建築うんちく大阪の旅『ぼくらの近代建築デラックス!』

MakimeKoukaido城目学という作家が好きで、デビュー作『鴨川ホルモー』をはじめ『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』などの地元関西を舞台にした奇妙奇天烈な作品群を読んできた。現実のすぐ裏にある(けれどある訳は無い)不思議な世界が拡がる独特な作風。そんな彼と私の共通項がある。「渡辺篤史の建もの探訪」というTV番組♡LOVEなのだ。彼のエッセイ集『ザ・万歩計』の中で、実に滔々と渡辺篤史(のTV番組)に対する愛を歌い上げる。このテーマではかつてブログ記事を書いたのでそちらに譲るが、そんな建築物好きの万城目学が、門井慶喜と共著で出版した本がある。『ぼくらの近代建築デラックス!』という1冊。関西出身の2人の作家が繰り出すボケ突っ込みとウンチク合戦が実に興味深く、アカデミックではない分気軽で楽しく、妙におかしい。

NomuraShibakawa築に関する本なのに、この本を抱え“建もの探訪”したくなる街歩きガイドでもある。旅に出たくなる。…ということで、旅に出た(笑)。この本、「大阪散歩」「横浜散歩」と、街ごとに近代建築を訪ねる構成になっており、第1章が大阪、第2章が京都。であれば編集方針通りにと大阪の近代建築の宝庫、中之島と北浜を訪ねた。梅田から御堂筋を南下し、大江橋を渡る。右手に日銀大阪支店を眺め、大阪市役所、中之島図書館と大阪を代表する近代建築の横を通り、辰野金吾が設計した(東京駅も!)大阪市中央公会堂に到着。周囲に建物がなく、全容を見渡せる分、赤レンガに白い花崗岩という壮麗な“辰野式”の建物の中でも特筆すべき美しさ。続いて難波橋を渡り、北浜の近代建築群を探訪。掲載されている「高麗橋野村ビル」「芝川ビル」などの建物以外にも、少彦名神社(神農さん)の社務所になっているビルなど、いろいろ発見があり実に楽しい。

NightViewLounge刻、宿に戻り、窓から先刻までひとり彷徨っていた街を眺める。訪ね歩いた近代建築群の姿は、現代の高層ビル群の林の中に隠れて、残念ながら見えない。遠く阿倍野の「ハルカス」やクラゲのような大阪ドームを望み、眼下の「フェスティバルタワー」と建築中の朝日新聞社のビルを眺める。パソコンでGoogleマップを開き、ビルの名前を確認する。都内でもすっかり追いつかなくなったけれど、街歩きのランドマークとなる高層ビルができる度に、名前と立ち姿を(老朽化しつつある)記憶中枢にインプットする作業もお気に入り。高いところに上り地図を確認し、街を歩き地図をチェックする。自分の頭の中のMapが補足され、地図なしで街を歩けるようになるのが何よりも嬉しい。ホテルのラウンジでワインを飲みながら、眼下のビルや通りの名を復唱する。

TenpeiShinchiとくち餃子が良い!」仕事を終え合流した妻に、うどん、ネギ焼き、餃子など、大阪の粉もんの中で何が食べたいかを尋ねると、迷いなくすぐに答えた。ラウンジで乾杯した後に街に出かける。夜の街歩きの手始めに「大阪駅前第1ビル」から第3ビルまで続く地下街(梅田のラビリンス!)を歩き回り、北新地に向かう。横断歩道で信号待ちの人々の中に、すでにご出勤風情のキレーなお姉さんたちが混じる。ネオン瞬く小路に入ればいかにも同伴だろうと思わしき2人連れが何組も。そんな街の片隅に(ほんとに分かりにくいほど、新地の端っこに)「天平」という小さな店がある。メニューは餃子と漬物のみ。料金は不明瞭。どこにも餃子はいくらかは書いていない。餃子を2人で30ケとお願いすると、普通1人20ケはいけるよと返されるが、少食の2人はそれで良し。

リパリだし、ちょっと辛めで美味しいね」妻もお気に入りの模様。ワンタンを焼いたような小ぶりの餃子をあっという間に平らげ、お会計をお願いすると、最初は3,600円と言われたのに、間違ってましたわと3,000円に変わる。ふふふ、やっぱり不明瞭。それもまた楽し。「ウチも同伴出勤に見えるかな」クラブ、ラウンジ、スナック、バー、看板の店名を眺めながら、のんびりと新地の街をそぞろ歩くお気楽(同伴)夫婦。夜の街探訪もいとをかし。

この場所で♡「Park Hyatt Tokyo / New York Bar」

ParkHyatt2000年10月20日、お気楽夫婦はこの場所で正式に結婚生活をスタートした。オトナの事情で入籍できないことを知っていた友人たちは、(やっとか!と)喜んで集まってくれた。会場に選んだホテルは、2人にとって大切な場所だった。何か良いことがあった時、最上階にあるバーで乾杯をした。遠くに旅行ができず、それでも旅の気分を味わいたい時に、ゼータク気分でこのホテルに宿泊した。いわば2人のハレの場所だった。そのホテル、パークハイアット東京が開業した年、1994年から2人で一緒に住み始め、すでに6年以上経っていた。開業早々に訪れたバーでは混乱を極めていた。おそらく世界各地からやって来た応援のスタッフの数だけはたくさんいるのに、リレーションが上手くいかず、オーダーしたドリンクがなかなかやって来なかった。気だけ焦ったスタッフがオタオタとしていた。ちょうどその頃の2人のように。

ParkHyatt2NYバーに向かうルートは複雑。エレベータを降り、写真パネルが印象的なジランドールを横目に、絶妙な配置の照明が美しいライブラリーを通り、最上階に向かうエレベータに乗り換える。この時点で、既にワクワク感がかなり高まっている。そして52階に到着し、エレベータを降りる瞬間が、最初に訪れた時からずっと好きだった。仄暗い照明の向こうに、室内の照明より明るく輝く高層ビル群の夜景が足元に広がり、そのまますぅ〜っと空中を浮遊して歩いて行けそうな空間に足を踏み出す。「ご利用はバーですか、レストランですか」とスタッフに尋ねられるまで、足元の眺めに見とれ、立ち止まってしまう。これは毎回のこと。バーの利用だと告げ、案内された席はピアノのすぐ後ろ、都心のスカイスクレーパーを従える、窓際の絶好のポジション。煌めく景色を眺めながら、あの日にもこんな夜景を見せたかったねと語り合う。

ParkHyatt315年前のパーティの夜は雨だった。雨に煙る摩天楼…どころか、パーティ会場から外の景色は全く見えなかった。せっかく夜景を楽しんでもらおうと、窓のある宴会場にしたのに。それが唯一の心残り。それ以外はとても温かく、友人たちだけの(来賓や友人の挨拶もない)こぢんまりとしてリラックスした、料理もお酒も(ずっとシャンパンを飲み続けた友人たち)申し分のない、ずっと記憶に残る、嬉しいパーティだった。そんなことを思い出しながら、記念すべき結婚生活スタートの場所で、2人で乾杯。この店は2次会で来たんだった、大勢でピアノの近くの席に陣取って、誰かがお祝いの曲をリクエストして、などと15年前の記憶が蘇る。その日もジャズトリオがスタンダードナンバーを奏で、女性ヴォーカルが軽やかに歌う。周囲を見回すと、ほとんど日本人(アジア系)客の姿はなく、店名の通りNYCのバーにいるような錯覚に陥る。

ParkHyatt5NYバーが、やっぱり一番好きなバーかな」そんなゼータクなことを呟きながら、お気楽妻が穏やかに微笑む。ライブが終わっても、適度にザワザワとした空気が残り、イケメン揃いのスタッフたちがテーブルの間を流れるように動き、実に絶妙なタイミングで、嫌味なくドリンクのお代わりを勧めてくれる。高級ホテルのサービスにありがちな慇懃無礼な態度はなく、言葉遣いも適度にフレンドリー。妻はこの距離感が心地良いのだと言う。当然のことながら、開業早々のばたつき感はなく、(上から目線で恐縮ながら)落ち着いた良いバーになった。21年の歳月がお気楽夫婦にも同じように流れ、当時のバタバタ(あったのだ)はなく、穏やかに乾杯できる関係になった。周囲の人たちに心配と迷惑を掛け、何を失っても良いなどと嘯いていた。若かったのだ。そんなかつての自分たちを、温かい目で眺められるようになった2人。

生日はやっぱりパークハイアットが良いかな」毎年(私の!)誕生日に、お祝いと称して友人たちを招き、都内のホテルに宿泊するのが恒例になった。来年のターゲットは、確か大手町に開業したアジア系ラグジュアリーホテルを狙っていたはずが、久しぶりにこのお気に入りホテルの魅力に触れ、どうやら惚れ直したらしい。まぁ、それも良し。来年の誕生日は、2人のスタート地点のこの場所で♬

中華三昧の日々は愉し♬「第三夜:萬来軒」

Banraiken1Banraiken3華三昧の日々の掉尾を飾る店「萬来軒」は、ずいぶん前から予約をしていた。お気楽夫婦が住む世田谷の端っこの街の、見た目はそっけない中華料理店。けれども、週末は常連客を中心に席が埋まり、予約なしでは店に入れない場合もある。某大手中華レストランのスタッフたちも毎年忘年会を開催するという、隠れた四川料理の名店だ。友人たちと一緒に大勢で出かけたその日のお目当は「上海蟹」。この季節になると2人で食べに出かけ、今年は仕入れる?(去年は高いから仕入れないとの判断だった)と厨房のおぢちゃんに声をかけ、おばちゃんに相談し、仲間たちに声を掛けると、「行く!」「食べたい!」との声に開催が決定。楽しみにしていたその日がやって来た。

Banraiken2Banraiken4白肉(ウンパイロー)や白菜の甘酢漬けをツマミに、持ち込んだスパークリングワインで乾杯。*ちなみにグラスも持参。辛辛旨旨。優しい味の海鮮春巻きで舌を休めたところで甕出し紹興酒。そして待望の蒸蟹(上海蟹の姿蒸し)が大皿に乗って登場。おぉ〜っと歓声が上がる。メスがにの内子のオレンジが食欲を誘う。妻が用意してきたおしぼりを配り、各自自宅から持参せよ!との指示通りにキッチンバサミを取り出す。1人1杯。剥いては食べる、全部剥いてから一気に食べる、性格が現れる食べ方。お気楽夫婦は共同作業で全てを取り出す。蟹味噌と内子と淡白な身を合わせ、口に運ぶ。ねっとり甘く、生姜醤油でさっぱり旨し!秋の幸福。〆は山椒が効いた麻婆豆腐で汗ダラダラ。

SasageMInaBAR808」へ移動した後は、仲間の1人酒豪女子の誕生日、お気楽夫婦の結婚記念日をお祝い。ケーキを買うということ以外、事前に何の取り決めもなく、ぶっつけ本番のパーティ。なのに、それぞれが用意した手作りプレゼントあり、バニーの耳あり、ハロウィンクッキーあり、花束ありの大にぎわい♬ケーキはご近所の名店「Yu Sasage」のシャインマスカットのケーキ。これが軽やかな甘さで絶品。「この店は、焼き菓子よりケーキの方がずっと美味しいね」スイーツ番長の役員秘書も絶賛。彼女の作った(飲んだのは元々酒豪女子)ワインのコルク製ポッドスタンドに感激する酒豪女子。バニーの耳が良く似合う彼女もテンション高く、満面の笑顔。何だか楽しいぞ。

Party1Party2んなで写真撮ろう!」被り物が全く似合わない自信がある私は、蝶ネクタイ。試しに被ってみたものの、仲間の「・・・」の反応に即座に外す。妙にバニー耳が似合っているのに、「写真は公開しないでください!建築家生命が絶たれます」と懇願する建築家。*ご要望の通り画像は門外不出。全員が写った画像は加工済み。猫耳の役員秘書も、バニーのアスリート女子も、『魔女の宅急便』のキキのようなデカリボンの妻も、羨ましいほどお似合い。それぞれがバニーや猫耳を付けたまま、それから飲み直したワインも、愉しく美味しい味になった。気のおけない仲間たちが集い、ワイワイと中華料理のテーブルを囲み、(被り物付きで)美味しい酒を飲む、幸福な夜だ。

日も中華行く?」そんな日の翌日、真顔で尋ねる妻。気持ちは分かる。初日の台湾料理、2日目の上海料理、3日目の四川料理と上海蟹、確かにそれぞれが美味しく楽しい3日間だった。これから馴染みになれそうなお気に入りの店、今後もお祝いや接待でお世話になるだろう店、そして仲間たちと楽しむ店。どれも2人にとって大切な店、そして仲間たち。「次は京都かな?」え?妻が不敵に微笑んだ。

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SINCE 1.May 2005