建物の魅力で訪ねる美術館「清春白樺美術館 他」

PiaArtMuseumsKiyoharuあ日本の美術館」という1995年に発刊されたmooks(magazineとbookの中間的な出版物:造語)がある。残念ながら亡くなられたかつての同僚、望月昇くんが編集を担当した、私の大好きな1冊。副題に「建物の魅力で訪れる全国110館」とあるように、収蔵作品だけではなく、美術館の“建物”そのものの魅力にスポットを当てた出版物。掲載されている写真も、淡々としたトーンの紹介文も、各ページのレイアウトも、美しく、オシャレで、魅力的。かつ記載された情報も実用的で、ページをめくる度にそれらの建物と美術作品に会うために訪れてみたくなる。元々美術館巡りが好きな私にとって、いつか訪ねたい美術館のリストであり、眺めて楽しい貴重なカタログでバイブルでもある。

OharaHiroshima年のテニス懇親会の会場が須玉だと聞き、帰路に立ち寄る美術館が浮かんだ。すぐ隣の長坂駅が最寄りの「清春白樺美術館」だ。清春小学校の跡地を吉井画廊の社長だった吉井長三が私財を投じて買い取り、親交があった白樺派の武者小路実篤らが構想していた美術館を建築したという。清春芸術村という文化複合施設の付属施設として1983年に建てられた美術館は元より、エッフェルが設計し、1900年のパリ万博の際にのパビリオンとして建てられこの場所に移築された「ラ・リューシュ(蜂の巣)」という独特の外観の建物が有名。他にもツリーハウスの茶室「徹」や、巨大な親指の屋外彫刻など見所が多い。小雨の中、芝生の緑に映える童話の世界のような眺めを楽しんだ。

KanazawaAkita島、岡山方面へ出張した際に、「ひろしま美術館」と「大原美術館」を訪ねた。どちらも学生時代から何度か訪ねたお気に入りの美術館。特に倉敷の大原美術館に収蔵されているウジェーヌ・カリエールの「想い」という作品が大好きで、その作品を観るためだけにでも行きたい美術館なのだけれど、その日は展示されておらず(残念!)、代わりに古代ギリシア風建築と桜の組合せという不思議な景色を味わった。金沢の出張では「金沢21世紀美術館」へ。残念ながら休館日だったため、収蔵作品は観られなかったけれど、屋外の展示物や、開放された中庭で「スイミング・プール」という話題の作品を(上から)眺めることができた。下から見上げないと余り面白くないのだけれど。

DomonNewNational郷の父を見舞った際に友人と出掛けた「秋田県立近代美術館」や、帰省の際に何度か訪れた「土門拳記念館」は、まさしく建物そのものの魅力が溢れている。丘の上から飛び立とうとしている飛行船のような「秋田県立近代美術館」は“動”のフォルムにワクワク感がある。公園の中の人工池に浮かんでいる箱船のような「土門拳記念館」は“静”の魅力。展示室に向かう通路のガラス窓から差し込む光と、ガラス窓の向こうにある水の風景を取り込んだ空間は、リズミカルで心地良い。訪れる度に微笑んでしまう大好きな場所だ。いずれも展示作品の持つ力を引き出す良い器には違いない。

2004年に開館した「金沢21世紀美術館」をはじめ、2006年「青森県立美術館」(未訪問)、2007年の「国立新美術館」など、望月くんが亡くなった後に完成し、建物自体も話題となった美術館は多い。美術館ではないけれど、2005年開園の「モエレ沼公園」や、直島を始めとした瀬戸内国際芸術祭など、建物や展示作品が置かれた“場所”の魅力が人を惹きつけるアートも増えた。旅先で出会う(出張含む)美術館と美術作品は、訪れる街の印象を一気に変えてしまう程に新鮮で魅惑的。誰か望月くんの企画を引き継ぎ、改訂版を出版してもらえないだろうか。「ぴあ」さん、お願いします!*もちろん、ぴあ社ではなくても可(笑)

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