年、懸命に介護を続けた父だった。バレーボールのコーチを務め、地方史を研究し資料を集め、句会を主催した。ずっと地域でボランティア活動を続けたことが認められ、緑綬褒章をいただき、自治会長だった父が代表して受章した。母が元気な頃から一緒に野を歩き、山に登り、野草を愛し、撮影した野草の写真の展示会でガールフレンドとも知り合えた。「好きなことしてきた人だもの、幸福だったと思うよ」と周囲が口を揃えた。

そんな父を桜の頃に思い出す。

2014Sakura4月5日、今日は父の誕生日だった。東京の桜は満開を過ぎ、散り始めている。

父と母は、今頃どこでサクラを仲良く眺めていることやら。

春を味わう♬「鮨いち伍、天松」

KatsuoSakuramasuの開花宣言と共に、Facebook仲間が一斉に桜の写真をアップし始める。SNSでもすっかりお花見の季節。桜色の景色を目で楽しむ春が来るように、舌で味わう春がある。例えば、寿司屋のカウンタ席で。ご近所で馴染みの店「鮨いち伍」でネタケースを眺めながら。突き出しに出てきたのは、初夏を先取りの鰹。まだ脂は乗っていない分、漬けにした鰹と若布、たっぷり生姜の軽やかな味を楽しむ。そしてサクラマス。名前の通り、桜の季節に日本海で獲れる、サクラ色の身色を持つ美魚。*富山ではこれを有名な駅弁でもあり郷土料理でもある「ます寿司」にして味わう。眉目麗しいサクラマスの握りも春を感じる上品な味。旨し。

AjiKohadaは、魚偏に参(三)と書くように、旧暦の三月が旬という説がある。実際には夏の方が脂が乗って美味しいとも言うが、丁寧な仕事が施された握りは、文句なく旨い。そしてサヨリ。春を告げる魚。たおやかで色気がある姿は食欲を刺激する。美味。ハマグリはまさしく春が旬。産卵前のふくふくとした煮ハマグリは大好物。煮切りを付け、ワサビをちょいと乗せた握りは絶品。夏のシンコが珍重される出世魚のコノシロは、コハダが鮨ネタとして使われ、魚偏に冬と書くように秋から冬が旬。けれども春のコハダも旨い。むむ。…と言うことは、結局、きちんとした仕入と仕事をする寿司屋のネタケースに並ぶ魚は、春に限らず季節毎にきちんと美味しいという結論か。

TaranomeFukinotouをさらにたっぷり味わえるのが、天ぷら。春の天ぷらは、何と言ってもまずは山菜。妻は山菜の天ぷらを食べないと春が来ないとまで言う。春が来ないのは困ると、渋谷にある馴染みの店に電話をするとカウンタ席は満席だとのこと。う〜む、それは困る。どうしても“今日”食べたいのだ。そんな日がある。代替案は同じ渋谷の「天松」。初めての訪問。カウンタ席に空きもあるという。店に入るとこぢんまりとしたカウンタ席に案内される。他に客は1組。お好みでお願いし、山菜を食べたいと伝えると、忙しそうにしていた揚場の大将が丁寧に説明してくれた。タラの芽、ウド、ふきのとう、コゴミ…。ほほぉ。それ、全部ください♬妻が満面の笑み。

ShirauoManzokuが来たねぇ♡」ほんのり苦いフキノトウ、独特の旨味のタラの芽を味わいながら妻が呟く。良かった。今年も春が来た。ウドのきゅっとした歯応えを楽しみ、こごみのサクッとした歯触りに微笑んだ後は、やはり春告げ魚と呼ばれるシラウオ。絶妙に積み上げたサクサクのかき揚げを塩でいだだく。う〜ん、軽やかな春の味。そして新タマネギ。これもまた小口に切った柔らかな新タマネギをかき揚げで。寒い冬を越え、暖かな春を迎えた甘さたっぷりの味を堪能。もちろん定番の穴子、丸々としたシイタケ、頭が美味しい芝エビも忘れずに。これにメゴチなどで満足、満腹なのに、サツマイモをデザート代わりに揚げていただき、シメ。

べたねぇ」妻が満足気に呟く。季節を味わうことができるのが和食の楽しみ、素晴らしさ。その神髄を感じることのできる春。「夏の鮎も捨て難いし、秋もいろいろ美味しいモノがあるよ。冬だって…」小食にも関わらず、食に対する妻のスタンスは貪欲。そして季節の食材を味わうには寿司、天ぷらはぴったり。「日本人で、それもオトナで良かったよね」という妻に、全面的に同意の、春爛漫。

ようやく!!! ハッピーバースデー♬「クリスチアノ」

Vinho verdeCheeseさかの2回の雪で流れちゃったIGAさんたちの誕生日会、ひと月遅れでやりませんか?流れてそのままなのが気持悪くって」小顔美女から、そんな嬉しい同報メールが届いた。祝ってもらう立場としても、すっきりしない気持は同じ。2日違いの誕生日で、一緒にお祝いをしてもらうはずだった役員秘書からも「やん、うれしー!ありがとう♡」と女子力満載の返信メール。参加予定だったメンバーからも、ぜひやろう!とメールが入る。「では、近所のポルトガル料理屋さん予約してみます。人気がある店だからダメ元で。二次会はウチで♬」と小顔美女が幹事を引き受けてくれた。その店は、代々木八幡のポルトガル料理とワインバー「クリスチアノ」という人気店。楽しみだ。

CorreioGrilled octopus Diavola約取れちゃいました〜。全員集まれて嬉しいです♡」と幹事からメッセージ。「その日は仕事だから、会社から直接店に行きます」と、1年で最も忙しい季節に突入した妻。「私も残念ながら出勤なので会社から(涙)癒しが欲しい〜」と担当する役員が変わった秘書。「私も人事異動でささくれているので、癒しが欲しい!」とアスリート系女子。「怒濤の日々が続いたので、久しぶりのリラックスタイムを楽しみにしてます」と若手建築家。この季節、皆たいへんな日々を送っているらしい。そんな状況なのに誕生日のお祝いなんて、ありがとう、…というよりも、だからこそメンバー全員が楽しみにしている様子。きっとみんな忙しい中、集まるきっかけが必要だったのだ。

EncruzadeBagna cauda Portugal style生日おめでとう♬」とヴィーニョ・ヴェルデ(緑のワイン)で乾杯。若々しい微発泡のワイン。「ふぅ〜。遅れてごめんね」主役の1人、役員秘書が登場したところで、あらためて乾杯。ややお疲れ気味の様子。それでも、オリーブオイルとチリソースで食べる豆腐のようなチーズ、珍しい野菜がたっぷりのヴァーニャカウダなどの素朴ながら美味しい料理を食べるうちに、徐々にテンションが上がって行く。ワインバーを標榜するだけあってワインの種類も豊富。あっという間に2本目、3本目と空になって行く。ますます会話が弾む。店もいつの間にか満席。料理の説明をするサービスマンの声、ポルトガル語のオーダー、各席で交わされる会話。それらのざわめきが適度で心地良い店だ。

BirthdayCakesHimeDaruma生日おめでとうございます♬」小顔美女宅での2次会。待っていたのはサプライズ企画。1ヶ月遅れのバースデーケーキが登場。それもティオブロマ。プレートには「Happy Birthday」の文字の前に「ようやく!!!」という実感こもったメッセージ。そこで、レディースにはホワイトデーのお返し、役員秘書には誕生日のお祝いを兼ねたチョコレート、建築家には金沢土産をプレゼント。「きゃぁ〜っ、嬉しい♡」お疲れ気味だった役員秘書のテンションが最高潮に達した。彼女の笑顔が伝染して行く。「家庭以外にもプライベートの顔になれる時間って、ほんと必要なんですよね」という建築家と一緒に金沢土産の姫ダルマ最中を並べ、EXILE風の撮影。なんだかとっても楽しいぞ。

と楽しく話して、癒されて、元気になったよ。楽しいって凄い♬」翌日、役員秘書からメンバーにメッセージ。確かにあの日、飲み始めた時には表情が冴えなかった他のメンバーも、あっという間に別人のように元気になった。そういう私も。流れた2回の誕生日会にケーキを用意していたのだと後から聞いてはいたけれど、まさかの3度目の正直でケーキが用意されているとは思わなかった。びっくり嬉しい楽しい、元気になった夜だった。…楽しいって凄い。至言なり。

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