銭湯が急激に減っている。昭和40年の東京23区内の銭湯の数は2,385ヶ所だったらしいから、各区平均で100カ所以上もあったということになる。それが平成27年で574ヶ所だから、約50年の間に1/4にまで減少したということだ。*お気楽夫婦の住む世田谷区では、151ヶ所から32ヶ所と1/5に減っている。家風呂の普及が最大の原因なのは間違いないが、スーパー銭湯等が増えていることを考えると原因は他にもあるのだ。
7月22日、神奈川県川崎市にある1軒の銭湯が65年の歴史の幕を降ろす。私鉄の駅から商店街を抜けた住宅街にある、マンション併設の都市型銭湯。ある週末、お気楽夫婦は友人たちに誘われ、その銭湯に向かった。実はこの銭湯はスカッシュ仲間の実家。「廃業する前に一度は行ってみたいね。風呂上りにはビールでも一緒に飲もうか♬」…そんな企画。最寄りの駅に集まり、のんびりと銭湯まで散歩気分で歩き、入口で記念撮影。
駅まで迎えに来てくれたスカッシュ仲間は、番台の看板娘に早変わり。常連さんらしい客に声を掛け、声を掛けられる。地元に根付いた銭湯なのだろう。ただし、彼女はあくまでお手伝いの身。3代目の彼女は後継にはならず、他の姉弟同様に会社勤め。そうなのだ。銭湯廃業の理由のひとつが、後継者がいないこと。銭湯の仕事は重労働だし、夜も遅い。利用客の減少に伴い、効率の悪い生業になったのだろう。
そして銭湯廃業の最大の理由が、この貼紙の挨拶文にある通り、施設(と従業員)の老朽化。事業を継続するには設備の更新が必要であり、投資の規模を考えれば敷地を効果的に活用する選択肢は他にもある。「スカッシュコート作れないですかね。1面なら確実にできそうだけど、2面だと柱が邪魔になりそうだな」同行の建築家と湯船に浸かりながら現地調査。以前から冗談で言っていたアイディアを、シャレ半分で検討する時間。
「天神湯に乾杯!」「65年間お疲れさま」「良い湯だった」風呂上がりのさっぱり気分で隣駅のムサコまで歩き、ビールをグビリ。美味しいに決まっている。やっぱり銭湯は街の宝だ。財産だ。けれども経営は大変だろうし、スカッシュコートにするにはさらに大変だろう(笑)。「やっぱりコート作るのは無理かなぁ」「本気だったら実測しに行くよ」「コートの横にはバーを作ろうよ」「あぁ、それ絶対良い!」「通っちゃう!」
銭湯がなくなる淋しさと、スカッシュコート建設という夢のような話が交錯する。「ワインもう1本飲んじゃおぉ〜っ!」お酒が好きで、スカッシュが好きという共通項で、ずっとお付き合いが続く楽しい仲間たち。かつてスカッシュの大会参戦で訪れたニュージーランドで、大会会場となったコートにバーなどが併設されたクラブの雰囲気、クラブライフに憧れた。仲間たちとあんな場所に集えたら、きっと楽しいに違いない。
「スカッシュコート、やっぱり作ろう!」「コートを見下ろすバーを作って…」話題がぐるぐる周り始める頃、何本目かのワインが空いた。いつの間にか「焼きトウモロコシとチーズのリゾット」を美味しいからとさらに追加オーダーしたヤツ(あ、俺だった)がいた。こうして美味しく楽しくムサコの夜が更けていった。
大学卒業後に入社した流通系企業から、1986年に「ぴあ」に転職した私の学生時代はエンタメ三昧の日々だった。名画座やライブハウスに通った。夏の野外フェス、年末の裕也プレゼンツの年越しライブは季節の恒例行事。そんな学生だった私にとって、ぴあという会社はどストライクな環境だった。周囲には脚本を書き芝居をやったり、バンドを組んでライブをやったり、映画を観まくったり、そんなスタッフばかりだった。
「今日は横スタでプリンスのライブだから、早退するね♬」「おっ!良いなぁ。俺も前座のシーラ・Eだけでも観たいなぁ」そんな会話がフツーに交わされていた。それから30年余り。私は2005年にぴあを退職し、「ぴあ」も2011年に休刊した。けれども、仕事は変わっても、ずっと映画や演劇などのライブ・エンタテインメントは身近にあり続けた。年間40〜50本ほど、映画や芝居、コンサートを観続けて来た。
ぴあがなくなっても“ぴあ的生活”は続くと「ぴあ最終号」発売時にブログに記した。私にとってのぴあ的生活とは、ライブ・エンタテインメントだけではなく、美味しいモノを食べること、スポーツで汗を流すこと、お気に入りのホテルに泊まること…すなわち興味のあること、面白いことに貪欲な生活。グルメ、ホテル、映画、演劇、読書。当時ぴあジャンルと呼んでいた領域は、私のブログのカテゴリそのものだ。さらに…。
「エンタメノート」というファイルを1986年から作成している。その年に行ったライブ・エンタテインメントのタイトルのメモ。評価するわけでもなく、ただ前年の手帳を元に、自分の1年間を振り返りながら淡々と記録している。例えば、1988年は映画が21本、演劇が19本、コンサートが9本など合計57本。この年は、「Yes」「ミック・ジャガー」「ピンク・フロイド」などの懐かしビッグネームが来日。などと遠い目になる。
さて今年はと言うと、シニア割引で映画が観られることになった事もあり、既に映画11本、演劇11本、スポーツ観戦、美術展などを合わせ約30本。週に1度以上はエンタメ三昧という日々。還暦を迎えても同じ仕事を続けられる幸福な状況であり、さらに嬉しいことに時間的な余裕はある。スポーツジムに通い、旅行に出かけ、美味しいモノを食す。経済的に、そして体力的に可能な限り、こんな“ぴあ的生活”を続けるのだろう。
と、そんなタイミングで「ぴあが復活!」との嬉しいNEWSが飛び込んで来た。もちろん情報誌ではなく、スマホのアプリという形で。現在、8月末の本格スタートに向けて無料サービス部分をテスト版として公開中。「いま、最高の1本に出会える」というキャッチ。検索では出会えない達人たちがオススメする「エンタメ水先案内人」や、自分の「観た」や「見たい」を登録できる「マイノート」などの機能を搭載。むむっ!
これは周囲からの刺激で新しいアーティストや劇団に出逢った、ぴあ時代の私の環境の再現であり、こまめにノートを作っている私にぴったりのアプリではないか!達人たちの中には映画フリークの先輩S口さんや、クラシックソムリエとなった当時の同僚のT中くんがいたりと、これまた楽しみ。情報誌時代の楽しみだった「はみだしYOUとPIA」が復活していたり、遊びゴコロも満載。提灯記事などではなく、本音で嬉しい限り。
「ぴあ」アプリのユーザー:エンタメ、文化を楽しんで人生を豊かにしようとする人のことを「ぴあニスト」と呼び、登録できるらしい。むむむっ!ネーミングは好みではないけれど、古巣の新サービスにひとつ乗っかってみるか♬
「ビストロ808に行きたい!」婚約のお祝いに、行きつけのワインビストロで食事をするか、ビストロ808で皆んなでお祝いするか、どちらが良い?と、可愛い娘(のような若い友人)に聞くとそんな嬉しい答えが返ってきた。よし、では幸福な2人のために、初夏の新作料理をつくろうじゃないか!「嬉しい♬早くIGAさんの料理食べたい」などとオヤヂ殺しのセリフを吐かれたら、シェフ(私)頑張ってしまうじゃないかっ!
「ビストロ808」は、不定期にOPENする小さな店。世田谷の外れにあるその店は、会員制ではないけれど、シェフの友人・知人である必要がある。メニューはシェフにお任せ。自分の飲みたいものを飲みたいだけ持参することがルール。かつて、キャリーケースを引きずってワインとビールを運んできた猛者たちもいた。日程を調整し、メニューを決め、仕込みを行い、作り置きメニューを用意し、ゲストたちの到着を待つ。
「結婚おめでとう!」新婚の2人をはじめ、次々とゲストが登場する。「初めまして!」「わぁ優しそうな彼だね」ひと通りの挨拶を済ませ、持参していただいたシャンパンで乾杯。その日は昼の営業にも関わらず、あっという間にボトルが空いて行く。なぜかこの店のゲストには飲んべが多い。そしてシェフとしてそこは心得ており、飲んべのためのメニューも多いのが特徴。ほぼ女子会のその日のメニューはサラダが中心。
最初の料理は「トマトのムース」だったはずが、順番を間違え、定番のキャロットラペにフレッシュなオレンジを添えた「キャロットラペ&オレンジ」と「紫キャベツのマリネサラダ」をサーブ。まぁ、そこは素人料理人のご愛嬌。「このムース美味しいっ!レシピ教えて」そう言われても、大雑把にはレシピサイトなどを参考にするものの、分量などはオリジナルでアレンジ。とても他人さまに教えることはできない。
「このカブのサラダ、キレーだし、爽やかで美味しいね」「サバのリエットはクリーム系?」さすが、常連のゲストだけあって定番料理の味の違いを見破られた。サバのリエットは鯖缶(水煮)を使った簡単料理。レシピ元を教えたらあっという間に友人たちの間に広まった。バターかクリームチーズを使う2種類のレシピがあり、その日はチーズ。「これ美味しいよね」とヴィロンのバケットと共に味わうお気楽妻も満足気。
タイのカルパッチョ、アスパラガスのミモザサラダ、季節のカプレーゼと夏らしいメニューが続く。「アスパラ太いのに柔らかくて美味しいけど、丁寧に剥いてあるんだね」「IGA-IGA、お料理教室やってよ!」うはは♬それは光栄だけど、閃きとアドリブで作っているから、教える知識は全くないし、食べに来てもらった方が嬉しい。お気楽な夫婦は、あくまでもお気楽なシェフとスーシェフ(妻)でありたいのだ。
定番のパテドカンパーニュ、ローストビーフを使った牛肉のサラダの後は、サプライズのケーキ。新婚2人へのお祝いのメッセージを入れていただいたフルーツタルト。地元の名店「プティ・ポワソン」のマコちゃんの絶品ケーキ。ケーキと一緒に写真を撮ろうと促すと、躊躇いもなく寄り添う2人。これが新婚の力だ。良いなぁ。初々しくも、すでに夫婦間の実権は奥さまが握っていそうな気配も良い。ん?何処も一緒か。
「皆さんキラキラしてるから、紹介するのに緊張してたんですよ」と新婚妻。キラキラして見えるのは、きっと自分が輝いているから、その反射で周囲も光って見えるのだろう。彼女の魅力は周りを明るくし元気にすること。彼女の発した忘れられない(ここに書けない)迷言も飛び出し、新婚オーラに包まれて、その日のビストロ808はいつも以上に楽しい空間だった。美味しい嬉しい時間(7時間!)だった。
このメンバーでの次回の開店は秋の予定。「ビストロ808」は不定期ながら好評営業中。予約応相談。完全禁煙。食べログ掲載不可。写真撮影可。未訪問の方も、いつかのご来店をお待ちしています。どうぞお楽しみに!