不思議の国の老人力「尾辻克彦」
2005年 5 月20日(金)
路上観察学会を勝手に立ち上げ「トマソン」と命名した正体・目的不明な物体を発見・観察・撮影したり、「老人力」という脱力パワーを発揮したり、中古カメラに凝ってみたり、新解さんを追いかけてみたり、古くはアートとして創作した「一万円」によって偽造事件として逮捕されたり、その人は、・・・ともかく多方面に足を踏み入れる、好奇心の塊だ。
その人と初めて出会ったのは(実際はお会いしてないが)、尾辻克彦という名前で「肌ざわり」という小説を出版した時だった。何かの書評で、「妄想現実小説」と呼ばれたのが目に留まり、思わず買ってしまった。ストーリーが日常からどんどん遊離して、妄想の世界に入ってしまうのだけど、なぜか現実と密接にくっついている、そんな小説だった。
その後立て続けに発表した小説を読み漁る内に、人物そのものにも興味を持ち始めた。すると、実に愛すべき「変な人」だということが分かるのだ。「父が消えた」という作品で芥川賞を取ってしまったが、その後小説は余り出さず、もっぱら赤瀬川原平という本名で、好奇心の趣くままにいろんな世界に手を出している。
1999年には「太陽」で特集まで組まれ、「赤瀬川原平の謎 優柔不断の人」とまで称されている。・・・最大の賛辞に違いない。その記事の中には自宅の屋根をニラで覆ってしまう「ニラハウス」の記載もある。知れば知るほど奥が深く、到底追いつけない脱力系アーティスト・パワー。恐るべし「原平ちゃん」。
それにしても、その後小説は書かれないのだろうか。その一貫して散漫かつ優柔不断な好奇心と、類稀な大人の遊び心を敬愛してもいるが、何より私にとっては愛すべき作家「尾辻克彦」でもあるのだ。