神奈川芸術劇場(KAAT)の芸術監督に長塚圭史が就任した。2011年開館時の初代の宮本亜門、2代目の白井晃に続く3代目。芸術の創造、人材の育成、にぎわいの創出をテーマに、モノと人とマチを作る創造型の劇場を目指して10年。気になっている劇場ながら(遠いこともあり)お気楽夫婦は未訪問だった。そこにお気に入りの役者が何人か出演する舞台の情報を入手。新ロイヤル大衆舎の『王将』という伝説の公演の再演だ。
初演は2017年に下北沢の小劇場楽園で上演。小さな劇場のため、狭い楽屋に入れない出番待ちの俳優たちがシモキタの街にはみ出し、出番になると舞台に踊り込んでいく、という状況だったという。その公演をホールではなく、吹き抜けのアトリウムで上演するという長塚の企みだ。そして、公演は3部作。常宿のハイアットも目の前だし、毎回通って観るより泊まってしまえ!というお気楽夫婦の職住接近ならぬ観泊接近作戦だ。
昨年春に開業したハイアットリージェンシー横浜は、文字通り劇場の目の前。ホテルのエントランスを出て、小さな通りを渡って劇場の入口まで(全くの誇張ではなく)約5秒。客室から客席まで(冗談ではなく)約3分。初日に第1部を観て、2日目の午後に第2部、一旦客室に戻って休憩し、夕方から第3部を観るというゼータクなスケジュールだ。スイートルームにアップグレードしてもらったこともあり、さらに優雅な観劇になる。
開演の5分前、客室から劇場に向かう。アトリウムに設けられた舞台と客席は、幟旗がたなびく大衆演劇の芝居小屋の風情。幕が開き、狂言回しの巧みな話術で会場は一気に明治の大阪天王寺の貧乏長屋になる。主役は福田転球演じる将棋指しの坂田三吉。後援者役の山内圭哉と共にお気楽夫婦のお気に入り役者だ。その転球が良い。坂田の妻、小春役の常盤貴子がキュート♬長女の玉江役の江口のりこが巧い。これは良い芝居だ。
「狂言回しの大堀こういちが美味しい役だったね」客室に戻り、観劇の感激も覚めないうちに乾杯。テイクアウトの料理を堪能しながら感想をぶつけ合う。性格の違いを表現するのに履物を脱いだ後に揃える次女、脱ぎっぱなしの長女、と言う話をすると「えーっ!気がつかなかった!」と妻。「2人とも一本調子かと思っていたら、転球も山内もあんな芝居できるんだね」と妻が返す。同じ芝居を観ても視点の違いが面白い。
横浜で芝居を堪能する合間には、中華街で2人宴会。ビールが飲めないのが残念だけれど、「飲茶」と言うくらいのもので、中華料理にはお茶がある。香港で飲茶を楽しみながらビールを飲むのは日本人くらいのもので、香港人は中国茶だしね、と負け惜しみを言いながら「聘珍楼本店」に向かう。中華街では家庭的な小ぢんまりとした店を選ぶことが多かったけれど、たまには老舗大型店で!と選んだのが大正解。
飲茶メニューの種類が多く、「腸粉」や「タロイモの蜂の巣揚げ」など、香港ではお馴染みで2人の大好物なのに、日本ではお目にかからない料理がきちんと揃っている。素晴らしい。「やっぱり老舗名店のことだけあるねぇ」と、お気楽妻も至極満足のご様子。「明日はどこの店に行く?」と前のめり気味。2人で食べるには大型店の飲茶ランチ、ランチであればビールもまだ我慢できると言うのが2人の結論だった。
「で、次はKAATに何の芝居を観に来ようか」と妻が目を輝かせる。もしかしたら、横浜の街を堪能し(にぎわいの創出)、芝居を観客として愉しみ(芸術創造の応援)、出演者の新たな側面を発見する(人材の育成?)と、お気楽夫婦はKAATのコンセプトにぴったりの観客か。「ただ楽しいってことだけで良いんじゃない?日々の生活にエンタメは必要だよ」良い芝居を観た後の妻の発言はいつも力強い。良いじゃん!YOKOHAMA♬
1920年から1933年にかけて、アメリカ合衆国において「禁酒法」が施行された。酒の製造と販売が違法となったが、スピークイージーと呼ばれた違法な酒場が乱立し、かのアル・カポネなどギャングたちの大きな収入源となった。そう言えば、当時14歳だったジョディ・フォスターをはじめ子役だけが出演する1977年公開のミュージカル映画『ダウンタウン物語』も、禁酒法時代のスピークイージーが舞台だった。*大好きな作品で、入替制ではなかった当時の劇場で2回連続で観た記憶がある。その劇中歌に「スピークイージー」という歌詞があり、ふと思い出した♬ そして急激に観たくなり、AmazonでDVDを購入してしまった(笑)。現在到着待ち!〜と書いたところで到着。さっそく今晩にでも観ねば。
2021年の日本における禁酒法(笑)は、それに比べれば圧倒的に緩い。但し、酒が出せない「居酒屋」、ワインを飲めない「ワインバー」はあり得ない。飲食店にとっては死活問題だ。お気楽夫婦が勝手に応援して宿泊を続けているホテル業界も同様。しかし、この現状をネガティブに捉えているだけではなく、あるホテルは素敵な企画を始めた。クラブラウンジで夕刻から始まるカクテルタイムを楽しみに訪れる宿泊客のために。
いつもはラウンジで供する料理を個包装にして、客室で食べられるようにセッティング。酒なしでも良ければラウンジで食すのも可。部屋には赤ワインを1本用意し、缶ビールなどもラウンジから持ち帰ることができる。これは嬉しい。とは言え、客室の広さが37㎡からというホテルだからこそできる技。その客室の広さを活かし、翌日のランチも中華街の名店「重慶飯店」で絶品の焼物をテイクアウト。*越境がバレる(汗)
またある日は、横浜で開催された(またもや越境。すっかり開き直ってしまった)PSA(スカッシュの国際大会)観戦の帰りに、やはり横浜のホテルで客室宴会。お気楽夫婦が大好きな新幹線宴会と同様に、牛すき焼き弁当、おつまみのローストビーフ、やっぱり横浜なら崎陽軒のシウマイなどを客室のテーブルに並べ、ビールをグビリ。ラウンジやレストランで飲めないのなら、自室や自宅で飲もう!というのが呑んべいの証だ。
ランチにサンドウィッチ、という場合も前夜に飲み残した白ワインで乾杯。コンビニの前や公園などに屯し、大勢で立ち飲みをするワカモノたちは論外だが、食事の際に酒が飲みたいという気持は良く分かる。美味しい料理には旨い酒、美味しい酒には絶品のつまみ、単独でも成立はするけれど不可分な関係だ。それでもこのご時世、こっそり多摩川は渡っても、外食しにくく、酒は飲めない。だったらやはりIn Room Diningだ。
以前ならホテルの客室に持ち込んで飲んだり食べたりするのは一抹の後ろめたさがあったが、今ならOK。ホテルも推奨?だ。だいたい外食をしても、ブログで感染防止万全な店でとか、爽やかなテラス席でとか、予防線を張る自分がとても悲しい。お気楽なブログも書きにくいったらありゃしないっ!←本音。近頃ブログの更新頻度が落ちている一番の理由だ。これは禁酒法ではなく、自粛警察の摘発を怖れる禁楽法ではないか。
「海外は行けないけど、これはこれで楽しいね」海外旅行に行けない代わりに、国内のご近所ホテル宿泊の頻度が高まった分、ホテルジャンキーのお気楽妻はご満悦。思えば酒を飲まない妻は、本来なら禁酒法に苦しむことはなく、飲めない私を慮って外食が減っているだけ。「試合観戦でスカッシュを応援して、テイクアウトでお店も応援だね」まだまだ続く禁酒法の暗黒時代、せめてポジティブに、ご贔屓の応援を続けよう。
3度目の緊急事態宣言が発令され、飲食店では酒が出せなくなり、舞台や美術館は休業を「要請」されるとの報せに慌てて都心に向かった。陽気の良いこの季節に、のんびりランチを楽しもうという作戦だ。しばらく外飲みができなくなる直前の、最後の昼餐に選んだのは東京ミッドタウンの「Le Pain Cotidiene」。20年ほど前に、初めてニースで利用して気に入り、パリや代官山(閉店)の店にも伺った馴染みの店。←何様?
爽やかな風が吹くテラス席で選んだ料理は「ローストビーフサラダ」と「スモークサーモンとアボカドのタルティーヌ」もちろん白ワイン付き。ベルギー発祥のこの店は、タルティーヌ=ベルギー式のオープンサンドウィッチがウリで、そしてとても美味しい。ちょっと酸味のあるオーガニック小麦の全粒パンとスモークサーモンとアボカドとの相性が素晴らしい。キリッと冷えたワインとよく合う。幸福で平和な時間だ。
そしてベルギーと言えばチョコレート。「ホットチョコレート」と「ミックスベリータルト」をデザートに。ボウルに入った熱々のミルクとチョコが別々に登場し、たらりとチョコを垂らしてかき混ぜるのが楽しい♫ サクッとしたタルトの歯応えと、甘さを抑えた生クリーム、ベリーの酸味が良いバランス。苦目のホットチョコと絶妙なハーモニー。ガラス天井の天蓋付きで半屋外のキャノピースクェアでの食事は実に快適だ。
満足の昼餉の後は、東京新美術館で開催されている『佐藤可士和展』へ。休日に六本木まで出掛けたもうひとつの目的だ。当初の会期は5月の連休明けまで。ところが急遽決まった宣言の影響で、翌日から休館。その日が最終日となった。混雑を予想して覚悟して行ったものの、入場時間や入場者数を規制し、会場内での混乱なし。これなら宣言期間中でも開催できるのではないかというオペレーション。主催者の努力の賜物だ。
会場内は通常の“美術”展とは大きく異なる趣き。一部を除いて静止画(動画はNG)の撮影可。若い客それも男性が多く、“作品”の前で記念写真を撮りあっている。佐藤可士和を一躍有名にした「SMAP」のプロモーション展示が目を惹く。ポスターやパッケージデザインが並ぶ会場は、美術館であり、記念館でもある。会場の「国立新美術館」ロゴも含め、有名企業や団体のVI作品が並ぶ壁の前には「これも?」と驚く人が集まる。
ここにあるのは“作品”ではあるが、アートではなく、デザインでありプロダクト。けれど、単なるデザインではなく、空間や時間を創造するプロダクトであることが分かる。私が最も好きな佐藤可士和作品が、立川にある「ふじようちえん」だ。幼稚園の園舎建て替えの際に、遊びを核にして「園舎自体を巨大な遊具にする」というコンセプトで建設されたドーナッツ型の園舎。ここに通いたかった!と大人にも思わせる空間だ。
ボルダリングの壁面のような一角は「7−11」のセブンプレミアム商品パッケージで埋め尽くされた展示室。ひとつ一つのパッケージは見過ごしてしまっても、こんな風にトータルデザインで攻め込まれては圧が強い。セブンカフェのベンディングマシーンのデザインでは「デザインの敗北」と物議を醸したが、やはり見やすく分かり易い。ジャケ(パッケージ)買いしたくなるデザインの(敗北ではなく)勝利だろう。
この展示会の協賛・協力企業には、佐藤可士和が関わった企業が並ぶ。楽天、ユニクロ、TSUTAYA、セブンイレブンなど勝ち組企業のブランドロゴだけではなく、絶対的ブランドとして確立した今治タオル、店舗変革を象徴するくら寿司、釣りのイメージから脱却したDAIWAなど、そのジャンルも幅広い。これは佐藤可士和の活動の軌跡であり、各企業のVI展示会でもある。アートではないが、展示会はエンタテインメントだ。
今週月曜から日経夕刊の「こころの玉手箱」に佐藤可士和が登場している。従来の会期で開催されていたならとても良いプロモーションになったはずだ。この連載を読みつつ、作品の背景、彼の世界観、空間観を味わってみよう。今週金曜日まで、全5回。すると「あ、読んでないや。読んでおいて!」とお気楽妻。そう言えば、私がかつて在籍し彼女が今も在籍する会社「ぴあ」がこの展示会の共催。やっぱりこれはエンタメだ!