さらばレスリー・チャン『さらば、わが愛/覇王別姫』

PicG0001何度足を運んでも、Bunkamura ル・シネマの整理券は何時間も先の上映分しか手に入らず、その度に断念した。それでも諦め切れず会社をちょっと早めに出て、平日午後の上映でようやく観ることができた。当時話題の香港映画『さらば、わが愛/覇王別姫』は、単館ロードショーでロングランを続けていた。陳凱歌(チェン・カイコウ)監督の映画というのを意識して観た訳ではなく、鞏俐(コン・リー)や張國榮(レスリー・チャン)の名前を知っていた程度だった。…しかし、この映画を観た後、その3人は私にとってとても大きな存在となった。中でも、小豆子:程蝶衣役のレスリー・チャンの美しさ!劇中劇となる「覇王別姫」虞美人の役柄や、心を寄せる幼なじみで項羽役の張豊毅をめぐりコン・リーと争う切ない表情とが相まって、悲痛で妖艶な女形の演技が心に沁みた。

当時、自分が切ない恋をしていたからかもしれない。上映中、レスリー・チャンをずっと追っていた。彼の視点で映画を観ていたことに気付いた。報われず、叶わず、望んではいけない、そんな苦しい恋の思いの全てが、美しい表情のすぐ裏側に満ちていた。幸い私は、苦しい恋の末に報われ、望んだ女性と一緒にいることが叶った。「覇王別姫」の役柄そのもののように波瀾に満ちた人生を送り、自ら命を絶ったレスリー・チャンは、幼い小豆子が望んだように何かを手に入れ、京劇のスター程蝶衣のように何かを失い、この世を去ったのだろうか。

余りに美しく、余りに切ないレスリー・チャンの『さらば、わが愛/覇王別姫』は、項羽と虞美人との悲恋物語と、彼の生涯とが重なり、さらなる悲涙の物語となった。合掌。

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