聖地巡礼in浜松「蜜蜂と遠雷」

Mitsubachi2田陸の小説『蜜蜂と遠雷』を読み、久しぶりに恩田作品にハマった。彼女の作風は余りにも幅広く、かなりの数の(文庫化された)作品を読んではいるものの、私にとって当たりハズレがあった。『夜のピクニック』のように何度も読み返したい作品もあれば、『ネクロポロス』のように読み終えるのに苦労した物語もある。恩田陸はそんな作家。そして、この作品世界の中に入り込み、興奮と共に読み終わった後に映画化されたと知った。

Mitsubachi1作を読んで気に入った場合、映画作品を観ることは一種の賭けになる。文字と映像表現は余りにも異なる。原作の架空世界をどのように映像で表現するか。読者が勝手に広げた小説のイメージと、視覚で強制された映像表現とのズレをどう受け入れるか。その上この作品では、音楽という文字では表現しづらいものを映像はリアルに伝えることになる。さてどうだろうと期待と怖れ半分で映画を観た。そして結果は、期待以上。

Mitsubachi3本のとある地方都市(原作では芳ヶ江)で開催される世界的なピアノコンクールを舞台にした『蜜蜂と遠雷』には、モデルになった街がある。お気楽妻の生まれ故郷、浜松だ。工業都市として発展してきた浜松は、ホンダの発祥の地であり、スズキやヤマハの本社があるなど、“ものづくりのまち”を標榜するに相応しい。中でもヤマハ以外にも、カワイ、ローランドなど、世界に名だたるメーカーが立地する楽器の街でもあるのだ。

Mitsubachi4器の街、あるいは音楽の街といっても良い浜松市が、1991年に市制80周年を記念して創設したのが「浜松国際ピアノコンクール」だ。以降3年毎に開催されて来たこのコンクールが、『蜂蜜と遠雷』のモチーフとなっている。原作でコンクールの会場になっているのは、浜松駅近くの複合施設「アクトシティ浜松」の実在するホールがモデルだ。すると、それを知った妻から「聖地巡礼に行ってみようか」と提案があった。

Mitsubachi5秋、義母の傘寿のお祝いにと、「オークラアクトシティホテル浜松」に宿泊し、お祝いをするという予定があったのだ。祝宴の翌朝、さっそく聖地巡礼の旅に出る2人。アクトシティは、「ホテル、オフィス、ショッピングセンターなどの複合施設のひとつであるこのコンサートホールは、石造りの広場を囲むようにロビーが造られ…」と原作にある広場に出る。ここで開かれたオープニングパーティの喧騒を想像する。

Mitsubachi6ホールでは予選が開催された。「コンクールの行われている中ホールはガラス越しに受付が見える。受付の奥に見えるホールの扉は固く閉ざされていた」原作通りの扉を眺め、主人公たちが競ったコンクールの描写の興奮を思い出す。時間的な制約がある映画では、コンクール舞台裏やコンテスタントたちの細かな心理描写までは描き切れていなかったが、逆に出演者たち(と代役)の見事な演奏がリアルに再現されていた。

Mitsubachi7ホールでは本選の演奏が行なわれた。「通い慣れた中ホールではなく、彼らは赤い絨毯の敷かれたゆったりした広い階段を…」という原作通りの景色を眺める不思議。とは言え、実は映画のロケは浜松では行なわれていない、というオチが付く。浜松市文化振興財団が作成したリーフレットにも“ゆかりの地を巡る旅”とある。実際に撮影されたのは他のホールで、原作のモデルは浜松。原作派の私は浜松を聖地とする。

Mitsubachi8画には、映画にしかできないことがある。実際にそんな映画になっている。そして、恩田陸のコメントに「この小説は絶対に小説でなければできないことをやろうと決心して描き始めた…」とあるように、恩田陸の小説世界は完成されている。すなわち小説の読者であり、映画の鑑賞者である我々は幸福だ。そのどちらも味わえ、その上物語の舞台となった現実世界を旅して、2つの作品を想うことができるのだから。

「次回のコンクール、観に来る?」泊まったホテルの魅力を再発見し、原作も映画もお気に入りになったお気楽妻の感想は想定内。さて次回、2021年の「第11回浜松国際ピアノコンクール」の行方は。そしてお気楽夫婦の動向は?

1泊2日東京の旅♬「ミュージカル、オークラ&ハイアット」

TOKIO11泊2日の東京の旅に出た。都内在住であるにも関わらず、ホテルフリークの妻のリクエストで2人はしばし東京を旅する。まずは渋谷からタクシーで六本木へ。この夏OPENしたばかりの「鈴華荘(RINKASOU)」でランチ。この店は横浜の中華街と自由が丘にある「状元樓」の新業態の店舗。長く自由が丘店で支配人だったBさんが異動され、この店の支配人を務めているため、早々に伺わねばと思っていた店だ。

TOKIO2所は飯倉片町の交差点のほど近く。以前、「新北海園」という老舗北京料理店があった所だ。支配人のBさんへご挨拶しつつ、小籠包、湯葉包み揚げなどをいただく。ん、状元樓そのままに、老舗上海料理の安定の味。内装は上品で洗練されておりオシャレ。そして価格帯は自由が丘などに比べてお手頃。1階はテーブル席の他、ソファ席や個室があり、2階には別階段から入れる個室もある。これは使い勝手の良い店だ。

IMG_6546宿泊は、本館を建て替え、再開業したばかりのホテルオークラグループの旗艦ホテル「The Okura Tokyo」の「プレステージタワー」だ。エントランスに入ってすぐに、あれ?と驚く既視感のあるロビー。建て替え前の静謐な空間が、タイムスリップしてしまったようにそのまま蘇っている。オークラ・ランターンと呼ばれる照明器具も、梅の花を模った椅子とテーブルも以前の本館のまま再現されたという。これは凄い。

TOKIO5室のコンセプトは一新された。スタンダードな客室でも47㎡という日本国内では有数の広さ。お気楽夫婦が宿泊したのは56㎡のコーナールーム。東京タワービューの明るく広い(自宅とほぼ同じ広さ)部屋だ。お風呂は東京タワーや虎ノ門ヒルズを望むビューバス。外資系のホテルチェーンと比べて、ややセクシィさに欠ける部分はあるけれど、使い勝手や眺めの良さはホテルジャンキーの妻も満足のレベル。

TOKIO3京の旅のメインイベントのひとつは、初訪問のステージアラウンドで行われるブロードウェーミュージカル「WEST SIDE STORY」の観劇だ。オークラからはタクシーで10分余り、マッカーサー道路を通り、東京オリンピックに間に合わなかった環状2号線の迂回路を経由し、築地市場の跡地を横目にシアターに向かう。東京湾岸の未来的な景色が実に楽しいぜ。完全に旅人の視線と体感。これぞ東京の旅の醍醐味だ。

TOKIO4場は円形の客席の周囲360度全てに作り込まれたステージを、劇場の中央に座った客が眺めるという構造。舞台転換に合わせて客席が回転し、すでにセッティングされた新たな舞台を観ることになる。一度幕を下ろして場面を変える必要がないから場面転換が速い。映像を駆使した演出で左右の移動だけでなく、上下の視点変換まで、スピード感と浮遊感のある素晴らしい舞台だ。他の演目でも観てみたいと思わせる劇場だ。

TOKIO6し、この劇場の弱点は豊洲市場前というアクセスにある。観劇後に宿泊するという企画になったのも、この劇場のロケーションによるもの。けれどもお気楽夫婦はオークラまで帰路も楽々、東京の旅はタクシーをフル活用。遠くに旅することを考えれば、タクシーを使っても交通費は安上がりだし、移動時間も短い快適な旅になる。そしてもちろんホテル内のジムもフル活用。どこを旅しても2人の行動パターンは不変だ。

TOKIO7の2日目は、シモキタで観劇。スズナリという小劇場でのマチネ公演だ。ずっと観続けている「リリパッドアーミーII」の「体育の時間」の再演。いつも同行する友人夫妻は、今回は奥さまだけが参戦。再演なのに新鮮で、今年のRWC、来年の東京オリンピックと、スポーツをテーマにした演目を観るのは実にタイムリー。考えさせられるスポーツ黎明期の女性アスリートの話でありながら、何も考えずに心から楽しめる舞台だ。

TOKIO8劇後はパークハイアット東京の「NYバー」へ。そこは前年にお気楽夫婦25周年、私の還暦を祝うパーティを開催したホテル。ところが友人(妻)は、開催直前にインフルエンザに罹患、残念ながら出席できなかった。その代わりに彼女と一緒にこの店で乾杯したかった。「今日の芝居も面白かったね、前回のあの役は…」ずっと一緒に観てきたからこその話題で盛り上がる。次の公演も一緒に行こうねとさらに盛り上がる。

TOKIO9京に住んで40年余り、この街はお気楽夫婦にとって、ずっと刺激に満ちた街であり続けている。1泊2日の盛り沢山の旅で堪能した東京は、まだまだ他にも愉しみが溢れている。住んでいながら、旅したい街。ホームタウンでありながら、新たな発見のある新鮮な街。愛着があり、いつまでも憧れがある街。そんな東京をお気楽な2人は旅し続ける。「ね、次はどこに行こうか」…お気楽妻のお望みのままに。

カウンタ席の幸福「用賀 本城、遠藤利三郎商店」

Autmn1例となった「用賀 本城」の鮎尽くしの会も今年で7回目。但し、今年は暦の関係で活け鮎が入荷できなかったとのことで、秋の味覚のひとつとして鮎が登場することになった。桶の中の活け鮎と一緒に踊る、本城さんの“鮎ダンス”が観られないのは残念。とは言え、鮎をはじめとした秋の味を堪能できるのも、それはそれで嬉しいことだ。まずは、虫かごの八寸に入れられた秋の味。目にも舌にも美味しく、美しい。

Autmn2いて晩菊や栗の入ったお椀、そしてお造り。天使の海老、カワハギ肝添え、中トロなどが神々しいまでの輝きで供される。ここ数年、食べものの嗜好は、美味しいものを少しづつ、いろいろな料理を味わいたい、という方向に急激にシフトしている。大盛りという単語はお気楽夫婦の辞書には存在せず、ましてや食べ放題などは論外。食べることは楽しみであり、満腹は目的ではなく結果。…けれども本当は巨大な胃袋が欲しい。

Autmn3の一夜干し、鮎のなれ鮨、ウルカなどで日本酒をグビリ。松茸の土瓶蒸しでニヤリ。そして、鮎の塩焼き、この辺りで満腹中枢が刺激され、SOSの信号が発せられる。残念だ。酒も抑え気味にしていたのに。最後の力を振り絞り、イクラを肴に日本酒をグビッと…、これは仕方がない。お酒あっての肴だ。「お食事はどうしますか」むむっ、楽しみにしている鮎ご飯…は持ち帰ることにして、酒を優先だ。ぐびり。ん、幸福だ。

Autmn4味しかったぁ♬ごちそうさまでしたぁ。今年も伺えて良かったです」という友人たちの声に「おおきにぃ。ありがとうございました」と本城さんが応える。本城さんご自身も鮎の会は楽しみにしていただいている模様。今年のメンバーは4人。カウンタ席でご一緒するにはぴったりの人数。やはりこの店の料理は本城さんとの会話を楽しみながら味わうのが一番。こうしてまた来年も、夏を惜しみながら鮎を味わうのだろう。

Autmn5ろそろ遠藤にも行かなきゃね」と妻。ん、行かねばねと応じる。しばらくご無沙汰で気にはなっていた。ここで彼女が言う遠藤は、プロスカッシュプレーヤーでもあるYou Tuber遠藤くんではなく、神泉にあるワインバー「遠藤利三郎商店」だ。そこに「え!ちいママ辞めちゃうみたいよ」と言う情報。3代目担当ソムリエ、ミホちゃんが9月末で退社。最後に彼女が選ぶグラスワインを飲みに行かねばだ。さぁ電話を!

Autmn6IGAさん、こんばんは。お電話ありがとうございます」予約の電話を掛けると、私の携帯の番号が登録してあるようで、名前を呼んでくれる。ちょっと嬉しいおもてなし。週末の予約完了。嬉しいことにカウンタ席も空いていた。「IGAさん、こんばんは。ありがとうございます」お気楽夫婦がちぃママと呼んでいるミホちゃんに迎えられ、カウンタ越しに退社後を尋ねると、何と某ホテルへの転職だと言う。それはおめでとう♬

Autmn7ホテルは、お気楽夫婦が最もお気に入りのホテル。私の還暦と2人の25周年をお祝いしたホテルでもある。「え〜、じゃあ是非伺うよ!」と妻のテンションも上がる。選んでもらったワインは、シャンパン、白、料理に合わせてもらった赤と、それぞれ好みの味で、絶妙なマリアージュも生まれた。店長でチーフソムリエの斎藤さんに、残念だねと声を掛けると意外と「卒業ですから、ぜひ店に行ってあげてください」との反応。

Autmn8店からの初代ソムリエのミカちゃんはイタリアへ、2代目ユカちゃんはご出産、そして3代目のミホちゃんは希望していたホテルのソムリエに。店を離れる理由はそれぞれだけれど、辞めてからも仲の良い仲間たちだ。この店の居心地の良さは、そこにある。ソムリエとしては3人とも頼れるプロであり、皆柔らかな接客でこの空間を作った。だから、またこの店を訪ねよう。4代目と斎藤さんに会いに、そしてミホちゃんの店も。

お気楽夫婦の今年の秋はこうして始まった。幸福のカウンタ席の鮎尽くしで夏に別れを告げ、居心地の良いカウンタ席で別れと新たな出会いがあった。次はどの店で秋の味覚に出会おうか。「鮨と中華に行かなきゃね」妻の秋は豊作のようだ。

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SINCE 1.May 2005