20年間で一番!「用賀 本城」にて

スライド1の娘と初めて会ったのは、彼女のヴァイオリンの稽古の帰り。父親が運転する車の後部座席で、ヴァイオリンケースを抱えるように眠っていた。ヴァイオリンケースの方が大きく見えるぐらいの、小さな小さな女の子だった。その数年後、初めて彼女と一緒に食事をしたのは、なんとパリ。お気楽夫婦が滞在していたセーヌ左岸のホテルを訪ねてくれた彼女の両親と一緒に、5人でストラズブール・サン・ドニの「ブラッスリーFLO」に向かった。彼女は、父親が運転するワゴンのバゲージスペースで、何やら一所懸命に絵を描いている。ブラッスリーの前に到着すると、何やら恥ずかしそうに母親にノートを差し出す。そして「これプレゼントなんだってぇ」と母親経由で妻の手に渡ったイラストは、妻の似顔絵だった。「わぁ〜、どうもありがとう♡」喜ぶ妻。はにかむ彼女。微笑ましい風景だった。

雲丹の一皿酒肴の一皿れから10年余り。ある週末、彼女と彼女の母である高級住宅街に住むスカッシュ仲間と共に4人で「用賀 本城」に向かった。その日は彼女の20歳のお祝い。一緒に美味しい料理を食べ、美味しい酒を飲みたかった。子供のいないお気楽夫婦にとって彼女は姪っ子のようなもの。嬉しい成人のお祝いだ。カウンタに座り、本城さんに20歳のお祝いだと告げると「それはおめでとうございます。ところで、どちらがお嬢さんですか」などと、お約束の突っ込み。「いやぁだぁ〜」と言いながらも満更でもない母。まずは、ビールとお茶を…「私、ビールは苦手なんですけど、お酒を燗でいただいて良いですか」ほほぉ。良いよ、頼もしいね。「私、ちゃんと空気読んでますか。大丈夫ですか」OK、OK。それでは、20歳おめでとう!とビールと、お茶と、燗酒で乾杯。

ふぐごはんずは、前菜。相変わらず絶妙な食材の組合せの一鉢。「わぁ〜っ、美味しいぃ♫これ好き♡」「ほんと、これ美味しいね」同じテンションで喜ぶ母娘。そして、酒肴の盛り合せの一皿。「これ、凄いね。ほんと美味しいわ。京都になんか行かなくても、こっちの方が美味しい」お祝いのふぐの白子ごはんが登場。「こんな美味しいもの食べたことない。20年間で1番美味しいかも」母娘がお互いに目を見交わし、微笑む。でも、いつも美味しいもの食べてるじゃないか。と思いながらも、2人のリアクションが嬉しい。お気に入りの店を誉められて嬉しくないわけがない。そうなのだ。この2人は、良く似ている。気持を表に出し、衒いのない表現で相手の気持を柔らかく、温かくしてくれる。2人で仲良く話をしている姿は、本城さんではないけれど、母娘というよりは姉妹のよう。羨ましい眺めだ。

ふぐの皮れ、お誕生日とバレンタインのプレゼントです」そう言って差し出してくれたチョコレート。ギフト上手も母娘はそっくり。母はと言えば、バレンタイン当日にサンタクロースのように大きなバッグを背負いコートサイドに現れ、スカッシュ仲間たちにROYSのマシュマロチョコを配っていた。「まとめて通販で買ったんだ」結構な出費のはず。でも、それが決して嫌みにならない。「ママと何でも話せるし、友だちはウチの両親は羨ましいって言ってくれるよ」…そんなことを思っていても、20歳の頃には口に出せなかった。ことばで伝えたかったし、伝えられた方も嬉しいはず。ほんとに良い母娘だね。「うん、いろいろあったけど、良かったよ」思春期のちょっとした反抗期も、どうにか無事に乗り越えた。けれど、その最中の母の心配は並大抵ではなかった。「あの頃の自分は、思い出す度に恥ずかしいです」ふふ。派手な化粧だったし、髪型だったね。でも、コチラに帰って来て良かったね。

味しかったぁ」「ホントに美味しかったです。ごちそうさまでした」はい。ホントに良い娘になったね。「ありがとうございます。そんなこと言われると泣いちゃいそうです」タクシーに乗り込むお気楽夫婦。母娘はお迎え役の父の車を待つ。あれっ!窓の外を眺めると、手を振り、ニコニコと笑いながら母娘が走り出した。タクシーと並んで走る、走る。思わず大笑いのお気楽夫婦。良い娘だ、そして良い母親だ。「なんだか、ずっと友だちでいたいよね」妻が微笑み、呟いた。

■お気楽夫婦の御用達 「用賀 本城」

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