春を味わう♬「鮨いち伍、天松」
2014年 3 月30日(日)
桜の開花宣言と共に、Facebook仲間が一斉に桜の写真をアップし始める。SNSでもすっかりお花見の季節。桜色の景色を目で楽しむ春が来るように、舌で味わう春がある。例えば、寿司屋のカウンタ席で。ご近所で馴染みの店「鮨いち伍」でネタケースを眺めながら。突き出しに出てきたのは、初夏を先取りの鰹。まだ脂は乗っていない分、漬けにした鰹と若布、たっぷり生姜の軽やかな味を楽しむ。そしてサクラマス。名前の通り、桜の季節に日本海で獲れる、サクラ色の身色を持つ美魚。*富山ではこれを有名な駅弁でもあり郷土料理でもある「ます寿司」にして味わう。眉目麗しいサクラマスの握りも春を感じる上品な味。旨し。
鯵は、魚偏に参(三)と書くように、旧暦の三月が旬という説がある。実際には夏の方が脂が乗って美味しいとも言うが、丁寧な仕事が施された握りは、文句なく旨い。そしてサヨリ。春を告げる魚。たおやかで色気がある姿は食欲を刺激する。美味。ハマグリはまさしく春が旬。産卵前のふくふくとした煮ハマグリは大好物。煮切りを付け、ワサビをちょいと乗せた握りは絶品。夏のシンコが珍重される出世魚のコノシロは、コハダが鮨ネタとして使われ、魚偏に冬と書くように秋から冬が旬。けれども春のコハダも旨い。むむ。…と言うことは、結局、きちんとした仕入と仕事をする寿司屋のネタケースに並ぶ魚は、春に限らず季節毎にきちんと美味しいという結論か。
春をさらにたっぷり味わえるのが、天ぷら。春の天ぷらは、何と言ってもまずは山菜。妻は山菜の天ぷらを食べないと春が来ないとまで言う。春が来ないのは困ると、渋谷にある馴染みの店に電話をするとカウンタ席は満席だとのこと。う〜む、それは困る。どうしても“今日”食べたいのだ。そんな日がある。代替案は同じ渋谷の「天松」。初めての訪問。カウンタ席に空きもあるという。店に入るとこぢんまりとしたカウンタ席に案内される。他に客は1組。お好みでお願いし、山菜を食べたいと伝えると、忙しそうにしていた揚場の大将が丁寧に説明してくれた。タラの芽、ウド、ふきのとう、コゴミ…。ほほぉ。それ、全部ください♬妻が満面の笑み。
「春が来たねぇ♡」ほんのり苦いフキノトウ、独特の旨味のタラの芽を味わいながら妻が呟く。良かった。今年も春が来た。ウドのきゅっとした歯応えを楽しみ、こごみのサクッとした歯触りに微笑んだ後は、やはり春告げ魚と呼ばれるシラウオ。絶妙に積み上げたサクサクのかき揚げを塩でいだだく。う〜ん、軽やかな春の味。そして新タマネギ。これもまた小口に切った柔らかな新タマネギをかき揚げで。寒い冬を越え、暖かな春を迎えた甘さたっぷりの味を堪能。もちろん定番の穴子、丸々としたシイタケ、頭が美味しい芝エビも忘れずに。これにメゴチなどで満足、満腹なのに、サツマイモをデザート代わりに揚げていただき、シメ。
「食べたねぇ」妻が満足気に呟く。季節を味わうことができるのが和食の楽しみ、素晴らしさ。その神髄を感じることのできる春。「夏の鮎も捨て難いし、秋もいろいろ美味しいモノがあるよ。冬だって…」小食にも関わらず、食に対する妻のスタンスは貪欲。そして季節の食材を味わうには寿司、天ぷらはぴったり。「日本人で、それもオトナで良かったよね」という妻に、全面的に同意の、春爛漫。