街並≒住民&来街者「草食系の街と肉食系の街」
2014年 10 月26日(日)
週末、仮住まいの街を散歩しながら気付いたことがある。街に赤い看板や幟旗が少ないのだ。多くの街にあるナショナルチェーンの居酒屋は、真っ赤な巨大看板が壁一面を被っている。ファストフードの店も、カラオケ店も、原色の看板の下に幟旗がはためく。どの街か分らなくなるほど同じブランドの店が並ぶ。けれども中目黒を歩いていると、そんな店が少ないせいか目に入って来る街並の風景が優しい。店の看板やファサードのデザインで個性を出し、街に溶け込んでいる。思わず店内を覗き込んでしまい、オシャレだなと撮影してしまう。そう言えば、チェーン店で撮影したくなる店は余りない。
ワシントンD.C.やボストンなどのアメリカ東海岸にも、撮影したくなる街並が多かった。抑えた色調のシックな看板、エントランスのテントに記された店名もバランスが良い。店頭に掲げられたフラッグもオシャレ。どこまで販売促進に寄与しているかは別だが、目に心地良い店作りだ。とは言え、撮影したのは東京で言えば銀座通りやオシャレに変わった丸の内仲町通りのような場所。丸の内であれば三菱地所のような地権者が中心となって街づくりを進めたり、銀座であれば商店街組織などがしっかりと規制を行って街並の保全をしている。DCやボストンも同様の管理が行われているに違いない。
自由が丘にも街並を形成する指針がある。平成21年に自由が丘の街づくり会社「株式会社ジェイ・スピリット」が中心となって作成した「自由が丘街並み形成指針」だ。サブタイトルに「自由が丘の美しい街並みを守り育てるために」とあるように、今の住環境を守るためだけではなく、自由が丘らしい街並みを守り、育て、創っていくことを目標にしている。建物の高さ制限、半公共空間の創出、緑化の推進など、街を訪れる人々にとっても心地良い街並の形成の指針を定めている。緑道の再整備、駅前広場の再整備等を官民の連携により継続的に行った結果、平成24年度の「都市景観大賞」に選ばれた。
美しく整った草食系(?)の街並みだけが優れている、と言っている訳ではない。お気楽夫婦が大好きな香港の灣仔(ワンチャイ)や中環(セントラル)の路地裏、銅鐸湾(コーズウェイベイ)の雑踏は訪れる人をワクワクさせる肉食系の街だ。東京で言えば、新宿歌舞伎町であり、渋谷のセンター街であり、上野のアメ横。街の危険度は下がり、怪しさも薄れ、商店街のパトロールなどでマナーも向上しトラブルも減ったけれど、良い意味で街の猥雑さは健在だ。街が何を提供するかよりも、街を訪れる人が何を求めて集まるかを街は知り(知る必要があり)、住民や来街者によって街は変わり、成長も衰退もする。
「凄いなぁ。駅から離れたこんな場所に人気店があるってことは、求められて成立してるってことだからねぇ」秋晴れの休日、中目黒周辺の人気のパン屋を巡ってのんびり散歩。わざわざ来てもらうことができる味や、サービス、オリジナリティ。決して楽な商売ではないはずだけれど、街に住む人たちが、街を訪れる人々に必要とされれば成立する。街並はそこに住む人や訪れる人に似ている。