日本の味、日本人の舌「たん熊の春」二子玉川

Photo節が変わる度に行きたくなる店がある。立春も過ぎ、日が長くなり始めると春の味がその店で待っている。前回の訪問は10月。冬の味わいは逃してしまった。「たん熊にそろそろ行かないとね♪」妻が独り言のようなメッセージを発する。彼女は決して自分で企画をしない。「行かないとね」というのは、「行こうよ、何か企画してね」という意味。たん熊北店は、お気楽夫婦にとって特別な店。“ハレ”の店。日常的にはお邪魔できないけれど、たまに贅沢に食事をするにはぴったり。航空券で言えば、とても自力では搭乗できないファーストクラスではなく、ちょっと頑張ってアップグレードして搭乗するビジネスクラスの店。普段はエコノミー、それもディスカウントチケットで搭乗している感覚からしたら、店に行くきっかけが必要。

Photo_2回のきっかけにさせていただいたのは、NYC帰りの友人夫妻。NYCにも美味しいレストラン、美味しい料理はたくさんあるけれど、「日本人にとって、食べ物は日本じゃなきゃダメってことが良く分かった。だって、アメリカ人の“美味しい”は、ストレートな味なんだよね」とのこと。言われてみれば、彼らの求めるものは分かりやすさ。繊細な味や、微妙なニュアンスなどは伝わり難い。薄味の日本料理などは味付けしてないんじゃない?と感じられてしまうこともある。婉曲的な物言いは、それはYESなのか、NOなのかと問われることもある。日本とアメリカの外交やビジネスで誤解が生まれるのは、そんな国民性から、もっと言えば“味の好み”から来ているのかもしれない。5年以上もそんな異国に暮らした彼らをお誘いしたところ、「行きたい!たん熊デビュー!」と良いノリ。実に気持の良い、はっきりとした意思表示。そんなところはアメリカ仕込み。行こう!行こう♪

Photo_3ん熊北店二子玉川店」は店長の本城さんの店。彼の目が店の隅々まで行き届き、彼が核となり繊細な味とおもてなしの良い空間を創っている。味は人、店は人、ということが良く分かる店。予約したのはカウンタの右端。いつもの場所だ。こんにちは♪ご無沙汰してます。「いらっしゃいませ。まいどおおきに。ありがとうございます」本城さんが珍しくカウンタの中で忙しく立ち働いてる。タイミングを計りながら友人夫妻を紹介する。本城さんはパリの日本大使館の料理長だったと彼らに紹介すると「いつ頃ですか。僕らも実はアメリカの前はイギリスにもいたんですよ」赴任していた時期を確認すると、友人夫妻が日本に帰国した頃に本城さんがパリに着任したらしい。それでも共通の大使館関係者の知人がいるようだ。ふぅん。「まずは前菜ご用意しましょか」と本城さん。はい♪お任せします。

Photo_4ずは突き出し。ビン長マグロと茗荷、トロロの小鉢。たっぷりの山葵と一緒に軽く混ぜる。ワサビと茗荷の香りが爽やかな一品。「美味しいぃ〜っ♪」友人(妻)がすでに涙ぐみそうになっている。それともワサビのせいか。乾杯で飲んだビールがあっという間になくなる。やはり日本酒で行こうか。「うんっ!やっぱりこの料理には日本酒だね。今日は二人とも飲む気満々で電車で来たからね」頼もしいおことば。たん熊オリジナル「熊彦」純米吟醸をオーダー。旨い。続いて登場したのは前菜の盛り合せ。「うっ美しぃ〜♪」友人夫妻が絶賛する。大根の桂剥きで作った雪洞、オーダーしようと思っていた氷魚(鮎の稚魚)も入っている。嬉しい。「こんな繊細さはアメリカ人には通じないんだよねぇ」友人(妻)がしみじみと呟く。酒が進む。あれ。そんなにお酒飲めたっけ・・・。

Photo_5せだぁ。大人になって良かったぁ」友人(妻)が満面の笑みで、いかにも料理を楽しんでいる様子。酒盗と卵黄を泡立てた、なんとも言えない絶妙のふわふわ状のペーストをキュウリに付けてぱくり。あぁ、確かに幸せだ。蛤のぬた和えをひと口。うん、まさしく幸せな味だ。そして山菜の天ぷら。春の味。山菜の苦みと、甘みと、春の香りが口に広がる。「やっぱり日本人で良かった。大人で良かった」友人(妻)の笑みが続く。そうか。こんな店のカウンタで、板さんと会話しながら、落ち着いて食事ができる“大人”にいつの間にかなっていたんだ。彼女のことばで改めてそんな自分たちを自覚する。背伸びをせずに、この空間を楽しむことができる。日本の味を自覚し、日本人の舌を意識することができる。こんな風に齢をとるのも、大人になるのも悪くない。

ころで本城さん・・・」友人(夫)が店長に尋ねる。えっ!まさかっ!そんなことが!

・・・明日に続く。

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