赤坂プリンスホテルが「赤プリ」と呼ばれ、人気だった頃があった。クリスマスイブの宿泊予約はあっという間に埋まったと言うバブル時代。他のプリンスホテルはちょっと野暮ったい中で、それでも赤プリだけが少しだけオシャレな頃だった。そして、ホテル新御三家(パークハイアット東京、ウェスティンホテル東京、(旧)フォーシーズンズ椿山荘)の時代になると、その人気も存在感もすっかり薄くなってしまった。
赤坂プリンス泊まってみようか、そんな提案にホテルジャンキーを自認する妻は首を縦に振らなかった。プリンスホテルはすっかり凋落し、赤プリも閉鎖発表の際にはマスコミでも話題になったけれど、現在の営業がどのようになっているかなど、彼女は全く関心を持っていなかった。完全に宿泊対象外、ノーマークのホテルだった。ところが、赤坂をテーマに滞在しようと言う企画が、かつて赤坂で勤めていた彼女の琴線に触れた。
赤坂に縁のある友人たちと、懐かしの赤坂で食べ、そのまま家に帰らず赤坂に泊まる。だったら、そのホテルが赤プリでも良いか、と言うノリ。実は(私も含め)、ではと予約をするまで「ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」と名称を変えていたことを知らなかった。赤プリはもう名称としても存在していなかったのだ。けれども、その覚えにくい新しい名前のホテルは、見事にお気楽夫婦を裏切った。実にいいホテルなのだ。
ホテルジャンキーである妻の“良いホテル”の定義は、スモール&ラグジュアリーであること。チェックインの際のクラブラウンジの対応も、ウェルカムドリンクや軽食も、彼女の期待以上で合格。客室数250は、以前の赤プリ新館の客室数の1/3。標準的な客室の広さは42㎡と圧倒的に以前より広く、宿泊した客室の設えはレイアウトもよく考えられており、瞬時にバスルームのガラスがスモークになるなど、最新設備で合格。
続く彼女の条件は、ジムやスパの設備が充実していること。それはスパの受付で開放的で快適そうなプールを眺め、清潔で広いロッカールームに案内され、ジムでストレッチをした頃に「ごめんなさい、ナメてました。期待していなかったけど、とっても良いホテルです」と懺悔する妻の心の声で合格と判明。そして、ジムで汗を流し、プールサイドのジャグージで外を眺め、スパで和んだ頃にはすっかりファンになっていた。
夕食後に、「スカイギャラリーラウンジ」を冠した「レビータ」という、2フロア吹き抜けのバーに出かける。赤坂や永田町を見下ろし、東京タワーが意外に近くに望める巨大なガラス窓が印象的で、バブルの残り香が漂う。メニューを見れば「グレンリベット」のヴィンテージボトルが700万円とあり、1980年代にタイムスリップした感覚を味わえる。普段の生活では気にならない、何層ものぶ厚い階層を感じるのはこんな時だ。
最終日の朝は、オールデイダイニング「オアシスガーデン」で朝食をいただく。前日のクラブラウンジの朝食が些かメニューが淋しかったこともあり、朝イチで出かけたのが功を奏し、最も眺めの良いコーナー席に案内される。バブリーな眺めだ。豊富なビュフェメニューに加え、追加でオーダーできる料理もトリュフなどがゼータクに使われており、とても分かり易いスノッブ感がある。もちろんどれも美味しかったけどね。
赤プリは、韓国の李王家邸を引き継いだ旧館を中心に1955年に開業した。現在は「クラシックハウス」と称して移築(曳家)され、立派に改修された旧館には、今も「プリンスホテル」の名前が冠される。そうか、同じ場所で違う名前で復活し、ここに赤プリを残していたのか。すっかお気に入りになったホテルジャンキーな妻は、チェックアウトの際に、薦められるままにプリンスホテルの会員にもなった。VIVA!赤プリ!
お気楽妻が新卒で入社したのは、赤坂に本社があった外資系のコンピュータメーカー。誘われて(試験なしで)転職したソフトウェア会社は元赤坂、会社ごとP社系列になった時は、半蔵門にオフィスがあった。すなわち、半径1kmくらいのエリアに20年以上勤務したことになる。スゲー。ある週末、そんな懐かしの地を一緒に訪ねようということになった。まずは初任地のご近所に新しくできたインターシティへ、GO!
人気の店ということで予約して(ランチでも予約可)向かったのは「THE ARTISAN TABLE」というDEAN & DELUCAのカフェレストラン。都心とは思えない緑溢れるエリアに建つゼータクな一軒家。アメリカ大使館の真向かいということもあり、テラス席や吹き抜けがある店の作りも、メニューやオペレーションも完全にアメリカン。何種類かの料理の中からメインを選び、豪華なサラダビュフェが付くボリューミーなランチだ。
日本進出より前に、NYCで初めて出会った時からDEAN & DELUCA のファンになった2人が欣喜雀躍(ウキウキ)してしまうロケーション。イカのセート風煮込みサフランライス添え、ひよこ豆のファラフェル フムスとグリル野菜のマリネ アリッサソースという説明を要す料理をいただき、ランチビールと共に満足の味。フランクな接客もあって、NYCに滞在しているような気分を味わった。お手頃なUSA滞在。おススメです。
「担々麺食べよぉ〜っ!」その日の夜は、赤坂時代のランチ御用達の「赤坂四川飯店」で、赤坂の放送局に勤める友人と会食。2代目の陳建一さんがTVに出始める前から、この近辺で担々麺と言えばこの店(あるいは麹町の「登龍」)だった。けれど、2人ともランチだけで(それもほぼ担々麺のみ)夜に訪れたことはなかったのだ。「担々麺以外のメニュー、楽しみだね」と辛いモノ好きの妻の気持ちが逸るのも分かる。
最初は抑えめに「干しどうふの中華和え物」「ピータンの冷製」などの穏やかな前菜でスタート。「棒棒鶏」や「砂肝の冷製」などで助走をつけて、メインは「白味魚(その日はノドグロ)の山椒オイルがけ」という真っ赤なメニュー。英字の表記には「in super hot Szechwan pepper sauce」とあったが、後の祭り。美味しいのは間違いないのだけれど、滝のような汗。流石の妻も食べれられると聞いた唐辛子は食べずにいた。
締めは待望の担々麺。その日選んだ(汁なし、ありなど3種類)のは、スープなし、黒酢入りの「正宗担々麺」という香り立つ一品。3人で取り分けてワシワシと食す。鼻に抜ける黒酢と中国山椒の香りが、満腹で味見程度に食べようと思っていたはずの食欲を刺激し、箸を進ませる。やっぱり旨い。お気楽夫婦にとって担々麺の原点であり、基準。「登龍」と「萬来軒(地元の店です)」と合わせ、改めて担々麺御三家としよう。
翌日のランチは、青山にお住いの赤坂時代の妻の同僚(と言うか先輩)をお誘いし、赤坂ランチ。赤坂のランチと言えば、有名店、人気店、高ポイントの店が揃う激戦区。その中で選んだのは昭和25年創業の「赤坂 津つ井 総本店」と言う、名門中の名門洋食店だ。赤坂駅から少し歩く住宅街にある、箸で食べる洋食がコンセプトの、この店で食すべきは看板メニューの「ビフテキ丼」、そしてオムライスなどの王道メニューだ。
「美味しかったより、懐かしかったねぇ♬」赤坂の老舗で食す、伝統の洋食ランチ。赤坂のオフィスで共に働いた2人が、赤坂時代の若かった頃の思い出話になるのは必然。お約束のオムライス、同じく名物のマルセヰユ鍋(ブイヤベース)、期待通りに美味しかったビフテキ丼などで満腹、満足の昼餉。お気楽妻の思い出がたっぷりと詰まった赤坂に縁のある友人たちをお誘いし、赤坂を巡る旅を締めくくった。VIVA!赤坂!
気が付けば、お気楽夫婦の住む街、世田谷区の外れにはスイーツの人気店が増えていた。「食べログ」のランキングで、最寄駅の全ジャンルTOP4がスイーツ店なのだ。*TOP20にスイーツの店がもう1店。ちなみにラーメン店1店を除き、TOP20のほぼ全店がお気楽夫婦の馴染みの店だった。地元密着的生活万歳。そんなある日、「ミキちゃんのチョコのかき氷、食べたい!」と、スカッシュ仲間のスイーツ好きの女性が宣言。了解♬ご一緒しよう。
日程を調整し、せっかくだから他のスイーツ店もご案内しよう!と、その日休業の1店を除き、TOP4全店制覇の計画を立てた。最初の1店は「キャトルセゾン」という老舗。作りたてモンブランで有名らしいが、余りに昭和な佇まいに、それまでお気楽夫婦はノーマーク。その日が初訪問となった。結果は、大正解。サクサクのメレンゲの上に、甘み控えめで優しい味の和栗クリーム。人気があるのが分かる。良いスタートだ。
残念ながらその日が休みだったのは「ル・プティ・ポワソン」という焼き菓子の名店。パティシエのマコちゃんが出産後に子育て優先の営業日にしたこともあり、週末3日間だけの営業。当日は週末ながら臨時休業。ブルーチーズが利いて酒のツマミにもなる「大人のチーズケーキ」「ちょっと大人のチーズケーキ」をぜひ食べて欲しかった。そう説明すると、「残念!次回ぜひ!」と涙ぐむスカッシュ仲間。良いリアクションだ。
2店目は「ラ・ヴィエイユ・フランス 本店」という大御所の店。パリの同名の老舗でシェフパティシエを務めた木村氏が暖簾分けを許されて日本でOPEN。店構えも、店内のディスプレーも、芸術的なケーキの見た目も、店名通り「古き良きフランス」という店。1店目でイートインで味わったからと、友人は焼き菓子を数点、お気楽夫婦は日経新聞「PLUS1」の何でもランキングで1位になった“アイスサンド”を購入。
3店舗めは、その日のメインイベント「ショコラティエ・ミキ」で、チョコレートカキ氷。手作りの生チョコがメインの店であることから、毎年夏には3ヶ月ほど休業。ところが嬉しいことに数年前から期間限定でカキ氷を始め、かなり気にはなっていたもののタイミングが合わず未体験。とても楽しみにしていた一品だ。チョコレート色の店内に入ると、エアコンまでがチョコ色であることに友人が驚く。そしてさっそく…。
「舌触りが滑らかで、すごい!美味しい!何だかカキ氷の概念が変わる!」珍しくお気楽妻が興奮気味。どれどれとひと口いただくと、今までに経験のない新食感。冷たいのにキチンとミキちゃんの絶品チョコの味で、ザラザラ感がない細かなチョコアイスが繊細に山盛りになっている。時間が経つと沈んでくるから確かに氷と分かるけれど、口溶けの柔らかさはチョコ味の冷たい綿菓子を食べている感じ。確かにすげー!絶品。
他にも友人はやはり絶品のオランジュ(ドライオレンジのチョコレート掛け)と板チョコ、お気楽夫婦はマンディアンを買い込み、思わずニンマリ。ちなみに、その日はカキ氷目当ての客で満席!良いお値段(920円)なのに、さすがだ。そして、人気ダントツNo.1の「パティスリー・ユウ・ササゲ」に向かう。実はこの店、お気楽夫婦宅の最もご近所。遠くの店から攻めて、最後の店で買ったケーキを自宅で食べようという作戦だ。
他のスカッシュ仲間の評価も赤マル急上昇のこの店。季節を感じさせる美形のケーキのラインナップが魅力。サントノーレやシブーストなどの定番ケーキの食材を季節によって変えてくる。これがズルいぐらいに上手い。常連も飽きさせない魅力的なケーキが季節ごとに並ぶのだ。その日はラズベリーのサントノーレやフロマージュブランなどを買い込み、シェアして堪能。地元スイーツツアーの掉尾を飾る美味しさだった。
「…ところでIGAさんって、お酒だけじゃなくって甘いモノも好きなんですね」スカッシュ仲間の素直な疑問。「彼は甘いモノもツマミにして飲んじゃうんだよ」「え〜っ!」…例えば美味しいチョコにキリッと冷えた白ワイン、合うと思う。