いつも通りの「正しい月と書いて、正月」
2011年 1 月02日(日)
日本語では否定的なことばとして使われることの多いマンネリ。英語でmannerism(マンネリズム)そしてフランス語でManiérisme(マニエリスム)とは、本来の意味から言えば形式主義、様式主義。新鮮味がなくなり、毎回同じ内容で飽きられてしまうということで、マンネリと言われることが多い。けれど、コンテンツに魅力があり、人気があるからこそ同じような内容で制作されるというのも一方で事実。男性=白組、女性=紅組の対抗戦という構図で勝敗を競う、偉大なるマンネリと称される年末恒例のNHK番組『紅白歌合戦』がその代表。以前は、南極観測隊からの応援メッセージ「基地の周囲は雪と氷で、白、白、白」とか、最後の会場審査の紅白の数をカウントする日本野鳥の会のメンバーとか、“お約束”の演出が印象的だった。けれどそれは、『プロポーズ大作戦』のフィーリングカップル5 vs 5とか、『ねるとん紅鯨団』の「友だちからお願いします!」「タカさ~ん…チェック!」などというお決まりのセリフと同様に、同世代に通じる共通の記憶、キーワードでもある。
「また今年も美味しそうだねぇ♪」例年、妻の故郷である浜松で過ごすお正月。恒例の割烹 弁いちのお節料理を前に妻が微笑む。毎年振り返ってみれば、お弁当を買い込み新幹線に乗り、浜松に到着する頃にはすっかり酔っ払ってしまう年末。けれど、今回は到着後すぐにスポーツクラブに向かうこともあってノンアルコールビールで喉を潤す。さらに、スポーツクラブでスカッシュの打ち納めをした後は、家族揃って外でお食事…という慣例を少し変更。今回は都内で買ってきたDEAN & DELUCA のデリを持ち帰り、家で食事と決め込んだ。外で食べると気を遣うという妻の両親を慮っての作戦。「すっごぉ~い!豪華だねぇ」2人だけでは買えない、何種類ものちょっとゼータクなデリに妻もご満悦。そんな風に、年ごとに少しづつ違ってはいても、毎年恒例の家族の光景だ。
「あらら、これはどうしたの?」これまたお約束の冷蔵庫内食品賞味期限チェックをしていた妻の声。見れば冷蔵庫の中には見慣れぬ形の白い塊。巨大な白たい焼きのようでもある。「通販で買ったの。TVでやってて美味しそうだったからねぇ」うわぁ、タイの塩釜。うぅむ、どうやって食べようか。料理担当の私を悩ませる食材。「そのまま割って皆でつつけば良いんじゃない?」両親の元でお気楽度が増す妻が呟く。そういうものではないと思うけどね。「お父さん、割ってみて」母娘が声を揃える。無口な義父が小槌を振り下ろす。タイのミネラルをたっぷり含んだ塩がダイニングテーブルの周囲に飛び散る。思わず笑ってしまった私の笑い声が、じわじわと家族全員に拡がる。誉める、笑う、喜ぶ、驚く、それが口数の少ない妻の家族の中で果たすべき私の役割。飛び散った塩に憤慨するのではなく、楽しんでしまうことが義父母の記憶に残る。きっと楽しい思い出として。
「ところで、今回の宿は前回と同じだったね。富士山が良く見えるのが気に入ったの?」妻が両親に尋ねる。恒例の年末のご近所旅行。富士山を望む焼津のホテル。富士山を眺めることが大好きな義母が、また今回もと選んだという。「同じ宿に2年続けて泊まったのは初めてだったね」妻が言うと「前に館山寺のホテルに続けて泊まったよね」妻に答えるでもなく、義父に問いかける義母。過ぎ去れば淡くなる記憶。それは5年前でも10年前でも構わない。いつも通りに、いつも通りのお正月が過ぎて行く。「またお雑煮作ってね」と妻に言われなくなって何年経つのだろう。言われなくても、いつの間にか担当するようになった妻の実家での手料理。義父母にとってもそれが自然になった。旨いね!とか、美味しそう!とかの反応は薄い3人だけれど、黙って(たぶん)美味しそうに食べる親子を眺めるのも私の楽しみ。
口数の少ない3人の親子の前で、このカラスミはやっぱり美味しいね、この昆布締めはもう幸せだね、うぅむさすが弁いちさん、おっ!このタイの出汁で作ったお雑煮も旨いね…繰り返し繰り返し、喜び、誉め、楽しむ私。私自身にも、そんな「私」が欲しい。「ダイジョーブ!私の代わりにSちゃんや、Hちゃんが今年も誉めたり、喜んでくれるよ!」それもまたいつもの通り。こうしてお気楽夫婦のお正月が、新年が、いつものように始まった。今年も、そんな2人と『快楽主義宣言』をよろしくお願いいたします。