美味を創るもの(後編)「たん熊北店」

06_2遅れてきた友人が、ようやく熱々の料理を食べられると思って注文したのは「北京ジャージャン麺」。しかし、味がないという。どうも、餡かけたっぷりの美味しい麺の“餡”が、彼の取り分けにはほとんど入っていない「素麺」だったらしい。ありゃりゃ。気分を変えてデザートを注文。マンゴーたっぷりのマンゴープリン。かなりの美味。彼の気分も多少回復するものの、満足とはいかない。他の3人は満足、満腹。同じ店で同じ料理を食べたのに、印象は全く違う店、料理。

外食三昧のお気楽夫婦、翌日は「たん熊北店(きたみせ)二子玉川店」へ。予約したカウンター席へ案内される。厨房が目の前にあるオープンキッチンスタイル。二人で料理を選ぶのを楽しんでいると、京都弁の板さんが声を掛けてくれる。「どんなもん召し上がりますか?ウチは“丸鍋”いうてすっぽん鍋がお薦めです」「そうらしいですね。後でいただきます」まずは、前菜。三種の魚が、それぞれの味が活かされ、美しく盛り付けられている。炙ったアイナメの木の芽合えなどは、もう感涙もの。「美味しいですねぇ」「ありがとうございます」名札を見ると店長の本城さん。「この店は何度か来て入れなかったんですよ。それで今日は予約して来たんです」「それはすいません。さっと入れる店がほんとは良いんですけどね」・・・どの料理も美味しい京料理の老舗に、無理な話だろうけど。

その後もいろいろと話しかけてくれる店長。料理についてもいろいろと教えていただく。同時に板場にも目を配り指示を出す。味付けをチェックする。調理場はエンタテイメント。オーダーにちょっとした間があった。すると店長、葱に鯛の皮を巻いて焼き始める。二人の好物!そしてなぜか、その小皿が我々の前に。「どうぞ、ちょっと次の皿まで間が空いてしまって」「ありがとうございます。これ、好きな料理なんです」遠慮なくごちそうになる。旨し!さらに。鯛皮と生ウニの酢味噌和えがすっと出される。「放っておけば捨てるもんですし」これまた絶妙な味。そして“丸鍋”登場。きれいなスープにぷりぷりの身、ちょっと苦味がある大人の味。次は当然“雑炊”。お肉はきれいに全部食べたはずなのに、たっぷりのすっぽんが入っている。これはプロの仕事。まいった。

「ごちそうさま。とっても美味しかったです。京都の店にも伺います」「ありがとうございます。今後ともご贔屓に」料理の味だけではなく、その場所にいた2時間に満足のお気楽夫婦。・・・そうなのだ。美味しい店の“味”を決めるのは、料理人の腕だけではなく、客を寛がせるちょっとした心配りや会話、それらが創りあげる店の雰囲気、佇まい。「来週もこの店来るよ!」早々に宣言する私。またまた気に入りの店が増えた二人だった。


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