電車に乗らない日々。自宅の周辺数百メートルの範囲で生活をしている。*ジョギングのコースを除く。そんな生活をする日々で楽しみなのは食事だ。デパ地下で惣菜を買う訳にはいかず、毎食手作りの料理ではレパートリーが限られる。馴染みの飲食店の大半は歩いて行ける場所にはない。となると、余り足が向かなかった店も含め、持ち帰りメニューを選ぶ事になる。だったらこの機会に新規開拓&地元飲食店の応援をしよう!
応援の1軒目は「エノテカ・クラフト」というピッツェリア。ずいぶん前に1度行ったきりで、その後伺っていないのは距離の問題。近くに同様にピッツアの美味しい店があるから。決してネガティブな記憶があるわけではない。メニューから選んだのはイタリア総菜の盛合せ。小食の2人が食べるには多いくらいのボリュームで3,800円。お得感がすごい!テイクアウトのピッツアは半額!と言う看板にも惹かれたが、さすがに無理。
自宅に持ち帰って「ビストロ808」用の白い大皿に盛付け直すと、かなりゼータクなディナーになる。盛付け次第で、料理は3割増し、いや5割増し以上の美味しさにもできる。料理も見た目が大切。美味しいことは絶対条件。「ん、味も良いね♬コロナの後に店でも食べなきゃね」と言う妻の発言がテイクアウトのポイント。今はプロモーションの時期なのだと思うことも必要だ。因みにこの店は5月1日まで休業になった(涙)。
「限定またやります!なんでも巻き30本限定」馴染みの「鮨いち伍」の大将が発したインスタの写真とコメントに食いついた。限定バラ寿司企画にはTV会議の時間の関係で購入できなかった。今度こそは!勇んで電話をするとまだ間に合う上に、バラ寿司も用意できると言う。即予約!夕方取りに伺い、折りに入ったバラ寿司と巻物を持ち帰る。見た目でもう美味しい。映える。やっぱり料理は見た目が大切としつこく実感。
「IGAさんが最初なんですよ!」そうか。数年前、遅い時間に店に立ち寄ると、「えぇ〜っ!シャリないですよ」そんな笑い声に何でも良いよと応えると「仕方ないなぁ」と言いながら作ってくれたのが、“何でも巻き”だった。すると別名IGA巻きか?それにしても大将のSNSの活用は見事だ。数ヶ月前に始めたとは思えないコメントの巧みさ。写真も上手い。旨そうに撮っている。こんな時期だからこそ重要なのが発信力だ。
「持ち帰りのお惣菜はいかがですかぁ」ご近所に聞き慣れない呼び込みの声。見慣れない場所にテイクアウト専用の屋台ができている。近寄ると、この街に居酒屋やバー、焼肉店など数店舗を展開している飲食店グループのものだった。街を歩いていると、別の場所にも同じデザインの屋台が出ている。そのグループの何店舗かは何度か訪ねたことがあり、若いスタッフが頑張っている印象。そうか、こりゃ応援しなきゃだな。
見れば3店舗分の料理を一緒に並べて販売している。おぉ、グループの強みを活かした良いアイディアだ。さっそく系列の2店舗、デリ&ダイニングの「SUSAN’S」とホルモン焼きの「八輪」の惣菜をゲット。この「SUSAN’S」のある場所は、何世代も前から経営が変わってもずっと飲食店で、どこも馴染みの店だった。我が街の飲食店の栄枯盛衰を実感する場所だ。*今は「TINBER FOOD SERVICE」という会社が経営。
さっそく持ち帰って小皿に盛り付けて並べてみる。コンビニで買ったスティックサラダと合わせ、自宅居酒屋の雰囲気。これはこれで“あり”だなとご満悦。「ビストロ808」ではなく「居酒屋八十八」か。料理全般が茶系なのもご愛嬌。ビールがすすむ。このグループが屋台で配布していた「STAY HOME GET DRUNK」と大書されたチラシには系列店を中心とした街のMAPと1ドリンクチケットが付いていた。
…そして1ドリンクチケットの傍にはこんなメッセージが。「この街と人に支えられてきました。今の状況が落ち着いた時に、ささやかですが、ぜひみんなで乾杯しましょう」こんな店には、ウイルスなどに負けて欲しくはない。この災禍を乗り越て欲しい、そう思わせる一文だった。こんな現状に、一人ひとりができることは少ない。それでも自宅に籠り、地元で頑張る飲食店を応援することぐらいはできる。おウチご飯で応援だ。
全国民に10万円給付することに異議を唱えるのではなく、お気楽夫婦は堂々といただくつもりだ。政府になんか返さない。元々は我々が納めた税金だ。そして、給付金にさらに所得税はかからないのだから、その10万円は寄付しようと思っている。2人が通うスカッシュレッスンを運営する会社にしようか、医療機関にしようか、自治体はダメだな、これからも営業を続けて欲しい地元の飲食店にしようか。テレワークの合間に、自宅でそんなやり取りを楽しんでいるお気楽夫婦だった。
自粛の春。予約していた芝居にも、週に何度か通っていたジムにも行けない。数人以上での会食、夜間の外出も控える必要がある。大勢で集まって、狭い空間で、長時間にわたり近接して飲んで食べる「ビストロ808」は問題外。しばらく休業を余儀なくされる。スポーツクラブや飲食店などの皆さんの苦労と心配を思うと、そんな冗談は言うのも憚られる。日常と思っていたことがいかに貴重なモノだったか。実感する春でもある。
エンタメも、スポーツも、外食も、不要不急ではないかと言われればその通り。生命体を維持するには不要だけれど、人として生きていくためには絶対に必要な要素だ。そしてそれらを生業にしている人たちにとっては、もちろん有要であり、生活していくためには早急な対応が必要だ。エンタメやスポーツ、食は大切な文化だ。それらの業界に携わる人たちの自助努力に頼るだけではなく、自国の文化を守る政策が必要だ。
…とは言え、運動不足だ。運命共同体の妻は別として、社会的距離を取り、三密に抵触することなく、2人でご近所を走ることにした。お気楽夫婦の住む街からすぐの場所にある小さな川沿いの散歩道を1時間ほどジョグ。満開を僅かに過ぎた桜並木が見事だ。たっぷり汗をかき、シャワーを浴びた後は、地元の中華料理店を応援ランチ。この店はテーブル間の距離も十分で、少人数の客ばかり。さっと食べて自宅に戻る。
自宅ではMTVを流しっ放しで、読書三昧。沢木耕太郎の『春に散る』。BGMは「King Gnu」だったり、「Dua Lipa」だったり、「セレーナ・ゴメス」だったり。聞き流しながら読書に耽る。最近気になっている「BTS」の「ON」のマーチングバンドのリズムが耳に入ると読むのを止めてMVを観入る。BTSが好き!という訳ではなく、ドラムサウンド全般に弱いのだ。そんなのんびりとした時間が流れ、夕暮れ時には腹が減る。
2人でいただく夕食は、地元の飲食店のテイクアウェイを基本とする。この時期、お気楽ではないお気楽妻の帰宅は遅い。ほぼ毎日のように終電。普段の独り飯は自作の料理かコンビニ飯のアレンジで済ませるが、妻が自宅にいる、すなわち自宅で仕事をする(笑)貴重な週末は、一緒に食べることを優先する。その日はご近所の人気ビストロ「38食堂」の前菜2品と「ラム肉とオリーブの白ワイン煮込みクスクス添え」をTake Away。
名物人気料理の「馬場農園の焼き野菜」は、野菜本来の味や香りを味わえる逸品。形は歪だったりするけれど、ひげ根まで食べられる無農薬の野菜がウリ。なんとかニンジン(名前忘れた)やビーツの柔らかな甘さを楽しむ。オードブル盛合せには基本のパテドカンパーニュや紫キャベツのマリネ。「ビストロ808(自作のもの)」と比べるのも愉しい。メインも、ラム好き&クスクス好きの妻が笑顔になる美味しさ、お値段も手頃だ。
「夜は店で食べないで、持ち帰りのウチ飯で応援だね」妻はご近所の馴染みの飲食店の持ち帰りメニューを調べ始めた。「おぉ〜っ、この店も持ち帰り始めたかぁ!」などと、それはそれで楽しそう。…コロナに打ち勝つ日まで、覚悟と責任を持った生活をしよう。感染しない努力、感染させない気遣い、人との接触を避ける新しい生活のスタイルとリズム。そしてそれが持続できるかどうか。それには細やかな楽しみも必要だ。
弥生、三月、雛祭り。冬から春に季節が移る、いつもなら1年で最も美しい季節、のはずだった。ところが、2020年の3月は新型コロナウイルスの影響で、すっかり鬱々とした1ヶ月になってしまった。それでも山菜の天ぷらを食べなければ春が来ない!と言う妻の主張で新宿の京王プラザホテルに向かった。ロビーに入った途端に春色に溢れる空間に包まれ、笑顔が溢れた。段飾りの雛人形と吊り飾りが2人を迎えてくれたのだ。
予約して伺った「天婦羅しゅん」は、京王プラザホテルの本館7階。残念ながらカウンタは満席とのことでテーブル席へ。それでもカウンタ10席、テーブル10席だけの小さな店だから、揚げ場のほぼ目の前で揚げたてが食べられる。迷わず「お好みでお願いします♬」と笑顔でオーダーする妻。最初は、こごみ、楤の芽、蕗の薹の3品。「うわぁ。春の香りだぁ」と、うっとりと蕗の薹を頬張る妻。確かに香りを味わう一品だ。
続いて筍、そして春の旬に入ったばかりのサクラエビ、サヨリと続く。サクラエビは浜松出身である妻の自慢の静岡名産。「あれ?まだ早いんじゃないかな」と言いながらも美味しく頂く。*調べてみると2020年春の漁は4月5日からとのこと。どうやら駿河湾産ではない模様。「寿司では頂くけど、天ぷらは珍しいね」とサヨリをぱくり。ん、んまい。この店の天ぷらはさっくりと軽やかな揚げ方。お気楽夫婦の好みにぴったり。
「美味しそうな珍しい揚げダネがあるね、この店」と選んだのは海老真丈の大葉包み揚げ。ぷっくりとした海老のすり身の味と香りと大葉の香りが絶妙に合いまって、天ぷらの衣で一体となる。これは旨い!塩でも天つゆでも、それぞれどちらでも美味しい。そして締めはデザート代わりに、どの店でも最後にお願いする丸十(さつまいも)をいただき、満足満腹。「京プラ、良いね。正直ちょっと舐めてた」と妻の評価も急上昇。
「今シーズン最後の越前がに。さらばズワイガニ!」と、馴染みの鮨屋のインスタに見目麗しいズワイガニの写真がアップされた。ん?最後?最初(走り)と最後(名残)に(ついでに旬にも、…とするといつもと言うことか!)弱い典型的な日本人であるお気楽夫婦が、そんな書き込みに食い付いた。さっそく電話をすると残念ながら希望の日程では予約が取れず、何とか他のスケジュールを変更して席を押さえる。名残が優先。
最後には弱いよ、釣られちゃったよと席に着くと、したり顔の大将は「昨日のお客様はほとんどカニでした♬」と微笑む。日本人の弱みを突く良い書き込みだったと褒めると、大将は満面の笑み。そして最初にカニ刺しをちゅるんといただき、甘くて蕩ける!と頷き、焼きガニの香ばしさで目を見張る。蒸したカニは身を解してもらってミソと一緒にぱくり。これを幸福と呼ばずして何を…という味。冷えた日本酒との相性も抜群だ。
握りは8貫。イカ、鯛の昆布締め、鯵に中トロと、いつものお任せよりも握りの品数は抑えて、カニを味わうコース。「カニもこれぐらいの種類と量がちょうど良いな」と妻。確かにこれでもか!というカニ尽くしは少食の2人には向いていない。名残のカニに限らず、握りを食べる前に何か季節の味をつまみで味わいたいと思いながら、その量に躊躇うことの多い2人。美味しいモノをたっぷり食べるためには強靭な胃袋が必要だ。
「頻繁にこの店に来れば良いんじゃない?」お気楽妻が呑気に宣う。確かに、走りのネタも、旬の魚も、名残の食材も、マメに通えば逃さず少量づつ食べられる。今日食べたいモノを全部食べよう!という食べ方をしなくとも済む。してないけど。「他の日はカロリーメイトで良いし」と、極端な妻。数年後?の引退に向けて、手料理と合わせ、そんなメリハリのある食生活の設計も良し。果たして2人の老後の生活はいかに?