Archive for 2 月 6th, 2011

かえるの子はかえる『ろくでなし啄木』

RokudenashiTAKUBOKUる週末、お気楽夫婦は石田衣良の人気シリーズ『池袋ウェストゲートパーク』で知られる池袋西口に向った。IWGPの主人公、真島誠が店番をする実家の果物屋のモデルと言われている店は…などとこれ以上話の道草はせず、向ったのは東京芸術劇場中ホール。三谷幸喜が今年50歳になるのを機に、舞台、映画、小説などのジャンルを超えた新作7本を発表すると宣言。その舞台第1弾『ろくでなし啄木』の会場だ。出演は、藤原竜也、中村勘太郎、吹石一恵の3人芝居。主人公の石川啄木を演じる藤原竜也は、蜷川幸雄の舞台『身毒丸』でデビュー。お気楽夫婦は、その彼の初舞台をはじめ、NODA MAP『オイル』『ロープ』など何本かの作品を観ている。巧いし、華がある。お気楽夫婦お気に入りの良い役者だ。

演の二代目中村勘太郎と言えば、十八代目中村勘三郎の長男。2012年に父親の名跡を注ぎ、六代目中村勘九郎を襲名する予定。『あっぱれさんま大先生』で人気子役だった前田愛と結婚し、今年父親になるらしい。歌舞伎の名門に生まれながら、いや生まれたからこそ革新の舞台を創って来た父、中村勘三郎。コクーン歌舞伎や平成中村座を立ち上げたり、野田秀樹や串田和美と組み歌舞伎の上演をしたり、現代劇やTVドラマの出演も多い。お気楽夫婦は、何度も勘三郎(勘九郎の時代が多かったけれど)の舞台を観てきた。唾を飛ばし、全身汗まみれになりながら、巧さより先に舞台への情熱を感じる芝居が多かった。そんな勘三郎もお気に入りの役者の1人。その息子、勘太郎は2004年に出演したMODA MAP『走れメルス』で観ているが、その演技の記憶は薄い。どおれ、お手並み拝見。

RokudenashiTAKUBOKU2いた。藤原竜也が完全に食われていた。「はたらけど はたらけど猶 わが生活 楽にならざり ぢっと手を見る」などの歌で知られる夭逝の天才歌人、石川啄木。その啄木が実は女たらしで、借金を重ね、博打に女郎遊びにうつつを抜かし…などという“悪”の啄木を演じる藤原竜也の毒を、簡単に飲み干してしまう勘太郎。悪どい商売にも手を染めながら、現在は啄木のパトロンになっている香具師の役。巧さよりも分厚い存在感が舞台で輝く。藤原竜也とは異なる種類の華がある。その演技のあちこちにも父である勘三郎が透けて見える。実に良く似ている。鍛えられている。父親以上にセリフが安定していながら、弾けてもいる。歌舞伎の舞台を幼い頃から勤め、磨かれた演技、セリフ回し、滑舌、所作、身のこなし…。

えるの子は買える?いや、決して買えはしない。血が、伝統が、経験が、舞台が、子を鍛える。襲名は名を継ぐだけではなく、そんな歴史をも継ぐのだ。かえるの子は還る。そう、舞台で祖父を見て、父を見て、祖父の芝居に還り、父の舞台に還り、父と自らの名を振り返る。そして、新たな芸を育て自分の名前にする。歌舞伎は伝統芸能と言われるけれど、歌舞伎者は傾奇者。継承していくだけではなく、新たなものを取り入れて、革新を続けて行くのが歌舞伎。かつての中村勘勘九郎と次代の勘九郎、中村勘太郎親子の芝居を観て、その血の流れを感じた舞台だった。

ころで、吹石一恵は近鉄バファローズにいた吹石の娘だって知ってた?彼女も初舞台とは思えないほど巧かったよね。「え?この前亡くなった親分?」と妻。それはもしかして、大沢啓二のことで、娘ではなく孫の大沢あかねと勘違い?「え?大沢あかねって誰?」劇団ひとりと結婚した…もう話の道草は止めよう。

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