傘寿と喜寿と浜松で。「オークラアクトシティホテル浜松」

Sanju1Sanju2松に住む義父が80歳を迎えた。80を漢字で書くと八十、縦に書くと「傘」の略字に似ていることから、傘寿(さんじゅ)という年祝いの年齢だ。義母は77歳で、喜寿のお祝いの年。であれば、2人一緒に祝おうと妻と一緒にイベントを企画した。年末恒例の温泉旅館での宿泊を近場のホテル泊に変え、彼らにはスイートルームに泊まってもらい、お祝いしようという作戦。選んだホテルは、「オークラアクトシティホテル浜松」という駅前にある超高層ビルの上層部にあるホテルオークラ系の高級ホテル。ジムやプールなどのヘルスクラブが充実し、展望風呂もある。いつもの温泉旅館は部屋から大浴場までの距離が遠く、滞在中に何度も延々と歩くのが辛いという義母にもぴったり。

Sanju3Sanju4松といえばウナギ!という人も多いが、ヤマハ、カワイ、ローランドなどの世界的楽器メーカーの本社があることで知られる楽器の街でもある。ホテルが入居するアクトタワーはハモニカをモチーフにした外観で、浜松で唯一の超高層ビル(地上45階)であり、街のランドマーク。ホテル内部には音楽に関係する意匠が多く、エレベーターのドアには五線譜が記され、ボタンはヴァイオリン、上下を表すランプはピアノ型。そんな遊びのデザインを発見するたびに楽しくなる。客室はオーセンティックな内装で、ちょっとセクシー度が足りず、お気楽夫婦はやや不満。けれども老いた義父母にとっては「ゼータクだねぇ」という感想になる。お祝いするに相応しいハレの空気感はある。

Sanju5Sanju6宴はホテル内ではなく、「柚露(ゆうろ)」というくずし割烹を予約した。膝の悪い義母向けに椅子で座れる個室があり、主賓用にお祝いの水引を配してくれる細やかな気遣いの店。食事の前にスタッフからもおめでとうございますと挨拶され、まずは家族3人の記念撮影。さて乾杯というところで、義父が「ちょっと良いですか」とことばを挟んだ。「今日はありがとうございます。少しお礼のことばを述べさせてください」と、他人行儀な前置きで、ことばを詰まらせながら訥々と挨拶をする。ふだんはことば少なく、感情を表に出さない義父が、つっかえつっかえ発することばは胸を打つ。良かった。楽しみにしてくれていたのだ。これだけでも企画した甲斐があったというものだ。

Sanju7Sanju8宴の翌日、冬晴れの朝、しみじみと妻が言う。「遠出はしなくなったし、暗くなったら出掛けないって、行動範囲は狭くなったけど、まずまず元気でいてくれて良かった」本当に、心からそう思う。私の父も母も、何年かの闘病生活の後、病床で逝った。義父母は寿命よりも健康寿命、元気で何歳まで生きられるかを考えているはずだ。義父の挨拶の中にも「認知症にならないよう」と祈るような抱負があった。朝食の後、義父と一緒に遠州灘まで一望できる展望風呂に浸かりながら、珍しく長めの会話を交わす。自分で運転できなくなったら、車なしで行き易いスポーツクラブはどこか、どのクラブのプールが充実しているか。…うぅむ。やっぱり親娘だ。根っからの健康お気楽志向だ。

は70歳までスカッシュやるよ」それが妻の目標。いやいや、80歳までスカッシュできますって、あなたなら。今年の抱負はと尋ねると、「身体を鍛えるってことかなぁ」って、毎年同じか?とは言え、離れてはいても遠く義父母の生活を見守りつつ、自らの健康を維持する。一人娘の望みは、きっとそこにもあるのだろう。了解。お気楽夫婦の父母は、彼らしかいない。義父母のために浜松へ、お気楽妻のためにスポーツクラブへ、今年も一緒に出かけよう。

優しい気持ちになれる店で♬「ビストロ トロワキャール」

Trois1Trois2しぶりぃ!」「元気だった?」馴染みの店「ビストロ トロワキャール」に忘年会という名目でスカッシュ仲間が集合した。サーモンのミキュイ、絶品オードブルの盛り合わせからスタート。相変わらずひとつひとつが丁寧で繊細な仕上がりの料理に合わせ、シャンパンをボトルでオーダー。さらには白ワイン。飲むほどに饒舌になり、美味しい料理に会話も弾む。シェフの聡ちゃんがオススメしてくれる肉料理をオーダーし、赤ワインをいただく。「酔っ払う前に、IGAIGAのお題をやろうよっ!」事前にメンバーに連絡していた企画は、忘年会らしい振り返り企画「今年の一文字」ではなく、来年どんな年にしたいか、「来年の一文字」をコメント付きで発表すること。さてと。

Trois3Trois4は“継”、継ぐという字かな」何人かの発言の後に妻が発表した。自分だけが担当していて、他のスタッフにとっては“ブラックボックス”になっている業務を誰かに引き継いでおかねば、ということらしい。すぐに退職する訳ではなくても、多くのスタッフに伝えられない職人的な仕事は、一子相伝(笑)で継承する必要があるのだろう。そして私は「育」という一文字。育てるの「育」ではなく、育む。育むとは、包み込んで大切に育てるという意味。子供がいないお気楽夫婦にとって、育む対象は子供ではなく、友人たちとの関係であり、夫婦の関係。実は、その日の会食も単なる忘年会ではなく、大切な友人のひとり“マダム”が、予想外の展開で赴任先から帰国したお祝いだ。

Trois5Trois6夏の頃、その日と同じトロワキャールで、ほぼ同じメンバーで彼女の海外赴任の壮行会を開催した。けれども、渡航先の某国の情勢のために早々に帰国。来年には渡航先に遊びに行くぞ!と言っていたのにすっかり肩透かし。とは言え、いつでも会える友人の帰国はめでたいぞ!とお祝いするのが忘年会の裏企画。ジューシーなシェフ自慢のステーキをいただいた後、実に絶妙なタイミングで、サプライズ企画“おかえりなさい!マダム”ケーキの登場。店のマダムまゆみちゃんに、こっそりお願いしてあったケーキだ。仲間の歓声と、あらためての「おかえりなさい!」の声にマダムの目が潤む。「みんな、ただいま。どうもありがとう」泣いてもキレーな美人さんはこんな時に得だ。

Trois8Trois7つの間にか何本も空いたワインボトルが並ぶテーブルにシェフの聡ちゃん、マダムのまゆみちゃんが揃って顔を出してくれた。彼らの温かさと明るいキャラクターがこの店の柔らかな空気を作っている。この店だからこそ、リラックスして味わえる。ワイワイと気兼ねなく(オトナの節度は持ちながら)話ができる。その居心地良さに甘え、その日も最後の客になった。そうなのだ。大切にし、育んでいきたいのは仲間たちとの関係だけではなく、こんな店との関係だ。この店で味わうべきは、料理だけではなく、気のおけない仲間たちと過ごすこんな嬉しい時間と空間だ。どちらも人を優しい気持ちにしてくれる、大げさに言えば、人が元気に生きていくのに必要なものだ。

年会はビストロ808で!」その日参加したメンバーからのリクエストで、新年早々に「ビストロ トロワキャール」の姉妹店(と言うにはおこがましいが)ビストロ808の開店が決定した。師匠の店と同様に、心を込めた料理とおもてなしのココロで、お待ちしています♬

幸福な気持になる料理♬「用賀 本城」

Honjo1Honjo2べるといつも幸せな気持ちになるんだよね♬」本城さんの料理を味わう度に妻は微笑む。初めて二子玉川の「たん熊 北店」で出会ってから約10年、独立されてから6年余り、その間ずっと季節ごとに、通算数十回の幸福を2人で味わってきたことになる。そして、その幸福の味を共有したいと思う友人たちを誘い、ご一緒してきた。2人が訪れた回数の大半は友人たちとの会食だった。そう思い指折り数えると、おそらく20人以上の友人たちと一緒に口福を味わったことになるようだ。こっそり2人だけで伺いたい秘密の店ではなく、仲間と一緒に楽しく味わいたい店。あの人をお連れしたいと思わせる店。なぜだろうと考えてみたら、答えはすぐに出た。その秘密は、カウンタ席にある。

Honjo3Honjo4城さんの出身「たん熊 北店」は、カウンタ割烹の先駆けである京料理の名店。本城さんの料理は、たん熊で培ったであろう伝統の技の上に、オリジナリティ溢れる料理が新たに生まれ、選び抜いた器の上で輝いている。本城さん独自の味があり、彩があり、演出があり、そして何よりも料理に対する愛情がある。人懐っこい笑顔の本城さんとの会話がスパイスになり、料理の味を一段と引き立たせる。カウンタの向こうの調理場がエンタテインメントのライブステージになり、観客である我々を楽しませる。これこそがカウンタ席でなければ味わえない愉しみだ。だからこそ、予約はカウンタ席が最上であり、中でも本城さんと相対する左端の席こそがベストシートとなる。

Honjo5Honjo6望の本城デビュー!嬉しいです」その日ご一緒したのは、スカッシュ仲間のご夫婦。ワインをはじめお酒全般が好きで、美味しいモノが大好きな2人。お連れするにはぴったり。その上、予約できたのはカウンタ左側の4席。デビュタントにとってはこれ以上ないベストシート。まずはビールで乾杯。「うわ〜!キレーで繊細な味ですねぇ♬」先付けの香箱ガニでいきなり舌の上に鋭いパンチをくらい、軽くダウン。続く生うにとあん肝の酢の物で、食材の組合せの絶妙なバランスに早々にTKO寸前。ここで素早く日本酒に移り体制を整える。ところが、牡蠣と白子の餡掛け、そしてお造りと攻め続けられ、軽く炙ったメジマグロを柚子胡椒でいただくスモーキーな一品に悶絶。KO。

Honjo7Honjo8すぎです、どの皿も」「あざっす」飲むほどに饒舌になり人懐こくなる友人夫妻に、本城さんもリラックスした笑顔で応える。彼らのデビューは上々だ。椀モノではダイコンとニンジン紅葉の下に沈むのはフカヒレ、ノドグロの焼き物の皿の上に散った板ウニのイチョウ、見目麗しく箸で崩すのが惜しい京料理の数々。「え?これ食べないの?」「大事に取ってあるの!」板ウニを焼いたイチョウは夫婦間で取り合いバトルが勃発。次々にお銚子が空になっていく。そしてアワビと貝三昧で少食のお気楽夫婦は終了。「お二人はご飯とデザート行かはりますか」「もちろんです!」友人夫妻が声を揃える。そして、焼きフォアグラ乗せ青海苔餡掛けご飯に声を震わす2人。幸福そうだ。

ぇ〜っ!持ってないの?」「そっちこそ!」本城ご夫妻に見送られ、今年もお世話になりましたと年末の挨拶をして店を出る。ところが、お互い相手の財布を期待していた2人の所持金不足が判明。何とも最後まで愉快な2人だ。まさか寸借詐欺でもあるまい。では、来年お会いする時までお貸ししよう。「夢のような本城デビューから、借金までしてしまい…こんなダメ夫婦ですが、これからも宜しくお願いします」翌日届いたメッセージにお気楽妻が微笑んだ。次回また、あの幸福のカウンタでご一緒に♬

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