バレンタインの悲劇、あるいは喜劇「豚風〜BAR808」

NikuNiku2IGAさんたちはホルモンとか食べられますか?」一緒にスカッシュで汗を流した後、飲みに行こうぜ!とお誘いしたところ、スカッシュ仲間のご夫婦から逆にそう尋ねられた。「白いヤツじゃなかったら大丈夫だよ」とお気楽妻。私は大好きだと答える。「じゃあ、今日は僕らが良く行くホルモンの店に行きましょう!」詳しく聞いてみると、店の名前は「豚風(とんぷう)」というホルモン専門店。お気楽夫婦も何度か訪ねたことがある店だった。「移転してキレーになったんですよ」と肉部の幹部でもある友人。確か以前の店は、テーブル毎に備え付けられた小さなコンロの炭火で焼いたホルモンが絶品の店だった。ただし、煙もくもく、油臭まみれ。決してこぢゃれた店ではなかった。

Niku3NIku4シャレな店になったねぇ〜」お気楽妻が驚く程、小ざっぱりとした店構え。明るく清潔な店内。「何が良いですか」「お任せするよ!」そんな友人(夫)とお気楽妻の会話の後、「ハラミ…(以下覚えていない)お願いします!」と手際良くオーダー。出てくる各種ホルモンを段取り良く焼いていく。食べ頃になると取り分けてくれる。「つくねはパプリカと一緒にどうぞ」「うん、美味しい♬」ん、んまいね。お気楽夫婦は次々にホルモンを頬張るだけ。お大尽気分。苦しゅうないぞ。ビールからワインに飲み移るが、早い時間からスタートしたこともあり、それでも7時過ぎ。なんだか嬉しく、楽しいぞ!2軒目「BAR808」行く?「えぇ〜!良いんですかぁ」遠慮がちながら目は輝く2人。

Niku5NIku6インだけでも買っていきますよ」途中で買物をするという友人夫妻を残し、先を急ぐお気楽夫婦。イチゴを買い込み、デザートとチョコレートの準備をする。急な訪問客とは言え、バレンタインデーは間近だ。「乾杯♬」ワイン好きでもある友人夫妻。ご機嫌にワインをぐびぐび。どうやら好みのワインも買えたらしい。軽めのスナックをおつまみに、さらにぐびぐび。「わぁ〜っ!これどうやって作ったんですか!美味しい!おしゃれ!」友人(妻)が驚いた皿は、クリームチーズにティリキュールを注ぎ、イチゴを周りに添えたもの。彩りも美しく、なかなか美味しい。妻のアドリブだ。やるじゃないかスーシェフ。さらにワインをぐびぐび。いつの間にか何本目かのワインが空になる。愉しい夜だ。

Niku7Niku8ッピーバレンタイン♡」良い感じで酔っ払ったところで、お気楽妻から友人(夫)にチョコレートのプレゼント。「うわぁ!嬉しいです♬」「こんな豪華なやつ、貰ったことないんじゃない?私はIGAさんに買ってあったやつ、ウチに忘れてきたんです(涙)」ご機嫌な友人(夫)と残念そうな友人(妻)。その上、友人(妻)は酔いが回って眠そうな気配だ。「そろそろ帰りの時間を気にしなきゃだよ」比較的冷静な友人(夫)が気にしながらも、もう1杯どう?と私が差し出したシングルモルトのストレートをぐびり。「旨い!」電車の時間を気にする彼らは、調布から練馬に居を移し、以前よりも帰路が長くなったという事情もあった。それが“あの悲劇”を生むことになるなど、誰も知らなかった。

んで… こんなところに… いるのだ… しょうがない… 昨日が楽しすぎたから…」翌朝、友人(妻)のFacebookのタイムラインにマックらしい店内の写真。多摩センターにいます、とのチェックインも。え?練馬ではなく多摩センター?聞けば、酔っ払い夫婦2人、気が付くと多摩センター駅前のマクドナルドのレジ前のテーブルで、突っ伏して寝ていたらしい。その途中の記憶はブラックアウト。酔いつぶれて新宿で折り返したのか、以前の自宅方面へと電車に乗り間違えたのか、今となれば誰も分からない。「お客様、せめて何かご注文いただけますか」と目覚めた友人(夫)はスタッフに懇願され、友人(妻)はスマイル0円じゃない!と憤慨する。「こんな2人ですが、今後もよろしくお願いいたします」とメッセージ。うはは!止めろと言われても止められません、こんな大切なお友だち♬(笑)

誕生日の夜に♡「逆鱗/NODA MAP」

BD1めて野田秀樹の舞台を観たのは、1986年の秋だからちょうど30年前。前職のぴあ社に入社して間もなくの頃。既にメジャーな存在になっていた劇団夢の遊眠社の「小指の思い出」、本多劇場での第31回公演だった。野田が東大演劇研究会在籍中に立ち上げ、駒場小劇場を拠点に活動していたアマチュア劇団がプロに転じ、同年1986年夏には創立10周年企画として国立代々木競技場第一体育館で「彗星の使者(ジークフリート)」などの3部作を一挙上演したばかりだった。“小劇場”演劇の第3世代の旗手として、圧倒的な人気だった。「明るい冒険」「走れメルス」「半神」「透明人間の蒸気(ゆげ)」など、毎公演欠かさず劇場に通った。チケットが手に入れば…。そうなのだ。当時から野田の舞台のチケットは入手困難だった。1992年に遊眠社解散後、イギリス留学を経て、帰国後1994年にNODA MAP立ち上げて以降、野田の舞台の人気は衰えることなく、今に至っている。もちろんお気楽夫婦は大ファンだ。

BD2田のチケット抽選申し込み、金曜日で良いかな」チケット予約担当の妻からそんな確認を受けたのはずいぶん前。すっかり日程は忘れていた。そして公演当日。思い出せば去年も、そして今年も私の誕生日の夜に、なぜかNODA MAPの観劇なのだった。2016年は「逆鱗」。まだロングラン公演の序盤だから、ネタバレ的な記載はできないが、見終わってふらふらとしてしまう舞台だ。野田秀樹の才能に打ちのめされて、くらっと来る。物語の序盤から相変わらずのことば遊びで綴られた流れが、終盤に一気にことばとことばが繋がり始め、意味を持たなかったことばたちが意味を持ち、レトリックが現実となり、物語が収束していく。冒頭から何枚ものミラーパネル、透明パネルを使った巨大な水槽が目の前に現れる。シンプルな舞台セットなのに、いやシンプルだから、ステージが深く感じられ、広がりを味わうことになる。何度も鳥肌が立つ。メインキャストの舞台中央への現れ方が素晴らしい。快感でさえある。

BD4レゼントだよ。何もないのも淋しいからね」終演後に、予約もなしで入った店で、妻がそう言って渡してくれたのは『野田秀樹と高橋留美子』というタイトルだけで嬉しくなる本だった。毎年、誕生日前後の週末に都内のホテルに宿泊し、友人たちを招いてお祝いをするのが恒例だった。それが自分の欲求も叶えることができる、ホテルジャンキーの妻からのプレゼント。ところが、今年は予約したホテルを直前にキャンセル。妻の風邪がその理由だった。そんなタイミングでの誕生日。どうやら会場で慌てて購入したモノらしい。「それにしても野田は凄いね」妻が余韻を味わうように呟く。松たか子はさすがだ。阿部サダヲが美味しくて良い役どころだった。井上真央を初めて評価した。満島くんってどこかで見たと思ったら、松重豊と一緒に出てる名刺管理のSanSanのCMだ!そんな勝手なことを言い合いながら、まるでお祝いはついでのように「誕生日おめでとう!」ありがとう、と乾杯をする。

BD3南アジアのどこかの街のフードコートみたいな店だよね」妻のそんな声は、自分から発せられたものかと思った。全く同じタイミングで、同じことを感じていた。一緒に暮らして20年余り、同一化しつつある2人。新宿西口の小田急ハルクの地下にあるレストラン街だから、ハルチカ。レストラン街と呼ぶよりは、飲み屋街と言った方が相応しい。どうやら自らも食堂酒場と称しているようだ。韓国家庭料理あり、お好み焼きあり、焼きトンの店の名前は「ブビタミン」だし、串カツなら「でんがな」という直球勝負の店が境界なく連なる。そして何となく空いている席に座ったら、「オリーブ+オリーブ」というスペインバルのテリトリーだった。どこに座ってもどの店の料理をオーダーできると思い込んだ2人は、偶然にもその日の気分にぎりぎりフィットする店に当たったようだった。タパスの盛合せ、シーザーサラダ、砂肝のアヒージョなどをつまみながら、ジャンクな気分を堪能する。何だか楽しいぞ。

ぇ〜っ」と風邪で涙目の妻が深呼吸をする。その日は舞台の後は真っ直ぐに帰ろうと気遣ったにも関わらず、どうしてもお祝いの乾杯をしようと主張した妻。ありがたいし、嬉しかったけれど、さすがにそろそろ限界が近づいたようだ。もう帰ろうか。58歳になった夜、残りの人生について思い煩うことなく、お気楽に誕生日を迎えることができる幸福。大勢の方からお祝いのメッセージもいただいた。SNSでは繋がっていない、強制的に誕生日を知らされることのない(笑)古い友人からメールが届いた。ありがたいことだ。こうして、いろんな意味で記憶に残る1日が過ぎていった。多くの方のご期待通り、また1年、お気楽に歳を重ねよう。

WE LOVE ♡ SQUASH「用賀 本城」

China1China2井千夏、プロスカッシュ選手。2001年に初めて全日本選手権を制して以降、全日本優勝4回を初め、優勝多数。38歳になった今でも日本代表に選出され続け、最新の日本ランキング1位。日本選手権7連覇中の小林海咲選手(26歳)以外、国内ではほぼ負けなし。昨年の全日本でも決勝で小林選手に負けたものの、堂々の準優勝。若手選手の目標になり、憧れになり、壁になり、その愛らしいルックスからマスコミに登場することも多く、日本スカッシュ界の広告塔的存在になっている。そんな彼女とお気楽夫婦の出会いは、20年近く前、千夏ちゃんが大学4年生で念願の全日本学生選手権で優勝した直後。当時彼女が指導を受けていた山崎コーチの元で、お気楽夫婦もレッスンを受け始めた頃だ。

China3China4日本の慰労会をやろうか!昨年の全日本決勝をネットで観戦したお気楽夫婦。1Gを先行された千夏ちゃんは、攻め方を変え2Gを奪取。実に良いゲームだった。結果的には負けたけれど、ベテランらしい素晴らしい試合運びだった。本人にそんな気持ちを伝え、讃えたかった。年末に声をかけ、集まったメンバーは6人。数年前にインカレで優勝したK野、かつて千夏ちゃんと一緒にレッスンを受けたこともある役員秘書、そして外資系企業に勤めるスクール仲間の若手女子。「学生時代から千夏さんは憧れだったんです。今からドキドキです」何週間も前から興奮気味の若手女子。会場は「用賀 本城」。毎年この季節に本城へ同行している役員秘書との新年会も兼ねた形になった。

China5China6年もよろしくお願いします」席に付くと店主の本城さんが挨拶に来てくれた。「珍しくテーブル席なんで、IGAさんどうしたんだろうと言ってたんですよ。なるほど、こう言う訳ですね」女将さんがしたり顔で頷く。言われてみれば女子会に混じったオヤヂ1人という風情。その日は初対面同士のメンバーもいることから選んだテーブル席。さっそく若手女子を千夏とK野に紹介、すると緊張気味の若手女子が自己紹介。「千夏さんに憧れて、学生時代にスカッシュにはまって、今までずっと続けてこられたのは千夏さんのおかげなんです。卒業してからはスカッシュのレッスンのために引越しして、一人暮らししてるんです」ほぉ、そうだったのか。千夏の影響がこんなところにも。

China7China8味しいですね〜っ!」「IGAさんのブログで知って、いつかこの店に来たかったんです」本城さんの料理は、見目麗しく繊細。そして食材の組合せが絶妙で、口福になる味。初来店のメンバーにも気に入ってもらえた様子。「なかなか体重減らないんですよね」とK野。体重を絞り、全日本でベスト16に入ったらスポンサーになると約束していた。前年の全日本は怪我にも負けずに本戦に出場(ベスト32)という成績を残した。その日は、そんな彼女の慰労会でもあった。千夏ちゃんとK野は罰金制で甘いモノを制限し、全日本に備えていたと言う。大好きなパンも控え、食べてしまったら料金分を貯める。そして全日本後には2人でスイーツビュフェだったらしい。可愛く健気な2人。

しいことに、集まった6人はそれぞれがスカッシュが大好きなのだ。スカッシュへの思い、スカッシュという競技との距離感、プレースタイルやレベルはバラバラだけれど、スカッシュを愛しているという一点では一緒。だからこそ、日本チャンピオンも、元学生チャンピオンも、お気楽プレーヤーも、一緒の席で真剣に語り、笑い合うことができる。初対面でもスカッシュという共通言語で繋がることができる。年齢差を気にすることなくお互いに接することができる。トッププレーヤーを身近な存在として応援できる。エンジョイプレーヤーであるお気楽夫婦なのに…。やっぱりスカッシュって良いなぁ。そんなスカッシュに感謝する夜だった。

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SINCE 1.May 2005