馴染みの席で「割烹 弁いち」

ZensaiSuminoeの生まれ故郷浜松に同行する度に楽しみにしていることがある。浜松に向う新幹線の車中での妻と2人のミニ宴会。妻の両親が住むマンションの広々としたベランダから眺める街の風景を楽しみながら(義母が用意してくれている)飲むビール。そして、浜松で3代続く老舗割烹「弁いち」での会食だ。妻の両親と4人で、予約したのはいつものカウンタ席。定員4人、椅子席の小部屋。膝が悪く座敷が苦手な義母のためにぴったり。ちんまりとした部屋で気兼ねなく食べられるお気に入りの席。

ShinjouAsahiも両親も一緒にこの店で食事をすることをいつも楽しみにしていた。ところが、年齢と共に細るのが食。美味しく食べてはいたものの、義母には量が多く食べ切ることがたいへんだったらしい。昨年のGWにはランチなら食べられるかと作戦を変更しても、まだ食べ余す様子。「あなたたち2人で行っておいで」と気遣う義母。むむ、それでは楽しみも半減。そこで同じメニューで量を減らしていただくようにお店にお願いをし、両親を連れ出した。

SashimiNakasaburouらっしゃいませ。お久しぶりです」とご主人の笑顔に迎えられる。お気楽夫婦は前年秋以来、妻の両親はちょうど1年振りの訪問だ。それぞれが、いつもの順番に席に着く。すっかり自分たち専用の場所のようにしっくりと馴染む空間。雲丹きんとんと空豆、ホタルイカの酢みそ和えなどが美しく盛り付けられた前菜からスタート。目と舌で絶品料理を味わう。そして合わせていただいた1杯目の酒は石巻の「墨廼江(すみのえ)別吟 大吟醸」という口中にすっと馴染む別嬪の酒。繊細で美しい味。

SteakHan災を免れ保管されていたお酒でして…」ご主人の解説には酒や食材に対する愛情がある。料理、酒の組合せと共に物語が綴られる。それらを一緒に味わうことがこの店の楽しみ方。お椀、刺身と料理は続き、それぞれの料理にに合わせて久保田 無濾過生原酒、天狗舞 杜氏中三郎大吟醸が供される。「私はこれが一番好きかなぁ」酒は飲めなくても酒の味は分かる妻が絶賛するのは「中三郎」。バランスが良く優美な酒。白甘鯛の刺身のねっとり絡む旨さにぴったり。絶世の美女のような墨廼江に対し、飽きの来ない器量良しの1杯。酒の好みも人それぞれ。

Egao配していた料理の量はと言えば、真丈は半月型に、肉の切身は少なめにと、細やかに調整していただいたこともあり、義母も余裕を持って水菓子まで辿り着けたようだ。「美味しかったねぇ。ちゃんと食べられたね」と母を労る妻。故郷に戻ると、娘に戻る妻はすっかりリラックスした表情。いつもは口数の少ない両親も、普段よりずっと饒舌になった。ご主人と会話しながら会食の進行と演出係を勤めた私。そんな4人で初めて揃って記念撮影。あと何度この店に一緒に来られるのだろう。何度味の記憶を積み重ねられるだろう。いろいろな思いと共に、それぞれが笑顔で。

■「食いしん坊夫婦の御用達」 *「割烹 弁いち」の詳細データ、訪問記

2年ぶりの、2年分の「浜松まつり2012」

OuTakoGotenYataiになると浜松っ子は血が騒ぐ、らしい。子供の日を含めたGWの後半3日間、5月3日から5日まで開催される「浜松まつり」。開催日が近づくにつれ、街全体が浮き足立つような高揚感で包まれる。浜松まつりは神社仏閣の祭礼ではなく、市民参加の祭り。江戸時代に起源を持ち、「初子」を祝い「初凧」を揚げる風習に加え、町同士が大凧を揚げて競う凧合戦、夜の町を引き歩く御殿屋台と、ラッパと太鼓の音に合わせてもみ合う練りの衆など、見所が多い。市の中心部には旧町名が多く残る浜松。参加する町は170を超える。毎年この時期に妻の両親が住む浜松の街へ向うお気楽夫婦。毎年観ていても、その度毎に心躍る、実に良い祭りだ。

Gekineriころが、2011年は東日本大震災の影響で中止。復興支援のため、期間中100万人を超える人出を警備する警察などの人員不足が理由とされたが、疑問や不満の声も多かった。そして2012年5月、今年の浜松まつりは2年ぶりに晴れやかに開催された。そんな祭りの夜、中心街に食事に出かけたお気楽夫婦。食事を終え店の前の通りに出る。すると、遠くからラッパと太鼓の音が近づいて来る。初子の凧揚げから若衆たちが町に帰って来た。揃いの法被姿の若者たちが、手に手に提灯を持ち、「おっしょいおっしょい」と声をあげながら提灯を掲げやって来る。あっという間に通りが法被姿で埋め尽くされる。そして目の前で100人近い「初練り」が繰り広げられる。

OyakoOiwaiッパの音が止み、練りの若衆たちが号令以下ある店に向き直る。そこにはお揃いの法被姿の若夫婦、そして2人がそれぞれ抱きかかえる子供たちが2人。母親が抱く幼子まで小さな法被を着ている。昨年中止になった分、次子と合わせて2人分のお祝い。練りの代表が若い家族に初子のお祝いを述べ、初凧揚げの労をねぎらうお礼が父親から返される。そして通りを埋めた法被衆が一斉に声を上げて乾杯。祝いの料理が振舞われる。なんともじんわりとする風景。80万人を超える政令指定都市の、170を超える町々でこんな風景が繰り広げられていることは奇跡に近い。町のコミュニティ崩壊が多くの地方都市でも危惧される中、この祭りのありかたは貴重だ。規模が大きくなるにつれ、課題も多いとは聞くが、残され引き継がれるべき文化遺産だ。

EntetsuTako京へ戻る日の夕刻、新幹線の待ち時間で最後の祭り見物。駅前の地元資本の百貨店のディスプレーには、法被姿の子供たち。売場のお姉さんが法被姿で接客していたり、法被姿の女の子たちが連れ立って買物をしていたり。駅前の広場には御殿屋台が並べられ、それぞれの街の屋台の前でお囃子の子供たちが紹介され、緊張の面持ちで笛を吹き太鼓を叩く。3日間、浜松の街はまつりの味付けが染みている、普段の顔とは違った街になる。街を行く人々が皆晴れがましく見える元気な街になる。

幹線に乗り込み、ビールをシュポッと空ける。浜松まつりを堪能した帰路の車中で味わうべきは、「喧嘩凧」という駅弁。包装紙には各町毎の凧の紋が並ぶデザイン。小分けにされた料理をつまみにビールをぐびり。旨い。2年ぶりの、2年分の味わいを、祭りの余韻とともに。

鶴岡、横手、角館「北国の満開のサクラの下で」

ERI&FlowersBeer親の傘寿の祝いに向った故郷山形県鶴岡市。藤沢周平の故郷でもある城下町鶴岡のサクラは満開だった。2010年に藤沢周平記念館も完成し、サクラだけでなく観光客で溢れているという鶴岡公園を避け、穴場のサクラ名所を周遊。地元の人間だけが知る満開のサクラを満喫した後、桜前線と共に北に向った。鶴岡まではるばる200kmを迎えに来てくれたスカッシュ仲間の名は、TSURUちゃん。鶴つながりで、なんとなく吉祥の予感。強気の商売でランチもコース予約だけとなった「アルケッチァーノ」のお隣、「イルケッチァーノ」でランチ。ウェディングで貸切になるという店内ではなく、テラス席なら空きがあるという。OK!さっそくの幸運。地ビールを飲みながら庄内イタリアンを味わう。

Sakura3Sakura1解け水で水量の増した最上川を遡る。鳥海山を横目に、横手を一旦通り過ぎ、日が暮れる前にと角館に急ぐ。角館街道で玉川を渡ると、急に桜色の風景が目に飛び込んでくる。古い屋敷や蔵の間にサクラ。川沿いにサクラ。雑木林の中にサクラ。名に負うサクラの国に迷い込んだらしい。車窓からの風景に既に浮き足立つ。武家屋敷の枝垂れ桜の通りを抜け、桧木内川沿いを走る。サクラの回廊。既に大勢の人。臨時駐車場に車を停めて川堤に急ぎ向う。多くの出店に目もくれずサクラの土手に上がる。絶句。感嘆。夢の中の景色のようだ。これ程のサクラ風景は観たことがない。画像や映像での経験は吹き飛ぶ。カメラにも収まらないサクラの連なり。妖艶なほどの全長2kmのサクラの帯。素晴らしい。満足。

KikizakeSakura4手に戻り、秋田の名産を味わう。それも古くからの食材をアレンジした絶品。いぶりがっこのカルパッチョ(これが抜群に旨い!薄くスライスした薫製漬物にオリーブオイルとブラックペッパー!)をつまみに秋田の利き酒。しょっつるカマンベール(カマンベールに秋田の魚醤を振りかける)などは酒が進んで困るほど。しみじみと実に旨い。なんてことはないアイディアながら、素晴らしい組合せ。幸せに酔い、幸せに眠る。そして翌朝、横手城が聳える横手公園でサクラを眺める。天守の展望台に上り見下ろすサクラも、天守を見上げるサクラも、これまた素晴らしい。いずれも計算したように満開の頃、サクラの樹の下で、サクラの色香を味わう。絢爛で、繊細で、儚いサクラは北国の春に良く似合う。

hanamakiMoriokaReimen日の横手焼きそばは期待し過ぎでしたか」すっかり地元贔屓になったTSURUが心配そうに言う。いやいや、あんなもんでしょう。「じゃあ、スカッシュの後は盛岡で冷麺ですかね」と続ける。…そうなのだ。このスカッシュ仲間は、僅か2泊3日の旅の行程にスカッシュを入れることを提案した。そして横手から60km離れた森山総合公園にてスカッシュ。提案を受け入れ、ラケットとシューズを入れたトーナメントバッグを抱えて旅したお気楽夫婦。どちらもどちらではある。2時間ほどスカッシュで汗を流し、シャワーの代わりに20kmほど離れた花巻温泉郷へ。この距離感が田舎ならではの楽しさ。川沿いの巨大な温泉旅館の千人風呂でさっぱり。ドライバーに許しを得てビールをぐびり。これを幸せと言わず何と言おう。

岡で予定通りビールと共に冷麺を食し、帰路の新幹線の車中でさらに飲み続けていると子供のような感想がメールで届いた。「サクラも、食事も、酒も、スカッシュも、お風呂も全部楽しかったです。ありがとうございました」…良いヤツだ。この旅のために、事前に同じコースを下見ドライブしてくれたという。こちらこそありがとう。彼がいなかったらこの時期に北の国を訪ねることもなかっただろう。満開のサクラの下、記憶に残る春の旅だった。

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