それぞれの楽園『三好和義写真展』『かもめ食堂』
2006年 5 月04日(木)
“楽園”ということばの響きにはいろいろなイメージが付いてくる。「楽園」がヒットして世に出た平井堅。「君はともだち」とか「POP STAR」とか、カラオケで歌いたい楽曲はあるけど、残念ながらあの音域の声は出ない。『失楽園』は、ジョン・ミルトンではなく、渡辺淳一の方がすっかり有名になり、ワインがお好きな主演女優が図に乗った。「後楽園」は東京では稀少になり、「後楽園」を日本三名園のひとつとして知っているのは岡山近隣に住む人だけ・・・。閑話休題。
南の島にあるという「楽園」は、この人の撮る写真の上に焼付けられている。モルディブの、沖縄の、フィジーの、海の上に。三好和義という名前を知ったのは、南の島を度々訪れるようになってからだった。お気楽夫婦にとって彼は、中華料理の香りを撮らせたら菊池和男さん、南の島の空気なら三好和義さん、という二大カリスマ写真家の1人。香港で美味しいものを食べたいとき、菊池さんの写真でテンションを上げ、南の島渇望症になったときは三好さんの写真で気を鎮める。時として穏やかな気持になり抜群の効果を上げる場合もあり、すぐにでも行きたくなるという逆効果になる場合もある。
『三好和義写真展』を観た。彼の写真には、南の島のいろんなものが一緒に焼き付けられている。朝陽の香りが、青く澄み切った海を渡る風が、打ち寄せる穏やかな波の音が。時として演出が過ぎて、この世のものとは思えない風景になることもある。“つくりもの”に見えてしまうことすらある。しかし、だからこそ、現実の生活から遠く離れた“憧れの地”としての楽園なのだ。
同じ日、北の楽園を淡々としたタッチで切り取った映像作品を観た。萩上直子監督『かもめ食堂』。PFF出身の女性監督。長編デビュー作品『バーバー吉野』よりさらに、その何とも言えない不思議度が増していた。小林聡美の経営する日本食堂に集う、不思議な客と仲間たち。店の場所はなぜかフィンランドの首都、ヘルシンキ。大きな事件も、大きな笑いも、そして大きな悲劇も、起こらない。登場人物の背景もあっさり。生活観のあるような、ないような。でも、思いっきり魅力的。北欧の、白夜の街の、ゆっくり過ぎていく時間。これもまた、日本から最も遠い“楽園”のひとつなのだろう。
5月のある晴れた休日。お気楽夫婦のナツヤスミ計画がスタートした。どこに行こうかと悩む楽しみ。どこに泊まろうかと迷う悦び。結果、とある南の島に向かうことにした。プールサイドで読む本を買い込み、新しい水着を選び、“夏の楽園”に向かう準備が始まる。
東京流行通訊
初夏の真夜中の夢
18年前、日本に来たばかりのある月の美しい夜、通りすがりの小さな本屋のショーケースにあった真っ青な表紙と「RAKUEN(楽園)」という夢のような題名に引かれて立ち止まった。その写真集を開いた瞬間、碧海と銀砂の世界が目に飛び込んできて、私は地球最後の楽園、モルディブに引き込まれてしまった。その時以来、高校生の頃早くもニコンサロンでプロとしての写真展を開いたというカメラマン三好和義氏の名前が、写真集の中で輝いていた…