百万石の矜持「金沢冬紀行」

Kanazawa1Kanazawa2る週末、お気楽夫婦はラケットバッグを背負って北に向かった。通っているスポーツクラブが主催するスカッシュ合宿の開催地が金沢と聞き、お気楽妻が珍しく「合宿に行こうか!」と宣うた結果。彼女にとっては初の北陸、金沢の旅ということで、前乗りをして市内観光しようという作戦だ。北陸新幹線の乗車経験は長野まで。車窓から眺める日本海や立山連峰の景色は新鮮だ。金沢駅の改札を出ると、さっそく妻が感嘆の声を上げる。「もてなしドーム」と呼ばれるガラス張りの天井アーチ、観光名所になっている人気の「鼓門」が我々を迎えてくれた。東海道新幹線をはじめ画一的な駅が多い中で、金沢ならではの意匠。“世界で最も美しい駅”のひとつに選ばれただけのことはある。

Kanazawa3Kanazawa5テルにチェックインした後、予約してあった観光タクシーに乗込む。ちょっとゼータクだけれど、効率的に街を回るにはぴったりだ。発車すると間も無く、運転手さんの自己紹介に続き、さっそく街の案内が始まった。古い街並みや手入れされた庭木を褒めると、「金沢の人は見栄っ張りなんです」というコメント。ふむ。老舗の(享保元年創業!)「俵屋」という180年以上続く飴屋に立ち寄る。ロケに使われたり、取材も多かったりという有名店なのに、店先で接客する女将さんの物腰は柔らか。売っているのはコメなどの穀物と砂糖だけで作る素朴な飴。思わずお土産としてお買上げ。続いて「ひがし茶屋街」へ。ここもまた金沢の歴史が詰まったような古い街並みが残っている。

Kanazawa4Kanazawa6屋街の街並みを背景に記念撮影。その写真をやはり合宿に来ているスカッシュ仲間たちに送る。すると、たった今メールを送った相手が目の前に現れた。なんというシンクロニシティ。あとでまた会おうとその場は別れる。そして饒舌な運転手さんに案内されたのは「箔座ひかり蔵」という金箔の専門店。外壁や内装を金箔で仕上げた蔵をを見学したり、金箔付きの菓子とお茶をいただいたり、VIP待遇に思わずお土産を購入。さらに日本三名園のひとつ、兼六園へ。晴れ渡った冬空、無風。眺望、水泉などの六つを兼ね備える名園を楽しむのに、これ以上の好条件はない。雪吊りを終えた庭木が鏡のような池に映り、これぞ冬の金沢という見事な風景だ。案内の運転手さんも誇らし気。

Kanazawa7Kanazawa8沢観光の掉尾を飾るのは、その日最も楽しみにしていた「金沢二十一世紀美術館」だ。以前1人で訪れた際は、なんと休館日。*それでも無料開放されたいくつかの展示作品を楽しむことができた。妻がポーズをとっているのは「カラー・アクティビティ・ハウス」という恒久展示作品。シアン、マゼンダ、イエローという三原色のガラスの壁が、組合せにより色を変え光と共に混じり合う。美術館の周辺は芝生で覆われ、ガラスの壁に囲まれたライブラリーなど、無料で入れる場所が多い。美術館の目玉作品「スイミング・プール」も中庭にあるプールの上から覗き込むことができるくらいの鷹揚さ。これほど周囲の街並に溶け込み、開かれた美術館も貴重。良い美術館だ。お気楽妻もお気に入りの模様。

Kanazawa9い街だね。独自の歴史や文化があるし、自分たちの街を愛してる感じだね」ホテルへの帰路、妻が満足気に感想を漏らす。古い家屋を残し、塀には雪囲い、庭木には雪吊り、橋や階段には滑止めの藁を敷く。店の看板は落ち着いた色に抑え、巨大で派手なものはない。自分たちが心地良く暮らすために伝統や景観を守る。良い意味でのプライドを持っているのだ。「見栄っ張りなんですよ」そう繰り返す運転手さんの言葉は、卑下ではなく矜持の現れ。金沢は百万石の前田のお殿様を敬い、その臣下であることを誇りに思う、武士の末裔の、連綿と続く商人の、矜持溢れる街だった。

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