春の旅、春の味「オトナの味覚」

SakuraMochi餅が訴えてきた。食べて♡美味しいの♬。何週か続いた関西への出張。その日も最終目的地は京都。京都伊勢丹の地下食料品売場で帰路の弁当とお土産を探していた。足が向いたのは地元京都の和菓子コーナー。名だたる名店が季節感たっぷりの演出をしている。中でも京都寺町通に本店を持つ「仙太郎」の桜餅は、実にたおやかな風情。関東の長命寺餅よりも関西の道明寺餅が好きな妻へのお土産にと手に取る。東京に戻り、そのまま羽田空港に向い、父の見舞に向うというスケジュール。空港で妻と待ち合わせ、ラウンジでお土産の桜餅を味わう。2枚の香り高い桜葉に包まれた優しい甘さの桜餅。京都の春の味と香りがふぅわり。期待以上の美味しさに2人で完食。

Uruiを見舞った後は、弟2人と共に会食。父の若き日の、子供だった自分たちの、様々な記憶を掘り起こし合う。春になると両親に連れられ山菜を採った。ミズ(ミズナ)、ワラビ、ゼンマイ、コゴミ。採ること自体は楽しかったけれど、その味は子供向きではなかった。例えば、ウルイ。その日も真っ先にオーダーした懐かしの味。湯がいて酢みそと和えた上品な一皿。シャキシャキとした歯応え、酢みそとウルイの香りがほんのり鼻先に漂う。オトナの舌には美味しいけれど、ウルイの酢みそ和えが好き!という子供はいないだろうなぁ。たらの芽を見つけると父は喜んで採っていたけれど、たらの芽の天ぷらもオトナになってから初めて美味しさが分かった。

Kogomi竹煮、コゴミのゴマ和えをつまみに地の酒を飲む。しみじみと父と息子たちの記憶を辿る。その後に受験し直したものの、一時は大学受験を止め、フランスに行くんだ!とアテネフランセに通った長兄である私。次弟は長年勤めた地元の市役所を辞め、バーを開業した。現役で地元国立大に入学したのに自主退学してしまった末弟。その後もいろいろなことがあった。それぞれがいろいろな心配をかけた。今だからこそ話せる互いのエピソードに思わず吹き出したり、頷いたり。そんな想い出は甘いだけではなく、苦みも、痛みもある。けれど、こうやって3人揃って父を見舞うことができることを、何よりも父に感謝せねば。

みや辛みを味わえてこそ、スパイシーな刺激を楽しめてこそ、オトナ。いろいろな経験を得たからこそ、味の深みが分かる。それこそオトナの楽しみ。忘れていた記憶を蘇らせ、新たな記憶を刻み込んだ兄弟の会食。苦いだけだった想い出に甘みや旨味も加えアレンジして、言えなかった当時の気持を披露できるようになった。単純に仲の良いだけの関係ではなかったけれど、お互いに年齢を重ねれば、長い時間を経れば、笑い合うこともできる。許すこともできる。忘れることもできる。春の旅で味わった春の味は、オトナの味でもあった。

恋せよ親父♡「父のガールフレンド」

Brothers床の父を見舞った。ほんの数年前までは風邪もひかない丈夫な身体だった。ところが3年前に胃癌で初めての入院。胃を全摘出。昨年には術後の定期検診でリンパ腫が見つかり入院。そして今回は腎機能不全での入院だった。入院中に肺炎を発症し、酸素吸入のチューブを鼻に入れながらベッドに横たわる父。手足はやせ細り、1ヶ月前に見舞った時よりも確実に衰弱していた。話すことばは明確ではあるが、ゆっくり途切れ途切れ。父の口元に耳を近づけて聞かなければ分からない。ほんの数ヶ月前までは元気に運転していたのに。去年の春には一緒に傘寿を祝ったのに。そんな記憶との落差に戸惑った。

れど、精神は以前の父のままだった。

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月前の父には葛藤があった。間もなくやってくる死の恐怖と闘う前に、現実を受け入れられない自分と闘っていた。肉体と精神のアンバランスを嘆いていた。情けない。そんなことばが深いため息と共に何度も漏れた。諦めかけてもいた。10年以上も介護し続けた妻も看取った。もう80年も生きた。そろそろ呼んでいるのかもしれない。そんなことを呟いていた。

んな父が、思いがけないことばを漏らした。「ガールフレンドができたんだ」え?冗談のようにも、妄想のようにも思えなかった。思わず聞き返した。聞けば、弟の知人女性が病床の父を見舞ってくれて、介護の仕事をしている彼女が髭まで剃ってくれたのだと嬉しそうに笑う。ベッドの傍で母と行った山行の想い出や、野草の話を聞いてくれるのだと言う。2人の出会いは、父が撮影した野草の写真展示を彼女が観たのがきっかけらしい。「俺に惚れてるんじゃないか」と、今度は冗談と分かる口調で柔らかく笑う。実に得意そうな表情で、へへっと笑う。

るじゃないか。さすが、俺の親父だ。

Willびようとしている自らの肉体を自覚しながら、その滅びに抗う精神力と、自分を保とうとする意思。延命治療は無用。母が詠った短歌を筆書した短冊の裏に、こっそりそんなことばを書き記していた。ご丁寧に落款まで押して。親父らしいよな。そうしてあげたい。兄弟3人で確認し合った。けれど、残念ながら父の身体は自身の精神について来られないらしい。どこからを延命治療と呼ぶのか。酸素吸入をしながら透析治療を続ける父。一時はもう透析を止めようかという気持にもなったらしいが、今はもう少し頑張ると宣言してくれた。そんなタイミングで新たな出会いもあった。どう生きるかは、どう死ぬかでもあるんだと、父を見て思う。

の街にサクラの咲く頃、また訪ねよう。最後まで自分であり続けようとする父を見舞い、父の恋の行方を見守って来よう。命短し、恋せよ親父♡

元気です♬「サクラの季節に」

ToHotaruika、わが家の大黒柱(表現がちと古いが)である妻が忙しくなる季節。帰宅するのは毎晩のように終電近く。私だったら体力が持たない!と嘆くところを淡々と仕事に出かける。零す愚痴は軽いため息程度。つくづく偉い。頭が下がる。せめてそんな働きモノの妻をサポートしようと、朝は昨夏から続けているサラダ弁当を作る。夜は私に気兼ねなく遅くまで仕事ができるようにと、スカッシュ仲間を誘って飲みに出かける。…もちろん堂々たる言い訳だけれど。サクラの季節。まずは、開花を待たずにスカッシュ仲間の男前女子2人と男前飲み。たんたんと飲み、じっくりと語り、笑い、味わい、飲み、ボトルがたっぷり空いた。こんな宴が好きだ。

TheaterDaizawaが膨らみ、ちらほらと咲き始めた頃、友人夫妻と芝居に出かけた。芝居の余韻を抱えながら、シモキタから三茶に歩いて向う。途中、サクラの名所として有名な目黒川の上流に当たる北沢川のせせらぎに出会う。暗渠となった北沢川(北沢用水)の上に作られた人工の小川だけれど、サクラや水辺の花々はそれでも美しい。三分咲き程度のサクラを眺め、のんびり歩く。そして、お目当てのバルで乾杯。明るいウチから飲むビールが旨い。テラス席に座り、暮れかかる通りを眺めながら飲むワインが旨い。雨が振り出し、傘を持っていないから止むまで待とうと飲み続け、数時間。楽しかったね、“また”一緒に飲もうねと別れる時間が好きだ。次があるのが嬉しい。

FukuChitoseOj's開を迎えた週末の夜、スカッシュ仲間の役員秘書とデート。どこに行こうかと尋ねると、お馴染みの広東料理店をご指名。堂々たる密会。みんなにはナイショだよと、店長のネモキチくんに釘を刺す。女子力が高く、秘書力も高い彼女。「福」の文字が付いている酒を贈る習いがあるボスのために、おススメされた日本酒の銘柄をメモ。さすがだ。そして、よく笑い、よく食べて、よく飲んだ。そして二次会。やはり馴染みのバーへ。オープンな密会は続く。サクラ色のカクテルをいただき、互いの出会いと別れのエピソードを吐露し合う。なんだかスッキリ。心が軽くなる。彼女からの柔らかなメッセージと、絶妙な距離感での長いつき合いに感謝する夜。

JiyugaokaVinMousseuxり始めた週末。自由が丘南口緑道のサクラを眺めながら小さなビストロに向う。グルメでグルマンな友人夫妻とヴァン・ムスーで乾杯。絶品料理に唸る。ホテル好きでもある2人。10周年を迎える今年は、香港のフォーシーズンズに泊まりたい!と奥さまが目を輝かす。一緒に行けたら良いね、と妻が返す。香港フリークのダンナ、初の香港だった奥さまと、2年前に一緒に香港に出かけたお気楽夫婦。わいわいと中華料理をまた一緒に味わえたら楽しいだろうなぁ。いつしか期待が妄想になり、計画になって行く。実現できてもできなくても、楽しい時間。つい声が大きくなり、奥さまに嗜められる彼。良い組合せだ。相変わらずの愉しい時間だ。次は香港で!

んだか最近ずっと絶好調で飲んでるよね」同僚に勧められ、妻が買って来てくれた秘密兵器がある。ヘパリーゼ錠剤。飲む前に、おまじないのように2錠。これが効くのだ。気持よく、ぐいぐいと飲めるのだ。新春早々、落ち込んだ時期もあったけれど、なんだか元気だぞ、俺。「調子に乗り過ぎだけどね」と妻の呟きもほのかに優しい。気の置けない友人たちとの夜に、心から感謝しつつ、乾杯!

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