お気楽夫婦に子供はいない。2人とも仕事をしているから帰宅は遅い。会社の帰りに芝居を観に行ったり、スポーツクラブに向うこともある。すると外食が多くなる。毎日料理をする訳ではないから、食材を買ってもムダになる。だから、料理をするのではなく、料理を買ってくることが多くなる。エコな食生活!これは自宅で料理をしない、長い言い訳とも言える。ところで、わが家で料理分野を担当するのは夫たる私の勤め。お気楽夫婦の家事分担は、得意な方が、あるいは好きな方が、または気が向いた方が担当する。それが不文律。妻は掃除機の使い方を知らず、私はアイロンがかけられない。トイレを使う頻度が高い私が掃除担当で、風呂掃除は後で浴室を出た方が担当する。そんな具合。
通勤経路の関係で、“料理を買う”のは渋谷が多くなる。もっぱら足が向うのは東横のれん街、そして東急フードショー。自由が丘まで通う私は、どちらかの食品売場をほぼ毎日のように通る。いわば私のケモノミチ。どの場所にどんな店があり、どんな傾向のデリや惣菜を販売しているかを正確に把握している。何を自慢しているのか自分でも分からないが。遅い出勤の場合は、ランチを買って自由が丘に向うことがある。そんな場合は、崎陽軒のシウマイ弁当、まい泉のカツサンド、おこわ米八の弁当、菊乃井のきつねちらし。鉄板である。特にシウマイ弁当は周期的に食べたくなり、1ヶ月に1度は必ず食べるヘビーローテーション。シウマイだけではなく、シナチクなどの脇役が実に良い仕事をする。シウマイ弁当LOVE。
夕食は、和洋中エスニックの店を使い分ける。最も頻度が高いのがDEAN & DELUCA。ちょっと贅沢ではあるけれど、外食よりも圧倒的に安い。パン好きの妻にとってはご機嫌のチョイス。ローゼンハイムのローストビーフをはじめとするデリはC/Pの良さは抜群。ちょっと贅沢にドミニクサブロンのパンをチョイスする場合に組み合わせる。パンを食べていればご機嫌の妻も納得。私も自宅ビストロ状態で白ワインをぐびり。満足の食卓。和食の気分の場合は、麻布あさひ、和食屋の惣菜えん。少量づつ何種類も買って小鉢に並べ、ビールそして焼酎を飲む。自宅居酒屋。幸せである。エスニックの場合は妻家房、サイゴンを忘れてはいけない。名店の味を気楽に味わえる楽しみ。デパ地下LOVE。
そんなお気楽夫婦の食卓に、自作の料理が乗ることもある。もちろん私の。特にサラダのバリエーションは数多い。それ以外にも、興に乗れば手の込んだモノも。かつてラタトゥイユ、和風ブイヤベースなどは定番だった。そして自宅での食事は盛付けが勝負。いかに美味しそうに盛り付けるか。手料理も、買ってきたデパートのデリも、コンビニの惣菜も。ほんのひと手間の工夫で美味しさは格段にアップする。「う〜っん。DELUCAはやっぱり美味しいね」私より帰宅時間が遅い妻が満足気に呟く。妻が帰宅するとダイニングテーブルには夕食の皿が並んでいる。食べることが好きで、もてなすのが好きで、一緒に美味しく食べるのが好きな私の担当。それが、極々自然なお気楽夫婦の食卓。
「餃子だって昔は皮から作ったんだよ!スペアリブも得意だったし」妻が何度も言うセリフ。それらは、今では“幻の料理”と呼ばれている。それも良し。食欲の秋。今日は何を食べようか!

この世の中に、自分の誕生日を何人が覚えていてくれてるだろう。確実なのは親。かろうじて家族、ごく親しい友人たち、偶然にも誕生日が同じ(私も同じ誕生日の同級生、知人、先輩を3人をしっかり覚えている!)あるいは誕生日が近い友人。せいぜいが10人。それも、わざわざ「誕生日おめでとう!」と言ってもらえる相手はごく僅か。中には独り暮らしで、誰にも祝ってもらえない誕生日を迎える人も多いだろう。それどころか、パートナーがいても安心できない。一般的に世の中には記念日を覚えていない男性が多く棲息してると言われ、うっかりすると相方から忘れられてしまうこともあるだろう。…今まではそうだった。

そして、この世の中から名簿が消えた。個人情報保護法というやっかいな法律が施行され、あちこちでの過剰な対応によって世の中から“住所録”や“名簿”が消えてしまった。会社や学校における連絡網は最小限のモノとなり、リスト全体を手に入れることが困難になった。結果、住所はもちろん、友人知人の誕生日を知る手立てがなくなってしまった。…最近まではそうだった。ところがそこに、Facebookという救世主が登場した。個人情報の登録を実名で、友人知人の範囲で公開するという安心感からか、多くの人がFacebookに誕生日を入力する。すると、おせっかいなことにFacebookからお知らせがやって来る。

先日、妻が何度目かの誕生日を迎えた。Facebook上で、30人以上の“友達”から誕生日を祝うメッセージが届いた。その中の一人、最近知り合ったスカッシュ仲間はこう書き込んだ。「FBより誕生日のお知らせが…知ってしまった以上、誕生日おめでとうございます!」テレもあるだろうが、実に言い得て妙。そうなのだ。Facebookは、チャンスを創る。Facebookの“友達”として繋がっていても、コミュニケーションを取るきっかけのない相手に、遠く離れて何年も会っていない友人に、何かのメッセージを伝える機会を創る。それも、誰もが嬉しい(と思われる)誕生日のお祝い、というキラーコンテンツで。

ところで、妻への誕生日プレゼント。両親からの絵手紙メッセージ、スカッシュ仲間の役員秘書からアフタヌーンティのアロマフューザーをいただいた。そして、そのプレゼントを食事をしていたお気楽夫婦のもとに自ら届け、店のスタッフに「彼女、明日お誕生日なんです♬」と言い残した役員秘書のお陰で、お店からスペシャルデザートのサプライズ!(「セレブ・デ・トマト」の皆さん、ありがとうございます!)そして、行きつけのメガネ屋さんから美味しそうな(笑)ドーナツ型のミニタオルセットも届いた。食事の帰り際にセレブ・デ・トマトのミニトマトセットもいただいた。(重ねてありがとうございます!)誕生日おめでとう!と割引クーポンのハガキが何通か届いた。まぁ、私も…。
「こんな誕生日も良いね」妻が嬉しそうにアロマフューザーをさっそくセットする。「最近、歳を重ねていくって悪くないかもって思うんだよね」年齢を重ね、オトナになってから知り合った仲間たち。そして、同じ会社にいながら誕生日おめでとう!などという間柄ではなかったであろう同僚たち。そんな“友達”からの多くのメッセージは、感情体温が低い妻をも温めた。
大袈裟に言ってしまおう。Facebookが世界中の誕生日を変えていく。
そのバーは瀬田の交差点近く、探さないと分からない場所にある。と言うよりは探し訪ねても迷うことがある。環8と玉川通りを行き交う車の騒音の中、うっかり通り過ぎてしまい、戻った場所に小さな扉を発見。確かこのドアだ。看板はない。ドアに小さな店のロゴ。インターホンを押す、のは最初の訪問だけ。2度目の訪問からは、黙ってドアを開ければ良い(らしい)。お気楽夫婦は2度目の訪問。最初の訪問は深夜、プレオープンのご案内をいただいた春のこと。ドアを開けてびっくり。カウンタだけの小さな店に、立錐の余地もなく賑わう店内。「いらっしゃい!」「どうぞぉ、じゃあ私たち代わりに帰るから」「悪いねぇ」そんな店主と先客の会話の後になんとか入店。会員制と謳っているけれど、正確には顔見知り制らしい。
ご招待いただいたのはスカッシュレッスンの先輩。10年ほど前に、用賀のスポーツクラブでスカッシュのレッスンを受け始めた際のクラスメイト。彼は地元用賀に住み、PTA活動でレッスンも休みがちだった上に、地元の父親たちとの活動「オヤジの会」で忙しく、休会に近い状態だった。そして活動が落着いた頃にレッスンに復帰。そして「俺、今度バー始めるからさぁ。店が出来たら来てよ!」良いですよ!という本気とも冗談ともつかない会話を笑って交わしていたら、本当に店ができた。店の名前は「Oj’s」。おじ(Oj)さんたちによる、おじさんたちのためのバーだと言う。ちょっと年上の彼は「ちいママ」ならぬ、ちいマスター。知り合いの予約が入ると店に顔を出す。
そしてマスターはこの方。バー経営の話が出た際には会社を辞めることを考えていなかったとのこと。けれど、思うところがあり早期退職し、毎夜バーカウンタの中に入る生活を選んだ。そしてこの夏、偶然の繋がりが発覚。マスターは同じスポーツクラブのスカッシュ仲間の女性が今も勤める会社の先輩だったことが分かった。世間は狭い。ある日の夜、W先輩を訪ねようとスカッシュ仲間4人で訪問。インタホンを押すと「いらっしゃいませ。どうぞぉ」との返事。けれど、ドアが開かない。内部から開けてもらう。やはり会員制の秘密のクラブ?「インタホン押さなくて良いよ。それにドアはただ重いだけなんだよ」おじさんのバーらしいオチ。2人のスカッシュ仲間が既に乾杯を済ませ、カウンタの端に落着いている。
カウンタの上にだけ落ちるダウンライトのみの照明。明るく輝くバックバーとのコントラストが良い感じ。まだまだ素人というおじさん2人だが、バーテンダーエプロンがなかなか様になっている。何を飲むかと問われ、せっかくだからとビールは止め、お願いしたドライマティーニの出来映えも美しく、期待以上(笑)に美味しい。バックバーに整然と並ぶ酒も豊富。美しい酒棚を目の端で眺めながら会話も弾む。ちんまりとした空間の居心地が良い。2杯目にお願いしたシンガポールスリングもOK。ゆっくりと酔いが回っていく心地良さを味わう。3杯目には、懐かしのソルティドッグ。スノースタイルがまだぎこちなく、均一に塩が付いていないのがご愛嬌。作ったことのないカクテルはレシピ本を見ながらという緩さが良い。そこが、この店の味。楽しみ方。だからこその会員制、というか紹介制。
楽しそうに仕事してますよねぇと声を掛けると。微笑む先輩お2人。仲間たちに囲まれ、楽しいお酒を飲んでもらう場所を提供したい。人生の終盤に、そんな選択をした2人。地元のネットワークを中心に、世話人役だったであろう2人の人柄が表れる空間。柔らかく包み込まれるような良い店だ。先輩たちへ声に出してエールを送る代わりに、お酒をおかわり。ボンベイ・サファイヤのロック。これならレシピ本いらず(笑)。
「だからと言って、今日も飲み過ぎだね」ソフトドリンクでエールを送った妻。その妻にタクシーに詰め込まれるように乗り込み、家路に付く2人だった。