「今年も上海がにの季節になりましたね♬」毎年そんな書き出しで、お気楽妻から仲間たちにメールが送られる。“毎年”と書いたものの、ふと気が付いて過去の自分のブログを読む。すると、昨年はリノベーションのお祝い会、一昨年は上海がにの品質が良くないとのことで上海がに抜きで集まっていた。つまり、メンバーは同じではあるけれど、3年ぶりの“上海がにの会”ということになる。さらに、古い手帳で確認してみると、1999年から毎年開催している事が分かった。ということは、通算15回目の開催。すごい!17年の間、1組の友人夫妻はNYCに赴任し、帰国。仲間の1人は秋田に転勤し、秋田美人を娶って帰って来るはずだったのに叶わず、独身生活を続けている。そしてお気楽な2人は2000年に入籍し、晴れてお気楽な“夫婦”となった。
思えば、この17年の間に、参加するメンバーにもいろいろなことがあったのだ。もう1組の友人夫妻はマンションを購入し、愛猫たちと仲良く暮らしている。残念ながら1組の友人夫妻はご一緒できなくなってしまった。“同じ”と書いたものの、メンバーも変わり、メンバーそれぞれの暮らしも変わっている。今年もこうして集まることができたことは、ありがたいことなのだとシミジミ。そして変わらないのは、ご近所の名店「萬来軒」の絶品四川料理。調理担当のおじちゃんも、接客のおばちゃんも、すっかり歳は取ったけれど、高レベルの味と気怠い接客は健在。「あぁ、いらっしゃい。あら5時からだっけ?」とおばちゃんに迎えられ、「上海ガニはオス、メス合わせて1人1パイで良いですか?」とおじちゃんが厨房から確認しに来てくれる。
「乾杯!」ビールで喉を潤した後は、速やかに甕出し紹興酒に変える。上海ガニへの準備は始まっているのだ。ぷりぷり牡蠣の甘辛炒めも、香ばしい芝麻醬が利いた四川水餃子も、もちろん美味しいけれど、主役はあくまで上海ガニだ。大皿に乗った柿色の上海ガニが登場すると、きゃー!という歓声と共に、一斉に撮影タイム♬外子と内子をたっぷり抱えたメスがに、白子を抱いた大ぶりのオスがに、両方を一緒にいただくのは初めてだ。身を取り出す作業はカップルで、剥きながら食べる夫婦あり、全て剥き終えてからじっくり楽しむ夫婦(ウチです)あり。性格と夫婦の関係性が露見する。その間も間断なく会話と笑い声は続き、「わぁ〜、オスも濃厚で美味しい!」「やっぱりメスの内子と身を混ぜるのが良いな」などと感想が交差する。幸福な時間。
上海ガニを食べ終わると、自宅から持参したおしぼりが配られ、各自が持参した“カニフォーク”と“キッチンバサミ”が仕舞われる。友人たちが一斉に殻を剥き、身をほじることができるように、店が用意してくれるハサミ以外に自分たちで準備することが恒例となった。これら一連のお約束作業でメイン料理の蒸蟹の儀は終了。そしてその後、もう一つのメイン、麻婆豆腐が登場する。中国山椒のなんとも言えない芳しい香りが漂い、鼻腔を刺激する。何種類もの自家製豆板醤が絶妙に組み合わせられた、中毒性があり定期的に食べたくなってしまう、おじちゃん自慢の一品だ。「おばちゃん、白メシ!」ラガーマンだった友人(夫)が、美味しそうに丼飯を豪快に頬張る。痺れる辛さに頭のてっぺんから汗が出る。これが17年間変わらないこの店の味だ。
「美味しかったぁ。おぢちゃん、ごちそうさまでした!」店を出た後は、2次会の「BAR808」に向かう。飲み足りない何人かにはよく冷えた白ワインを、飲まないメンバーには香り高い紅茶を。笑顔が続き、淀みない会話が続く。NYCに友人夫妻を訪ねた時の話になり、「シャインマスカットって初めて食べたけど美味しいね」「えぇ〜っ、何度か食べさせたよ!」というような夫婦の会話があり、スカッシュの話題になる。「うははは!お腹痛ぁい」と涙目になりながら笑い続け、夜が更けていく。「春にもまた集まろうよ!」と誰かが言い「そうだ、萬来軒に食べに行こう♬」と誰かが答える。“毎年”というのは、決して永遠に続くことではない。そうだね、こうして来年も皆で会えると良いね。今年の秋も、こんな風に上海ガニの夜が更けていく。
ビストロ(Bistro)とは、気軽に酒を楽しむ小さなレストラン。世田谷の外れにある、不定期営業の「ビストロ808」も、もちろんワインを中心としたお酒を出す店だから未成年者はお断り。(ところで、「おことわり」を「おとこわり」とつい読んでしまう。「おこと教室」の看板も「おとこ教室」に見える、なぜ?)オトナである友人たちが集まる店。ところがある日、長女を出産したばかりの前職の後輩から予約が入った。スイカのようなお腹をした妊婦時代にご来店いただき、すっかりお気に入りになったとのこと。その上、2歳児の母である学生時代のスカッシュサークルの後輩も誘いたいとのリクエスト。もちろん、子供たちを伴っての来店希望。う〜む、お子様メニューはないし、どうしたものか。店の名前もファミレス系で「イガスト」に変更か?
「ウチの子は凄く食べますが、オトナのメニューで大丈夫です」「ウチの娘はまだ食べられないので、私が2人分食べます!」それではと、子供向けに営業時間を日中にして、オトナ向けのレギュラーメニューで決定。クリュディテ3種盛り、パテドカンパーニュ、ブルスケッタ各種、カプレーゼなど、気軽に摘めるフィンガーフードを準備。「うわぁ〜!すごいおっしゃれ♬」2歳児の怪獣を抱きかかえてやって来た後輩母(母としては先輩)が唸る。2歳児はまだ初めての環境に慣れず、遠慮気味にあちこちをキョロキョロ。すると「ぶーぶっ」と本棚にあったミニカーを発見。かかったな。友人にもらったチョコに付いていたものを、わざと見つけやすい場所に置いてあったのだ。あげるよと言うと、嬉々として遊び始める。男の子は単純で分かりやすい。
「遅くなりました!」8ヶ月になったばかりの娘を連れた、父母初心者の前職の後輩夫婦がご来店。「わぁ〜っ!無条件に可愛い」「やっぱり女の子も良いなぁ」到着早々に人気者。すると興奮したのかケロっと小さく嘔吐。「きゃあ、ゲロっても可愛い♬」「そうなんですよ♡」と人気は衰えない。卑怯なくらいに愛らしい。この愛くるしく、どこもピカピカで、無垢な存在を誰が否定できよう。しばらくはビストロの営業開始も忘れ、飲み始めようともせずに、天使の娘にみんなが掛り切り。すると2歳児が「ぶーぶっ」と再度声を発し、冷蔵庫の扉に付けてあった赤い車のマグネットを発見。うん、君のことも忘れていないよ。どうぞ、それもプレゼント。それを頃合いに乾杯。「わぁ〜っ!すごい」「美味しそう!」ずらっと並べた料理に歓声が上がる。
「本当に良く食べるね、君は」2歳児は持参したベーグルをモリモリと完食した上に、ブルスケッタに使ったパンを頬張る。噂に聞いていた破壊王の兆候は表れず、かと言ってぐずったりすることもなく、母親の発することばに頷きはするものの(もちろん)答えることもなく、“良い子”にしている。それにしても、この母子のやり取り(まだ母親からの一方的なものだが)が抜群に面白い。子供に対するものではなく、きっとダンナにも同じように話しかけているのだろうと思うスタンス。鷹揚で、フェアで、目線が子供と同じ高さだから、見ていても気持ちが良い。甘やかしではなく、適温の愛情。慣れてきた2歳の怪獣くんは、ウォークスルーの洗面所〜ベッドルーム〜玄関〜リビングと何度もぐるぐるとキャッキャと走り回る。そりゃ楽しかろう。
「じいじっ」さらに慣れた2歳児が、白いあご髭の私に懐いてくる。ん?俺のことか?瞬間的にはそう思ったものの、そりゃそうだと納得。同期の男どもはもう立派な爺さんになっている年齢だ。育てる苦労もなく、たまに遊びに来る可愛い孫たちが一気に2人もできた気分。また孫たちの成長を見せにおいで♬「ビストロ808」は、託児兼プレイルーム付属の「ビストロ808 jr.」としても不定期営業中!