飛騨牛がやって来た。丸い缶に詰められて、6缶セットで。ギフトカタログから選んだ「キッチン飛騨」という飛騨高山の老舗ステーキレストランの「黒毛和牛ビーフシチュー」という美味しい到来物だ。このギフトカタログで商品を選ぶ行為が大好きだ。明からさまに価格はわかってしまうけれど、全国の名産品を自宅に居ながらにして選んで味わうことができる。贈る側が選ぶのではなく、贈られる方が選べる合理性が良い。
大阪からイベリコ豚もやって来た。創業85年のイベリコ豚専門店「スエヒロ家」の生ハム。イベリコ豚専門というのが驚きだが、調べてみると他にも同様にイベリコ豚専門の店が各地にあることを知った。さらにこの店を調べてみると、実店舗は大阪府池田市の石橋商店街にある、何の変哲もない小ぢんまりとした肉屋。きっと私は訪れることがない店だ。それがネットで我が家に生ハムを届ける商売をやっている。凄い時代だ。
生前はきっとお互いに会うこともなく、出自も国籍も違う、飛騨牛とイベリコ豚の出会いを演出してみた。飛騨牛のビーフシチューは温めるだけ、イベリコ豚はサラダとして野菜と合わせるだけだから、出会いの場の演出はいたってシンプル。存在感がある飛騨牛は、缶詰類にありがちな「あれ?肉はどこ?」といった寂しさがない。イベリコ豚もドングリの甘い香りを堂々と主張し、野菜とも馴染んでいる。どちらも旨し。
食べきれなかったイベリコ豚は、さっそく翌日に形を変えて登場していただいた。カリカリのバゲットとクリームチーズと組み合わせたバゲットサンドだ。これも料理と呼べる程のものではなく、3色のアスパラガスに主役を譲る名脇役として。アスパラにはオランデーズソースでしょうとメニューを考えた時に閃いた。さらに翌朝にはお気楽妻が大好きなあのメニューに挑戦だ!そして必然的にスモークサーモンのサラダが加わる。
人によって、量はこれだけ?ランチメニュー?それとも前菜だけ?と訝しがられるだろうラインナップが、少食のお気楽夫婦にとっては立派なディナーになる。メインは何?という問いには、アスパラガス!と迷わず返す。それぞれ歯応えと味わいが微妙に違う、白、緑、紫(茹でるとほぼグリーンと変わらない色合いが残念)の3色のアスパラを濃厚なオランデーズソースで楽しむ。今が旬のアスパラトリオは堂々たる主役だ。
翌朝、いよいよ家庭では不可能と言われた(当社調べ)エッグベネディクトの登場だ。この一皿のために前夜のメニューがあった。マフィンをカリッと焼き上げ、ポーチドエッグとたっぷりゼータクに乗せたスモークサーモンの上にオランデーズソースをかける。コーヒーとミルクティを淹れつつ、サラダと一緒に完成したエッグベネディクトを盛り付ける。この一連の工程を同時進行で行い、何れも熱々の内に出す事が難しいのだ。
最も気を使ったのは、ポーチドエッグだ。コーヒー用の紙フィルターに卵を割り入れ、鍋の側面に貼り付けるように茹でよ、とネットでどなたかが教えてくれた通りに挑んだものの、初挑戦にして本番。Let’s try it ! と2人分の卵を投入。茹で加減と見栄えも含めたポーチドエッグの出来が決め手だ。そして、フィルターの形状によってラグビーボール型になってしまったものの、無事に完成。ソースをかけてしまえば大丈夫。
「おぉ〜っ!美味しそうだ!」起き出して来た妻が、歓喜の声を上げる。大好物の料理の前ではさすがにテンションが上がる模様だ。そして、卵にナイフを入れると、トロリと黄身が流れ出す。グッジョブ!上手く行った。「これはもはや家庭の味ではないね♬」妻も絶賛。贈っていただいた牛と豚から始まったチェーン・クッキングは、これにて無事完結。幸福をもたらしてくれた到来物だった。またいつでもお待ちしてます♬
お気楽夫婦が住む街は飲食店が多く、それもチェーン店だけではなく、地元の店が頑張っている貴重な街だ。自粛要請でほとんどの飲食店が店内営業を控え、テイクアウトを積極的に行っているため、ご近所の商店街はまるでデパ地下のようだ。2人の住まいを中心に、徒歩2分以内に30店以上テイクアウト可の店があるだけでなく、店頭に商品を並べ、声がけをして販売しているのだ。*MAPは商店街加盟の店のみでこの店舗数!
毎日がテレワークの2人は、昼夜の食事の半分以上をテイクアウトで地元飲食店の応援をしている。例えばある日のランチは『焼鳥屋 優』の焼鳥重と親子丼。まだ未訪問のOPENして2年目ほどの店舗で、エレベータのないビルの4階にある。そのロケーションも未訪問の理由ではあった。だからその日は商店街の中程にある人気の団子屋の店頭にあった弁当を手に取り、旨そうだけどどの店だっけ?と一瞬悩んだのだった。
「美味しいね、これどっちも!」滅多に積極的に感情を表にしない妻が、声に出して称賛した。そう、見た目通りに、いや見た目以上に美味しかったのだ。親子丼は鶏肉が柔らかく出汁は上品で、半熟の卵が絶妙に鶏肉とご飯に絡む。ストレートに旨い。ネギマ、つくね、そぼろなど具沢山で味の変化があって、最後まで楽しめる焼き鳥重は目を見張る美味しさ。定番のランチにしたいと思う程舌にフイットした。夜も行かねば。
またある日、「おつまみセットいかがですかぁ!」と元気な声に、思わず足が止まり買って帰ったのは、『酒場アカボシ』という居酒屋で2度目のテイクアウト。この店も団子屋の軒先を借りて出店を出している。そんな互助の精神こそが商店街の良い所。前回は茶色系の居酒屋料理で埋まっていたセットだったのに、今回はパプリカの赤やサヤエンドウの緑が鮮やかなアクセントで美味しそう。ちゃんと学習し進歩してるね。感心。
居酒屋メニューだからと大皿に盛り付ける。テイクアウトの料理を美味しく食べるコツは、この盛り付けに尽きる。まぁ、それしかやることないし。芝海老の天ぷら、鰆の柚庵焼き、牛時雨煮などと、メニューを居酒屋風の下手ウマな字で書いてあるからありがたい。何を食べてるか分からないのは味気ない。このメニューを眺め、次は何を食べようかなどと悩みながら、酒をグビリ。居酒屋気分を堪能。店が再開したら行かねば。
またある日の夕餉は、人気の焼鳥屋『若竹』の焼鳥盛合せとモツ煮。おそらく軽く数十回は訪れている店だが、オーダーするメニューは毎回ほぼ同じ。中でもこのモツ煮は欠かせない。優しく上品な味付けと絹豆腐を使っているのが妻の好みに合うらしく、この店のだけは喜んで食べる。そのモツ煮の持ち帰り容器がそのままレンジで温められる専用の物だったのは意外。店で食べてこその料理だけれど、この心遣いは嬉しい限り。
焼鳥は、持ち帰りでも絶品。レンジで軽く温めて、低温のトースターで仕上げる。中まで温かく表面もカリッと仕上がる。ん、んまい。すっかり持帰り料理の温め方のコツをつかんだ私だった。この料理なら芋焼酎だなと、グビリ。閉店時間も代金も帰路の心配もないから、つい飲み過ぎてしまうのは家飲みの注意点だ。もちろんカロリー摂取量の多さと運動不足により、お腹周りを中心に太ってしまうことも要注意だ。危険だ。
「オンライン飲み会やるんだけど、どの店が良いかな」とお気楽妻が悩んで(楽しんで)いる。同じ部署だった(彼女は今も同じだけど)メンバーで、一線を退いた担当(だった)役員の古希のお祝いを(こっそり)やるのだという。だったら料理が映える『38(さんぱち)食堂』でしょうとメニューをチェックする妻。そして野菜を中心とした前菜とメインを一品選び、「キャロットラペを作って♬」とビストロ808にもオーダーが入った。
この店も何度も訪れているが、テイクアウトは2度目。事前にタッパーウェアなどを持参すると容器代が無料になるという、ご近所ならではのエコなサービスもある。オンライン飲み会当日、画面に現れない私はせっせと家事三昧。ラペを作って持ち帰った料理と一緒に皿に盛りつける。自分が作ったラペをメインに、なかなか見目麗しい一皿になった。PC の前で妻が嬉々としてノンアルコールビールで乾杯。私は画面の裏で。
「IGAさん、いらっしゃいますかぁ。乾杯!」しまった。油断した。参加者は全員かつての同僚。画面の片隅から遠慮がちに参加する。「IGAさんたちのトコだけ、なんだか料理が違う!キレー!」よし。目標は達成。家事をしながら緩やかに飲み会に参加。画面上からでもそれぞれの個性が出て、客観的な視点でも楽しめる飲み会だ。お祝いのサプライズも成功し、会は無事にお開き。「楽しかったな」と妻。それは良かった♬
オンラインだからこそ久しぶりに会えたメンバーもいる。これがきっと日常のひとつになるのだろう。テイクアウトも、テレワークも、ウイルスの脅威が収まったとしても、今までよりずっと定着し“新たな日常”になっていくのだろう。「こんな生活のスタイルも悪くないよね」まだまだ休日勤務は残るものの、深夜残業は激減した妻も満足気。とは言え、これからどうなるかは分からない。分かりたくもない。たったひとつ確かなことがあるとするのならば、テイクアウトは止まらない。
籠城生活も2ヶ月を過ぎた。桜の季節も去り、ツツジも咲き終え、ハナミズキも間もなく散ろうとしている。わずかひと月半ほど前(3/29)には大雪だったのが信じられない陽気が続いている。ジムに通えない日々に、意識的に自宅近辺をジョギング、散歩をしているお気楽夫婦。街並みをゆったりと眺める時間ができ、季節の移ろいに敏感になった。自分たちが住む街とその周辺を再発見するのが楽しみになった。ご隠居か?
歩いて20分、走って10分ちょっとの距離にある祖師谷公園もすっかり2人の馴染みの場所になった。春は桜の名所として蕾の時期から満開へと開花状況を観察しつつ、散りゆく花吹雪と花筏までを楽しんだ。今までこんなにじっくりと桜の花を愛でた春もなかった。そんなある日、その公園の桜の由来を示すプレートを見つけた。東京都がワシントンに贈った桜から育てた苗木が里帰りし、この場所に植えられたのだと言う。
今は暗渠になった烏山川、その支流の水無川や、多摩川に注ぐ仙川沿いの緑道も2人のラン&散歩のコースとして定着した。特に住宅街の中を縫うように(地下を)流れる水無川の緑道は、緑道自体の植栽と周囲の住宅の緑とが一体となって、心地良い小径として街並みに溶け込んでいる。さらには、川があった名残として、小さな橋の欄干が残されており、一つひとつに「愛橋(めぐみばし)」などとプレートが付いている。
それらの川(跡)沿いに北に向かえば、甲州街道を越え、中央自動車道の高架を潜る。南に向かえば芦花恒春園や前述の祖師谷公園に出会い、小田急線の高架にぶつかる。この辺りまでがお気楽夫婦のテリトリー。この時期、芦花公園の「花の丘」が一段と見事な眺めになる。「芦花公園花の丘友の会」というNPO法人や、近隣の小中学生が丹精を込めた花壇がデイジーやパンジーに彩られた春色の巨大なタペストリーとなる。
パン屋(美味しい店が前提)不毛地区と思っていたご近所に、美味しいパン屋がいくつかあったことも籠城期間の嬉しい発見だった。パン屋を巡る小さな旅は、パン好きのお気楽妻が散歩をするモチベーションになっている。2人の平日の朝食はトースト、サラダ、フルーツ盛合せが基本。トースト用の食パンは何種類か冷凍庫にストックしてある。そこに「一本堂」という人気店の焼きたて(冷凍しちゃうけどね)食パンが加わった。
コロンブスによるアメリカ大陸発見級のインパクトがあったのは、隣町にある「ムッシュ・ピエール」という小さなパン屋の発見だ。お気楽夫婦宅からは徒歩30分、散歩にはぴったりの距離だ。…と思うようになったのは新たな生活習慣の賜物だ。パン屋には珍しい11時という遅い時間の開店。パンが無くなったら閉店というスタイル。*2度目の訪問は3時過ぎに半開きのシャッターを開けて、最後の1斤をゲットした。
バス通り沿いではあるものの、最寄駅から徒歩10分。決して便利な場所ではない。それでも先客が2組3名、しかもそれで店は満杯。そんな広さ、というか狭さだから先客が出るまで外で待つ。その間に窓ガラス越しにパンを眺め、どのパンにしようかと楽しみながら。外観はオシャレな風情ながら、中に入っても素朴な佇まい。パンの種類は決して多くはないけれど、どれも丁寧に作ってあるのが分かる。好感度高し。
何種類かのデニッシュを選ぶ。実は私はデニッシュLOVE。え?150円!?。小ぶりながらこの値段は嬉しい。そそくさと帰宅し、さっそくゲットしたパンをいただく。サクっとした歯応え、バターの香り、フルーツやチーズの甘さとのバランスが素晴らしい。う〜まぁ〜いっ!これは自分史上最高のデニッシュだ。「え?香港のグランドハイアットより上?」妻の問いに激しく肯く。*それまでのNo.1はGH香港のものだった。
これは嬉しいっ。かなり嬉しい。小ぶりなデニッシュだから何種類か食べられる。*グランドハイアット香港のラウンジがまさしくそんな大きさなのだ。香港まで行かずにこのレベルのデニッシュが味わえる。こうして書きながら、また買いに行きたい、食べたいと思ってしまう。何しろ2度目の訪問では売切れだったのだ。
こんなご近所再発見の日々も悪くない。ポジティブに新たな籠城生活を楽しむ、そんなお気楽な2人だった。