湯気と香りの記憶「薬膳火鍋専門店 天香回味」
2008年 4 月27日(日)
20年ほど前、前職の出張で台湾を訪れた。そこで初めて食べた火鍋。大極(タイチー)マークを模して、2つの勾玉を組み合わせたような形で仕切ってある。その半分には麻辣湯(マーラータン)スープ。もう半分には白湯(パイタン)スープ。鍋から立ち上る香りだけで汗をかいてしまうようなインパクト。ただし、その味はほとんど印象に残っていない。朝方まで夜市やディスコ(当時はクラブではなく)に出歩くエネルギッシュな台湾の人たちに圧倒され、まだ日本になかったカラオケBOX(KTVと呼ばれていた)や、スタンド売りの朝粥の美味、圓山大飯店の絶賛の飲茶などの記憶に圧され、どうしても思い出せない。
数年前、やはり前職の出張で訪れた上海。そこで食した火鍋は地元の人々で賑わう庶民的な店。日本で言えばしゃぶしゃぶ鍋のような中央に円筒の付いた大きな鍋で、何でも入れてしまえ!ぐらいの勢いでわさわさと海鮮、肉、野菜などをたっぷりといただいた。充分に美味しかった。とは言え、火鍋は鍋料理という意味で、ひと括りにするには余りに種類が多い。日本でも、すき焼、しゃぶしゃぶ、ちり鍋、しょっつる鍋、もつ鍋、すっぽん鍋、などなど、地方毎に独特の鍋料理があり、家庭毎に独自の味がある。私が子供の頃、亡くなった母がチャプスイと呼ぶ、肉と野菜の塩味スープの鍋を良く作ってくれた。(調べてみると、チャプスイという料理はどうも違う料理のようなのだが)途中まではカレーとほぼ同じ香りが家中に漂うので、今日はカレー?チャプスイ?とわくわくしたものだった。
ある週末、妻と一緒に二子玉川に出かけた。お目当てはいつもの「たん熊」さんではなく、「天香回味(テンシャンフェイウェイ)」という薬膳火鍋専門店。2人用の小さな鍋は大極マークにはなっていないものの、挑戦的に真赤なスープと、白湯スープという組合せは台北で食べた鍋と同様。大きく違うのはスープの香り。具材を入れる前からぷかぷかと身体に良いのか悪いのか分からない不思議なものがいろいろ浮いている。そこから漂うのは、高麗人参、カルダモン、クローブなど既知の香り。そして未知の香辛料の香り。それらが複雑に混ざり合う。ほほぉ、美味しそう。揃って香辛料が大好きなお気楽夫婦はにんまり。
豚トロ、地鶏、海老ダンゴ、花びら茸、柳松茸、台湾サトウキビのタケノコなどバラエティに富んだ食材をスープに投入!「これはかなり美味しいねぇ♪」辛いもの好きの妻はもちろん赤い鍋専門。“歩く新陳代謝”を自負する私は白い鍋専門。う~ん、こりゃあ複雑に美味い。スープ自慢の鍋。タレなしでそのまま食べるからあっさり。「そう言えば上海のEさんと一緒に、新大久保で火鍋食べたねぇ、すっごい怪しい店だったね」「博多で食べたもつ鍋は美味しかったねぇ、地元で食べるのがやっぱり美味しいよね。あぁ、水炊きは行きたい店が休みで行けなかったんだったね」…いろんな鍋の湯気の中には、いろんな記憶が紛れ込んでいる。