春よ来い♡ 春子(かすご)の春「鮨 いち伍」

ICHIGO HOTRU-IKAICHIGO HOUBOU年は絶対に砧公園にお花見に行きたいんだ!」スカッシュ仲間の役員秘書から、珍しく意気込んでお誘いがあった。彼女は昨年末に用賀へ引っ越したばかり。まだ砧公園には行ったことがないという。「良いねぇ♡ 一緒に行こう!すご〜く広くて、とっても気持の良い公園だよ♬」とお気楽妻が即答。砧公園は元ゴルフ場。昭和記念公園や新宿御苑と並ぶ2人のお気に入りで、お花見の季節に足が向く公園でもある。では、シャンパンを抱えてアフタヌーンティ、その後に近所で食事をしようか。そんな約束をしたのが土曜日。ちょうどサクラも見頃。けれど、当日は朝からどんより曇り空。予報では夕方に雨模様。残念だけど中止かなぁと呟くと「じゃあ、いち伍に寿司食べに行こう!」妻がすかさず反応する。

ICHIGO KASUGOICHIGO SHIRO-IKA いち伍は、行きつけの寿司屋を探し続けてようやく出会ったご近所の名店。さっそくスカッシュ仲間の役員秘書に連絡をすると「あっ!例の店だね。良いよ♬」と即答。彼女も私のブログの愛読者。話が早い。待ち合わせて夕暮れの街をのんびり歩く。「この先お魚食べられなくなるかもしれないし、今日は寿司が良い感じ」と秘書嬢。う〜む、こんな所まで風評被害予備軍が。「あ〜っ、すっきりして良い感じ。良い店だね」店に入るとすぐにテンションが上がる。感情の体温が低い妻とは好対照。3人並んでカウンタに座りビールとお茶で乾杯。お任せでお願いすると、まずはホタルイカの湯引きが供される。「美味しいぃ♡」まだ時間も早く、他に客もいない。秘書嬢のさらに上がったテンションが静かな店内を柔らかくする。良いスタートだ。

ICHIGO MAGUROICHIGO OTOROっ?これ何だろう、美味しい。でも食べたことない」「ホウボウです」秘書嬢に短く答える店のご主人。「これ、もうひとつくださいっ!」それはちょっと早いと思うよ、最後まで一通り食べて、一番美味しかったものを頼んだら?「うん、分かった。あぁ〜、これも美味しいっ」「カスゴの昆布ジメです。タイの稚魚ですね。春の子って書いて…」昆布ジメは妻の大好物。思わず笑みが零れる春の味。「何だか名前も親しみが湧くし、何て言うんだっけ、あの丁寧に準備して…」もしかして“仕事がしてある”って言いたい?「そうそう、それっ。どれもきちんと仕事がしてあって、素晴らしいね♡」良かった。もう、すっかり元気だ。彼女はずっと苦しい恋をしていた。迷う度に、何度も妻に相談のメールや電話があった。そして、ようやく決断をした。そんなタイミングでのお花見だった。

ICHIGO NIHAMAICHIGO SHIGOTOクラはお寿司に変わったけれど、その日の趣旨通りに楽しい場だ。彼女の表情もすっきりとしている。「煮ハマ取っておきました」口数の少ないご主人が告げ、ふっくらとした煮ハマグリが黒漆の鮨台に乗せられる。ふふっ、煮ハマ好きを覚えていてくれた。彼の精一杯の表現。うっ!旨いっ。う〜ん、幸せだぁ♡その後も、赤身、中トロ、大トロの食べ比べ、コハダなど口福の味が続く。「この店は凄いよ」と秘書嬢が絶賛。仕事の関係もあって、銀座辺りの寿司屋で食べ慣れてはいるだろうけれど、自腹で美味しいモノを食べるのは格別だよね。決してアルコールに強くはない彼女のビールが飲み干され、好んで飲む梅酒まで飲み進んだ。苦しい恋を止めたら、寿司も酒も美味しいに違いない。

〜んぶ美味しかったけど、もうひとつ食べるとしたら、やっぱり最初のやつかな」ん、ほうぼう?「それっ!」…やはり人の好みは変わらないのかもしれない。最後に彼女はほうぼうを、妻は春子の昆布ジメ、そして私は煮ハマを頬張る。それにしても、新しい春が来ると良いね。けれど、また苦しい恋を選ばないよう祈ってるよ。「分かった!」と微笑む彼女の笑顔に迷いはなさそうだ。心から祈る。被災した全ての人に、そして彼女に、暖かな春よ、本当の春よ、来い!

■食いしん坊夫婦の御用達 「鮨 いち伍」

サクラの季節に「SILIN 火龍園」

SILIN Prawnクラの季節に訪ねたい店がある。六本木、東京ミッドタウンのSILIN 火龍園(ファンロン イエン)。日本にいながら香港を味わうことができ、サクラを楽しむことができる。「そろそろSILINに行かなきゃね」妻の催促が暖かくなる日ごとに頻度を増す。「本城さんのところもそうだけど、季節毎に行っておきたいんだよねぇ」用賀 本城とSILINへの訪問は年4回、妻はそんな目標を持っているらしい。そんなある日、前職の会社の後輩でありスカッシュ仲間の女の子(?)を伴い、今年は夜桜の照明は中止のため、日没前のSILINに向った。残念ながら檜町公園のサクラはまだ三分咲き。それでもほんのりと淡い桜色が窓際の席から眺めることができる。3月は別れの季節。4月は新たな出会いの季節。そんな狭間に咲くサクラは、別れや出会いの象徴となる。とくに今年は、重くせつない別れの季節になってしまったけれど…。

SILIN SUJIARAっわ〜♬美味しそうですねぇ〜っ」美しい皿に盛られたサイマキ海老の湯引きに、後輩女子が思わず声を上げる。テンションの低いお気楽妻との食事に慣れた身には、たまにはこんなリアクションが嬉しい。「これは、手で剥いてがしがし食べるんだよ」尾頭付きのサイマキ海老の食べ方に躊躇した様子の後輩女子に妻が優しく手ほどき。「これが香港だったら、半分の値段で3倍は海老が出てくるんだけどねぇ」海老好きの妻が続ける。続いて名物XO醤、そしてスジアラの姿蒸しが登場。取り分けは私の仕事。撮影した後に丁寧に柔らかな身をほぐし、上品な味付けに仕上げられた上湯(シャンタン)を掛け、白髪ネギを盛り付ける。うぅ〜む、やはり絶品。ところで、総支配人の根本さんの姿が見えない。スタッフに尋ねる。

SILIN BLACK PEPPER「実は根本は、独立準備のために1月末に辞めまして…。私、世田谷の店におりました…と申します」新支配人からご挨拶を受ける。うへぇ〜っ!独立?どちらで?連絡先ご存知ですか?「はい、後ほどお伝えします」…ということは円満に辞めたのではあろうが、残念。後輩女子にもぜひ紹介したかった。この店の味と、彼の持ち味で、美味しさが倍増する妙味を味わってもらいたかった。「残念ですねぇ。でも、充分美味しいです♬」後輩女子にも気を遣わせてしまった。彼女は最近父親を亡くしたばかり。そう言えば、彼女が書いたという会葬礼状をいただき、思わず泣き笑い。通り一遍の文面ではなく、肉親しか分からない父親の生前の姿が実にいきいきと描かれていた。そう褒めると「あぁ、とても嬉しいです。葬儀社の方も気を遣った文章を用意していただいたんですけど、何か違うなぁって。でも、そう言っていただくと書いて良かったです」

SILIN KYO-YASAI YAKISOBA気楽妻は私のためにそんな会葬礼状を書いてくれるだろうか。そう問うと、「自分で書くと良いんじゃないの。きっと亡くなる前に式次第を考えたり、自分の葬儀のBGMとかも自分で選びそうじゃない?」なるほど。それも良いかな。「IGAさん、それ良いですよ、きっと」「私はパークハイアットでお別れの会をやってもらうんだ」…って、誰に?私は先に逝っちゃうよ。「うぅ〜ん、そうだねぇ」明るい葬式話で盛り上がる。この会食は、後輩女子を元気づけるためでもあった。彼女の亡き父親はまだまだお若く、余りに早いご逝去。病に倒れ、亡くなられた直前まで会話もでき、覚悟もあったかとは思うけれど、家族の悲しみはどれだけ大きなものだったか。そしてこの春、そんな2万人以上の突然の悲しみが、家族や友人、知人たちに訪れてしまったのだ。その悲しみの総和はどれほど大きなものか。

日はありがとうございました。まだまだほろりとすることも多いですが、この悲しみはきっと父との温かい思い出と一緒に抱えながら過ごして行くんだろうなぁ〜と思っています。時間の経過とともに温かい思い出が悲しみより大きくなれたら良いな、って。人とのご縁、感謝していきたいです。これからもよろしくお願いします」帰宅後、そんなメールが後輩女子から届いた。良い子だ(涙)

はっ!お久しぶりです。きちんとご挨拶もできずにいなくなり申し訳ありません。独立はまだまだです。立地等の悩み、迷いが大きく…あ、ブログは相変わらず楽しく読ませていただいていま〜す!」SILIN元総支配人の根本さんからメールが届いた。良いヤツだ(笑)

■食いしん坊夫婦の御用達(お店データ/過去の記事) SILIN火龍園

エンタメ × 外メシ = お気楽の日々『国民の映画』『フェルメール“地理学者”』

Film der NationKOKUMIN NO EIGA本を元気にするには自粛ではなく、応援消費。計画停電ではなく節電。ただ縮むだけではなく、経済が回るように生活しようという動きがようやくでてきた。お気楽夫婦も外食の頻度を一段と増やし、スポーツクラブや整体ボクササイズに通い続け、芝居や美術展やお花見に行き、家では節電に努める日々。そんなある日、自らの生誕50周年を祝って大感謝祭を開催中の三谷幸喜の芝居を観た。パルコ・プロデュースによる書き下ろし新作公演の第1弾『国民の映画』だ。主人公はナチスの宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルス。プロパガンダの天才と言われたゲッベルスは映画作品を国民の啓蒙のためにランク付けを行い、その最高評価となるものを「国民の映画」と格付けした。そんな国民の映画を製作しようとするゲッベルスと映画人たちが丁寧に描かれる。

BeerserverTortilla真で見る限りゲッベルスにそっくりの小日向文世が、例の甲高い声でナチの宣伝相を熱演。夢の遊眠社出身の段田安則、遊◎機械/全自動シアター主宰だった白井晃、風間杜夫など芸達者の俳優たちが脇を固める。なかでもゲッベルスの従僕を演じた小林隆の抑制の利いた演技が素晴らしい。「やっぱり三谷幸喜はやるときはやるよねぇ♬」観終えた妻も絶賛。「彼の欠点は出たがりのことと、チケットがなかなか取れないことだよねぇ」と続ける妻の言い分もごもっとも。いつものように公演のチラシにはヒッチコック監督のように隠れ三谷幸喜が登場。生誕50周年第1作の『ろくでなし啄木』はなんとか観ることはできたが、それ以前の三谷作品のチケットは連戦連敗だった。「次の公演は取れるかなぁ」早くも次の作品の心配をする妻を伴い、ペンギン通りを井の頭通り方面に向う。

AjilloFried Paellaこって、SOMETIMEがあったとこだよね」妻がそう言ったのは国際ビルの地下にあるスペインバル「カサ・デル・ブエノ」の看板。言われてみればこのレンガ造りの入口と地下に下りる階段は遠い記憶にある。お腹が空いていることもあり、他の選択肢を検討する余地もなく迷わず階段を下りる。ここは吉祥寺を中心とした麦グループを率いて、Sometime、Funky、レモンドロップ、MARU、金の猿、などの人気店を展開した故野口伊織氏の店だった…はず。すぐに妻のiPhoneで調べてみると今は鳥良で有名なサムカワフードプランニングのお店。やはり吉祥寺からスタートした飲食店グループ。不思議な縁。カウンタに座り、トルティージャ、マッシュルームのアヒージョ、パエリアのコロッケなどの定番メニューをオーダー。なかなかのお味。スペイン語でやり取りをするスタッフもきびきびとして心地良い。

FermerLES DEUX MAGOTSる週末、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の『フェルメール“地理学者”とオランダ・フランドル絵画展』に向った。入館前にカフェ・ドゥ・マゴで腹ごしらえ。テラス席でハムサンドをつまみにビールをぐびり。毎週通い続けているスカッシュのレッスンでたっぷり汗を流した後、乾いた喉にビールがしみ入る。こんな時にはシンプルなバゲット・サンドウィッチも悪くない。ひと心地付いて入館。寡作で知られるフェルメールの作品は1点だけ。それでも左上から光が射す室内の人物画である「地理学者」は、典型的なフェルメールの柔らかな光で包まれる満足の作品。パリのルーヴル美術館にある「天文学者」と対をなす作品だ。閉館間際の慌ただしい時間ながら久しぶりの美術鑑賞。穏やかな気持で渋谷の街に出る。

だん通り、ってことが良いね」妻が呟く。街の灯りは仄暗いけれど、これぐらいの照度が却って心地良い。エアコンの入らない電車の中は肌寒いけれど、コートを羽織れば問題ない。野田秀樹は『AERA』の連載を辞め『南へ』の公演をいち早く再開した。歓送迎会やお花見は中止が相次いでいるけれど、個人や家族単位での客足は戻ってきているらしい。良質のエンタメも、料理も人を豊かにする。元気にする。ふだん通りに、お気楽に。けれど、決して忘れずに。

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SINCE 1.May 2005