香港に滞在している間、お気楽夫婦はほとんどホテル内で過ごす。出かけるのは昼食前後の街歩きだけ。それも香港島側に宿泊していることもあり、九龍側に出掛けることはほぼ無い。20回以上の香港渡航歴の中で、佐敦、油麻地、旺角など主な街は一度は訪れているとは言え、行動範囲は極めて狭い。本土から観光客が押し寄せ、地下鉄の混雑がハンパ無いことが出不精の理由のひとつ。その点、香港島には便利なトラムがある。
中環(セントラル)から上環(ションワン)にかけて、最近話題のOTC(オールドタウン・セントラル)と呼ばれるエリアがある。お気楽妻は「ちょっと行ってみたいんだよね」と、今さら観光でもなかろうと渋る私を引っ張り街歩き。昔ながらの街並みと露店が並ぶ坂道、建物の壁に描かれたアート、お洒落なギャラリーなど、古の香港と現在、東洋と西洋とが交錯する不思議な雰囲気に満ちた街だ。「香港ぽくって良いね」と妻は満足気。
「脆皮焼鵝(ガチョウのロースト飯)を食べたいんだよね」と宣う妻。香港で毎回ご所望になるのが、街のB級グルメ巡り。「それもホテルで出すようなヤツじゃなくて、街の小さな店で食べたいんだよね」というのが、彼女の求める香港ランチ飯のシチュエーション。彼女自身が作成した行きたい店の(長〜い)リストを眺め、この店と第二候補はこの店かなとお目当ての店を地図に示す。了解!と地図を頭に入れて街に出る。
行列の長さに1軒目の候補は早々に諦め、再興燒臘飯店(Joy Hing Roasted Meat)という店に向かう。やはり人気店で行列ができているけれど、地元客が多く回転は早そうだ。はい、次は2人?奥に行って!と広東語で捲し立てられ、相席のテーブルに付く。指差しで、脆皮焼鵝と海老ワンタン麺をオーダー。期待通りにチープに旨い。「美味しいね〜♬楽しい〜ねっ♬」笑顔が溢れ、歌ってしまいそうな妻。香港LOVE♡
「今日は龍景軒だぁ〜、久しぶりだね!」2人のもうひとつの例外的な外出は「龍景軒(LUNG KING HEEN)」での夕食。ちなみに前年の11月以来の訪問だから、約半年ぶり。海外のレストランで、それを久しぶりと言うかは定かではない。香港滞在中、ランチとディナーの2度は訪れたいと、何ヶ月も前から予約を入れる妻。店のスタッフ、ジャッキー君とメールでやり取りをする、予約の時点からもう既に楽しそうだ。
この店の夜メニューで外せないのが、茹で海老。色鮮やかなプリプリのエビをワシっと掴み、エビ味噌をチュッとしゃぶり、ツルッと皮を剥き、カプッとかぶり付く。手の汚れなど気にせずに一気に食べる。これがお約束。そして焼き物。ローストグースも良いけれど、この日はバーベQポーク。カリカリの皮とジューシーな肉、甘辛いソースと相まって、思わず妻とこれだよね!と互いに微笑み合ってしまう味。
ランチメニューのお約束は、腸粉(チョンファン)とアワビのパフ。いずれも毎回オーダーする2人の大好物。そして忘れていけないのは、タロ芋のコロッケ!香港ではどの店でも供される一般的な料理だけれど、この店の上品で美しいカラッとした衣と、中の焼豚餡のバランスは絶品なのだ。因みに、この料理を日本の中華料理店(横浜中華街でも)では滅多にお目にかかったことがない。だからこそ香港に行くと食べたい一品だ。
そして、2人にとって香港の味と言えば、これ。海老ワンタン麺。プリプリの海老ワンタン(なぜかどの店でも麺の下に沈んでいるのが不思議だけれど)と、緑鮮やかなシャキシャキの芥藍(カイラン)だけと言うシンプルな麺。2人がゴム麺と呼んでいる独特の食感の香港麺と、干しエビのダシが効いたスープがたまらなく香港。この旅の間だけでも4杯も食べた2人の常食。「あぁ、また食べに行きたい!」と妻が宣う。同感。
…と言うことで、今回の香港の旅を終えた2人は、すぐに次回の香港行きの計画を立てるのだった(笑)。
南の島から香港国際空港に到着すると、ホームタウンに帰って来たようでホッとする2人。いつものように空港内の7−11で青島ビールを買い込み、タクシーに乗る。湾仔(ワンチャイ)、Grand Hyatt Hotel、プリーズ。ドライバーにそう告げるのは私の役目。海外での英会話は妻の役割だけれど、何度言ったか分からない、このセリフは譲れない。香港に帰って来たぞ!という宣言。数えれば今回でGH香港に12回目の滞在だ。
タクシーを降り、フロントをスルーして、いつものように30階のグランド・クラブのラウンジでチェックイン。「Wellcome back!Mr. & Mrs.IGARASHI!」と迎えられ「I’m Home!ただいま!」と応える。ところでスタッフがアップグレードとか言ってなかった?ハイアットのポイントでエグゼクティブ・ハーバー・スイート(65㎡)にアップグレードしていたことかと思いつつ部屋に入ると、サプライズが待っていた。
客室内に入ると廊下が続き、コーナーに椅子、左に折れると大きなダイニングテーブル、そして2面コーナーの大きな窓があるリビング、隣にはベッドルームに続き大きなバスルーム!なんとそれは予約していたスイートの更に上のヴィクトリア・ハーバー・スイート(90㎡)だった。10滞在目なのでリムジンで空港までお送りしますと言われた前回の滞在に続いての嬉しいサービス。これでますます部屋でも楽しく過ごせそうだ。
翌朝、待望のクラブラウンジへ。ヴィクトリアハーバーを見下ろすこの風景の中で、ゆったり朝食を取るのが香港でのお約束。「Good Morning!Welcome back!」顔なじみのスタッフたちから声がかかる。「Tea or Coffe?」いつも妻はコーヒー、私は紅茶なのだけれど、これは覚える気がないようだ。「帰って来たって感じだね」コーヒーを飲みながら、妻は実に満足気。「今日は何を食べようかな」とメニューを眺める。
朝食ビュフェが充実している上に、その日のスペシャルメニューとして麺粥や卵料理がチョイスできるのがこのラウンジの嬉しいサービスなのだ。搾りたての生ジュース、新鮮な野菜サラダ、ハム、パリパリのデニッシュ。これが私の朝の定番。普段は食べないデニッシュも、ここでは毎朝2つも食べる。小ぶりで美味しいのだ。そして皮蛋、ザーサイやピーナッツなどをトッピングした中華粥。あぁ、今すぐ食べたい!そんな味。
満足の朝食の後は、ジム&プール。たっぷりストレッチをした後に、1時間ほどクロストレーナーで走って汗を流し、気が向いたらウェイトトレーニング。そしてシャワーを浴びながら洗濯。ロッカールームにある(水着用)脱水機をこっそり使う。*部屋で乾かすためにはこれが大切。そしてプールでガシガシとは泳がず、プールサイドでのんびり過ごし、部屋に戻って読書。これがいつもの2人の午前中のスケジュール。
ある日のランチは、せっかくだからとダイニングルームで。メニューはホテル自慢のハイナンチキンライス。ホテル1階にある「グランドカフェ」には専用のコーナーまであり、次々にオーダーが入る人気の料理だ。「ん。やっぱり美味しいね」シンガポールのグランドハイアットで、まだ日本では珍しかった20年近く前に初めて食べた際の「んっ、んまい!」と食べた衝撃の味が蘇る。そのレシピを香港でも再現しているのだ。
そして夕刻。待ってました!の、わんこシャンパンの時間だ。馴染みのスタッフ(スコット)がニコニコと近づいて来て、TWOシャンパン?と尋ねる。妻はスパークリング・ウォーターだ。これも覚える気は無いようだ。オードブルがまた豊富で美味しいから困る。「モア シャンパン?」とスコットが注ぎ足すから困る。少食の2人はここで満足し、外に夕飯を食べに行けないのだ。…こうして香港の日々が過ぎて行く。
プーケット島の「トリサラ」は、料理が自慢のリゾートだ。到着した翌日、朝食を控え目に取り、ジムで汗を流した後で、「Sunday Jazz Buffe Branch」というイベントに出かけた。タイトル通り、ジャズの生演奏を聴きながら、ビュフェスタイルでいただく(朝食も食べたけど)ブランチ。ロブスターや牡蠣、ウチワエビなどの魚介類、小さな器に盛り付けられたオードブルの種類も豊富で、どれも目にも舌にも美味しい。
「ローストビーフも良い感じだよ♬」お気楽妻も超ご機嫌。彩り鮮やかに盛り付けたオードブル、ボイルしたロブスター、ウチワエビとブラックタイガーのBBQなどを平らげた後、ローストビーフを完食し、更にデザートの盛合せに挑んでいた。少食の妻としてはかなりのチャレンジ。「毎朝ジムで走るから良いことにしよう!」会場の「Seafood」の他に、ヨーロッパ料理の「PRU」も高水準。果たして妻の目論見は…。
妻が普段よりかなり多めの摂取カロリーを消費しようとしたのが、お気楽夫婦のヴィラから歩いて1分程のジム。確かに、かなりの快適さ。アンダマン海の青と、リゾートの緑、ヴィラ群の赤い屋根を見下ろす高台にあり、床から天井までの大きな2面採光のガラス窓から、その景色を眺めつつ汗を流す。マシンは最新、室内は清潔で、適度に空いている。まるで絵に描いたような、リゾートのジムのあるべき姿なのだ。
海岸にほど近く、波の音が間近に聞こえるプールの佇まいも素晴らしい。全ヴィラにプールが付いているにも関わらず、全長45mのラッププールが海岸線に沿って横たわる。砂浜の上のデッキチェアの足元にはヤドカリが動き回り、プールの傍の浜辺では産卵にやって来たウミガメが砂を搔き上げる。産卵が無事に終わった場所にはロープが張られ、ゲストに注意喚起。眺める海、火照った身体を冷やすプールとしては申し分なし。
滞在中、一切のストレスを感じなかった理由のひとつが、スタッフのホスピタリティ。リゾートの敷地内で出会った中で、誰一人として挨拶を交わさないスタッフはいなかった。これはフツーのようで、実は簡単なことではない。フロントや飲食サービス担当はもちろんのこと、送迎のドライバーから、ガーデナー、清掃スタッフに至るまで、すれ違う誰もが、「サワディークラッ」「サワディーカー」と笑顔で挨拶を交わす。
リゾート内に撮影スタジオがあり、滞在中に専属カメラマンが撮影してくれて、お気に入りの何枚かの写真がもらえる…。そんなサービスも漏れなく付いている。最初はテレながら、軽いノリのカメラマン(全世界共通?)に乗せられて、場所を変え、ポーズを変え、屋外で撮影をする。プールサイドのハンモックに2人で座り、「何か話して!彼は奥さんの顔を見て!」と注文を付けられ、汗ダラダラになりながら1枚。
陸上げされたカタマラン(双胴ヨット)に腰掛けて、「2人で話をしながら、自然にね」というリクエストに、会話までは写らないからと、もう暑くてたまらん!などと愚痴りながら1枚。最初は15分程度と言われた撮影時間は30分を超え、撮影枚数は軽く合計数十枚を数えた。撮影後、画像をチェック。早い話が、良かったら(有料だけど)アルバムにしないか?というプロモーション。そこはサラッとかわし、無料の6枚を選ぶ。
「楽しかったねぇ♬」と妻。こんな時、モデルのように成り切り、その場を楽しむことができるのは女性の強みか。「じゃあ次はマッサージだ!」滞在中に2度目の施術は半額になるというプロモーションに乗り、連日のスパに向かう…。こんな風に、お気楽夫婦のヴァカンス前半は過ぎて行った。持参した本も4冊読破した。買い込んだビールも飲み干した。…どこに行っても、どのホテルに泊まっても、ほぼ同様のお気楽生活。
…そんな2人のヴァカンスは、後半に続く。