美味しい記憶もまた財産「環樂(わらく)/とらや」

SapporoLagerSakuramasu2味しかったという記憶は、食いしん坊の私の深い場所に刻まれ、昨日のことのように思い出すことができる。病気で長く入院した小学生の私を迎えに来てくれた父と、退院祝いだと一緒に食べた熱々の「鍋焼きうどん」。学生時代のひとり旅で訪れた箱館山の展望台で、夜景を眺めながら初めて食べた「松前漬け」に入っていた数の子のこりこりとした歯触り。旅先のフランスで体調を崩した妻を快復させてくれた、じんわりと滋味深い「スープドポワソン」。結婚記念日のお祝いに、お気に入りのビストロで仲間たちと一緒に味わったサプライズのふぅわりとしたシフォンケーキ…。2015年冬、札幌の旅(あ、出張です)で、そんな記憶に残るであろう味に出会った。

KernerSakuramasu乗りした札幌の宿泊先のホテルで、独り遅い食事。ビールはやはり北海道限定「サッポロクラシック」の生ビールだなと独り言つ。雪吊りされた木々と雪景色を眺めながら、薄く上品なグラスに口を付け、ぐびり。ううぅわぁ〜っ!旨い!濃密で均一な泡が絶妙な厚みの層を作り、その下のキリッと冷えた琥珀の中から、繊細な泡が浮かび上がってくる。もう一度、う〜まぁ〜いっ!うぅ、誰かにこの美味しさを伝えたい。誰かと共有したい。そんな味。サクラマス尽くしの料理も美味しかったし、北海道ケルナー辛口というワインも好みではあった。けれども、この日語るべきは札幌グランドホテルの日本料理 ガーデンダイニング「環樂(わらく)」の生ビール。しっかりと刻んだ。

TorayaVegi幌滞在最終日、早めに仕事を終え、遅めのランチ。行けるものならと下調べしていた1軒。店の場所は市の中心部から少し離れた円山公園の傍。「日本料理とらや」という野菜の美味しい会席料理の店。こぢんまりと、控えめな店先。雪だるまの暖簾を潜り、店に入るとこざっぱりとしたオープンキッチンと6人ほどのカウンタ席。地下鉄の駅を降りてすぐに電話していたから、ポツンと一席分だけ半月盆がセットしてある。2階の個室は満席の様子。下から2番目の会席コースをオーダー。まずは野菜を中心とした7種の前菜盛合せ。ひとつひとつがきちんと美味しい。ガツンと食いしん坊心を鷲掴みにされ、思わずビールをいただく。あ、正直に言います。既にオーダー済みでした。

Vegi2Buri驚くべきは、次の一皿。野菜の揚げ浸し。ひと口食べて、その馥郁たる香りと、絶妙の柔らかさにびっくり。独りメシなのに笑みが零れる。煮くずれていないのに、歯にほろほろと溶けて行く、寸止めされた野菜たち。ニンジンが甘く、香り高い。サツマイモがジューシー。この料理はどこかで味わったなぁと思いを馳せれば、日本料理ではなく南仏料理のラタトゥイユ。野菜の旨さを存分に引き出す一品。これは素晴らしい。野菜、美味しいですねと店主に告げると、ありがとうございますと小さく笑顔。ん、良い感じ。厨房のスタッフは3人。互いに口数が少ないのに、コミュニケーションがキチンと取れており、客に見られていても平気な、実に奇麗な所作。心地の良い軽やかな緊張感。良い店だ。

の後のお造りも、煮物も、焼物も、和え物も、最後の甘味まで満足の味わい。例えばお造りに添えられたおろし大根が旨い。水菜が邪魔にならない。脇役の野菜が主役と寄り添い、ハーモニーを奏でる。これは良い店に出会った。特に和風ラタトゥイユには参った。記憶にしっかりと残る一皿だ。画像をアップすると「煮物の横にあるのは、水のわけないでしょ」と仲間に突っこまれる。はい。ついつい、昼から日本酒を2杯もいただきました。これは飲まなきゃ失礼でしょ!くらいの料理たち。いつか、今度はじっくり夜の席で(妻や仲間と一緒に)訪れたい店だった。

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