マダム!還暦♡「ビストロ トロワキャール」

60−160−2暦とは、干支が一回りして産まれた年の干支に戻る歳を指す。十干十二支が一巡する(10と12の最小公倍数)60年が経つと、生まれ年と同じ干支になる。今年の干支は丙申(ひのえさる)だから、60年前の1956年が同じ丙申だった訳で、つまり暦(こよみ)が還る=還暦という訳だ。生まれた時に帰るという意味で、かつて魔除けとして赤い産着を使ったことから、還暦には赤い衣服を贈って祝う風習が残ったらしい。母方の祖母が還暦のお祝いをした頃、私は小学生だった。母は長女で、私が長男だったから、祖母にとっては初孫。小学生の私にとって、還暦の祖母は堂々たる“おばあちゃん”だった。60歳という年齢は途方もなく先だった。果てしなく生きた後に訪れる年齢だった。ところが…。

60−360−42月生まれの合同誕生会をやろう!そんな企画が持ち上がった。裏には、スカッシュ仲間の“マダム”の還暦をお祝いするというメインテーマ。会場は「ビストロトロワキャール」。2月生まれのスカッシュ仲間5人が週末のランチタイムに集まり、お互いにお祝いしようという体裁。飲んべメンバーは抜栓代を支払い、泡、白、赤と担当を決め、自分の好みのワインを1本持ち込んだ。そして還暦のマダムに敬意を表するため、サムシングREDを身に付け集合。赤いセーター、腕時計のベルト、赤い石のリング、赤のストライプのシャツ。「何も見つからなくって!」というメンバーには、店から赤いチェックの膝掛け。その日の主役は、息子さんからのプレゼントの真っ赤なストールを纏って。

60−560−6杯!誕生日おめでとう♬」2月生まれが5人!偶然とは言え、すごい割合だ。お祝い気分が倍増。料理はと言えば、相変わらず絶品のオードブル盛合せ、メインの厚切りローストビーフも感涙ものの美味しさ。ランチメニューだからお得でもある。「ところで、皆んなはそれぞれ幾つなの」最年長のマダムからならそれが聞ける。「私はIGAIGAと一回り違いで…」「私は…」スポーツをやっていることもあり、みんな年齢よりずっと若々しい。が、何と言っても驚異の60歳、マダムだ。悩むこともあるけれど、基本はポジティブ。大酒は飲むけれど、体型維持を心がける。子供たちは独立したけれど、家族の絆は強い。大らかだけど、気遣いの人。そのバランスの良さが若さの秘訣か。

60−760−8ダム、おめでとうございます♬」デザートは、店のマダムまゆみちゃんにお願いしてあったバースデーケーキ。誕生日の方の名前を教えて欲しいと言われ、書き切れないと思うけどと全員の名前を伝え、メインは60歳のマダムだと言ってあった。後はお任せ。そして、その結果は、大きく「60」と形取ったパイ生地の巨大なケーキだった。お願いしたお気楽夫婦にとってもサプライズ!その上、ケーキを乗せたプレートに全員の名前が。素晴らしい!そのタイミングでメンバーからは赤い石の付いたペンダントをプレゼント。当日出席できなかったメンバーにも参加いただいたメッセージカードを添えて。「わぁ〜、ありがとう!嬉しいなぁ」そして皆んなで記念撮影。愉しい会だ。

暦すなわち60歳は、20歳×3ということで、3度目の成人式、新たなスタートだと言う人もいる。マダムを見ていると、その通りだと思うことがある。彼女は新たな場所で、夫婦揃って新たなスタートを切った。彼女は言う。「100歳までは40年もあるね。何かをはじめたらその頃はプロ級だね」かつては定年、引退の歳だった60歳は、今や新たに何かを始めることができる歳なのだ。「IGAちゃんもすぐだね。早くおいで!」う〜っむ、そうなのだ。還暦まであと2年。永遠に巡って来ないと思っていた60歳は、すぐ目の前にある。年齢を重ねることは決して悪くない。楽しみでもある。区切りの歳で私は何をしているんだろう。何をしたいと思っているのだろう。「呑んだくれてんじゃない?」お気楽妻の予言は正鵠を射る。

バレンタインの悲劇、あるいは喜劇「豚風〜BAR808」

NikuNiku2IGAさんたちはホルモンとか食べられますか?」一緒にスカッシュで汗を流した後、飲みに行こうぜ!とお誘いしたところ、スカッシュ仲間のご夫婦から逆にそう尋ねられた。「白いヤツじゃなかったら大丈夫だよ」とお気楽妻。私は大好きだと答える。「じゃあ、今日は僕らが良く行くホルモンの店に行きましょう!」詳しく聞いてみると、店の名前は「豚風(とんぷう)」というホルモン専門店。お気楽夫婦も何度か訪ねたことがある店だった。「移転してキレーになったんですよ」と肉部の幹部でもある友人。確か以前の店は、テーブル毎に備え付けられた小さなコンロの炭火で焼いたホルモンが絶品の店だった。ただし、煙もくもく、油臭まみれ。決してこぢゃれた店ではなかった。

Niku3NIku4シャレな店になったねぇ〜」お気楽妻が驚く程、小ざっぱりとした店構え。明るく清潔な店内。「何が良いですか」「お任せするよ!」そんな友人(夫)とお気楽妻の会話の後、「ハラミ…(以下覚えていない)お願いします!」と手際良くオーダー。出てくる各種ホルモンを段取り良く焼いていく。食べ頃になると取り分けてくれる。「つくねはパプリカと一緒にどうぞ」「うん、美味しい♬」ん、んまいね。お気楽夫婦は次々にホルモンを頬張るだけ。お大尽気分。苦しゅうないぞ。ビールからワインに飲み移るが、早い時間からスタートしたこともあり、それでも7時過ぎ。なんだか嬉しく、楽しいぞ!2軒目「BAR808」行く?「えぇ〜!良いんですかぁ」遠慮がちながら目は輝く2人。

Niku5NIku6インだけでも買っていきますよ」途中で買物をするという友人夫妻を残し、先を急ぐお気楽夫婦。イチゴを買い込み、デザートとチョコレートの準備をする。急な訪問客とは言え、バレンタインデーは間近だ。「乾杯♬」ワイン好きでもある友人夫妻。ご機嫌にワインをぐびぐび。どうやら好みのワインも買えたらしい。軽めのスナックをおつまみに、さらにぐびぐび。「わぁ〜っ!これどうやって作ったんですか!美味しい!おしゃれ!」友人(妻)が驚いた皿は、クリームチーズにティリキュールを注ぎ、イチゴを周りに添えたもの。彩りも美しく、なかなか美味しい。妻のアドリブだ。やるじゃないかスーシェフ。さらにワインをぐびぐび。いつの間にか何本目かのワインが空になる。愉しい夜だ。

Niku7Niku8ッピーバレンタイン♡」良い感じで酔っ払ったところで、お気楽妻から友人(夫)にチョコレートのプレゼント。「うわぁ!嬉しいです♬」「こんな豪華なやつ、貰ったことないんじゃない?私はIGAさんに買ってあったやつ、ウチに忘れてきたんです(涙)」ご機嫌な友人(夫)と残念そうな友人(妻)。その上、友人(妻)は酔いが回って眠そうな気配だ。「そろそろ帰りの時間を気にしなきゃだよ」比較的冷静な友人(夫)が気にしながらも、もう1杯どう?と私が差し出したシングルモルトのストレートをぐびり。「旨い!」電車の時間を気にする彼らは、調布から練馬に居を移し、以前よりも帰路が長くなったという事情もあった。それが“あの悲劇”を生むことになるなど、誰も知らなかった。

んで… こんなところに… いるのだ… しょうがない… 昨日が楽しすぎたから…」翌朝、友人(妻)のFacebookのタイムラインにマックらしい店内の写真。多摩センターにいます、とのチェックインも。え?練馬ではなく多摩センター?聞けば、酔っ払い夫婦2人、気が付くと多摩センター駅前のマクドナルドのレジ前のテーブルで、突っ伏して寝ていたらしい。その途中の記憶はブラックアウト。酔いつぶれて新宿で折り返したのか、以前の自宅方面へと電車に乗り間違えたのか、今となれば誰も分からない。「お客様、せめて何かご注文いただけますか」と目覚めた友人(夫)はスタッフに懇願され、友人(妻)はスマイル0円じゃない!と憤慨する。「こんな2人ですが、今後もよろしくお願いいたします」とメッセージ。うはは!止めろと言われても止められません、こんな大切なお友だち♬(笑)

誕生日の夜に♡「逆鱗/NODA MAP」

BD1めて野田秀樹の舞台を観たのは、1986年の秋だからちょうど30年前。前職のぴあ社に入社して間もなくの頃。既にメジャーな存在になっていた劇団夢の遊眠社の「小指の思い出」、本多劇場での第31回公演だった。野田が東大演劇研究会在籍中に立ち上げ、駒場小劇場を拠点に活動していたアマチュア劇団がプロに転じ、同年1986年夏には創立10周年企画として国立代々木競技場第一体育館で「彗星の使者(ジークフリート)」などの3部作を一挙上演したばかりだった。“小劇場”演劇の第3世代の旗手として、圧倒的な人気だった。「明るい冒険」「走れメルス」「半神」「透明人間の蒸気(ゆげ)」など、毎公演欠かさず劇場に通った。チケットが手に入れば…。そうなのだ。当時から野田の舞台のチケットは入手困難だった。1992年に遊眠社解散後、イギリス留学を経て、帰国後1994年にNODA MAP立ち上げて以降、野田の舞台の人気は衰えることなく、今に至っている。もちろんお気楽夫婦は大ファンだ。

BD2田のチケット抽選申し込み、金曜日で良いかな」チケット予約担当の妻からそんな確認を受けたのはずいぶん前。すっかり日程は忘れていた。そして公演当日。思い出せば去年も、そして今年も私の誕生日の夜に、なぜかNODA MAPの観劇なのだった。2016年は「逆鱗」。まだロングラン公演の序盤だから、ネタバレ的な記載はできないが、見終わってふらふらとしてしまう舞台だ。野田秀樹の才能に打ちのめされて、くらっと来る。物語の序盤から相変わらずのことば遊びで綴られた流れが、終盤に一気にことばとことばが繋がり始め、意味を持たなかったことばたちが意味を持ち、レトリックが現実となり、物語が収束していく。冒頭から何枚ものミラーパネル、透明パネルを使った巨大な水槽が目の前に現れる。シンプルな舞台セットなのに、いやシンプルだから、ステージが深く感じられ、広がりを味わうことになる。何度も鳥肌が立つ。メインキャストの舞台中央への現れ方が素晴らしい。快感でさえある。

BD4レゼントだよ。何もないのも淋しいからね」終演後に、予約もなしで入った店で、妻がそう言って渡してくれたのは『野田秀樹と高橋留美子』というタイトルだけで嬉しくなる本だった。毎年、誕生日前後の週末に都内のホテルに宿泊し、友人たちを招いてお祝いをするのが恒例だった。それが自分の欲求も叶えることができる、ホテルジャンキーの妻からのプレゼント。ところが、今年は予約したホテルを直前にキャンセル。妻の風邪がその理由だった。そんなタイミングでの誕生日。どうやら会場で慌てて購入したモノらしい。「それにしても野田は凄いね」妻が余韻を味わうように呟く。松たか子はさすがだ。阿部サダヲが美味しくて良い役どころだった。井上真央を初めて評価した。満島くんってどこかで見たと思ったら、松重豊と一緒に出てる名刺管理のSanSanのCMだ!そんな勝手なことを言い合いながら、まるでお祝いはついでのように「誕生日おめでとう!」ありがとう、と乾杯をする。

BD3南アジアのどこかの街のフードコートみたいな店だよね」妻のそんな声は、自分から発せられたものかと思った。全く同じタイミングで、同じことを感じていた。一緒に暮らして20年余り、同一化しつつある2人。新宿西口の小田急ハルクの地下にあるレストラン街だから、ハルチカ。レストラン街と呼ぶよりは、飲み屋街と言った方が相応しい。どうやら自らも食堂酒場と称しているようだ。韓国家庭料理あり、お好み焼きあり、焼きトンの店の名前は「ブビタミン」だし、串カツなら「でんがな」という直球勝負の店が境界なく連なる。そして何となく空いている席に座ったら、「オリーブ+オリーブ」というスペインバルのテリトリーだった。どこに座ってもどの店の料理をオーダーできると思い込んだ2人は、偶然にもその日の気分にぎりぎりフィットする店に当たったようだった。タパスの盛合せ、シーザーサラダ、砂肝のアヒージョなどをつまみながら、ジャンクな気分を堪能する。何だか楽しいぞ。

ぇ〜っ」と風邪で涙目の妻が深呼吸をする。その日は舞台の後は真っ直ぐに帰ろうと気遣ったにも関わらず、どうしてもお祝いの乾杯をしようと主張した妻。ありがたいし、嬉しかったけれど、さすがにそろそろ限界が近づいたようだ。もう帰ろうか。58歳になった夜、残りの人生について思い煩うことなく、お気楽に誕生日を迎えることができる幸福。大勢の方からお祝いのメッセージもいただいた。SNSでは繋がっていない、強制的に誕生日を知らされることのない(笑)古い友人からメールが届いた。ありがたいことだ。こうして、いろんな意味で記憶に残る1日が過ぎていった。多くの方のご期待通り、また1年、お気楽に歳を重ねよう。

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SINCE 1.May 2005