正直に言うと、そのホテルに余り期待してはいなかった。どうしても泊まってみたくて予約した訳でもなかった。昨年末に、めでたく「ワールド オブ ハイアット」というハイアット ホテルズ&リゾーツの会員カテゴリで、エクスプローリストになり、無料宿泊券をゲット。東京近郊でその権利を行使して泊まれるホテルが、日本国内で初のハイアットホテル「ハイアットリージェンシー東京」だけだったのだ。まぁ、タダだしと。
バブル前夜、1980年に小田急グループが経営する「ホテルセンチュリーハイアット」として開業した頃は一斉を風靡した。1983年に『誰かが私を愛している』という人気ドラマの舞台(ロケ地)にもなった。最上階のプールが画期的だった。エントランスロビーのスワロフスキーのシャンデリアが憧れだった。但し、それ以降にできた外資系ラグジュアリーホテルに押されて、お気楽夫婦にとっては古いタイプのホテルの評価だった。
チェックインした際、フロントスタッフに「IGA様はエクスプローリストでらっしゃいますから、アップグレードさせていただき…」と言われたものの、まだナメていた。ところが、客室に入った瞬間にその評価は一変した。広い!明るい!新宿中央公園が見下ろせ、富士山が望める眺望も抜群。予約していた28㎡のゲストルームから、40㎡のビューデラックスルームにアップグレードされていたのだ。VIVA! エクスプローリスト♬
評価が上がると、現金なもので、全てがポジティブな見方に変わる。狭いながらもリノベーションされ、都庁やパークハイアットを眺めながらトレーニングできる明るく開放的なジムや、決して広いとは言えないけれど空いているプールに満足。たっぷり汗を流し、シャワーを浴びてさっぱりした後は、ホテル内にある鉄板焼店に向かう。無料宿泊なのだから、せめて夕食ぐらいはホテルで豪華に食べようと予約した店だ。
選んだメニューは、神戸牛と武州和牛のサーロイン食べ比べなど、普段なら手を出さないゼータクなコース。埼玉県の指定農家のみで生産されるという武州和牛が大当たり。濃厚な味の神戸牛に比べ、脂が軽やかで爽やかな旨味がある。「こっち(武州)の方が美味しいね」と妻も満足。足などを怪我をした後、治療院でタンパク質の摂取が足りないから治りが遅いとの指摘を受け、がっつり肉食宣言をした後の最大のヒットだ。
客室に戻り、新宿中央公園とパークハイアットの夜景を眺めながら部屋飲み。ホテルの1階にはコンビニもあり、ビールやおつまみの買い出しも簡単便利。「そこそこラグジュアリーな(それでもまだ評価が低い)ホテルだけど、パークハイアットとかに比べるとお気楽だよね」と妻も納得。新宿中央公園も含め、新宿駅西口の広大なエリアがかつて「淀橋浄水場」だったなどという、まるで爺さんの昔話のような話題で夜も更ける。
翌朝、せっかくの広い部屋だからと朝食はインルームダイニングで。妻はヘルシーな洋食、私はなぜかホテルに宿泊すると食べたくなる和食。ルームサービスは2人で別々のメニーを、一緒にのんびりと食べられることも嬉しい。「よしっ!午前中もジムで走るよ!」と休日はのんびりグダグダ過ごすよりも、アクティブレストを望む妻の瞳が輝く。すっかりお気に入りになったジムで、再びたっぷりと汗を流す。
ほぼ毎日深夜残業が続き、久しぶりの完全OFFの週末というタイミングで、今回のホテル滞在。実は、妻のエネルギー充填が目的だ。ジムの帰りにホテル内のペストリーショップに立ち寄り、昼食用のパンを買い込む。エクスプローリストの会員特典として、14時までのレイトチェックアウトがあり、のんびりと客室に滞在できるのだ。休日の昼下がり、ビールを飲みながら公園で開催されているイベントを部屋の窓から眺める。
「なんだか元気になったなぁ♬」パンにかぶりつきながら妻が呟く。「逆バンジー楽しそうだけど、オトナもできるのかな。やりたい!」とイベント会場で遊ぶ子供たちを見下ろし、半ば本気で言っている模様。確かにさっぱりとして元気なご様子。何よりだ。「次回の無料宿泊も、この部屋にアップグレードしてくれるんだったら、また来ても良いね」相変わらずの上から目線の妻。やれやれ。すっかりエネルギー満タンだ。
世田谷の外れにある「ビストロ808」は、不定期営業の店。料理はシェフ(と、スーシェフ)にお任せ。飲み物は自分たちが飲みたいモノを、飲みたいだけ持参するのがルール。2014年のリニューアルOPENから数えて、この2月に営業日数30回を超えた。そんな店の常連の中に、I夫妻がいる。バー808のみのご利用も含めると、ご来店の回数は優に10回を超える。そのご夫妻が遠くの街に引っ越してしまうことになった。涙。
ご主人の転勤に伴うもので、赴任の期間はおそらく数年。気軽に会いに行ける街ではないだけに、彼らの渡航前から既に、現実感を伴わない喪失感がある。そこで、しばらく会えなくなってしまう前に、ビストロ808にお招きしよう!ということになった。ところが、人気者のI夫妻、渡航前の週末は既に予定が一杯。それではと、シェフとスーシェフ揃って会社を休み(ついでに日中はスカッシュをして)、初めての平日営業だ!
とは言え、さすがに全ての料理を準備することは時間的に難しく、最近導入したデパ地下のデリをメニューに加える、名付けて「ビストロ808-Jr.」スタイルを採用。スカッシュ帰りに2種類のマリネ、パテドカンパーニュを買い込み、ビストロ開店の準備に取り掛かる。作り置きしてあった「キャロットラペ」と「紫キャベツのマリネ」を一緒に盛付け、最初の1品、4種のマリネ盛合せが完成!実にお手軽だ♬
そこに酒を買い込んで登場したI夫人(又の名をサダコ)たち。期待通りの本数のワインを抱えて。さっそく(スカッシュで汗を流した後だけに)先ずはビールで乾杯。「シェフのキャロットラペが一番美味しい!」「前は紫キャベツじゃなくって、キャロットラペにクミンシードでしたよね」…確かに今はキャロットラペにはキャラウェイシード、紫キャベツにクミンと使い分けている。サダコになる前のI夫人の舌と記憶は確かだ。
その後、仕事帰りに遅れて合流したIくんとサプライズゲストを交え、改めて泡で乾杯♬主役のIくんが登場し、飲んべ2人が加わったことで、一気にワインが減って行く。I夫人のリクエストで作った「グリーンメドレーサラダ」と、スーシェフ渾身の作「豚肉のロースト・リンゴとクリームチーズのソース掛け」と言うメイン料理をお出しすると、「キャーっ」と、すっかり女子会の予想を呈したメンバーから歓声が上がる。
「シェフ、大胆なお願いをしても良いですか」女子会メンバーのひとりから、Iくんを囲んだ女子全員の写真を撮って欲しいとのリクエスト。もちろん喜んで!今日の主役はIくんだ。昨年、私と妻の「60th&25thパーティ」の司会をしてくれた彼は、話のキレが良く、周囲に目を配り、かつ飲んべえと言う、実に愛すべき男。普段はもちろん、サダコになっても尚、妻に愛情を持って接することができるところが素晴らしい。
「シェフのパテカンの方が美味しい!美味しいですよ!」ん?I夫人のコトバがリフレインし出した。どうやらサダコ化が始まった模様だ。「ボウモアなんて勧めるからだよ」お気楽妻が冷静に分析する。確かに、以前も同じように2人に強い酒を勧めてしまい、夫婦揃って多摩センターのマックで朝を迎えたと言う過去を持つ。「ビバリーウィルシャーに泊まりに来てくださいね」「絶対に行くよ」酔っ払いに優しい妻が答える。
「死んでます( ̄▽ ̄)」終電前に家路に着いたIくんから画像付きのメッセージが届いた。KO線の車内から発信した余裕のコメント。どうやら大丈夫そうだ。「僕がいなかったら、この2人はきっと八王子行ってるでしょうね」確かに。…そんなI夫妻に次に会えるのは、西海岸か。「Iくんたちに会いに、絶対にLAに行くよ!」お気楽妻の鼻息は荒い。では、いつの日にか、愛すべき彼らと西海岸で乾杯しよう♬
「餃子食べたぁ〜いっ!IGA-IGAん家の手前にある店の♬」スカッシュ仲間から、そんなリクエストが入った。一緒にスカッシュをやった後、持ち込みタイプのビストロ開店のメニューとして、何を食べるか問題の答えだった。スカッシュとビストロ開店は同じ日には両立できず、新年早々にデパ地下でデリを買い込んでシェフの負担を減らす作戦に出た。それがお気楽で好評だったため、第2回目の開催となったのだ。
餃子は調布の1号店から、あっという間に各地に拡がった「肉汁餃子製作所 ダンダダン酒場」の焼き立てを持ち帰り。餃子の味はもちろん、“餃子とビールは文化です”と言うキャッチも異議はなし。とすると、他の料理も中華寄りにしなきゃだな、とスーシェフと作戦会議。結果、「砂肝の柚子胡椒和え」と「豚ロース肉とパプリカ炒め」「春菊のサラダ熱々ドレッシング」に決定。初めての「中華バル808」の開店だ。
スカッシュで汗を流し、PARCO(調布のパルコには何と食品売場がある!!)で中華惣菜とワインを買い込み、最寄駅近くで餃子をテイクアウト。準備は万端だ。「砂肝美味しいね、柚子胡椒たっぷり」使い切れず賞味期限を迎えてしまうことの多い、調味料の大量消費メニュー。まるでしっかり者の主夫♬。アツアツとまではいかないけれど、餃子もキチンと美味しい。餃子とビールだけではなく、スパークリングワインも文化だ。
豚ロース肉とパプリカはバルサミコ酢で炒め、大皿に盛り付けた生の春菊の上に。エグ味の少ない生食に向いている春菊と、豚肉とパプリカの甘味が合う合う。残った春菊は、ごま油を熱して市販の玉ねぎドレッシングを加えたソースを掛けるだけで、もうひと品完成!「うわ〜っ、すごく美味しいです!」春菊好きと宣言していた新婚の奥様が唸る。中華料理“寄り”の「中華バル808」もなかなか好評のようだ。ひと安心。
ワインのボトルがほぼ人数分空になった頃、“乾き物”の皿がスーシェフからスッと差し出された。干しイチジクなどのドライフルーツ、アーモンド、チーズのハチミツがけ。ほぉ、これは旨い。普段からナッツ類やポップコーンなどの乾き物を主食としている(!!)お気楽妻のセレクト。そして、メインの料理を食べ終え、デザートに移ろうかという絶妙なタイミング。更にワインが進んでしまうじゃないか。
そしてデザート第1弾は“白いイチゴ”。自分ではとても買えない高級フルーツ。新婚の奥さまのご主人(その日はお留守番)が気を遣ってくれたとのこと。良いダンナさまじゃないか。そしてメインのデザートは、バースデーケーキ。実はその日のメンバーの内、2月生まれが私自身を含めて4人。合同でお祝いしようと調整したスケジュールが3月にずれ込んで、ひと月遅れのHBDになったのだ。とは言えお祝いはいつでも楽しいっ。
BDケーキは、お気楽夫婦の地元が誇る3大スイーツ店*のひとつ「パティスリー・ユウ・ササゲ」で調達。*残る2店は、もちろんお馴染みの「ショコラティエ・ミキ」「ル・プティ・ポワソン」。赤丸急上昇中のこの店は、スカッシュ仲間のスイーツ番長も太鼓判だ。ローソクの火を一緒に吹き消そうとすると、「へへっ!」と言いながら一気に消してしまったのは、スカッシュ仲間のお花の先生。子供かっ!と皆んなで大笑い。
「今日も飲んだねぇ」ん、楽しかったねぇと、2人で後片付けをしながら飲み干したワインの瓶を並べてみる。餃子と同様に、飲みたい!と切望された「クラウディ・ベイ」のソーヴィニヨン・ブランあり、高畠ワイナリーの「嘉」あり、お手頃で美味しいワインばかり。まるでその日、気の置けない仲間たちと過ごした時間のように。これだからビストロ開店は止められない。さて、次回の開店は、どなたをお招きしようか。