“想い”のおもひで「カリエール展」

Kari1Kari210代最後の年、旅先の倉敷の大原美術館でその絵に出会った。ウジェーヌ・カリエールの「想い」という作品。当時は名前も知らない画家の、その小さな絵の前でしばらく動けなかった。女性が片肘を付き、物思いに耽っている。色彩に乏しく、霧がかかったようにぼんやりとした輪郭。その女性の表情は悲しいのか、楽しいことを思い出しているのか、悩んでいるのか。見る人に委ねられているように曖昧で、見る人のその時の「想い」を表わすようでもあった。10代の私がどう捉えたのかは覚えてはいないけれど、しばらく飽かず眺め、すっかり魅了されてしまった。美術館を巡る旅がそれまで以上に好きになり、誰の絵が好きかと聞かれれば、迷わずカリエールの「想い」と答えることになる。10代の私に、誰もそんなことは聞いてはくれなかったけれど。

Kari3Kari420代最初の年、パリに2ヶ月弱の短期留学をすることになった。アリアンス・フランセーズという語学学校に通う、というツアー。入学初日にクラスを決めるテストを受け、学生証を発行してもらい、カルト・オランジュという定期券を買ってしまったらこっちのもの。2日目以降には全く通学せず、ルーブル美術館や印象派美術館(当時はオルセー美術館はまだ開館前だった)を見て回り、リュクサンブール公園をぶらつき、街のカフェで屯した。そのツアーの中に広島出身の女性がおり、帰省の度に立ち寄る大原美術館の「想い」が大好きなのだという話題になった。驚くべき偶然。運命の出会い?では、パリ市内にあるカリエール作品を一緒に見に行こうということになったものの、「想い」以上の作品には出会えず、彼女ともその後会うこともなかった。

Kari5Kari650代の最後を迎えようとしている今年、「カリエール展」が開催されるということを知った。副題は「セピア色の想い(パンセ)」。これは行かねばだ。カリエールの作品は、大原美術館所蔵の「想い」に限らず、“カリエールの霧”と称される幻想的な表現を使った作品が多い。例えば、美術展のメインビジュアルに使われている「手紙」という作品も、霧の中で子供を抱く母が手紙を読んでいる。その内容は嬉しい便りなのか、悲しい報せなのか、やはり鑑賞する側に任せされている絵に見える。ただ、「想い」と違うのは、抱かれる娘の明るく無垢な表情。けれども、それは嬉しい手紙の象徴なのか、悲しい便りとの対比を描いたのか、またしても曖昧で、淡い色調の中に秘められている。セピア色のパンセという副題通り、30年以上も前の記憶が懐かしく、甘酸っぱく蘇る。

Kari7Kari8Luckyだったね♬」53歳になったばかりの妻が言う。美術展を見た後、土地勘のない新宿西口を彷徨った。その後、何となく入った中華料理屋が“当り”だった。パリパリの羽根つき餃子、合菜戴帽(野菜炒めの上に帽子のように巻いて焼いた卵を被せてある)などが素早く出てくる。失礼ながら期待できない店構えにも関わらず、メニューは豊富、味もそこそこ、お値段は手頃という小さな幸福。団体客で賑わう狭い店内は、大声で会話しないと相手の声が聞こえない。日本語が余り上手ではない店員が、変な日本語でオーダーを繰り返す。ふだんならイライラするシチュエーションでも、余裕を持って笑って楽しめる。ネガティブな状況もポジティブに捉えれば楽しみに変わる。受け手に感情を委ねるのは、絵画も料理も一緒…なのかもしれない。違うか(笑)。

60歳近い今の方がずっと若々しいなぁ」20歳の頃の私の写真を見て妻が言う。まぁね。何者かになろうとして、何者になれるのかを想い、迷ったり、足掻いたり、そんな“こっ恥ずかしい”時代だった、んだよ。ねえ?40年間という時間を挟んだ、10代最後の齢の私に話しかけた。返って来た彼の想いは…。

オトナの修学旅行「つくば/第2日」

Tsukuba1Tsukuba2学旅行と言えば、社会科見学。“学園都市”とか“研究学園”と名乗るつくば市には、社会科見学に相応しい施設に事欠かない。「JAXAに行く前に、エキスポセンターの前を通るね。HⅡロケットの実物大模型があるんだよ」社会科見学のメイン施設であるJAXA(宇宙航空研究開発機構)筑波宇宙センターまでのルートまで工夫してくれるマダムの気遣いの細やかさ。「あ、国土地理院もあるけど、行ってみる?」「おぉっ!行く行く!」地図好きのお気楽妻がすかさず食いつく。彼女は地図が大好物で、飽きず眺めることができる。国土地理院の地図と測量の科学館は、入場無料。エントランスを入るとすぐに、赤と青のメガネを使って3Dに見える巨大な日本地図が待っていた。

Tsukuba3Tsukuba4ぁ〜っ!すごい」北海道から沖縄までフロアいっぱいに広がる日本地図が壮観。地域ごとに載っている地図帳では分からない、東西南北に広い日本を実感し、その距離感を体感する。「石垣島って遠いんだね」「関東平野は平らだねぇ」時間を忘れ、真剣に見入る修学旅行生たち。その上、屋外にはタイルに詳細な地図を焼き付けた地球儀。「ここ愉しい〜」国土地理院様、さすがです。テンションアゲアゲのままでJAXAに向かう。モニターに映し出される“地球の出”、ロケットの実物大模型、これまたオトナの子供心をくすぐりまくり、実に愉しい。売店では宇宙食を販売していたり、屋外ではHⅡロケットの模型の前で記念撮影ができたり、サービス精神に溢れる施設。

Tsukuba5Tsukuba6くば、良いトコだね♬」長野LOVEの友人が呟く。ん、同感。道路は広く、数多い研究施設の前庭には芝生と植栽が配され、まるで欧米の郊外都市の風景。赤い看板も少なく、街並みも美しく整っているから、雨のドライブも車窓の風景を眺めるだけでも心地よい。と、たっぷり真剣に社会科見学を楽しんだこともあり、腹が空く。当初は筑波山に登り、蕎麦を食べに行こうという計画だったが、雨天のため中止。前夜の料理を食べきれなかったから、それをいただこうというオトナの修学旅行に相応しい柔軟な予定変更。昼からビール、そしてスパークリングワイン。満腹のため、手を付けられなかった「Coq au vin(鶏のワイン煮)」などをいただく。シミシミで旨し。

Tsukuba9Tsukuba8しくって延泊しそうな勢いだなぁ」美味しく楽しくワインがススム。心地よく酔い始め、皆んな自然にハシャギ始め、長野LOVEの友人のおふざけモードが上がってくる。すっかりびぢん台無し。「ねぇねぇ、バドミントンやろうか!」とマダムの突然の提案。え”?ウチの中で?確かに天井は高いし、十分なスペースはある。すると彼女が持って来たのは、柔らかいネットが張ってあるなんちゃってバドミントンラケット。真っ直ぐに打ってもあらぬ方向にシャトルが飛んで行く。「総当たり戦やろ〜」「長く続いた人が勝ちにしよう」皆んなノリノリで、かつ真剣に対戦するも、思うようにラリーが続かず、大笑い。…と、遊び疲れ、飲み過ぎで、ソファに沈み込む引率の先生(私)。

たおいでねぇ」「うん、すぐにでも来たぁい」改札前のハグでお別れ。結局昼過ぎから夜まで飲み続け、TXの車内でもテンション高いまま、写真を撮ったり、メッセージを送ったり。「あっ!リゾット食べるの忘れてた!」と長野LOVEの友人が叫ぶ。では、次回はリゾットを食べに行こうか。それにしても、マダムのホスピタリティの高さに甘え、楽しみ切った2日間だった。Thanks マダム♡

オトナの修学旅行「つくば/第1夜」

Tsukuba1Tsukuba2くばって意外と近いよ。IGAちゃんたち、みんなで遊びにおいでよぉ♡」ご主人の転勤に伴い、世界を股にかけて(笑)引越しを続けてきたスカッシュ仲間、通称マダムから熱烈なお誘いがあった。ジュネーブやらワシントンD.C.を経て、彼女の現在の住まいはつくば学園都市。「修学旅行に行く!」彼女を姉と慕うお気楽妻が声を上げる。「行こう行こう!JAXA行きたいし」故郷長野LOVEのスカッシュ仲間が続く。ではと、引率の先生(私)が軽い腰を上げ、メンバーの日程を調整。ある週末、TX(つくばエクスプレス)に飛び乗った。「IGAちゃん、いらっしゃぁ〜い!」改札口でハグの歓迎を受け、ご新居に向かう。駅から徒歩2分。コンシェルジュが常駐する豪華マンションだ。

Tsukuba3Tsukuba4しみにしてたんだぁ♬」リビングのドアには「OPEN」のサインプレートが掛かり、秋らしい色合いでセッティングされたダイニングテーブルには「RESERVED」のプレートが置いてある。さすがはもてなし上手のマダム。「喉乾いてるでしょ、飲も!飲もう!」さっそく乾杯。「皆んなにいくら飲んでもらっても良いように、これ買ったのよ」見ると、テーブルの横にはワインセラーにワインやペリエが収納されている。すごい!そしてパプリカのムースなど、マダム手作りのオードブルが彩り美しく盛り付けられ、次々に供される。凄すぎ。どれも見目麗しいだけでなく、繊細で美味しい。「IGAちゃんのビストロ808の姉妹店になれるかしら」って、参りました。

Tsukuba5Tsukuba6クアパッツァ出すの忘れてた!」忘れるにしては大物すぎの鯛やムール貝、アサリがたっぷりの一皿が登場。これまたゼータクに美味しい。「例のチーズもあるよ♬」出てきたのは、Tête de Moine(修道士の頭) というセミハードタイプのチーズ。ジロールという専用の削り器を使って、花びらのように薄く削いで食す。スイスに駐在していた頃に食べて気に入ったもので、この日のためにチーズをネットでオーダーしたのだという。ん、匂いは強いが旨味のあるチーズ。口の中でホロホロと溶けていく。これはワインが進んじまうぜぃ!と何本目かのワインが空になる。それにしても、細部までマダムの気遣いを感じさせる料理であり、器であり、セッティング。感激、そして感謝。

Tsukuba7Tsukuba8ぁ〜、いらっしゃい。お久しぶりです」帰宅したご主人と挨拶もそこそこに、すっかり寛いでパジャマ姿になり、カラオケ三昧。彼とは以前の赴任先のワシントンD.C.で初めてお会いして以来。そして2度目はつくばでカラオケ(笑)♬長野の友人の余りに上手な歌に、皆で大笑い。すっかりツボに入った私は吉本新喜劇並みのコケを繰り返す。「どこまでカラオケの音が響くか、ベランダに出てみたり、廊下に出たりしたんだけど、ダイジョーブだと思うよ」一緒に歌って踊りながらも、気遣いの人マダム。けれども楽観的でもあり、自分も心から楽しみ、弾けてくれる。そんな様子がゲストを心地良くさせてくれる。それが彼女のホスピタリティの真髄であり、彼女の魅力だ。

は何を歌いますかぁ♬」ご主人はすっかりカラオケの虜。と、何曲か歌っている内に、いつの間にか深夜。引率の先生も調子に乗りすぎた。「さぁ、消灯時間をとっくに過ぎてますよぉ」すっかり宿の女将に変身したマダムに催促され、マンションの別棟にあるゲストルームへ。会社帰りにつくばに向かう我々の荷物が少なくて済むようにと、タオル、パジャマなど宿泊に必要な備品をほとんどを揃えて迎えてくれた彼女。完璧。民泊ビジネスもできそう。そんな彼女に感謝しつつ、修学旅行第一夜終了。…翌日に続く。

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SINCE 1.May 2005