次の世代へ「台湾料理 麗郷」
2011年 5 月30日(月)
この春、甥っ子が上京した。都内の大学に入学し、学生寮に入った。18歳、初めて親元を離れ、暮らし始めて1ヶ月余り。どんな暮らしをしているやら。そんな好奇心と多少の心配もあり、観終わった後に食事をしようと甥っ子1人分の芝居のチケットを手配した。田舎にも映画館はあり、CDやDVDも流通し、衛星放送は受信できる。今時のワカモノだからYou Tubeなどは当然で、エンタテインメントに触れる機会はたっぷりある。けれど、田舎では生のライブに接する機会は余りない。そこで芝居のチケットだ。聞けばやはりきちんとした舞台を観たことはないという。よしっ!初めて観る舞台の演目や演出次第で、演劇は退屈だなどと思われても癪だ。そこでワカモノ向けの小難しくない芝居を選んだ。
「ものすごく楽しかったです。ありがとうございました」待ち合わせの前、芝居はどうだった?とメールを送ると、そんな文面が送られて来た。うん、それは良かった。ふだんはことば少なく、話をする際の表情や自己表現も控えめな線の細い男の子。ちょっと心配なのはその辺りだった。そんな彼から、そんな率直なメールを受け取るとは思わなかった。手配したチケットの日程調整などでメールをやり取りした際に、挨拶やお礼なしの文面に注意をしていた。敢えて宣言して嫌な伯父になった。友人ならともかく、先生や先輩に連絡する時もこんなメールじゃダメだよ!などと。だからこそ、“ものすごく楽しかった”が、“ものすごく”嬉しかった。そして、待ち合わせた場所でひょろりと立っている甥っ子は、はにかんだ笑顔だった。
「中華が良いです」何が食べたい?ストップを掛けるまで延々と食べる串揚げとか、台湾だけど中華料理だったらどっちが良い?との問いに即答する甥っ子。「前にご馳走になった烏山の中華料理、美味しかったです」よしっ!そうそう、そんなノリだ!ほくそ笑む伯父、IGA。リクエストに応え道玄坂小路の台湾料理 麗郷に向う。妻も大好きなこの店は、2人がそれぞれ30年近く前から通う店。年に数える程ではあっても、たまにどうしても行きたくなる。どうしても食べたくなる。そんな店。夕食にはまだ早い時間だというのに、店内は既に大勢の客で賑わっている。2階に案内され、大きな円卓でカップルと相席。猥雑な雰囲気と、大雑把な接客。相変わらずの台湾の雰囲気。そしてもちろん、台湾の味。
メニューをほとんど見ずに、定番メニューをオーダー。麗郷初心者の甥っ子に“食べさせなければいけない”お約束メニュー。腸詰め、シジミ、焼きビーフン、青菜炒め、ダイコン餅…。あっという間にテーブルに料理が並ぶ。「相変わらず、美味しいね♬」未成年の甥っ子と一緒に中国茶を飲みながら、妻が直球で料理をホメる。繊細ではなく、むしろ粗く、そして旨い。小さな台湾旅行。遠慮しながらも美味しそうに食べる甥っ子に大学や寮の様子を聞くと、東京での生活を楽しんでいることが分かる。とは言え、ほぼ寮と大学のある最寄り駅周辺に出かけているだけらしい。今のところ、寮の最寄り駅の街(駒込!)が、お気に入りの街らしい。「駒込って何があるの?降りたことない駅だなぁ」と妻。六義園とか古河庭園があるよなぁ、甥っ子をフォローするような自分の発言に、少し照れてしまう。学生にとって、自分の街にあっても嬉しいか?と思うような場所だけれど。
「美味しかったです。ごちそうさまでした♬」小さな声でお礼を言う甥っ子は、普段より多く自分を語った。いつもは良くしゃべる両親がいて、歳のさほど違わない姉がいて、元気な末っ子がいて、彼はそれまでちょっとひ弱な長男に見えていた。ん、ダイジョーブだ。これからじっくりと、エンタテインメントの楽しみも、美味しい料理も、そして機会が来れば酒の酔い方も教えてやろう。煩わしくならない程度に誘ってあげよう。親子ではない、ちょっと無責任な伯父と叔母として。