平成最後は駐妻ナイト♬「ビストロ808-春」

Bistro808-1ダムに会いたい♬」ご主人の海外赴任に伴いLAに渡航する予定の友人に、出発前に「ビストロ808」で一緒に飲みたい相手は誰かと尋ねたら、思いがけない答えが返って来た。2人の接点は、お互いに私のブログやSNSで知っていたものの、ナマで会ったのは私の還暦パーティの時だけ。なのになぜ?「とても楽しい方だったから、いつかまた会いたいなぁって」ふむ。そこでビストロ808のオーナー兼シェフは閃いた。

Bistro808-2女も世界各地に駐在経験があるし、もうひとりNYCの駐在経験のあるスカッシュ仲間をお招きしよう!名付けて“駐妻ナイト”だ。2人に予定を確認すると調整可能。偶然にも平成最後の夜に、NYC駐妻、イランやスイス、D.C.などに駐在経験のあるマダム、そしてLAの前にはオランダに長く駐在した主役のスカッシュ仲間が集うことになった。「私も毎年香港に駐在してる!」とお気楽妻も擬似駐妻を主張。はいはい。

Bistro808-3日のメニューは、全員USA駐在だしアメリカ料理を作る?と主賓に尋ねると、NO!と反応。定番のビストロメニューを所望された。そしてNYC、D.C.、LAと皆さん凄いね、と問うと「LAって言うのは見栄で、ずっと田舎の方。宇都宮に住んでて東京に住んでます!って感じです」いやいや、宇都宮は海外から来たらTOKYOだよ。餃子も美味しいし、などと言うおバカなやり取りをして当日を迎えた。*宇都宮の皆さん、ごめんなさい。

Bistro808-4パークリングワインで乾杯の後、オードブルの盛合せからスタート。リクエストされたパテドカンパーニュ、キャロットラペ、紫キャベツのマリネの他、新作のアンチョビ・フキノトウが大好評。「えぇ〜っ!これ美味しい。良い香り!何なに?」「チコリと合うね、これ良いね」ふふふ、この後にさらなるアレンジが出るのだよ。バゲットを軽く焼き、クリームチーズと和えたアンチョビ・フキノトウを乗せたカナッペだ。

Bistro808-5レー!皿も素敵!んで、美味しい♬」そんな最大級の、普段はお気楽妻からは発せられない褒め言葉をいただいてしまうと、嬉しいけれどテレるぜ。続いて「新玉ねぎのグリル ハニーマスタードソース」にはエディブルフラワーを添えて。料理は味はもちろん、見た目が大切。盛付けや料理そのものが見目麗しい、言い換えればインスタ映えする料理は目で美味しい。美味しそうに見えない盛付けや料理は損だと思うのだ。

Bistro808-6えば、その日のメニュー「サヤエンドウとラディッシュのサラダ」も、「パプリカとアンチョビのパイ」にしても、写真で美味しそうと思ってもらえるはず。味は所詮素人の域を出ることはなくても、視覚で味が何割り増しかになるのだ。と言う間に、ん?電話?誰だ?と思っていると、LAにいるはずの、と言うかいる、スカッシュ仲間(夫)の声が聞こえる。まさか。現地時間の朝5時前。アメリカは平日で、今日も仕事のはず。

Bistro808-7の日の主賓が、ダンナがLAで独り寂しいだろうと慮ったのか、独り残され淋しかったのか、単に酔っ払っていたのか…。*多分これ。それでも健気な夫は、交代でLINE電話に出るその日のメンバーにきちんと挨拶し、半ば寝ぼけながらも会話する。なんと言う神対応。その後、駐妻それぞれの駐在時の秘話を明かしたけれど、ダンナの偉さを賞賛する声は止まず、その株は高止まり。主役は声だけで参加した駐在ダンナとなった。

Bistro808-8の翌日、夜中に洗い物を済ませたお気楽妻は、朝から出勤。残った夫(ワタクシ)は、家事に励み、前夜の残り物で独りランチ。アンチョビ・フキノトウは温かいご飯の上で実にいい仕事をする。今頃サダコに変身した昨夜の主役は何をしているのだろうかと思いを馳せながら、LAのダンナは間違いなく仕事だよなぁと独りごつ。やれやれ。駐在は夫も妻も大変だし、その2人のバランスが大切なのだとしみじみ思う令和初日だ。

㊗️10周年、13年のお付き合い「用賀 本城」

Honjo8IGAさんたちと一緒に本城さんに行きたい!」と、春先に新婚の奥さまからリクエストが入った。それは何を置いてもご一緒しよう!と言いたいところだったが、あいにく本城さんは長年患った膝の手術で入院中。退院できました!と言う女将さんのメッセージで営業再開を確認し、早々にお店に伺った。5人の予約ながらカウンタ席。全員での会話は難しいけれど、この店の醍醐味はカウンタ席でこそ深く味わえる。

Honjo2退院おめでとうございますと本城さんに声を掛ける。「思った以上にリハビリ大変ですわぁ」と言いながらも、厨房で笑顔で元気に立働く姿を見るとひと安心。女将さんがSNSで発信していた大将の入院報告、リハビリ報告を心配しながら見守っていたお気楽夫婦。「10周年までには元気になってもらわんと」と優しくも厳しく寄り添っていた女将さん。2009年4月に独立し店を出し、今年で10周年。おめでたい節目の4月だ。

Honjo3業から3年で、7割が閉店すると言われている飲食業界にあって、10年続けるというのは大変なこと。ただ美味しいだけでは店は続かないはずだ。客がまた来たいと思う店を作るのは、味だけではなく、客とのコミュニケーション力が重要だ。ただ客と親しくなるというのではなく、その距離感の保ち方。食べて飲む数時間を心地良く過ごせるかどうか。そんな時間と空間をどのように作るかが、長く続く店の肝なのだろう。

Honjo4の店、「用賀 本城」にはその時間も、空間も、もちろん素晴らしい料理がある。その日の料理も素晴らしかった。春を堪能させてくれる料理と器、盛付け、目と舌で春を味わう喜び。そして美味しい酒との組合せ。その日は、同行メンバーがワイン好きということもあり、スパークリングワイン(シャンドン)や京都丹波の白ワイン(ピノグリ)で京料理を楽しんだ。下戸のご夫妻だが、酒のラインナップも開店当初より充実して来た。

Honjo5れお酒がすすみ過ぎる!」メンバーのひとりが嬉しそうに嘆いたのは、鯖のへしこ。香りだけで1杯、ひと齧りで1杯と、呑んべに供するといつまでも飲み続けそうなひと品。そしてその日のメイン(私にとって)は、春の味の王様、筍だ。こんがりと焼かれた筍の芳しい香りが鼻孔をくすぐる。頬張ると春の味が口中に広がり、サクサクとした春の歯応えで身悶えしそうになる。文句なく旨い。幸福の味。

Honjo6してその日のメインがもう一品。目の前で本城さんが包丁を入れていた牛肉が目に入り、余りにも美味しそうな塊を見て、ひと口だけ食べたいとリクエスト。すると本来のコースにはない料理をサッと出していただいた。これがまた絶品、焼いたイチボをひと口だけ味わうゼータク。そう言えば、先日妊娠中の友人をお連れした際も、別メニューを出していただいた。小さな店だからこその柔軟な対応が嬉しい。

Honjo1客さまからいただいたんですけど、結構似てるって…」壁に小さな似顔絵イラストが飾ってあり、女将さんにあれは?と声を掛けるとハニカミながらそう答えてくれた。改めて店内を眺めると、他にも祝花などの10周年のお祝いの品が溢れ、そして何よりも幸福になる料理、愛される大将と女将さんの人柄が、イラストにも店の中にも溢れている。いい時間と空間。しみじみといい店だなぁと実感する。

Honjo9味しかったです。一緒に来れて良かったです♬」初訪問だった友人たちも満足そう。10周年の記念といただいたオリジナルワインを抱えて店を出る。本城さんと女将さんが店先で見送ってくれる。「おかげさまで10周年を迎えられました。11年目もよろしくお願いします」と声を揃えて。こちらこそ!本城さんとは「たん熊」から13年のお付き合い。いい店と人と出会い、長くお付き合いできる幸福も味わう夜だった。

Ryu’s 絵本のススメ♬「日本の伝統行事」村上龍

Ryu1ブル絶頂期、『Ryu’S Bar 気ままにいい夜』というTV番組があった。タイトル通り、作家の村上龍がホストのトーク番組。3年以上続いたのだから人気があったのだろうし、村上龍の作品が好きだった若き日の私も良く視ていた番組だった。けれでも、ボソボソ聞き取れないトークの村上龍は、黒柳徹子や阿川佐和子のような聞き上手でもなく、明石家さんまのようにゲストをいぢる訳でもなく、盛り上りに欠ける番組であった。

Ryu2話題となったデビュー作の『限りなく透明に近いブルー』や、初期の頃の最高傑作(個人の感想です)である『コインロッカー・ベイビーズ』など、エッジの利いた作品と対照的に、決して疾走感など感じられず、暗くて、マイペースで、でも好感度は高かった。あくまでも個人の感想ですが。それから15年を経て、2006年から“日経”スペシャル『カンブリア宮殿』という経済トーク番組を持ち、今も続く長寿番組となっている。

Ryu4の村上龍が日経?経済トーク?と思ったのは最初だけで、ボソボソとした語り口はそのままながら、いつの間にか聞き上手になっていた。決して不遜な態度で臨むことなく、斜に構えずゲストに相対し、それぞれの業界で成功したTOPをゲストとして迎えることも多いからか、素直にその成果や取り組みに感心するのだ。実に良い感じ。村上龍の、ついでに小池栄子の好感度は増すばかり。実は夫婦揃ってこの番組の大ファン。

Ryu5W村上を比べれば、妻は村上春樹ファン。私はやや村上龍寄り。ロバート・B・パーカー亡き後は、村上春樹だけが全ての新刊をハードカバーで購入する唯一の作家。それに対して村上龍は、私が気に入った(気になった)作品のみ新刊を購入する作家。例えば、長崎時代の自伝的青春小説『69 Sixty nine』だったり、思わずジャケ買いした『半島を出よ』だったり。但し、多作ということもあり、全作品を読んではいない。

Ryu6んなある日、宿泊先のホテルのスパで豪華な装丁の本を手に取った。タイトルは『日本の伝統行事』そして文=村上龍とある。なぜ村上龍が日本の伝統行事?本の中央にある「JTE」って何?怪しいぜ。溢れる疑念を持って開いてみると、それは日本語と英語の文章が付いた美しい絵本だった。JTEはJapan Traditional Events という本のタイトルの略称であり、政治的、思想的、宗教的な背景が全くないことが分かった。ほっ。

Ryu7々日本人が普段は自覚することなく接している、お正月、節分、ひな祭り、お花見などの「行事」であるとさえ意識していない日常を、美しく洗練された日本の伝統行事だと村上龍は断定する。それどころか、全ての日本人が広く平等に持っている無形の財産だとまで言う。そこにナショナリズムが顕れているのかと危惧すると、来日する外国人が増える際、異文化を理解するために助けにしたいと英文も併記したと語る。ふぅむ。

IMG_4652えば「お盆」のページには、「わたしは子どもの頃、お盆が苦手だった」とある。神秘的だがどこか不気味で、畏れ多いものだったと幼い村上龍は感じたのだと言う。そこに祖先の霊が牛に乗って帰って行く手前で家族がスイカを食べる柔らかで不思議な絵が挿し込まれると、祖母に手を引かれ菩提寺の階段を登ったお墓詣りの記憶が蘇った。Hosting the Spirits of our Ancestors=祖先の霊を迎える、という英訳もぴったり。

IMG_4647して、「最後に…」という文章で、なぜ村上龍がこの本を作ったのか、自分の幼少期の記憶を辿りながら詳細に語る。共感できるエピソード。この本に載っている伝統行事は、今も形を変えながらも残っている地域共同体の残像であり、失われつつある家族の記憶でもある。昭和を生き、平成を経て、新たな令和という時代を迎える現在、しみじみと読み眺めるに相応しい、自分の中の日本人を再自覚する、読み応えのある1冊だ。

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