いつも通りの1杯♬「飲む力」

Old Grandad末のある夜、ビールとワインを飲みながら、自宅でお気軽な夕食を終えた。なんとなく気持が軽やか。ちょっと飲み足りない感じ。酒棚を覗いてみた。芋焼酎が2本、薩摩古秘と薩摩宝山。泡盛が1本、八重泉樽酒。テキーラが1本、クエルボ。アイラウィスキーが2本、ラフロイグとボウモア。スコッチはシーバスリーガル、そしてバーボンはオールドグランダッド。実に凡庸なラインナップだなぁ。夏に向けてボンベイサファイアとバカルディを買っておかなきゃな。独り言つ。う〜む、ところで、何にしようか。と、迷った揚句にお爺ちゃんのボトルを手に取る。からからと氷を入れ、たぷたぷと注ぐ。ぐびり。ん、んまい。妻の食料貯蔵庫から大豆をいただき、ぐびり。んまい。ついついグラスを重ねる。なんだか気分の良い夜だ!と独り酒。

Nankle明け早々のある日、仕事帰りに妻と待ち合わせ。途中下車して向ったのは、下高井戸の「ナンクルナイサ」。月に1度は立ち寄るお気軽な沖縄料理居酒屋。ドリンク無料券を毎回頂き、2杯の生ビールをオーダーし、2杯とも私が飲んでしまうというパターン。お店も黙認してくれる。突き出しのウチナーメンマをつまみ、ミミガーをかじり、ビールが空になると泡盛にスイッチ。ナンクルサラダとゴーヤチャンプルを食す。何度来てもこの店でオーダーする料理はほぼ変わらず、飲み干す泡盛もほとんど変わらない。何かの料理がとても美味しい訳ではなく、常連として店のスタッフと会話する訳でもない。カウンタ席に2人並んで座り、サクッと飲んで、食べて、顔なじみの古顔の厨房のオジさんに挨拶し、ささっと帰る。毎回妻が喜ぶお会計。

Ultraの半ば、仕事帰りにジムに向う。株主優待券目的で何社かのスポーツクラブの株を小さく保有。あちこちのジムに出没するお気楽夫婦。その日は経堂のルネサンスへ。施設は清潔で、スタッフの対応も心地良い。お気に入りのスポーツクラブ。マシンジムで妻のリハビリトレーニング。有酸素系のマシンで1時間ほど汗を流し、シャワー&ジャグージ。このクラブは水回りが充実していることも好ましい。「後はスカッシュコートがあればなぁ」と毎回お約束のため息をつきながら夜の経堂をぶらぶら。この街は飲食店が充実。最近立ち寄ることの多い「洋食バル ウルトラ」へ。こぼれポテト、シーザーサラダなどを食べながらビールをぐびり。コールドポークを頬張りさらにぐびり。いつものように、消費したカロリーを上回るカロリー摂取。

Wakatake末が待ち遠しいある日、香典のお返しにと地元の名店「ル・プティ・ポワソン」で焼き菓子を手配。「約束した焼鳥飲みになかなか行けないですね」と、パティシエのマコちゃん。じゃあ、今日行こうか!ということで、地元で人気の焼鳥屋「若竹」で待ち合わせ。仕事で遅い時間に合流するという妻を待ちながら、マコちゃんと2人でぐびり。「焼酎にしましょうか♬」との提案に頷き、黒霧島のロックをぐびり。「エースを狙え!」登場人物話で盛り上がり、さらにぐびり。妻が合流して、またさらにぐびり。「何だか調子に乗って飲んでるでしょう」と妻。「お風呂で溺れちゃダメですよ」とマコちゃん。お2人のおっしゃる通り。…その日もとても楽しい酒だった。とても嬉しい酒だった。こうしていつも通りの、お気楽な毎日が帰って来た。

の夜、お風呂に入ったのは覚えていた。気分良くお湯に浸かっていた、はずだった。ふっと目が覚め、気が付くとお湯のないバスタブの底で裸で丸まっていた。あれ?現実と夢の狭間で懸命に考える。…お風呂で眠る私を起こそうと、妻がお湯を抜いたのだと思い至った。バスルームで溺死しないようにと妻が考えた新たなサルベージの手法。なるほど。私の飲む力は、所詮妻の掌中にある。

ビールで、ワインで、料理でFoo〜っ♬『別れる力』伊集院静

Powerが始まる頃、東京駅で1冊の本を手に入れた。伊集院静の『別れる力』。タイトルに惹かれ手に取り、序文をパラパラと読み、買うことに決めた。そこには、こうあった。「別れることは、切なく苦しいことだ。時によっては非情にさえ思える。しかし私たちが生きていく上で、離別は避けてとおれるものではない。…中略…親しい人を失った時、もう歩き出せないほどの悲哀の中にいても、人はいつか歩き出すのである。歩き出した時に、目に見えない力が備わっているのが人間の生というものだ。…後略」ちょうど大切な友人と別れた直後だった。入院した父を見舞い、別れを覚悟し始めた時期だった。出張に出かける新幹線の車内で読み始め、後悔した。涙が止まらない。けれど、最後まで読み終えた。そして、それから時間を掛けて、友との別れに馴染み、父との別れを思い、心の準備をし続けた。そして過日、父が逝った。

Beer de Fooの葬儀を無事に終え、不在の間に滞った仕事を片付け、ようやく日常が戻って来た。そんなある日、「美味しいモノを今すぐどうしても食べたい症候群(別名:IGAシンドローム)」を発症した。妻にメールを送り、そう訴えた。「良いよ。どこに行こうか?」と妻。すぐに決まった。馴染みの店「広東料理 Foo」。お互いに仕事を終え、世田谷線の三軒茶屋駅で待ち合わせ、コトコトと電車に揺られる。松陰神社前の駅で降り、こぢんまりとした商店街の夜道をのんびり歩く。久しぶりのFooだね、何を食べようかなどと話しながら、いろいろな気持がゆっくりと解けていく。店のドアを開けると、ねもきちくんがいつものように笑顔で迎えてくれる。カウンタの向こうで慎ちゃんが軽く会釈してくれる。さっそく生ビールをぐびり。Foo〜っ。

Hiyunaユナっていう珍しい野菜が入っていて、塩卵と皮蛋で…」ねもきちくんがおススメの料理の説明をしてくれる。「それ食べたい!あと穴子の…」妻が元気にオーダーする。いつもの通りだ。良い感じだ。そして慎ちゃんの絶品料理を口にする。んっ、いつも通りに唸るほどに旨い。塩卵と皮蛋のW卵の滋味深さ、豚三枚肉の上品な甘さ、それらがヒユナと炒めスープ煮にされた、蕩けるような一品。赤みがかった刺激的な見た目と、舌に優しい味のギャップが楽しい。「やっぱり慎ちゃんの料理は美味しいねぇ♬」妻の瞳が輝く。忙しかった彼女の仕事が落着いた頃、図ったように、待っていてくれたように父は逝った。春からずっと、月に一度のお見舞いに同行してくれた、ずっと私の傍にいた妻にとっても、きっと美味しい料理と中国茶でFoo〜っ!なのだ。改めて、そんな妻に感謝。

Wine de Foo日は白ワインでいきますか?3杯飲むんだったら順番は…」ねもきちくんの軽やかなレコメンドトークが心地良い。おススメ通りのグラスワインを飲んで、Foo〜っ。すっきり。…人は覚えていることができる。肉体としての父が滅び、この世に存在しなくなった今でも、父は多くの人の記憶の中にいる。父を思い出す度に私の中に父の存在が蘇る、と言うよりは、ずっと存在する。…人は忘れることができる。辛い記憶の角が取れ、丸くなり、とげとげとした先端が弱ってしまった気持に刺さらなくなって来る。あるいは、刺さらないように強くなっていく。再び『別れる力』から引用。「別れが前提で過ごすのが、私たちの“生”なのかもしれない。出逢えば別れは必ずやって来る。それでも出逢ったことが生きてきた証しであるならば、別れることも生きた証しなのだろう」

Facebookの「ノート」に、母が亡くなってから父の逝去まで、これまで書いてきたブログの記事を選び、まとめてみた。母と父がいなくなった故郷について、思いを巡らせ、読み返してみた。自分の文章に涙を流した。せっかくFooですっきりしたのに、涙が戻ってきた。目に見えない力はどうした?まぁ良いか。すっきりしたり、思い出して泣いたり、これからもこうしてグダグダと生きていこう。

*誤解のないように『別れる力』を紹介すると、別れについて書かれた文章は第1章のみ。他の3章は、大人の流儀について言及した、伊集院静流の粗く繊細で清々しい文章だ。人気の「大人の流儀」シリーズ第3弾。おススメ。

お調子ものの、妹よ♬「Happy Wedding♡」

ViewBeer2人にぜひダンナ様を紹介させてください」ある日、そんなメールが届いた。前職の(妻は現職の)後輩で、スカッシュ仲間(だった)でもある妹分の女のコ。彼女が結婚かぁとシミジミ。本人にすれば、もうとっくに女の子と呼ばれる年齢を超えました!と言うだろう。大学4年の入社内定時からの付き合いだから、ずっと20代のままのイメージ。けれど、スカッシュの大会会場で初めて会ったのは、もう15年近く前。計算するまでもないか、と再びシミジミ。では、お2人のお祝いをしよう!ということで、お気楽夫婦のお祝いレストランであるパークハイアットの「ニューヨークグリル」を予約。

NiceCoupleSaladeるい時間、ちょっと早めにニュヨークバーで待ち合わせ。ボストンのビール「サミュエル・アダムス」を頼むと、妻はノンアルコールカクテルの「ヤンキース・スタジアム」をオーダー。むむっ、やるな。NYバーで、レッドソックスとヤンキースの対戦。飲みながら2人を待つ。このホテルはお気楽夫婦にとって、何か良いことがある度に訪れる特別の場所。結婚パーティもこのホテルだった。そんな回想をしている内に新婚さんが揃って登場。新郎はやや緊張気味。初対面の挨拶の後、幸せ太りかと新婦に突っ込むと「へへ。そうなんですよぉ」とストレートな返し。実に幸福そうだ。

ScallopDuckは私が結婚しないだろうと諦め始めていたところで…」初めましての乾杯の後、レストランに移動。2方向が見下ろせる良い席だ。改めて2人の結婚を祝って乾杯。出会いから結婚までのエピソードを楽しそうに語る新婚妻。優しそうなダンナはニコニコと頷きながら聞いている。結婚前にちょっとした喧嘩をしたという件も、結婚後の2人の互いの役割とバランスが垣間見えて微笑ましい。所詮それはお惚気と言うのだよ。じんわりと幸福の熱が伝わって来る。ダンナの緊張感も解れ、ペースが掴めて来たようだ。けれど、お調子者の新妻の話を決して遮らない、否定しない、焦って追わず、手綱を握る。

DessertPlatehappy2人はもう長いですよね」そう言われてみれば、今年でちょうど20年。いろいろあったけど、あっという間でもあった。遠い目になる…。おっと、それよりも控えめなダンナの話も伺おう。聞けば、彼は大学院を卒業するまでの7年間、新聞配達を続けたという。それは凄い。1年間だけ販売所に住み込みで働いた経験のある私からすれば、大尊敬に値する。雨の日の配達の辛さ、雪の日に自転車(彼はバイク)が転倒した経験を熱く語り合う。んんっ、良い男やぁ。分かった、娘はくれてやる。…って、妹分なだけであり、娘ではないし、既に彼に嫁としてもらわれている。なのに、すっかり気分は父親。

婦っていうのは、ホントにバランスだね」妻がしみじみと呟く。社交的でお調子者の新妻に、口数少なくパートナーを見守る優しい夫。「IGAさんは、私側ってことですね」そこで線を引くな!と言いながら、ちょっと心当たりはある。

日はありがとうござました。ステキな景色と美味しい料理。すごく満たされて幸福な気分で帰りました。ステキなダンナ様をご紹介できて良かったです♡夫婦共々これからもよろしくお願いします」深夜、メールが届いた。…ダンナを堂々とステキと言い切るか。…やっぱり少し近いかも。頭の回転が速い分だけ余計に気を遣い、先回りして相手に話を合わせる、お調子モノの賢い妹よ、お幸せに。

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