ヴァカンス本2016「村上春樹、ダン・ブラウン、他」

20161オで日本選手が活躍する夏も後半、ようやくお気楽夫婦のヴァカンス(ホテルに篭り本を読む旅)が始まる。毎年春先から旅先で読みたい本を買い溜め、読むのを我慢し積ん読。通勤車内で読みたい作品は先に読み、旅先に向いていそうな作品を残すのがルール。今年のヴァカンスはちょいと長めだから、多めに持って行こうか。妻との間で検討会が開催される。2人が購入するのは文庫が基本。リノベーションで書棚が大きくなったとは言え、元々が狭いマンション住まい。ハードカバーを買って良しと決めた作家以外は文庫化されるまで待つ。春樹&龍のW村上、ロバート.B.パーカーだけが例外の3人。特にパーカーは新作を旅先に持参するのを毎年楽しみにしていた。だが、残念ながら2012年の夏に持参した『春雷』が、パーカー最後の作品となった。

20162上春樹の『ラオスにいったい何があるというんですか?』は、ハードカバーであることから、文句なく当選。村上春樹の紀行文はお気に入り。例えば『遠い太鼓』。彼が日本を離れていた3年間に(とは言え、村上春樹の場合、日本を離れている期間の方が長いような気がするが)訪ねた国でのスケッチの集積だと彼は呼んでいる。ローマ、アテネ、ミコノス、ヘルシンキ、ザルツブルク、旅情を唆る地名が並ぶ。『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』も好きな紀行文だ。アイラ島を訪ね、シングルモルトを片っぱしから飲み比べたくなる。それなのに、今回はラオス。なぜラオス?聞かれるまでもなく、いったい何があるというのだ。こちらが聞きたい。久しぶりの村上旅エッセイ、それもうまく行かない旅の気配。楽しみにしている1冊だ。

20163ン・ブラウンの『インフェルノ』も当選確実。上中下の3分冊だから通勤の車内でも読みやすいのだが、『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』などの、一連のラングドン・シリーズは、実は旅先の読書に向いている。世界各地の大都市や人気の観光地が舞台となっている作品は、既に訪れた場所ならば映像的にリアルなものになり、未訪問の街ならば訪ねてみようかという気持ちにさせる。ヴァカンスの只中で、次のヴァカンスに想いを馳せるというゼータクな時間を過ごすことができるのだ。今回の作品はダンテの『神曲』がモチーフになっているようだから、物語の舞台はイタリアか。2000年にローマを訪ねて以来、イタリアには行っていない。ヨーロッパの旅のリスクが少なくなる頃に訪れようか。…まだ読んでもいないのに夢想してしまう。

20164ェフリー・アーチャーの『クリフトン年代記』シリーズも楽しみだ。第4部『追風に帆を上げよ』を読みながら前作を思い出し、第5部『剣より強し』を読み終わる頃には、次作を楽しみにし出すのだろう。アーチャーの作品は当たり外れがあるけれど、善悪の価値観がはっきりとしている場合が多いから感情移入がし易い。だからこそ軽く読み流しやすく、大河小説的に(良い意味で)ダラダラとヴァカンス中に読むには向いている。鼻持ちならない登場人物も南の島の空気の中では許してあげられる。中毒性があるという程ではないにせよ、各編が続編を読みたくなる終わり方をするからズルい。つい買ってしまう。ロバート.B.パーカーの『スペンサーシリーズ』の最新作が読めなくなった今、毎年楽しみにできるシリーズになると良いのだけれど。

20165イクル・クライトンの新作も、残念ながら読めなくなってしまった。『ライジング・サン』がベストセラーとなり、『ジュラシック・パーク』で全世界的に有名になった彼の作品(日本語訳・文庫化)は、全て読んでいるはずだ。医学ミステリ、バイオサスペンス、テクノスリラーなど、彼の深く広いジャンルに渡る物語は魅力的だった。2008年に没したクライトンの年齢は66歳。まだまだたくさんの物語を紡いで欲しかった。彼の遺作となった『マイクロワールド』は、未完で発見された原稿をリチャード・プレストンという作家が引き継いで完成させた作品だという。読み終えた後にお気に入りとなれば、彼の作品を遡って読んでみようか。あれ?何だか今年の夏の候補作品は、意図せず海外作品が多い。う〜む、他には…。

20166浦しをんがいるじゃないか。我慢できずに読んでしまいそうになったけれど、『神去なあなあ日常』の続編『神去なあなあ夜話』が残っていた。直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒』をはじめ、映画化やドラマ化された作品も多いけれど、観た後でも映像に負けない独特の世界観が好きだ。現実と薄い皮一枚で繋がっている異なる物語。リアリティがあり、異空間的魅力もあり、少しだけ非現実的な登場人物も良い。『風が強く吹いている』や『小暮荘物語』も、そんな非現実的リアルな物語として好きな作品だ。「あれ?それ読んじゃったよ」と妻。え〜っ!我慢できなかったのか。では、文庫化を楽しみにしていた『村上海賊の娘』かな。それともぶ厚いから、有川浩の『空飛ぶ広報室』かな…。そんな2人のヴァカンス突入まで、あとわずか!

スカッシュで繋がる、スカッシュで拡がる「紫玉蘭、他」

SQ1SQ2気楽夫婦がスカッシュに出会ったのは1996年頃。約20年前。それ以来、同じスポーツクラブで、スカッシュのレッスンで、あるいは大会で対戦したり、何人ものスカッシュ仲間と友人になった。何の仕事をしているかとか、年齢とかは関係なく、ただひとつスカッシュが好きということで。例えば、酒豪女子とは同じジムのコートサイドで出会い、いつの間にか最強の飲み友達になった。その日も都心で開催されたスカッシュの大会を一緒に観戦し、その後に「紫玉蘭」という中国飯店系の店へ。試合の感想もそこそこに、冷え冷えビールで乾杯。中国飯店系列の店ではこれでしょ!という黒酢酢豚を堪能。もちろんその後は、紹興酒への道を突き進む。彼女と飲む酒は実に旨い。

SQ3SQ4カッシュを始めた頃に、当時通っていたスポーツクラブで出会ったのは、日本でも指折りのスカッシュおたくMくん。ラグジュアリーホテル好きでもあるご夫婦とは、六本木のグランドハイアットで偶然一緒になり(同じ日に宿泊してた!)、香港OPEN観戦でもご一緒した。さらには美味しいモノ大好きな彼らとは、年に何度か「あの店に行きたい!」という店を選び、一緒に食事をしている。その日は彼らのおススメの広東料理店「瑞雪」。食いしん坊の彼らが何度か訪問し気に入った店だという。だったら間違いない!という期待通り。鮮魚の姿蒸し油がけは絶品。彼らの早めの夏休み、これからやってくるお気楽夫婦のヴァカンス話で盛り上がる。彼らとの食事は実に楽しい。

SQ5SQ6本チャンピオンとの距離が近いのも、競技人口が少ないスカッシュの良いところ。全日本スカッシュ選手権で4度の優勝を誇る松井千夏ちゃんとは、彼女が学生の頃からのお付き合い。一緒にスカッシュをした時間よりも、一緒に食事をした時間がはるかに長い。その日は前月に開催した「山崎コーチ就任25周年パーティ」出席のお礼と、前週に終わったばかりの大会(準優勝)の慰労を兼ねた食事会。一緒にパーティの幹事を務めたワイン好きのスカッシュ仲間と神泉にある「遠藤利三郎商店」へ。「パンお代わりして良いですか。料理も美味しいです♬」パン好きの千夏ちゃんが唸る。「ねぇ、次は何飲もうか」ワイン好きのスカッシュ仲間の目が輝く。彼らとの食事は実に嬉しい。

SQ7SQ8テキ!ステキ!」その日が誕生日だという若手女子が歓声を上げる。彼女とスカッシュのつながりは後付け。ワイン好きのスカッシュ仲間がとある店で飲んでいるところで出会い、すっかり意気投合。その後スカッシュに誘ってご一緒している仲らしい。そんな若手女子の誕生日を一緒にお祝いしようと、お誘いを受けた。久しぶりにスカッシュを再開し、すっかりハマったという作曲家の奥さまもご一緒に。恋の話。夢の話。好みのタイプの話題。すっかり女子会。そこにオヤヂひとり。いつもの構図。「何だか皆さんとってもステキで、会社で自慢しちゃいます」デザートプレートに書かれたHBD!のメッセージに感激の若手女子が興奮気味に語る。こんな出会いも実に嬉しい。

気楽夫婦にとってスカッシュとの出会いは、ずっと続けたいと思えるスポーツとの出会いでもあり、スカッシュというスポーツを通じて繋がった友人たちとの出会いでもある。“オトナ”になってからの出会いは、価値観や興味の対象がはっきりとしているから分かりやすい。仕事が絡まない関係だけに余計な気遣いがいらず、同じスポーツを愛するという共通項は互いを惹きつけ、年齢を超えた友人関係を生むことができる。スカッシュで拡がった友人の環は大切な財産だ。さらには、妻と一緒に続けることができることも大切な要素。「70歳までスカッシュやるよ!」と妻。と、すると後わずか12年。もっと続けられそうな気がするし、もっと続けたいぞ。スカッシュ。「じゃあ、80歳まで?」それは、どうだろ?

薬食同源「用賀 本城」

Honjo1Honjo2だ会社なので、本城さん到着が遅れちゃうし、今日はちょっと体調悪くて。トホホ…」同行予定の役員秘書から連絡が入った。「用賀 本城」は2009年春に開店して以来、年に数回通い続けている大切な店。店主の本城さんとの出会いは、彼が「たん熊北店二子玉川店」の店長だった2006年だから、数えてみれば10年を超えるお付き合い。そして、この店に最も多くご一緒しているのは、おそらく役員秘書だと思われる。妻の誕生日を他のスカッシュ仲間とお祝いしたり、開店早々に3人で訪問しお祝いの胡蝶蘭を分けていただいたこともあった。そんな彼女に慌てずにおいでと返信する。

Honjo3Honjo4ゃー!素敵。流れ星☆彡?七夕?」先付けの皿に盛られた料理を見て、遅れて到着した役員秘書のテンションが上がる。続いて涼しげな鱧の湯引き。深めの器に氷を敷き、その上に鱧とポン酢ジュレ、梅肉ソース、花付き幼果キュウリが添えられる。「関西の夏だねぇ」妻もうっとり。ごりっごりっと本城さんが他の客の鱧の骨切りをする音が心地よいBGMだ。煮アワビは豆豉入り。和食に豆豉とは珍しいけれど、本城さんの食材の組合せは大胆で絶妙。続いて、お気楽妻には生牡蠣の生海苔ジュレ乗せ。生牡蠣が食べられない役員秘書と私には、蟹味噌付きの茹で毛ガニ。くぅーっ!んまい。

Honjo5Honjo6牡蠣美味しい〜っ!生海苔のジュレがいい香り♬」お気楽妻が自慢げに微笑む。大好きな生牡蠣だけど、どんなに新鮮でも、何度食べても当たってしまう。そして何度当たっても食べてしまい、その度に後悔する。仕事を辞めるときに、オイスターバーで心ゆくまで食べてやる!と決めている。「舶来の松茸です」本城さんが笑顔で椀物の説明をしてくれる。鱧の脂と出汁が沁みた冬瓜が旨い。「やっぱりどれも美味しいね。何だか元気になってきたぁ〜」役員秘書がしみじみと呟く。笑顔が柔らかくなり、目の輝きがいつも通りになってきた。本城さんの料理は薬膳ではないけれども、良く効く。

Honjo7Honjo8身の皿には車海老の握り。少食の3人には絶妙な量。ひとり飲み続ける身には、焼き物の盆に乗ったサザエ、ノドグロ、小鮎の一夜干しとうるかが感涙もの。ついついもう1本と酒を追加。開店当初より日本酒の種類も増え、季節限定の酒もメニューに載るようになった。飲んべとしては嬉しい限り。「今年はどちらに行かはるんですか」本城さんに夏休みの予定を尋ねられ、妻が嬉々として答える。「今年はどこにしようかとIGAさんのサイトでホテルを探したんですけどね」女将さんも会話に入る。彼らはIGA-IGA.comの読者でもある。結果、沖縄になったとのことで、おススメの店をご紹介。

Honjo9Honjo10撮りしますよ」いつものように最後の客となり、他の客がいなくなったのを良いことに撮影大会。「今年は鮎はどうされますか」と、恒例の鮎尽くし企画の話題となり、もちろんお願いしますと即答。今年はH部くんにはリベンジをしてもらわねば、などと。その後、女将さんもご一緒に、お二人の出会い、女将さんの某社勤務時代のエピソードなどを伺いながらデザートをいただく。こんなお付き合いも10年以上。ありがたいことだ。「居心地が良いから気持も安定するんだよね」役員秘書からそんなメッセージが届いた。美味しい食事、居心地の良い空間、楽しい時間は何よりの薬だ。

002253731

SINCE 1.May 2005