2010年が終わろうとしている。2010年の漢字一文字は「暑」。確かに暑い1年だった。秋は永遠にやって来ないんじゃないかという思うほど続いた残暑の後は、一気に冬だった。エコポイント効果もあり夏のエアコンは売れ続け、冬のヒートテックの売上も好調だった。長い長い夏の後は冬。これでは困る。日本の四季の良さは、寒い冬が終わった後の春の穏やかさにあり、夏の暑さを乗り切った秋の清々しさにある。春や秋があってこその夏であり、冬。四季の輪郭がくっきりしてこそ、それぞれの季節の空気や景色を味わえる。また、季節の味を楽しむことが日本料理の真髄でもあり、繊細さでもある。日本料理に限らなくとも、「季節限定」のメニューがあると思わずオーダーしてしまう日本人。季節の移ろいを愛する日本人らしさの顕れ。
お気楽夫婦の年末恒例“お礼参り”。2010年の掉尾を飾るのは京料理の名店「用賀 本城」。オーナーシェフの本城さんがたん熊北店 二子玉川店の店長だった頃から、味わい続ける幸せの味。そして、季節ごとの美味を堪能できる店でもある。用賀に移り住んだ友人の引越しのお祝いに何が良いかと考え、広くはないであろう独り暮らしの部屋にモノを増やすよりも、彼女も大好きな本城さんの食事を贈るのがお気楽夫婦らしいだろうと思い付き、友人への転居祝いと本城さんへの年末のご挨拶を兼ねた訪問を計画。友人に打診すると、「良いねぇ。ご近所になったし、行きたい!」との返事。彼女は、開店早々に一緒に伺って、蘭の鉢をいただいて以来の訪問とのこと。
けれど、予約が出来たのは年末、それも御用納め直前。「申し訳ありません、IGAさん。今日は電話が繋がりませんでしたでしょう」と、ようやく繋がった電話の先で奥さま。確かにずっと何度かけても通話中の音だった。聞けば、ランチは本格京料理が気軽な価格で味わえるとあって、余りの人気に翌月の予約を前月の最初の営業日に行っているからとのこと。訪問当日、早めに伺い独りカウンタでビールをぐびり。既に満席の店内。忙しそうに立ち働く本城さんの様子を眺めながら声を掛ける。凄い人気なんですねぇ。「お陰様で。ずいぶん先にならんと予約できない状況が続いてしまったものですから、そんな風に変えたんですわ」本城さんが申し訳なさそうに答えてくれる。気取らず、奢らず、柔らかな物腰の本城さんの人柄も人気の理由。
「遅くなっちゃってごめんなさい」年末の慌しさから抜け出してきた友人。席に座るや「今日はもうっ、楽しみで楽しみで♪」戦闘モードが解かれ、リラックスモードの笑みが零れる。今年もお世話になりました。乾杯の後は、ノンストップトークが炸裂。「ところで今年も年末は浜松に行くの?」と友人の問い。うん、お節料理を頼んでいる弁いちさんという料理屋の手作りカラスミが美味しくってねぇ・・・。「では、立派なとこ切りましょうか」会話を聞いていた本城さんが、やはり手作りのカラスミを盛り付けてくれる。んんっ、んまい。甲乙付け難い美味。素晴らしい。人生最後の晩餐は、きりっと冷えた日本酒にかりっと焼き上げた穴子の白焼きと決めていたが、カラスミと辛口の酒の組合せも捨て難い。今年最後の晩餐は本城のカラスミ。そして新年最初の晩餐は(たぶん)弁いちのカラスミ。んふふっ、こんな人生も悪くない。
「なぁにゼータクなこと言ってるの。悪い訳がないでしょっ!」本城さんの料理を幸福そのものだと言い切る妻が突っ込む。それはそぉだね。最後の一皿まで美味しくいただき年末のご挨拶。良い年をお迎えください。「えっ!何?ご馳走してもらえるの?えっ!」友人のリアクションがやけに大きい。あれ?そう言わなかったっけ?「感激ぃ!嬉しいぃ」そこまで喜んでいただくとお招きした甲斐があるというもの。来年もぜひご一緒に。季節の美味を、気の置けない友人と一緒に味わう楽しみ。お気楽夫婦が最も幸福と感じる時間。こんな相変わらずの2人を、来年もどうぞよろしくお願いいたします。
■食いしん坊夫婦の御用達へ 「用賀 本城」お店のご紹介
Merry Christmas ! では、キリスト教限定になってしまうことから、アメリカでは代わりにHappy Holiday ! という挨拶をすることが多くなっているらしい。だとすると、キリスト教徒でもない多くの日本人にこそ、ぴったりの言い方。それも、クリスマスからお正月にかけて、キリスト教も、仏教も、神道もごっちゃになって何となくめでたいということで、Happy Holiday(s) ! と挨拶することを提唱したい。年末を迎えると圧倒的に飲む機会が増える。今年一年お世話になりました、お疲れさまでしたということであれば、その際にもぜひ「Happy Holidays !」と乾杯したいものである。ところで、お気楽夫婦がお世話になった方と言えば、美味しい料理と楽しい時間を提供していただいた、馴染みの飲食店の皆さま。ということで、お気楽な2人にとって年末恒例となった“お礼参り”のシーズンに突入した。
忘年会、打合せなどを除き、年末までに外食できる回数をカウントする。そこに各店の休業日や予約状況、クリスマスへの向き不向き、伺える時間、優先順位などを勘案したスケジュール表ができあがる。そして、ある週末。お礼参りリストに掲載された1軒、はしぐち亭に向った。今年めでたくご結婚された橋口さん。店の壁には奥さまが書かれたというおススメメニュー。以前学校の先生をされていた奥さまの書くメニューの文字は整然として、実に食欲をそそる。以前のヘタウマ(失礼!)メニューよりもずっと洗練され、店の雰囲気もきりりと締まる。実際に、奥さまも手伝う店のサービスは安定し、橋口さんの料理の味も落着いた。良い意味で店の熟成度が進み、橋口さんの目指す“長く愛される街の洋食屋さん”に近づいている。気軽に食べに行ける店として来年もよろしくお願いします。*伺った際にはお忙しそうで年末のご挨拶ができなかったため、こちらでご挨拶(笑)
ところで、クリスマスと言えば寿司(?)というお気楽夫婦。メリークリスマ寿司!ということで向ったのは「鮨いち伍」。Happy Holidays!という挨拶を提唱したばかりだというのに、いい加減な2人。そして、店に向う途中で立ち寄ったのはル プティ ポワソン。お気楽夫婦が“さかな(ポワソン)ちゃん”と密かに呼ぶ、若きパティシエ小林さんのフランス伝統菓子の店。クリスマス直前で忙しく立ち働く小林さんにお久しぶりですとご挨拶。今年の年末は、かの長寿番組『キューピー3分間クッキング』に、“クリスマスのお菓子”の先生としても登場。4週に渡って毎週土曜日に(残念ながら視られなかったけれど)放送された。その最終日、12月25日に紹介された「ちょっと大人のチーズケーキ」と「大人のチーズケーキ」、タルトなどを購入。彼女の作る焼き菓子はショコラティエ・ミキの宮原美樹ちゃんも大絶賛。実は、ここは最初にミキちゃんに紹介された店。サクサクの生地のタルト、ブルーチーズが入った大人のチーズケーキは大人のクリスマスにぴったり。ワインとの相性も良い。
そして、鮨いち伍。この店以外の寿司屋には行かない!と妻が宣言したため、極端に寿司を食べる機会が減ってしまった罪な店。中途半端な寿司を食べるぐらいなら、食べない方が良いという覚悟の妻。けれど、空腹の度合い、店の混み具合など、タイミング良く伺えなかったため今年の訪問は数度。決して常連などと言える客ではない。お久しぶりですという挨拶から始まり、おまかせで握っていただく。旨い。実に旨い。相変わらず店主の愛想は良いとは言えないけれど、店の空気は固めだけれど、そんな雰囲気に関係なく、真っ当に旨い。端正な寿司。年末を締めるに相応しい味。これが年に数回では何とも口惜しい。ん!そうか、次回の予約をして帰れば良いじゃないか!ということで、良いクリスマスを!と挨拶をしつつ、年明け早々の予約をして店を出る。
「なかなか良いアイディアだね。今年は映画をほとんど観なかったけど、芝居のように予約をしてしまって観に行くっていうパターンにすれば良いんだね」お気に入りの店を予約したことで、妻も珍しく饒舌になる帰り道。お気楽度合いが増すことが気がかりながら、相変わらずのお気楽夫婦の年末が過ぎて行く。