GOOD BYE ! 青山「独りメシ、おススメの店」

シーバードオムライス日まで通っていた会社は、青山通りから裏通りに入った静かな場所にあった。周辺には飲食店が多いものの、場所柄こぢんまりした店が多い。ランチ時はどこも混雑することもあり、ほとんどの店がお弁当も販売していた。ワンコイン(500円)で食べられるメニューも多く、重宝した。けれど、のんびりとランチを取りたい時もある。そんな時に訪れる店が何軒かあった。その1軒が「SEA BIRD」というジャズ喫茶。私はジャズは聴かない。感涙ものの料理が出てくる訳ではないし、その料理が安い訳ではない。けれど、妙に和むのだ。居心地が良いのだ。大音量でオスカー・ピーターソンのピアノ・ライブの映像が流れていたりする店内は空いてることが多い、ということもある。団塊の世代とおぼしきご夫婦の、愛想のない接客も悪くない。70年代の香りが残る店。カフェ飯ではなく、喫茶店のランチメニュー。家庭で作るようなオムライスなどをつつきながら、大音量のジャズの中で読書をする昼下がり。まったり。

ジェイルハウス生姜焼き心地の良さと言う点では、「JAIL HOUSE」という店も同様だった。六本木通りに面した小さなビルの2階。飾り気のない階段を登り、素っ気ないドアを開けると、真っ白な店内。床には白砂が敷き詰められている。ハイテーブルとチェアも白。天井から吊り下げられたモニタの黒が際立つ。ランチのメニューは絶品!という訳ではないけれど、通りを眺めながら独りでのんびりと食事をするにはぴったりの場所。混み合わず、急かされず、食後のお茶を啜りながら読書することができる。小さな会社では誰もが忙しく、一緒にご飯でも行こうか!という雰囲気もなかったため、独りのんびり食事ができる、という店が必要だったのだ。人気の店、美味しく安い店は混んでいて落ち着かないことが多い。通勤途中にあり、いつも混んでいて気になっていた「東京トンテキ」などはついに入ることができずに終わった。紳介の番組で紹介されて以降、待ち行列も伸びた。一生行けない店にランクインしてしまった感がある。

へぎそば屋カツ丼山の裏通りにある「花しずく」も数える程しか行けなかった人気店。店頭に365日座り続けるシュールで不気味な人形が目印。顔のマスクは変わるけれど、野口英世(たぶん)がデフォルト。雨の日はカッパを着せられ、ヤッターマンのボヤッキーの顔をすることもある。ここは「へぎそば(新潟)」と「味噌カツ(名古屋)」がウリの、アイデンティティは不明の店。とは言え、昼時はいつも満席。しかし、この店も旨い!と言う程の店ではなく、そこそこの味を絶対的なボリュームと濃いめの味でカバーする“男の店”。青山での勤務最終日、遅い時間にふと立ち寄ってみた。さすがに空いている店内。オーダーしたがっつりメニュー、ミニカツ丼とへぎそばのセットもすぐ出てくる。しかし、食べきれない。持て余し気味のところで前職の会社の社長T氏が店に入ってきた。おぉ、これは偶然。入社して以来、最終日にして初めての同席ランチ。

いうのも、彼はほんとうに忙しく、ほとんどランチを取る時間がないのが常。遅い時間にカップ麺で独りメシの日々。そんな彼と、最終日に偶然とは言え同席できたのも大げさに言えば運命。昨年の夏、入社を決める前に、酒を飲まない彼と中目黒で一緒に(私だけ)飲んだ。話は仕事以外にも及んだ。「月がお墓ってどうですか?遺骨をロケットで月まで運ぶの。生命体を運ぶのと違って比較的安価にできるでしょう。静の海とかにロケットを突き刺しても良い。遺された人たちは、月を眺めてその人の生前を偲ぶ、ってどうですか?」その時点で個人事業主として仕事をするよりも、彼と仕事をする方が広がりが持てると確信した。もともと彼と一緒に仕事をすることになったのも、前々職の会社にいた際の偶然の出会いから。そして、どんどんそんな偶然の出会いが周辺に繋がっていった。人の出会いはありがたい。そして、1年が経った。今後やりたい仕事のプロトタイプを創ることができた。彼と一緒に仕事をしたことは大正解だった。仕事の幅も、人的ネットワークも広がった。そして1年後、改めて「個人」として仕事に向かい合う。そして、これからも彼と繋がりを持ちながら一緒に仕事はできる。感謝。

れ?また今週もオチがないの?」と妻。オチがなくとも良い時もある。独りでランチを取る楽しみも、誰かと一緒にランチを食べる楽しみもある。「ん?なんか強引なシメって感じ」…。

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