自粛の春。予約していた芝居にも、週に何度か通っていたジムにも行けない。数人以上での会食、夜間の外出も控える必要がある。大勢で集まって、狭い空間で、長時間にわたり近接して飲んで食べる「ビストロ808」は問題外。しばらく休業を余儀なくされる。スポーツクラブや飲食店などの皆さんの苦労と心配を思うと、そんな冗談は言うのも憚られる。日常と思っていたことがいかに貴重なモノだったか。実感する春でもある。
エンタメも、スポーツも、外食も、不要不急ではないかと言われればその通り。生命体を維持するには不要だけれど、人として生きていくためには絶対に必要な要素だ。そしてそれらを生業にしている人たちにとっては、もちろん有要であり、生活していくためには早急な対応が必要だ。エンタメやスポーツ、食は大切な文化だ。それらの業界に携わる人たちの自助努力に頼るだけではなく、自国の文化を守る政策が必要だ。
…とは言え、運動不足だ。運命共同体の妻は別として、社会的距離を取り、三密に抵触することなく、2人でご近所を走ることにした。お気楽夫婦の住む街からすぐの場所にある小さな川沿いの散歩道を1時間ほどジョグ。満開を僅かに過ぎた桜並木が見事だ。たっぷり汗をかき、シャワーを浴びた後は、地元の中華料理店を応援ランチ。この店はテーブル間の距離も十分で、少人数の客ばかり。さっと食べて自宅に戻る。
自宅ではMTVを流しっ放しで、読書三昧。沢木耕太郎の『春に散る』。BGMは「King Gnu」だったり、「Dua Lipa」だったり、「セレーナ・ゴメス」だったり。聞き流しながら読書に耽る。最近気になっている「BTS」の「ON」のマーチングバンドのリズムが耳に入ると読むのを止めてMVを観入る。BTSが好き!という訳ではなく、ドラムサウンド全般に弱いのだ。そんなのんびりとした時間が流れ、夕暮れ時には腹が減る。
2人でいただく夕食は、地元の飲食店のテイクアウェイを基本とする。この時期、お気楽ではないお気楽妻の帰宅は遅い。ほぼ毎日のように終電。普段の独り飯は自作の料理かコンビニ飯のアレンジで済ませるが、妻が自宅にいる、すなわち自宅で仕事をする(笑)貴重な週末は、一緒に食べることを優先する。その日はご近所の人気ビストロ「38食堂」の前菜2品と「ラム肉とオリーブの白ワイン煮込みクスクス添え」をTake Away。
名物人気料理の「馬場農園の焼き野菜」は、野菜本来の味や香りを味わえる逸品。形は歪だったりするけれど、ひげ根まで食べられる無農薬の野菜がウリ。なんとかニンジン(名前忘れた)やビーツの柔らかな甘さを楽しむ。オードブル盛合せには基本のパテドカンパーニュや紫キャベツのマリネ。「ビストロ808(自作のもの)」と比べるのも愉しい。メインも、ラム好き&クスクス好きの妻が笑顔になる美味しさ、お値段も手頃だ。
「夜は店で食べないで、持ち帰りのウチ飯で応援だね」妻はご近所の馴染みの飲食店の持ち帰りメニューを調べ始めた。「おぉ〜っ、この店も持ち帰り始めたかぁ!」などと、それはそれで楽しそう。…コロナに打ち勝つ日まで、覚悟と責任を持った生活をしよう。感染しない努力、感染させない気遣い、人との接触を避ける新しい生活のスタイルとリズム。そしてそれが持続できるかどうか。それには細やかな楽しみも必要だ。
弥生、三月、雛祭り。冬から春に季節が移る、いつもなら1年で最も美しい季節、のはずだった。ところが、2020年の3月は新型コロナウイルスの影響で、すっかり鬱々とした1ヶ月になってしまった。それでも山菜の天ぷらを食べなければ春が来ない!と言う妻の主張で新宿の京王プラザホテルに向かった。ロビーに入った途端に春色に溢れる空間に包まれ、笑顔が溢れた。段飾りの雛人形と吊り飾りが2人を迎えてくれたのだ。
予約して伺った「天婦羅しゅん」は、京王プラザホテルの本館7階。残念ながらカウンタは満席とのことでテーブル席へ。それでもカウンタ10席、テーブル10席だけの小さな店だから、揚げ場のほぼ目の前で揚げたてが食べられる。迷わず「お好みでお願いします♬」と笑顔でオーダーする妻。最初は、こごみ、楤の芽、蕗の薹の3品。「うわぁ。春の香りだぁ」と、うっとりと蕗の薹を頬張る妻。確かに香りを味わう一品だ。
続いて筍、そして春の旬に入ったばかりのサクラエビ、サヨリと続く。サクラエビは浜松出身である妻の自慢の静岡名産。「あれ?まだ早いんじゃないかな」と言いながらも美味しく頂く。*調べてみると2020年春の漁は4月5日からとのこと。どうやら駿河湾産ではない模様。「寿司では頂くけど、天ぷらは珍しいね」とサヨリをぱくり。ん、んまい。この店の天ぷらはさっくりと軽やかな揚げ方。お気楽夫婦の好みにぴったり。
「美味しそうな珍しい揚げダネがあるね、この店」と選んだのは海老真丈の大葉包み揚げ。ぷっくりとした海老のすり身の味と香りと大葉の香りが絶妙に合いまって、天ぷらの衣で一体となる。これは旨い!塩でも天つゆでも、それぞれどちらでも美味しい。そして締めはデザート代わりに、どの店でも最後にお願いする丸十(さつまいも)をいただき、満足満腹。「京プラ、良いね。正直ちょっと舐めてた」と妻の評価も急上昇。
「今シーズン最後の越前がに。さらばズワイガニ!」と、馴染みの鮨屋のインスタに見目麗しいズワイガニの写真がアップされた。ん?最後?最初(走り)と最後(名残)に(ついでに旬にも、…とするといつもと言うことか!)弱い典型的な日本人であるお気楽夫婦が、そんな書き込みに食い付いた。さっそく電話をすると残念ながら希望の日程では予約が取れず、何とか他のスケジュールを変更して席を押さえる。名残が優先。
最後には弱いよ、釣られちゃったよと席に着くと、したり顔の大将は「昨日のお客様はほとんどカニでした♬」と微笑む。日本人の弱みを突く良い書き込みだったと褒めると、大将は満面の笑み。そして最初にカニ刺しをちゅるんといただき、甘くて蕩ける!と頷き、焼きガニの香ばしさで目を見張る。蒸したカニは身を解してもらってミソと一緒にぱくり。これを幸福と呼ばずして何を…という味。冷えた日本酒との相性も抜群だ。
握りは8貫。イカ、鯛の昆布締め、鯵に中トロと、いつものお任せよりも握りの品数は抑えて、カニを味わうコース。「カニもこれぐらいの種類と量がちょうど良いな」と妻。確かにこれでもか!というカニ尽くしは少食の2人には向いていない。名残のカニに限らず、握りを食べる前に何か季節の味をつまみで味わいたいと思いながら、その量に躊躇うことの多い2人。美味しいモノをたっぷり食べるためには強靭な胃袋が必要だ。
「頻繁にこの店に来れば良いんじゃない?」お気楽妻が呑気に宣う。確かに、走りのネタも、旬の魚も、名残の食材も、マメに通えば逃さず少量づつ食べられる。今日食べたいモノを全部食べよう!という食べ方をしなくとも済む。してないけど。「他の日はカロリーメイトで良いし」と、極端な妻。数年後?の引退に向けて、手料理と合わせ、そんなメリハリのある食生活の設計も良し。果たして2人の老後の生活はいかに?
都内のホテルにわざわざ滞在する目的のもうひとつは、毎年度末に激務をこなすお気楽妻の慰労。ほぼ毎日のように終電で帰って来て、それから風呂に入って、ポップコーンを貪り食べ、深夜に眠りにつく…という不健康な日々。私なら毎年2、3度はぶっ倒れているのは間違いない。「毎年のことだから慣れてるし、ワタシはタフだからダイジョーブ!」と妻は言うものの、確実に疲労が蓄積しているのは間違いない。
そこで移動距離が少なく(疲れず)、緊急案件発生となったら出勤できる(苦笑)、都内のホテルでのんびりするという作戦なのだ。そのためには客室はもちろん、パブリックスペースもゆったりしていて欲しい。今はめっきり少なくなったけれど某国の団体客が多いのは困る。するとクラブラウンジのサービスが充実していることが大切な条件になる。今回選んだ「ANAインターコンチネンタル東京」のラウンジはどうだろう。
結論から言うと大満足。このホテル、頑張っている。事前にラウンジのビュフェについて問い合わせると、「最善の対策を取っておりますので、安心しておいでください」と電話の向こう側の笑顔が思い浮かぶ声。そして実際に行ってみると、カクテルタイムのメインメニューはオーダーで和洋2種類の料理からセレクト。それ以外の料理は何と全て小皿にガラスの器で蓋をするか、個々にラップを掛けると言う対策。これは凄い。
効果の程は分からないし、写真映えするかと言うと全く“映えない”けれど、その涙ぐましいまでの努力に頭が下がる。ラウンジの客は決して多くはなかったけれど、ビュフェの料理は心配になる程多くの料理が並んでいた。小分けして盛り付け、ひとつ一つにラップを掛ける料理人たちの姿を想像すると、ウイルスに負けてなるか!と言う意気込みも味わうことができる。その意気、しっかり受け止めたよ!とシャンパンをぐびり。
このホテルのラウンジのフリーフローシャンパンはF1の公式指定シャンパン「マム グラン コルドン・シャンパーニュ・ブリュット」だ。3階にある「シャンパンバー」でも全面的に推してプロモーションしているメゾン。生き生きとした泡が心地良い。「お代わりいかがですか」と、スタッフが注ぎに来てくれるのも嬉しい。広いラウンジにいるスタッフは(人員を削っているのか)少ないのだけれど、良く目が行き届いている。
朝食のメニューも充実。2010年のOPENから10年連続でミシュランの2つ星を獲得しているメインダイニング「ピエール・ガニェール」の朝食がセレクトできるのだ。ちなみに、メインダイニングでは朝食を供していないから、ラウンジならではのスペシャリテ。「おおっ!美し〜ね♬」数々のホテルでの朝食を食べ比べてきた妻も驚く美皿メニュー。「ん、美味しいな、このサーモン」スモークサーモン好きの妻はすっかりご満悦。
春の激務にも、コロナにも負けない身体を作るのは、美味しい食事だ。当たり前だけど、私たちのカラダは、私たちが食べたモノでできている。食べたいモノをバランス良く楽しく食べることで、健康な身体を作るのだ。「国内のホテルに泊まるといつも朝は和食だもんね」そう、このラウンジでは絶品の和定食を選ぶこともできる。和食はビュフェよりも、小鉢を並べた定食タイプの方が見目麗しく少量多品で嬉しい♬
他にも焼きたてのベルギーワッフルをオーダーできたり、サーモン、ベーコン、ホウレンソウから選べるエッグベネディクトがあったり、「どっちも食べちゃおうっと」と妻に言わせるラインナップ。但し「食べたらこの後は走らなきゃね」と続く。朝はたっぷり食べて、午前中はジムでたっぷりと汗を流すというルーティンが何より楽しく嬉しい2人なのだ。赤坂の街並みを眺めながら朝食を取る妻の笑顔は穏やかで満足気だ。
…美味しいモノを食べ、好きなことをすると言ういつものコンセプトで滞在したホテル。どうやら妻の癒しになった模様だ。「ここ、また来ても良いかもね」相変わらず上から目線ながら、最高の評価を下す妻だった。