軽井沢の有名店と言えば、創業1933年のパン屋「ブランジェ浅野屋」や、1952年創業のジャムの「沢屋」など老舗の名が挙がる。浅野屋は発祥と本社所在地は都内ながら、軽井沢が本店。沢屋は創業以来軽井沢で暖簾を守る。浅野屋は都内に多数の店舗を持ち、沢屋のジャムは全国各地の百貨店などで販売されている。どちらも軽井沢を代表するブランドであり、オシャレな軽井沢のブランドイメージを作ってきた店だ。
旧軽井沢銀座通りが街のメインストリートであり、浅野屋本店と沢屋開業の店はどちらもその周辺にある。そしてもう一つの中心、旧軽井沢ロータリーに最近元気な店がある。「ベーカリー&レストラン沢村」と、蕎麦の「川上庵」、そして「レストラン酢重」だ。いずれもロータリーを囲む離山通りか軽井沢本通りに面する人気店だ。どの店も都内などに複数の店舗を展開し、それぞれのブランドが確立されている。
「星のや軽井沢」を中心とした人気の軽井沢星野エリアにも「沢村」と「川上庵」があり、どちらも人気。友人の結婚式で訪れた軽井沢で、翌日の結婚式会場周辺の下見を兼ねて星野エリアの中心「ハルニレテラス」に向かった。直前にSNSで発信すると、「星のや」に宿泊している新婚夫婦が待っていてくれた。一緒に写真に収まり、直前まで準備に忙しい翌日の主役たちと別れ「沢村」店に向かうと、数組の入店待ち。
店内に入ると爽やかな空間に心弾む。窓から新緑に染まった陽射しが注ぎ、高い天井や太い梁がリゾート感を演出する。さっそく白ワインと信州イワナのソテー、高原レタスのグリルシーザーサラダをオーダー。バスケットに山盛りのパンが添えられ、パン好きの妻はそれだけでもご満悦。カンパーニュなどのハード系のパンからブリオッシュのようなバターたっぷりのパンまで幅広い品揃え。それだけで妻が幸福になる店だ。
夜は「軽井沢 川上庵本店」へ。夜は初訪問。予約をしていたものの、早めに入れるかなと店の前でタクシーを降りて尋ねると、予約時間までは席が空かないという。確かに店の前だけではなく、店内にも待ち行列。ではと、待ち時間にロータリー近辺をブラブラ。「レストラン酢重正之」や「酢重正之商店」など、酢重ブランドの店が軒を連ねる。凄いぜっ「FONZ」。実は「川上庵」「沢村」「酢重」はいずれも同じ会社の経営。
経営する「FONZ」は、2000年に「軽井沢 川上庵本店」を開店したのを皮切りに、他にも「シティベーカリー」など複数のジャンルと店舗ブランドを展開し、今やシンガポールも含め38店舗を保有する企業。以前、小布施を訪ねた時に気になった「小布施 寄り付き料理 蔵部」など、どの店もお気楽夫婦好みの店構え、内装、メニューで、どれも2人の琴線に触れる。初期の頃の「KIWAグループ」の店のように。
「FONZ」の店舗展開は、軽井沢発祥ということもあってか、都内の出店でも例えば広尾のように都会のリゾート感ある街に、その場所に似合った店を作る。川上庵であれば、都内の店の立地は青山の路地であり、麻布十番。そしていずれも深夜(というか早朝)まで営業している。メニューはと言えば、蕎麦前の料理や酒のラインナップが充実し、締めに蕎麦というコンセプト。それだけで私が幸福になる店だ。
その日は、ブーケ作りで到着が遅れていた友人たちを待ちながら、鴨ロースのたたき、牛すじ肉と下仁田コンニャクの味噌煮込みなどを肴に、信州の地酒をいただいた。料理の美味しさはもちろん、スタッフたちも客に柔らかく接し、キビキビと動き、実に心地いい。人気があるのがよく分かる良い店だ。新たな軽井沢発のブランドとして、すっかりファンになった2人。「軽井沢、また来なきゃね」妻の満足そうな呟きに同意。
若い友人の結婚式に招かれ、軽井沢まで出かけることになったお気楽夫婦。真っ先に考えたのは、どのホテルに泊まる?ということ。お気楽妻はホテルジャンキーを自他共に認めるホテル好き。そんな彼女にかかると、せっかく軽井沢まで行くのだし、結婚式の前日から当日まで、2泊しちゃおう!ということになる。人気の高原リゾートである軽井沢、宿泊先の選択肢は豊富にある。散々迷って選んだのは、マリオットホテルだ。
軽井沢駅にも、式場の軽井沢高原教会にも、決して近い訳ではない。決め手のひとつは、スモール&ラグジュアリー。ドッグ対応コテージを含め3タイプの宿泊棟、全142室のコンパクトなホテル。そして2人が選んだのは、全室温泉付きのノースウイング。保養所をリノベーションした(?)メインウイングと違い、新たに建築した宿泊棟だ。エントランスを入ると吹き抜けのロビーと印象的な階段がスタイリッシュ。期待が高まる。
ロビーに常備されたウェルカムチョコレートをたっぷり手にして、ご機嫌で客室に向かう妻。部屋に入るとベッドルームの奥には畳敷きのスペースと、少し座面が高めの座椅子セット。和洋室という設えながら、実にモダンで機能的。日本旅館が和洋室としてベッドを入れた風情ではなく、ホテルの客室に畳を置いたデザイン。「ここで仕事しよう!」とパソコンを抱えてリゾートにやって来た妻が喜ぶ。やれやれだ。
「温泉も良いねぇ♬」畳スペースの隣には温泉付きのバスルーム。大きく取った窓からは新緑が望め、部屋と浴室の間は嵌め殺しのガラス。実に開放感溢れる作り。確かにこれは良い。さっそく買って来たビールを片手に温泉に浸かろうとすると、「まだ飲んじゃダメ。ジムに行くよ!」と妻に制止される。そうなのだ。このホテルを選んだ理由の2つ目がジムの有無。最有力候補の「星のや」には残念ながらジムがなかったのだ。
メインウィングの地下に小ぢんまりとしたジム、隣にはスパ施設まである。大浴場の脱衣場でスポーツウェアに着替え(シューズはレンタル、ウェアは持参!)ジムで汗を流す。狭いながらもストレッチコーナーがあり、エアロバイク、クロスウォーカー、トレッドミルと最小限のマシンも揃っている。当然?お気楽夫婦の貸切状態。好き勝手にBGMを選曲し、2人並んで1時間ほど走り込む。じわりと身体が解れていくのが分かる。
汗をたっぷりと流した後は、温泉大浴場へ。客室数からすると、広々とした施設だ。石垣を流れ落ちる水が白糸の滝を思わせる、軽井沢らしい風景を眺めながら湯船に浸かる。フツーは観光に行っている時間帯だから、これまた独占状態。ゆったりした幸福な時間が流れて行く。露天風呂に入り、晴れ上がった空を見上げる。気分上々。リゾートホテルの快適さと、温泉旅館的な悦楽を合わせ堪能できる、実にいいホテルだ。
結婚式、披露パーティの後は自室の温泉へ。そんなことができるのも、このホテルの嬉しいところ。そして翌朝は、朝風呂に入った後にメインウィングの「グリル&ダイニング G」でビュフェスタイルの朝食。マリオットグループが“自慢”だと言う多彩なメニューの料理をいただく。地元の料理あり、オーダー卵料理あり、種類が多く小さめのパンを用意するなど、確かにこのクラスのホテルとしては(上から目線)充実の朝ごはん。
「良い結婚式とパーティだったし、良いホテルだった。充実した旅だったね」朝の散歩をしながら妻が満足そうに微笑む。新緑の中庭の傍らには犬と一緒に過ごせるコテージが佇む。それぞれデザインの異なるコテージも快適そうだ。「次は沖縄だね」令和最初の年は毎月のように旅に出て、ホテルジャンキーが選び抜いた宿に泊まる。「7月だけ入ってないんだよねぇ」え?まさか7月も?お気楽妻の目が怪しく輝いた。
花嫁と最初に知り合ったのは、スカッシュ仲間だった。フラワーアレンジメントの先生をしている彼女は社交的で、彼女の近くには人が集まり、彼女は周囲を明るく照らす。まるで真っ赤なバラのよう。そんな彼女がスカッシュのホームコートがある街のワインバーで、友人と飲んでいた花嫁を見かけ、一緒に飲もうよと声を掛けた(ナンパした?)らしい。「だって可愛かったんだも〜ん」と屈託がない。そして、輪が広がった。
花嫁もフラワーアレンジメントの教室に通うようになり、一緒に通うスカッシュ仲間たちとの親交も深まった。なぜか(花はやらず)ただの飲み友達として、お気楽夫婦も輪の中に紛れ込んだ。婚約をしたという報告を受け、新郎の紹介を兼ねて「ビストロ808」に揃ってご来店いただいた。やや緊張していた花婿にも楽しんでいただけた模様で、花嫁はその前にも後にも何度かご来店いただき、すっかり常連の1人となった。
そしてこの春、軽井沢での結婚式にご招待いただいた。ホテルジャンキーのお気楽妻は軽井沢のホテルの調査を開始、擬似アル中の私は披露宴の前夜祭の会場を物色した。結果、お気楽夫婦は前夜から客室に温泉付きのホテルに宿泊することになり、花卉市場でブーケ用の花材を調達し新郎新婦が宿泊する客室で当日の準備をするフラワーアレンジメントチームとは別行動を取り、旧軽の「川上庵」で合流することになった。
「遅くなりました、ごめんなさ〜い(^^;;)」と、お花の先生と生徒仲間がやって来たのは、予約時間の1時間近く後。遅れたのは、時間ギリギリまで翌日の新郎新婦のブーケを作っていたため。花嫁や教室仲間だけでなく、花婿まで制作に参加し、昼食を取ることも忘れ、没頭していたと言う。お疲れ様!と乾杯すると、ホントに疲れたぁと項垂れる。そこまで集中して作ったのか。これはいよいよ本番の出来が楽しみだ。
結婚式当日は、快晴。「結婚式ですか、おめでとうございます。軽井沢は年間2/3は雨か霧だから、今日みたいに晴れる方が珍しいんですよ」と会場に向かうタクシーの運転手さん。それは意外。けれど、だとしたら、この晴天は新郎新婦へのプレゼント。何という幸運。高原の新緑の中で、花嫁の純白のドレスが映える。そして、ブーケはアバランシェという白いバラ。清楚でふんわりとした、花嫁にぴったりのラウンドブーケだ。
披露宴会場は、緑溢れる広い敷地のホテル。室内に席は用意してあるけれど、中庭にドリンクバー、ホットミールスタンドなどが点在し、自由に飲んだり食べたりできるガーデンウェディング。シャンパンイベントやファーストバイトなど、ほとんどが外で行われる。そして花嫁が手にするのは、2つ合わせるとハート型になる、紫や青い花の鮮やかで華やかなブーケ。白のブーケとの違いが際立つ。さすがプロの演出。実に見事だ。
花嫁のドレスは結婚式とパーティでの着こなしが違う。結婚式は清楚ながらキリッとした印象、パーティでは胸元にレースボレロを纏った姿が柔らかで愛らしい。それぞれのドレスとブーケの一体感があり、可憐な花嫁と合わせて一つの作品のようだ。「良いパーティだね」と、妻が呟いた。そこに花嫁の父上がカメラを片手に挨拶にいらした。「上司の方で…」と尋ねられ、えぇ〜、新婦の飲み友達と言うか…などと口籠る。
宴も終盤、暗くなった庭に出て出席者全員でランタンを飛ばすイベントの後は、新郎の「花嫁を幸福にします」の宣言に続き、父上のご挨拶。自由に会場を歩き回り、好きなドリンクや料理を適量いただく実にリラックスしたパーティだったけれど、この締めのご挨拶は全員が席に着き、耳を傾ける。前の席に座ったフラワーアレンジメントチームは感極まり、ただ涙。花嫁から拡がった輪が、花の輪になり、結実した時間だった。
*ブーケDATA:白いラウンドブーケ(アバランシェ)、ハートのブーケ(白いかすみ草、青のデルフィニウム、紫・ピンク・白のバラ、紫のトルコキキョウ、他)