大阪はリッツに限る?「リッツカールトン大阪」

Ritz1Ritz21990年代、東京のホテル御三家と呼ばれた、帝国、オークラ、ニューオータニに代わり、新御三家(パークハイアット東京、ウェスティンホテル東京、フォーシーズンズホテル椿山荘東京:当時)が話題になった。いずれも外資系ブランドであったことから、“外資系御三家”という呼ばれ方もされた。その頃、大阪では1997年にやはり外資系ブランドの雄リッツカールトン大阪が開業。東のパークハイアット、西のリッツカールトン、と人気ホテルの筆頭だった。ホテルおたくのお気楽夫婦のことだから、さっそく開業早々に宿泊。威圧的に感じるお気取り系ドアマン、機能的ではないデコラティブな内装に、う〜むと唸った。パークハイアットの方が好きだな、というのが正直な感想だった。

Ritz3Ritz4れから10年余り経ったある週末、再び宿泊する機会があった。2度めの今回は、リッツ本来のサービスを堪能する為に、ちょっと気張ってクラブフロア。BS11の公開収録に参加した後、慌てて新幹線に飛び乗り、新大阪からタクシーでホテルに向かう。例のドアマンが迎えてくれる。ん?微妙に語尾とイントネーションが関西弁。ふぅ〜ん、悪くない。こぢんまりとしたロビーとフロントを通り、相変わらずわかりにくい経路を辿って客室に向かうエレベータに乗る。開放感がなく、個人の邸宅のような雰囲気も変わらない。部屋に入ると、出張で先乗りしていた妻が同僚女性と仕事の打合せ中。邪魔にならないように室内の写真撮影。打合せが終わるのを待ち、一緒にラウンジに向かい、夜景を眺めながら飲めない2人とシャンパンと発砲水で乾杯。

Ritz5Ritz6ウンジのスタッフは物腰柔らかく、慇懃ではない対応で良い感じ。「何だか都会だわぁ〜♬セレブな感じ」と博多の高層マンションに住む同僚女性もご満悦。博多もかなりの都会だと思うのだけど、彼女に言わせると高速道路がビルの間の高架を走る風景が“都会”を感じさせるらしい。彼女は前職で私の同僚でもあり、博多出張の際に夜の街遊びに同行してもらえる、お気楽夫婦共通の気の置けない友人。互いにホームではない街で、のんびり語らっていると、一緒に旅をしているような不思議な高揚感があり、新鮮な気分。ラウンジは、オードブルの種類も多く食べ応えがあり、暗めの照明も、ゆったりとした席も、適度な混雑具合も、ざわざわとした客の話し声も、とても居心地が良い。

Ritz7Ritz8終の新幹線で博多に帰るという友人を見送り、館内のパトロール。こぢんまりとしたロビーフロアに小さなショップがあり、中にはジュエリーショップのようなチョコレート販売コーナー、ブランドショップのディスプレーのようなペストリーコーナーがある。中でも、リッツのロゴである“ライオンと王冠”が焼き付けられた山型パンが、笑ってしまう程に印象的。そもそもリッツカールトンのロゴは、創業の地ボストンのオーナーが考案したものだという。そのボストンのリッツ(今は他の場所に移転)にも、東京のリッツカールトンにも、シンガポールやバリにも、ホテルおたく夫婦は宿泊経験あり。そのいずれもお気に入りになったのに、大阪だけが何故かしっくりこなかったのだ。

トナになったからじゃないかな」と妻が言うことも納得。最初の宿泊当時、すでに世界各地のホテルを泊まり歩いていた(という程ではないが)けれど、今より若かった2人は、自分たちの好みに合わなければ、きっと拒絶し否定していたのだ。今なら1斤1,000円の食パンのロゴを笑って楽しめる。今なら好みのタイプではなくとも受入れて肯定できる。今回の滞在で、リッツカールトン大阪は再評価してポイントアップ。良いホテルだ。「それでもやっぱり、パークハイアットの方が好きだけどね」そんな妻の意見にも同意。大阪で泊まるなら、リッツ…かな。

Larryは何しに日本へ?『わが心のジェニファー』浅田次郎

AsadaJiroTV東京の「Youは何しに日本へ?」という番組が妙に気に入っている。毎週月曜日、早めに帰宅してこの番組を視るのが1週間の始まりのルーティーン。“インバウンド”というワードが広く浸透した今年、この番組の人気も一役買っているに違いない…のかな。知らない方にこの番組をかんたんに説明すると、“You”とは日本に来ているガイジンさんたち。成田空港や街角で文字通り「Youは何しに日本へ?」と質問し、同行取材したり、その場で(ダンサーだったりしたら)踊ってもらったり、というユルい設定(バナナマンが司会だしね)の低予算番組。これがツボにはまるのだ。日本人なら当然と思って生活している習慣が“You”にとっては不思議だったり、日本人がフツーに使っているグッズが関心するモノだったりという、そのギャップにクスッと笑ったり、大笑い、時々苦笑いというお気楽な内容。

Jennie田次郎の『わが心のジェニファー』を読みながら、このTV番組を思い出した。日本びいきの恋人にプロポーズしたところ、OKする条件として「日本に行って来て!」というミッションを受け、アメリカから来日した主人公Larry。成田空港に到着したくだりから、まさしく「Larryは何しに日本へ?」の旅が始まる。番組スタッフたる浅田次郎が空港でラリーにインタビューをして、密着取材の了解をとって一緒に付いて回っている感じ。少し大げさなくらい、ガイジンの視点で語られる。成田空港に到着した日系航空会社の“わずかな”到着遅れを詫びるアナウンスに始まり、清潔でオートマチックなトイレ、ズラっと並んだバス停に整然と列を作って待つ人々、歪みなどなくピカピカに磨き上げられた窓ガラス、凹んでいないピカピカな自動車、都心に向かうリムジンバスの中はささやき声しか聞こえない。ふむ。フツーなことだね。

Iga崎美子のすずらん本屋堂」というBS11の番組からお誘いがあり、公開収録に参加した。以前、番組スタッフが私のブログで浅田次郎の作品を取り上げていた記事をを読んだとのことで、インタビュー撮影を依頼され、無事に放送された。そのご縁で、早々に新刊本をお送りいただき、感想を語る役回りをいただいた。その新刊本が『わが心のジェニファー』だったのだ。「Youは何しに日本へ?」のYouのように、アメリカ人ラリーの目を通して描かれ語られる日本。日本人にとって嬉しかったり、恥ずかしかったり、誇らしかったり。日本を再発見し、表面的な側面と内包された側面との日本文化の二面性に気づかされる。そんな過程がおもしろ可笑しく描かれる浅田次郎の作品は、電車の中で読んではいけない。爆笑ではなく、我慢できずにクスッと笑ってしまう分、周囲の人に奇妙な目で見られてしまう。気をつけなければ。

MiyazakiYoshikoTV用に、そんな話を盛って語ってしまった。電車で読むのを止めて、自宅に帰って読んだと。はい、嘘ついてました。読み始めたら面白く、自宅で一気に読んでしまったのは事実で、電車の中で読んではいかん!と思ったのも正直な感想ではあるけれど。…それにしても、番組の司会である宮崎美子さんは知的で、気遣いができる、魅力的なオバさんだった。学生の頃、彼女はミノルタのCFで「今の君はぴかぴかに光ってぇ〜♬」という曲にのって、木の下でジーンズを脱いで、水着に着替える(その下に履いていた水着になる)姿で鮮烈に登場した。その前は、週刊朝日の表紙で企画された女子大生(当時は熊本大生)を篠山紀信が撮る、というシリーズで話題になった、はず。あれ?なんだか詳しいぞ?俺。番組の公開収録に喜んで参加したのは、浅田次郎に会いたかったからではなく、宮崎美子に会いたかったから?自問自答する。

IGAは何しに公開収録へ?」楽しく、貴重な体験でした。

祇園しっとり京の旅 その2「味ふくしま」

NanzenjiNanzenji2葉の永観堂から夕景の南禅寺に向かう。夕陽に赤く染まった山門を眺め、真直に向かったのは琵琶湖疏水「水路閣」だ。以前は(と言っても30年以上前の学生の頃)訪れる人もない穴場だった。なのに、今やすっかり人気のスポット。内外の大勢の観光客で賑わっているだけではなく、カメラマン、照明係など何人ものスタッフを引き連れた新婚の中国人カップル(派手なウエディングドレスとタキシード姿!)がアルバム用の撮影をしてさえいた。彼らに負けじと(かなり無理はあったが)お気楽妻の80年代アイドル風のポーズを撮った後は、琵琶湖疏水をさらに遡る。さすがにここまではチャイナパワーも及ばず、人の姿はほとんどない。その先にあるのが、目指す蹴上発電所だ。

Incline2Incline上発電所は、琵琶湖疏水の水を活用して1891年に運転開始された、日本最初の商用発電所。現役の施設ではあるものの、今回の旅のテーマのひとつである近代建築であり、もはや産業遺産の趣きさえある。白鷺が遊ぶ小さな貯水場から、下流の発電機のある施設まで、導水管を経て一気に水が流れる。その導水管沿いに走るのがインクライン(傾斜鉄道)の跡地だ。高低差のある運河で船を運行させる方法として、ここで採られていたのがレールの上に台車を乗せて、船を運ぶ方式。今は廃止されたインクラインは京都市民の散歩道になっている。似非市民のお気楽夫婦は、敷かれたままのレールの上をのんびりと下り、円山公園や八坂神社の境内を経て、最終目的地の祇園を目指す。

AjifukushimaAjifukushima2約していた店は、「味ふくしま」というこぢんまりとした店。祇園のお茶屋さん「福嶋」が始めた割烹料理店(だから“味”ふくしま)だ。夜のコースはお任せのみ。けれども、周辺の老舗と比較したら、お手頃な料金設定。だからこそ、祇園初心者として選び易かったのだ。風格ある店構え、とは言えOPENしてまだ2年余り。店に入って案内されたカウンタ席は、清々しい白木の香りが漂う清楚な佇まい。カウンタの背後にある食器棚も、白木の観音開きだったり、抽斗だったり。先付けは焼き無花果のゴマだれ。クリーミーなソースを纏ったイチヂクは、和なのにフレンチのアミューズの風情。オサレ。八寸は赤く染まった柿の葉の下に、はもさく、丸十、焼き銀杏などの秋の味覚。

NodokuroKomochiAyuれは日本酒でしょうと、丹後の木下酒造「玉川 純米酒ひやおろし」をいただく。お椀は名残の鱧と松茸。日本人で良かった、京都へ来て良かったと眼を細める味。お造りも、炊き合わせも、文句無し。中でも絶品なのは焼物の“のどぐろ”。錦織くんの好物だとすっかり有名になった、脂の乗った白身の魚。白身のトロと言われるだけのことはある、上品な脂の旨さに涙。筋子の飯寿しで眼にも舌にも喜ばさせた後、さらには、子持ち鮎のから揚げが登場。これも新鮮な味わい。お腹をぱんぱんに膨らませた子持ちの鮎を、カラッと揚げるかぁ、という驚きの美味しさ。「どれも美味しいね」と、妻もご機嫌。いずれも丁寧な仕事、食材の味わいを素直に供する好感が持てる料理だ。

Ajifukushima3Ajifukushima4チの従姉妹なんどすけど、舞妓を紹介させてもらいます」若女将がそう言って連れてきたのは清乃さん。初めての舞妓はん近接遭遇。初々しい彼女にいただいたのは、これまた初めての名刺代わりの千社札。“祇おん 清乃”と記され、紅葉をあしらった、きっと季節ごとに作り変え、渡しているであろう粋で可愛いお札。なんだか良い店だ。やや気張りすぎている気配はあるが、細やかな気遣いで満遍なく声を掛けて回る若女将。にこやかに居丈高ではなく、けれどもしっかりとした存在感がある若き料理人。居心地の良い店には、心地よい気遣いの人たちがいる。初めてなのに、料理の味も、店の空気も、妙に馴染む。「また来たいね」妻の短いコメントは最大級の賛辞だった。

の関西、大阪、京都の旅もお終い。紅葉を観に、という旅の入口は、深い深い味わいを得て、満足の出口につながった。

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SINCE 1.May 2005