繋がるまで何度電話しただろう。予約の開始は1ヶ月前の13時30分。もしかしたらと事前に掛けても虚しく音声案内が流れるだけ。そして開始時間から何度リダイアルしても、話中の音が聞こえるだけ。かつての「チケット○あ」状態。何十年も前に、ネット予約はおろか、音声自動応答受付もなかった頃、「チケット○あ」コールセンター長だった自分を思い出す。あぁ、あの頃のお客様は、きっとこんな気持で電話を…。(涙)
何日かトライし、ようやく電話が繋がった後の店のスタッフの応対は、意外な程にゆったりと落ち着いていた。やっと繋がったのだと伝えると、今ぐらい(夕方)が比較的繋がるんですよとの答え。とは言うものの、1ヶ月先の日程は満席。ところが、その当日を含め何日か空きはあると言う。さすがに当日は無理として、他は予定が入っていた週末。えぇいっ!何とかしよう!と、席を予約。予定を変更し、同行者も確保した。
渋谷の駅から歩くこと数分。待望の居酒屋「高太郎」は、桜ヶ丘の小さな路地にひっそりと佇んでいた。…と、誰もがこんな描写をしがちだけれど、本当にそのままの風情。この周辺に土地勘があるお気楽夫婦は迷わず行けるけれど、同行のM嬢は「一人じゃきっと来られない!」と言うロケーションだ。店に入るとすぐに厨房とカウンタ席、奥に4人掛けテーブル3つ。和やかで幸福そうな雰囲気に満ち、良い店だと直感させる。
眺めているだけでも楽しいメニュー。どれにしようかと迷っている絶妙のタイミングで、スタッフから「お任せでいかがですか」と声が掛かる。どうやら客の多くはお任せで料理を頼むらしい。そこで少食なのでと伝えると、ではポーションを小さくしましょうと返ってくる。それは嬉しい。色々試したいし、店のオススメも食べてみたい。「ポテトサラダとメンチカツはぜひ食べていただきたい」とのこと。それでお願いします♬
初めに刺身の盛合せ。タコは塩で、カマスはワサビ醤油で、そして秋刀魚は肝醤油でいただく。それぞれのキャラが立ち、魚によって食べ分ける味の組合せも楽しい。これは良い出足だ。そして期待の「燻玉ポテトサラダ」と言う店の名物料理。ポテサラ好き、燻製好き、ゆで卵好きとしては、直球どストライク。これはポーションを大きくするか、お代わりをしたかった。次回にトライしよう。そう、この時点で再訪を決めた。
「熱いのでお気を付けください」と供されたのは、香ばしく、いかにも旨そうな面構えの「チコリとつぶ貝のグラタン」だ。熱々のチーズ香りとチコリの苦味、ツブ貝のコリコリとした感触が良い組合せ。これは良いね。ところで、いったいこの店の料理のカテゴリは何なんだろうと悩む完成度の高い味。そうか、悩むことなどなく、ここはオトナのための美味しい居酒屋だ。美味しい料理、旨い酒、居心地の良いスペース。
小ぢんまりとした店だから団体客は入れない。隠れ家風の敷居の高そうな店構えと、そこそこの料金だから、ワカモノには向かない。かと言って気取った料理ではないから気軽にリピートできる。電話さえ繋がれば、だけれど。「メンチカツ食べて初めて美味しいと思ったなぁ♬」もうひとつの名物料理「讃岐メンチカツ」に妻が驚く。揚げ物LOVEの私としては、自分が褒められたように嬉しい。これもまた中毒性のある味だ。
「最後のうどんまで食べられたね!」少食だと言いながら、シメの(毎日打っていると言う)手打ちのぶっかけうどんを平らげた。さらには、他にもいくつかの料理と、乾杯のビールの後には日本酒を4種もいただいた。どこが少食だ!と言う突っ込みはさておき、料理メニューには他にもそそられるモノがあり、やはりぜひ再訪したい店だ。「うん、また来よう!」と、お気楽妻も納得。では、また頑張って電話しようか。
*スタッフにその先の空いている日程を聞くと、残念ながらいずれも予定が合わず断念したが、1ヶ月以内の空いている日なら店内での予約も可能だ。ご近所にあったら、ヘビーユーザーとして月イチで通いたい店だ。
「来週楽しみにしてま〜す♬ワインは宅配便で送りますね」お気楽夫婦の住む街で、お互いに1軒目で飲んだ後に、店を出たところでばったり会った仲間たち。店を出た瞬間に、ん??知ってる顔だ!と目を見交わす。一瞬の後に現実だと分かり、びっくり!迷うことなく一緒に2軒目に繰り出し大酔っ払い。そして翌週、同じ顔ぶれが「ビストロ808」に到着する前に、大量のワインが届いた。どうやら1人2本の計算らしい。
迎え撃つシェフ&スーシェフも抜かりない。大酒飲みの上に大食漢のメンバーに、肉料理をガツンと用意しようという作戦。オードブルのパテドカンパーニュを多めに作り、メインはスーシェフ渾身のガツンとローストビーフだ。他にも事前に料理のリクエストが来ており、鯖のリエット(クリームチーズ・バージョン)、グリーンメドレーサラダ(ストウブ蒸し)は必須。そこに季節のフルーツの料理を加えてメニューは完成だ。
「お邪魔しまぁ〜す♬」ツワモノたちを迎えるが、最初はお上品な奥さまたちの風情。「スカッシュとトランポリンで汗かいたから、ビールも買って来ました!」と手渡された(1ダースの!)缶ビールで乾杯♬そして「お腹ペコペコ!」との声に、料理の順番を変え、冷やしてあった「カラフルトマトとローズヒップジュレ」を出すと、「うわぁ!キレー!」「美味しっ!」と大騒ぎ。相変わらず反応の良い嬉しいゲストだ。
少し落ち着いたところで、前半のメイン「オードブルの盛合せ」。合わせるのはポルトガルのヴィーノヴェルデ。超微発泡のカジュアルワイン…だそうだ。実はあぁ見えて(笑)ゲストの1人、サダコに変身する奥さまは、ワインコーディネーター。10本のワインを選んだのも、その飲む順番を考えているのも彼女。きっと彼女はワインが好きな余りに、ついつい飲み過ぎて変身してしまうのかもしれない…と思いたい。
サバのリエット、グリーンメドレーサラダなど、リクエストされた料理も好評の内にあっという間に平らげられ、メインのローストビーフ・オニオンソースジュレの登場だ。いつもは薄めに切って何枚か食べてもらうのだが、今回は厚めに切ってガッツリと。すると「あ!あっちの方が厚い!」「へへへ」…子供か!というやりとりの後、「火入れ抜群!」「美味しい!」と絶賛の声。スーシェフもやる時にはやるのだ。
「わぁ〜っ!コンテチーズ大好き!」ズッキーニとイチジクのコンテチーズ焼きに歓声が上がる。私の経験上、ワイン好きの酔っ払いたちにコンテチーズが嫌いなヤツはいない。たっぷりの焦げたコンテチーズの香りで、ワインがススム。さらに、続いて供した「柿とゴルゴンゾーラのサラダ」がワインの消費を加速する。「ワタシ、今年初の柿だ!フルーツとワインって合うよね」胃も肝臓も強いという奥さまのペースも良い感じ。
「ストレッチして良い?」と、毎回オリーブオイルの手土産をいただく奥さまが開脚し始めたかと思えば、強内臓系の奥さまが同じ会話を繰り返す。そろそろ皆さま良い感じで酔ってきたぞ!と、ワインコーディネーターの奥さまは?と見ると、すでにサダコが降りて来ていた。ダンナが嬉しそうにサダコ降臨証明写真を撮影する。その彼も「このワイン、空なのに重いよ?」と満杯のボトルを抱えていたことは妻の観察による。
楽しく飲んで食べて大笑いした、嵐が過ぎ去ったようなビストロ808営業の翌日、何事もなかったようにグラスは磨き上げられ、皿はキレーに洗われ並べられている。1人酔うこともなく、後片付けをしてくれたスーシェフ、妻の仕事だ。毎度の事ながら頭が下がる。つくづくエライ。そう言うと「ワタシも楽しいし、喜んでもらえると嬉しいしね」涙。翌日の夕食はこれも恒例の、主催者の特権(笑)余りモノゼータクディナー。
「次の開店は10月頃かな」と嬉しそうに妻が呟く。さぁて、どなたをお招きし、何を作ろうか。ビストロ808は好評ながら不定期営業中。
例年ほどの厳しい残暑もなくサヨナラも言わず夏が去った。初夏の頃、まだ暑い日が続いている頃だろうと覚悟して予約をしたのに、ご近所の名店「萬来軒」に仲間たちが集まった日には、夏の後姿しか見えなかった。この店で、おぢちゃんが作る絶品四川料理を味わうために20年来集まっている友人たち。おぢちゃんは春先に病気で入院し、しばらく店を休んで初夏に復活したばかり。その日はお店再開のお祝いも兼ねていた。
「死んじゃうかと思ったよ」闘病生活を冗談混じりで語り、皆で贈ったお祝いの花束を抱えたおぢちゃんと記念撮影。「まだ元気でいてもらわなくちゃ!」「店が再開できて良かったですね」お祝いの言葉を掛けられると、おぢちゃんも照れた笑いを零す。「まだきっと体の中に悪いのが残ってるんだよ」と、相変わらずのおばちゃんの辛口も、痺れる辛さの麻婆豆腐も、健在だ。この店はこうでなくちゃ。次は上海がにの頃に!
「今日はガッツリ肉を食べようか!」野菜食を優先する妻が珍しくそんなことを言う。今年も夏バテもなく過ごせ、スッキリと秋を迎えることができたから、夏へのお礼参のようなものか。それにしても、彼女の辞書には夏バテという文字はない。ちなみに、秋も冬も同様で、春の忙しさにさえも負けることはない。つくづくタフな女性だ。そんな彼女がガッツリと肉を食べるというのだから、そのタフさ加減はきっと無敵で素敵だ。
上タン塩、上カルビ、ロース…、少食の2人がガッツリと言っても、せいぜい食べるのはそんないつもの3品に豚カルビを追加するぐらい。そしてナムルの盛合せ(これが抜群に旨い)、サンチュで野菜摂取も忘れない。「冷麺も行っちゃおうか!」絶好調だ。生来の身体的(と精神的)な強さに加え、この夏もリゾートでたっぷり静養したが故に、心身共に万全なのだろう。満腹の私をよそに、にこやかに冷麺を啜る妻は余裕の笑顔だ。
過ぎ行く夏を惜しむ恒例のイベント、「用賀 本城」で鮎尽くしの会も今年で6回目の開催だ。今年は5名の参加。リゾートでのんびり読書をしていた時、何か忘れているぞ!と閃いて、慌てて女将さんにメッセージを送った。「うわっ!ヴァカンス中に鮎からウチの店を思い出すなんて(笑)ゆっくり休めてますか?」そんなメッセージが返って来た。のんびりと本を読んだり、楽しいことを考えることがヴァカンスなのだと返す。
そして待望の開催当日、ひと足早く到着した私は、女将さんとリゾート談議。彼女たちも翌週から遅いヴァカンスなのだ。「ほんと、IGAさんは人生楽しんでますねぇ」いやいや、妻と共にただお気楽なだけ。そして、肝心の鮎料理と言えば、ウルカと骨の素揚げから始まり、刺身、塩焼き、唐揚げ、梅煮、鮎飯といつも通りの季節の味。今年の目玉は琵琶湖名物の鮒寿司ならぬ鮎寿司。オトナになってよかったとシミジミ。
「ふぇ〜、さっぱり♬」前日に友人たちを招いてビストロを開店、深夜まで楽しい時間を過ごした。とは言え、料理の準備から後片付けまで、心地いい疲れも少々残っている。だったらお風呂か?と温泉に出かけ…る時間はない連休最終日の午後。だったらお隣の駅にあるスーパー銭湯か?と、お気楽温泉旅に出かけた2人。休日とあって混んではいたものの、湯上りにはすっかりリフレッシュ。冷えた生ビールが実に旨い。
「じゃあ、私はソフトクリームでも食べよっかなぁ〜っ♬」ほぼスッピンの妻が嬉しそうに売店に向かう。そう言えば去年の夏からソフトクリームが食べたい!と言いながら実現していなかったはず。2年越しの夏休みの課題終了?「そうだった!やっと食べられた!」間も無くお彼岸。秋も深まって行く。お気楽夫婦の夏を締め括る日々がこうして過ぎて行くのだった。「次は沖縄だ!」あ、そうだった。…秋も同様の2人だった。